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11歳
234 初耳ですが
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その後、みんなでケーキを食べた。どのケーキが一番大きいかで揉めはしたが、概ね平和であった。ちなみに、一番大きいケーキは俺がゲットした。
「ルイス様。これどうぞ」
「なんこれ」
そんな時である。唐突にアロンが渡してきた小包を、反射的に受け取った。早速中身を確認すれば、そこには猫用の首輪が入っていた。
「俺からの誕生日プレゼントです」
「アロン。意外と気が利くな。ありがと」
「意外とってなんですか」
なにやら綺麗な首輪である。革っぽい材質で、正面部分には青色の小さな石が付いている。すごくオシャレだ。早速、装着してみようと猫を追いかけまわす。わーわー言っていると、見かねたらしいニックが、さっと猫を捕まえてくれた。
「はい、どうぞ」
「ニック! 猫捕まえるの上手いね。ジャンは下手くそなんだよ」
黒猫ユリス相手にも、ジャンは随分と苦労していた。最近では少しは慣れてきたらしく、結構スムーズに捕まえていたが、今のニックの動きには敵わない。
「ニック! おまえを猫係にしてやってもいいぞ」
「なんすかその係。嫌ですよ。お断りします」
ニックは基本的に、俺の言葉に対して否定から入る。「嫌です」「無理です」「なんで俺が」というのが口癖だ。ネガティブな騎士である。
捕まえてくれたお礼に、猫触ってもいいよと許可を出すが、「もう触りました」との素っ気ない返答があるのみだ。そんなちょっとで満足なの? 欲がないね。
「ティアンは? 俺にプレゼントは?」
右手を差し出せば、ティアンが「ないですよ」と軽く肩をすくめる。なんでないの。
「それよりルイス様。ちゃんと勉強もしないとダメですよ」
なんて嫌なお子様だ。プレゼント用意していない誤魔化しに、勉強の話を持ち出すなんて。ちゃんとやっていると主張するが、ティアンは不満そうだ。
「もう。僕が一緒に居られるのもあと少しなんですからね。少しは真面目に勉強してください」
あと少し? なにが?
「あれ。言ってませんでしたっけ?」
「聞いてない」
すっとぼけるティアンは、「僕、学校に通うので」と、さらりと告げてきた。え、マジで初耳ですが?
「学校?」
「はい。僕もう十三歳なので」
「おまえは十二歳だろ」
「もうすぐ誕生日なんですよ」
そうなの? それも初耳である。
しかし学校か。
この世界の仕組みはよくわからないが、どうやら俺とユリスは学校には通わないらしい。お父様とお母様が猛反対するからだ。義務教育という概念もなさそうだし、学校にも平民の子が通う学舎と、貴族の子が通う学舎と色々種類があるらしい。
ティアンは、貴族の子たちが集まる学校に通うそうだ。そういや、父親のクレイグ団長は伯爵だもんな。
要するに、学校に通うから、今まで通り毎日午後から遊びに来るということが出来なくなるのだろう。遊ぶ時間が減るのは残念だが、学校なら仕方がない。
「じゃあ学校終わってから夕方遊びに来て。ちょっとくらいなら遊べるでしょ。あとお休みの日ね」
「無理ですよ」
あっさりお断りしてきたティアンは、「寮に入るので」と衝撃事実を告げてきた。
寮? てことは、帰ってこないの?
「はい。ここから少し遠いところにあるので。基本的には帰ってきませんよ。卒業したら戻ってくるんで、それまで大人しくしててくださいね」
「卒業って⁉︎ 何年⁉︎」
「四年です」
四年⁉︎ え、こいつ四年も帰ってこないの?
「よ、四年って何年?」
驚きのあまり、自分でもよくわからんことを口走る。すかさずユリスが「四年は四年だろ おまえ大丈夫か?」と罵倒してくるが、それどころではない。
四年って長くない? そんなに長くティアンが居ないのか?
「俺の遊び相手はどうするの!」
「遊び相手って。ルイス様はもう十一歳ですよね? 遊んでいないで、勉強してください」
「無理!」
どうやらティアンは、マジで学校に行くつもりらしい。しかも寮生活。四年も帰ってこないとふざけたことを言っている。マジで俺は? 置いていくのか?
ちょっとだけ、ティアンがいない生活を想像してみる。ティアンがいない屋敷で、俺は多分白い猫を持って走りまわる。その後ろを困った顔のジャンが追いかけて、にこやかな笑顔のロニーもついてくる。
「……ティアンが居なくても、ロニーが居るから大丈夫かもしれない」
「なんでそんなこと言うんですか!」
怒りをあらわにするティアンは、「もっとこう! 言うことあるでしょ! 寂しいとかなんとか」と、ひとりでキレている。別れを惜しめと言いたいらしいが、勝手に学校行くと決めたのはそっちだろう。
「じゃあティアンと会えるのは今日が最後?」
「違いますよ。入学は秋です。なんでそんな早々に追い出そうとしてくるんですか」
腰に手を当ててキレるティアン。どうやら学校がよほど楽しみらしい。心なしかハイテンションだ。
「でもその前に、入学試験に合格しないとね」
ニヤニヤと口を挟んできたアロンは、すごく愉快な顔をしていた。
なんだ。まだ合格してないのかよ。気の早い奴だな。
話を聞く限り、近々入学試験を控えているらしい。随分と自信があるらしいティアンは、「だって僕の入学は決まっているようなものですから」と、さらに自信たっぷりの言葉を紡いでいる。それは大丈夫か? あとでもし不合格になった時、めっちゃ恥ずかしいやつだぞ、それ。
頑張れ、と励ましの言葉を投げておくと「コネがあるので」との衝撃発言が聞こえてきた。え、なに。コネ?
え、コネで入学すんの? 意味わかんない。
目を瞬く俺に、ティアンはなぜか得意気な顔をしてみせる。
「利用できるものは、なんでも利用しようと思いまして」
「へー」
「アロン殿の力を借りることにしました!」
「へ、へぇ」
そういえば、なんか前にクソ野郎でも利用してみせるとかなんとか。威勢の良いことを言っていたな。あれってこれのことか。
ちらりとアロンに視線を向けると、「まったく。俺に感謝してね」と偉そうな態度でティアンを見下ろしていた。どうやらコネの話はマジらしい。無言でこちらを見つめているオーガス兄様とブルース兄様が、気まずそうな表情をしているし。
ティアンって、こういうところあるよね。真面目に見えて、不真面目な部分があるというか。俺と出会った当初も、バリバリ下心あってユリス様に近づきました的なことを面と向かって言われたし。将来、自分を騎士団の団長にしてくれと真正面から頼まれたな。
「が、頑張れ」
なんと言えばいいのかわからなくて、当たり障りのない応援をしておく。コネ云々の件は本当によくわからないが、アロンがちゃんと役に立つといいな?
「ルイス様。これどうぞ」
「なんこれ」
そんな時である。唐突にアロンが渡してきた小包を、反射的に受け取った。早速中身を確認すれば、そこには猫用の首輪が入っていた。
「俺からの誕生日プレゼントです」
「アロン。意外と気が利くな。ありがと」
「意外とってなんですか」
なにやら綺麗な首輪である。革っぽい材質で、正面部分には青色の小さな石が付いている。すごくオシャレだ。早速、装着してみようと猫を追いかけまわす。わーわー言っていると、見かねたらしいニックが、さっと猫を捕まえてくれた。
「はい、どうぞ」
「ニック! 猫捕まえるの上手いね。ジャンは下手くそなんだよ」
黒猫ユリス相手にも、ジャンは随分と苦労していた。最近では少しは慣れてきたらしく、結構スムーズに捕まえていたが、今のニックの動きには敵わない。
「ニック! おまえを猫係にしてやってもいいぞ」
「なんすかその係。嫌ですよ。お断りします」
ニックは基本的に、俺の言葉に対して否定から入る。「嫌です」「無理です」「なんで俺が」というのが口癖だ。ネガティブな騎士である。
捕まえてくれたお礼に、猫触ってもいいよと許可を出すが、「もう触りました」との素っ気ない返答があるのみだ。そんなちょっとで満足なの? 欲がないね。
「ティアンは? 俺にプレゼントは?」
右手を差し出せば、ティアンが「ないですよ」と軽く肩をすくめる。なんでないの。
「それよりルイス様。ちゃんと勉強もしないとダメですよ」
なんて嫌なお子様だ。プレゼント用意していない誤魔化しに、勉強の話を持ち出すなんて。ちゃんとやっていると主張するが、ティアンは不満そうだ。
「もう。僕が一緒に居られるのもあと少しなんですからね。少しは真面目に勉強してください」
あと少し? なにが?
「あれ。言ってませんでしたっけ?」
「聞いてない」
すっとぼけるティアンは、「僕、学校に通うので」と、さらりと告げてきた。え、マジで初耳ですが?
「学校?」
「はい。僕もう十三歳なので」
「おまえは十二歳だろ」
「もうすぐ誕生日なんですよ」
そうなの? それも初耳である。
しかし学校か。
この世界の仕組みはよくわからないが、どうやら俺とユリスは学校には通わないらしい。お父様とお母様が猛反対するからだ。義務教育という概念もなさそうだし、学校にも平民の子が通う学舎と、貴族の子が通う学舎と色々種類があるらしい。
ティアンは、貴族の子たちが集まる学校に通うそうだ。そういや、父親のクレイグ団長は伯爵だもんな。
要するに、学校に通うから、今まで通り毎日午後から遊びに来るということが出来なくなるのだろう。遊ぶ時間が減るのは残念だが、学校なら仕方がない。
「じゃあ学校終わってから夕方遊びに来て。ちょっとくらいなら遊べるでしょ。あとお休みの日ね」
「無理ですよ」
あっさりお断りしてきたティアンは、「寮に入るので」と衝撃事実を告げてきた。
寮? てことは、帰ってこないの?
「はい。ここから少し遠いところにあるので。基本的には帰ってきませんよ。卒業したら戻ってくるんで、それまで大人しくしててくださいね」
「卒業って⁉︎ 何年⁉︎」
「四年です」
四年⁉︎ え、こいつ四年も帰ってこないの?
「よ、四年って何年?」
驚きのあまり、自分でもよくわからんことを口走る。すかさずユリスが「四年は四年だろ おまえ大丈夫か?」と罵倒してくるが、それどころではない。
四年って長くない? そんなに長くティアンが居ないのか?
「俺の遊び相手はどうするの!」
「遊び相手って。ルイス様はもう十一歳ですよね? 遊んでいないで、勉強してください」
「無理!」
どうやらティアンは、マジで学校に行くつもりらしい。しかも寮生活。四年も帰ってこないとふざけたことを言っている。マジで俺は? 置いていくのか?
ちょっとだけ、ティアンがいない生活を想像してみる。ティアンがいない屋敷で、俺は多分白い猫を持って走りまわる。その後ろを困った顔のジャンが追いかけて、にこやかな笑顔のロニーもついてくる。
「……ティアンが居なくても、ロニーが居るから大丈夫かもしれない」
「なんでそんなこと言うんですか!」
怒りをあらわにするティアンは、「もっとこう! 言うことあるでしょ! 寂しいとかなんとか」と、ひとりでキレている。別れを惜しめと言いたいらしいが、勝手に学校行くと決めたのはそっちだろう。
「じゃあティアンと会えるのは今日が最後?」
「違いますよ。入学は秋です。なんでそんな早々に追い出そうとしてくるんですか」
腰に手を当ててキレるティアン。どうやら学校がよほど楽しみらしい。心なしかハイテンションだ。
「でもその前に、入学試験に合格しないとね」
ニヤニヤと口を挟んできたアロンは、すごく愉快な顔をしていた。
なんだ。まだ合格してないのかよ。気の早い奴だな。
話を聞く限り、近々入学試験を控えているらしい。随分と自信があるらしいティアンは、「だって僕の入学は決まっているようなものですから」と、さらに自信たっぷりの言葉を紡いでいる。それは大丈夫か? あとでもし不合格になった時、めっちゃ恥ずかしいやつだぞ、それ。
頑張れ、と励ましの言葉を投げておくと「コネがあるので」との衝撃発言が聞こえてきた。え、なに。コネ?
え、コネで入学すんの? 意味わかんない。
目を瞬く俺に、ティアンはなぜか得意気な顔をしてみせる。
「利用できるものは、なんでも利用しようと思いまして」
「へー」
「アロン殿の力を借りることにしました!」
「へ、へぇ」
そういえば、なんか前にクソ野郎でも利用してみせるとかなんとか。威勢の良いことを言っていたな。あれってこれのことか。
ちらりとアロンに視線を向けると、「まったく。俺に感謝してね」と偉そうな態度でティアンを見下ろしていた。どうやらコネの話はマジらしい。無言でこちらを見つめているオーガス兄様とブルース兄様が、気まずそうな表情をしているし。
ティアンって、こういうところあるよね。真面目に見えて、不真面目な部分があるというか。俺と出会った当初も、バリバリ下心あってユリス様に近づきました的なことを面と向かって言われたし。将来、自分を騎士団の団長にしてくれと真正面から頼まれたな。
「が、頑張れ」
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