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11歳
243 水遊び
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「要するに水遊びがしたいってことですよね?」
騒ぎを聞きつけてやって来たアロンが、俺の気持ちを簡潔にまとめてくる。そうだな。そういうことだな。
「じゃあ、今から水遊びでもします?」
「マジで⁉︎」
楽しい提案をしてくるアロンは、いつでも遊び心を忘れない大人である。
だが、それにタイラーが反対する。
「ちょっと。なんでそんな余計なことを言うんですか」
「うるさいな。おまえは黙っておけ」
タイラーをひと睨みしたアロンは、不機嫌になってしまう。どうやら年下のタイラーに意見されるのが、気に食わないらしい。アロンは器の小さい男だから、仕方がない。
ガシガシと頭を掻いたアロンは、「じゃあ外行きます?」とドアを振り返る。不満そうな顔のティアンが、「ブルース様に怒られますよ」と弱気な発言をしている。ブルース兄様にビビってどうする。今は夏だぞ。今、水遊びしないでどうするよ。また冬になってしまうぞ。
早速、アロンの手を引いて外に飛び出す。
タイラーは、室内で本を読んでいるユリスと俺を見比べて、室内に残ることを決めたらしい。あいつの仕事はユリスの護衛だもんね。ブルース兄様に俺のこと見張っておけと言われていたが、どうやらその任務は諦めるらしい。
そうして、アロンとティアン、それにロニーとジャンを伴って外に出た俺は、一目散に噴水へと駆けていく。
ようするに、噴水の中に入らなければいいのだ。
素晴らしい機転を利かせるアロンは、ジャンに指示してバケツを持ってこさせる。アロンに言われるがままに、バケツを取りに行くジャンに対して、ティアンが「まったくもう!」と憤慨している。
「怒られても知りませんからね!」
ぷんぷん怒るティアンは、けれどもジャンから受け取ったバケツで積極的に水を汲みにいくあたり、本音では水遊びがしたいらしい。ここ最近、暑いからね。
ノリの良いアロンは、噴水で汲んだ水を盛大にぶち撒けてくれる。テンション上がって大はしゃぎする俺。
対照的に、ロニーとジャンは一歩離れたところに無言で突っ立っている。いや、ロニーはアロンを半眼で見つめている。どうもふたりはあまり仲良くないらしい。すべてはアロンのクソみたいな行動が原因だろう。ロニーは真面目だからな。アロンと気が合わないのも納得である。
そうして服や髪が濡れるのも厭わずに、夢中になって遊んでいたのであるが、ここで邪魔が入った。
「……おい、アロン」
地を這うような低い声を出すクレイグ団長は、間違いなくキレていた。
怒りの矛先を向けられたアロンは、たいして気にする様子もなく「団長も一緒に遊びたいんですか? でも仕事はどうしたんです?」と、全力で煽りにいっている。さすがだな。
カツカツと大股でアロンに近寄ったクレイグ団長は、バケツをひったくると俺へと向き直った。
慌ててティアンの背中に隠れるが、信用できない盾は、容赦なく俺を団長の前に突き出そうとしてくる。
「ティアンがどうしても水遊びしたいって言うから」
「僕はそんなこと言っていません」
「裏切りだぞ」
ふいっとそっぽを向くティアンは、「申し訳ありません、父上。アロン殿が強引に」と、全責任をアロンに押し付けようとしている。
そうだな。初めに水遊びしようと言い出したのは、アロンだな。うんうん頷いておくが、団長は眉間に皺を寄せるばかりで納得してくれない。
「ルイス様」
「俺じゃないもん。アロンだもん」
ビシッとアロンを指差してやるが「えぇ? 俺のせいですか」と困惑顔をされてしまった。どう考えても、おまえのせいだろ。なんでそんな顔ができるんだよ。
「噴水で遊んではいけません。怪我でもされたら大変です」
「俺はそんなヘマはしない」
「ルイス様?」
じっとこちらを見下ろしてくるクレイグ団長に、ぴたりと口を閉じる。騎士団の団長をやっているだけあって、変な迫力がある。
「こんなにびしょびしょになって。どうするおつもりですか」
「別にどうもしないけど」
引き続き遊ぶだけである。けれどもティアンが、黙れとでも言いたげに睨んでくる。団長相手に口答えするなということか。
とりあえず「でも楽しかった」と感想だけお伝えしておけば、団長が口元を引き攣らせる。
「楽しくても、やっていい事と悪い事がありますよ」
「はーい」
なんだか話が長引きそうな予感がして、素直に返事をしておく。わかった! と元気に手をあげておけば、なぜか団長の眉間にますます皺が寄ってしまう。なぜ。
「ルイス様。本当に理解していただけましたか」
「うんうん」
「話を終わらせようと、適当に返事をしてはいませんか?」
「……」
さすが団長、鋭いな。
騒ぎを聞きつけてやって来たアロンが、俺の気持ちを簡潔にまとめてくる。そうだな。そういうことだな。
「じゃあ、今から水遊びでもします?」
「マジで⁉︎」
楽しい提案をしてくるアロンは、いつでも遊び心を忘れない大人である。
だが、それにタイラーが反対する。
「ちょっと。なんでそんな余計なことを言うんですか」
「うるさいな。おまえは黙っておけ」
タイラーをひと睨みしたアロンは、不機嫌になってしまう。どうやら年下のタイラーに意見されるのが、気に食わないらしい。アロンは器の小さい男だから、仕方がない。
ガシガシと頭を掻いたアロンは、「じゃあ外行きます?」とドアを振り返る。不満そうな顔のティアンが、「ブルース様に怒られますよ」と弱気な発言をしている。ブルース兄様にビビってどうする。今は夏だぞ。今、水遊びしないでどうするよ。また冬になってしまうぞ。
早速、アロンの手を引いて外に飛び出す。
タイラーは、室内で本を読んでいるユリスと俺を見比べて、室内に残ることを決めたらしい。あいつの仕事はユリスの護衛だもんね。ブルース兄様に俺のこと見張っておけと言われていたが、どうやらその任務は諦めるらしい。
そうして、アロンとティアン、それにロニーとジャンを伴って外に出た俺は、一目散に噴水へと駆けていく。
ようするに、噴水の中に入らなければいいのだ。
素晴らしい機転を利かせるアロンは、ジャンに指示してバケツを持ってこさせる。アロンに言われるがままに、バケツを取りに行くジャンに対して、ティアンが「まったくもう!」と憤慨している。
「怒られても知りませんからね!」
ぷんぷん怒るティアンは、けれどもジャンから受け取ったバケツで積極的に水を汲みにいくあたり、本音では水遊びがしたいらしい。ここ最近、暑いからね。
ノリの良いアロンは、噴水で汲んだ水を盛大にぶち撒けてくれる。テンション上がって大はしゃぎする俺。
対照的に、ロニーとジャンは一歩離れたところに無言で突っ立っている。いや、ロニーはアロンを半眼で見つめている。どうもふたりはあまり仲良くないらしい。すべてはアロンのクソみたいな行動が原因だろう。ロニーは真面目だからな。アロンと気が合わないのも納得である。
そうして服や髪が濡れるのも厭わずに、夢中になって遊んでいたのであるが、ここで邪魔が入った。
「……おい、アロン」
地を這うような低い声を出すクレイグ団長は、間違いなくキレていた。
怒りの矛先を向けられたアロンは、たいして気にする様子もなく「団長も一緒に遊びたいんですか? でも仕事はどうしたんです?」と、全力で煽りにいっている。さすがだな。
カツカツと大股でアロンに近寄ったクレイグ団長は、バケツをひったくると俺へと向き直った。
慌ててティアンの背中に隠れるが、信用できない盾は、容赦なく俺を団長の前に突き出そうとしてくる。
「ティアンがどうしても水遊びしたいって言うから」
「僕はそんなこと言っていません」
「裏切りだぞ」
ふいっとそっぽを向くティアンは、「申し訳ありません、父上。アロン殿が強引に」と、全責任をアロンに押し付けようとしている。
そうだな。初めに水遊びしようと言い出したのは、アロンだな。うんうん頷いておくが、団長は眉間に皺を寄せるばかりで納得してくれない。
「ルイス様」
「俺じゃないもん。アロンだもん」
ビシッとアロンを指差してやるが「えぇ? 俺のせいですか」と困惑顔をされてしまった。どう考えても、おまえのせいだろ。なんでそんな顔ができるんだよ。
「噴水で遊んではいけません。怪我でもされたら大変です」
「俺はそんなヘマはしない」
「ルイス様?」
じっとこちらを見下ろしてくるクレイグ団長に、ぴたりと口を閉じる。騎士団の団長をやっているだけあって、変な迫力がある。
「こんなにびしょびしょになって。どうするおつもりですか」
「別にどうもしないけど」
引き続き遊ぶだけである。けれどもティアンが、黙れとでも言いたげに睨んでくる。団長相手に口答えするなということか。
とりあえず「でも楽しかった」と感想だけお伝えしておけば、団長が口元を引き攣らせる。
「楽しくても、やっていい事と悪い事がありますよ」
「はーい」
なんだか話が長引きそうな予感がして、素直に返事をしておく。わかった! と元気に手をあげておけば、なぜか団長の眉間にますます皺が寄ってしまう。なぜ。
「ルイス様。本当に理解していただけましたか」
「うんうん」
「話を終わらせようと、適当に返事をしてはいませんか?」
「……」
さすが団長、鋭いな。
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