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11歳
240 とどめを刺すな
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オーガス兄様に友達はいるのか。
いると主張するオーガス兄様に対して、俺とユリスは懐疑的であった。ニックとタイラー、それにロニーの騎士組は、少し離れて押し黙っている。さらに離れたところでは、ジャンが白猫を抱えて床を凝視している。関わりたくアピールだろうか。すごく露骨なアピールだ。とてもジャンらしくて、いいと思うぞ。
一歩も引かないオーガス兄様は、徐々にヒートアップしていく。
「とにかく! 僕にも友達くらいいるから!」
渾身の叫びが響いた後、室内がしんと静まり返る。ユリスとふたりで、じっとオーガス兄様を凝視していると、いまさら恥ずかしくなったらしい兄様が「ご、ごめん。ちょっとムキになった」と早口で顔を逸らす。
そんな少し気まずい空気を打ち破るように響いたノックの音に、オーガス兄様がわかりやすく安堵の表情で飛びつく。
やって来たのはブルース兄様だった。
「兄上。先日の件ですが、て。なんでここに居る」
ずかずかと室内に入ってきたブルース兄様は、俺とユリスを確認するなり、露骨に眉を寄せた。どうやら仕事の話があって来たらしく、書類を携えている。
「ブルース兄様。オーガス兄様の友達に会ったことある?」
「兄上の……?」
なぜか動きを止めたブルース兄様は、思案するように黙り込んでしまう。「なんでそこで黙るかなぁ⁉︎」とオーガス兄様が悲痛な声をあげている。
何度か目を瞬いたブルース兄様は、「そんなことより」と、手元の書類を差し出して話を逸らす。
「こちらの件ですが」
「話を逸らすんじゃない!」
だがオーガス兄様は、一歩も引かない。すぐに軌道修正して、「友達くらいいるから!」と強めに主張を繰り返している。なんで自分で自分を追い詰めにいくのだろうか。
「ほら! ラッセル! 君も知ってるだろ!」
「ラッセル?」
首を捻るブルース兄様は、ひとりで考え込んでしまう。パッと思い出せないらしい。「誰?」とユリスに尋ねてみるが、「知らない」と言われてしまった。
「知ってるだろ。ほら、王立騎士団の第一部隊の」
「あぁ、隊長の」
ようやく思い至ったらしいブルース兄様は、けれども直後に「え。あいつは友達なんですか?」と、失礼なことを口走っている。
「友達ですけど⁉︎ え、友達だよね?」
なんだか急に勢いを失ったオーガス兄様は、とても弱々しくみえた。「え、友達? 友達ってなんだっけ?」と、しきりに首を捻っている。
どうやらオーガス兄様には、ラッセルという友達がいるらしい。ブルース兄様の反応を見るに、本当に友達かは怪しいが。
ラッセルは、王立騎士団第一部隊の隊長さんらしい。王立騎士団といえば、サムが所属しているところである。サムは第二部隊の副隊長と言っていた。ということは、そのラッセルとかいう男は、サムよりも偉いということか。
よくわからんが、第一部隊隊長ってなんか響きがかっこいいな。そんなかっこいい人がオーガス兄様の友達? どうだろうか。たぶん違うと思うけどな。
怪しいな、とユリスと共にひそひそ言い合っていると、ブルース兄様が「兄上が一方的にそう思っているだけでは?」と、ひでぇことを言い始める。もうちょっとオブラートに包んでやれよ。どうにかフォローしようと思って、言葉を探す。
「んっと、オーガス兄様。友達いなくてもなんとかなるから大丈夫だと思うよ。よかったら俺が兄様の友達になってあげようか?」
握手しようと右手を差し出せば、「僕はお断りだな。なんでこんな陰湿な奴とつるまないといけないんだ」と、ユリスが酷いことを言い始める。誰がオーガス兄様にとどめを刺せと言ったよ。お子様は黙っておけ。
慌ててユリスを睨みつけて黙らせる。急いで「大丈夫。今からでも友達できるよ。多分」とフォローするが、オーガス兄様は変な顔である。
「……フォローが、フォローになってない」
ぼんやりと呟いたオーガス兄様は、顔を覆ってしまう。なんでだよ。ちゃんとフォローしただろ、俺。
「ちゃんと謝りなよ、ブルース兄様」
ひとまずブルース兄様のせいにしておけば、罪悪感のあるらしい兄様は素直に謝罪した。それを受けて、オーガス兄様がますます落ち込むという悪循環になってしまった。なぜなのか。
そうして、一応は丸くおさまったのであるが、直後に空気を読まないユリスが、またもや余計な口を開いた。
「で? 結局友達はいないってことでいいか?」
だからやめてやれよ。
いると主張するオーガス兄様に対して、俺とユリスは懐疑的であった。ニックとタイラー、それにロニーの騎士組は、少し離れて押し黙っている。さらに離れたところでは、ジャンが白猫を抱えて床を凝視している。関わりたくアピールだろうか。すごく露骨なアピールだ。とてもジャンらしくて、いいと思うぞ。
一歩も引かないオーガス兄様は、徐々にヒートアップしていく。
「とにかく! 僕にも友達くらいいるから!」
渾身の叫びが響いた後、室内がしんと静まり返る。ユリスとふたりで、じっとオーガス兄様を凝視していると、いまさら恥ずかしくなったらしい兄様が「ご、ごめん。ちょっとムキになった」と早口で顔を逸らす。
そんな少し気まずい空気を打ち破るように響いたノックの音に、オーガス兄様がわかりやすく安堵の表情で飛びつく。
やって来たのはブルース兄様だった。
「兄上。先日の件ですが、て。なんでここに居る」
ずかずかと室内に入ってきたブルース兄様は、俺とユリスを確認するなり、露骨に眉を寄せた。どうやら仕事の話があって来たらしく、書類を携えている。
「ブルース兄様。オーガス兄様の友達に会ったことある?」
「兄上の……?」
なぜか動きを止めたブルース兄様は、思案するように黙り込んでしまう。「なんでそこで黙るかなぁ⁉︎」とオーガス兄様が悲痛な声をあげている。
何度か目を瞬いたブルース兄様は、「そんなことより」と、手元の書類を差し出して話を逸らす。
「こちらの件ですが」
「話を逸らすんじゃない!」
だがオーガス兄様は、一歩も引かない。すぐに軌道修正して、「友達くらいいるから!」と強めに主張を繰り返している。なんで自分で自分を追い詰めにいくのだろうか。
「ほら! ラッセル! 君も知ってるだろ!」
「ラッセル?」
首を捻るブルース兄様は、ひとりで考え込んでしまう。パッと思い出せないらしい。「誰?」とユリスに尋ねてみるが、「知らない」と言われてしまった。
「知ってるだろ。ほら、王立騎士団の第一部隊の」
「あぁ、隊長の」
ようやく思い至ったらしいブルース兄様は、けれども直後に「え。あいつは友達なんですか?」と、失礼なことを口走っている。
「友達ですけど⁉︎ え、友達だよね?」
なんだか急に勢いを失ったオーガス兄様は、とても弱々しくみえた。「え、友達? 友達ってなんだっけ?」と、しきりに首を捻っている。
どうやらオーガス兄様には、ラッセルという友達がいるらしい。ブルース兄様の反応を見るに、本当に友達かは怪しいが。
ラッセルは、王立騎士団第一部隊の隊長さんらしい。王立騎士団といえば、サムが所属しているところである。サムは第二部隊の副隊長と言っていた。ということは、そのラッセルとかいう男は、サムよりも偉いということか。
よくわからんが、第一部隊隊長ってなんか響きがかっこいいな。そんなかっこいい人がオーガス兄様の友達? どうだろうか。たぶん違うと思うけどな。
怪しいな、とユリスと共にひそひそ言い合っていると、ブルース兄様が「兄上が一方的にそう思っているだけでは?」と、ひでぇことを言い始める。もうちょっとオブラートに包んでやれよ。どうにかフォローしようと思って、言葉を探す。
「んっと、オーガス兄様。友達いなくてもなんとかなるから大丈夫だと思うよ。よかったら俺が兄様の友達になってあげようか?」
握手しようと右手を差し出せば、「僕はお断りだな。なんでこんな陰湿な奴とつるまないといけないんだ」と、ユリスが酷いことを言い始める。誰がオーガス兄様にとどめを刺せと言ったよ。お子様は黙っておけ。
慌ててユリスを睨みつけて黙らせる。急いで「大丈夫。今からでも友達できるよ。多分」とフォローするが、オーガス兄様は変な顔である。
「……フォローが、フォローになってない」
ぼんやりと呟いたオーガス兄様は、顔を覆ってしまう。なんでだよ。ちゃんとフォローしただろ、俺。
「ちゃんと謝りなよ、ブルース兄様」
ひとまずブルース兄様のせいにしておけば、罪悪感のあるらしい兄様は素直に謝罪した。それを受けて、オーガス兄様がますます落ち込むという悪循環になってしまった。なぜなのか。
そうして、一応は丸くおさまったのであるが、直後に空気を読まないユリスが、またもや余計な口を開いた。
「で? 結局友達はいないってことでいいか?」
だからやめてやれよ。
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