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11歳

242 夏なので

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 じりじりと照りつける太陽。青い空に白い雲。完璧である。

「泳ぐぞ!」
「泳がせませんよ?」

 季節は夏といってもいいくらいである。

 蒸し暑い日々に、最近オーガス兄様がぐったりしている。机に突っ伏すオーガス兄様を、ニックが無心で扇いであげている場面をよく目にする。

 ブルース兄様はいつも通りの不機嫌顔である。しかし暑さのせいか、なんだかキレやすいような気がする。アロンに対して掴み掛かっている場面をよく見る。

 晴れた日の午後。

 気温、天候共にばっちりであることを確認して、外に飛び出した俺。ティアンとジャン、それにロニーも一緒である。途中でアロンをお誘いしようと思い至ったものの、なにやら彼はブルース兄様に怒鳴られている最中だったので、声をかけるのはやめた。こっちに飛び火されてはたまらないからな。

 代わりに、ニックを誘ったのだが「嫌ですよ」とすげなく断られてしまった。

 噴水前にて、入念にストレッチをする俺を、ティアンが冷ややかな目で見てくる。それを気にせず、着ていたシャツを脱ぎ捨てれば、ロニーが慌てて駆け寄ってくる。そうして上半身裸になった俺の両肩に手を置いたロニーは、急いでシャツを俺に被せようとしてくる。なにをするんだ。

「本当に泳ぐおつもりですか?」
「うん!」

 元気に肯定するが、ロニーは手を離してくれない。それどころか、俺にシャツを着せようと躍起になってしまう。

「泳がないの?」
「噴水で泳ぐのはちょっと。危ないからやめましょう?」

 眉を寄せるロニーは、優しく言い聞かせてくる。

「でも、夏になったら泳いでいいって。ブルース兄様が言ってたよ」
「ブルース様はそんなこと言いません!」

 素早く否定してきたティアンは、わかりやすく不機嫌だった。「ほら! 向こうで遊びますよ」と、俺を噴水から引き剥がそうとしてくる。

 夏になったら噴水で泳ぐという長年の目標を邪魔された俺は、思考が停止してしまう。ブルース兄様やティアンに反対されるのはまだしも、ロニーに反対されるとショックが大きい。

 俺が固まっているのをいいことに、いそいそとシャツを着せてきたロニーは、「向こうで遊びましょうね」と俺を抱っこしてしまう。ぼけっとされるがままにしていると、そのまま屋敷の中へと連れ込まれてしまった。

 そっと廊下におろされた俺。

「いつまで固まってるんですか? え、そんなにショックなんですか?」

 ティアンがひとりで喚いているが、頭に入ってこない。

 え。泳いだらダメなの? 夏なのに?

 まだ気温が低いってことかな。そういえば、前世でもプールの授業の時に、水温が低いとかでプールが中止になることもあったな。まだ時期が早かったってことか? じゃあ、いつまで待てばいいのだ。

「……なにをしている」
「あ。ブルース様」

 まさか本気で泳ぐなと言っているのだろうか。噴水で泳がずして、どこで泳ぐというのか。湖か? 森の中にあるでっかい湖の方か。

「えっと、ルイス様が。噴水で泳げなかったのがショックみたいで。先程からずっと固まってます」
「……そんなに?」

 でもオーガス兄様が、湖に潜ったと自慢していたな。それに渋々とはいえ、セドリックも一度潜っている。あのふたりが既に泳いでいる湖である。ということは、俺も泳いでいいのでは?

「わかった‼︎」
「急に大声を出すな」

 勢いよく顔を上げれば、なにやら変な顔をするブルース兄様がいた。一体いつの間に?

 だが兄様のことはどうでもいい。

「噴水がダメなら、湖で泳ぐ!」
「ダメに決まっているだろ。馬鹿」

 早速、森の中へと駆け出そうとする俺の首根っこを、ブルース兄様が引っ掴んでくる。出端を挫かれた俺は、勢いよく両手をあげて抗議する。

「邪魔するな!」
「馬鹿が。大人しくできんのか」

 なぜか不機嫌なブルース兄様は、そのまま俺をずるずると引きずっていく。「やめろ!」と抗議するが、兄様は舌打ちするだけで解放してくれない。

 そうしてなぜか、ユリスの部屋に俺を放り込んだ兄様。

 中にいたユリスが「なんだ。僕の部屋にガキを入れるんじゃない」と、ブルース兄様を睨みつけている。誰がガキだ。

 泳ぎたい! どうしても泳ぎたい! と、強めの主張を繰り返すが、全員が冷ややかな目を向けてくる。酷すぎる。

「夏になったら泳いでいいってブルース兄様言ったじゃん! 嘘つきぃ」
「んなこと言った覚えはない」

 今更とぼける兄様は、湖もダメと言ってくる。

「じゃあ俺は、どこで泳げばいいの⁉︎」
「泳ぐ必要ないだろ」
「夏なのに⁉︎」

 嫌だ、絶対に泳ぎたいと地団駄を踏むが、兄様は意見を変えない。すごく酷い。

「おい、タイラー、ロニー! こいつのことよく見張っておけよ!」

 なぜかタイラーにも声をかけた兄様は、苛立ったように大股で部屋を出て行った。
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