冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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11歳

232 不審な呟き

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 もうそろそろ良いですかね、とティアンが不審な呟きをした。

 俺は今、庭で草を引っこ抜いていた。やることなさ過ぎて、雑草を抜いては、それをティアンに投げつけるという遊びをしていた。ティアンがものすごく嫌そうな顔をしているものの、止めはしない。俺に文句を言って、逆ギレした俺が部屋に戻るのを防ぐためだろう。徹底している。

 しかし早くこの遊びからは解放されたいらしい。ロニーとアイコンタクトをした彼は、「また変な遊びして」とお小言モードに入ってしまう。さっきまでは大目に見てやるよという感じだったのに。切り替えはや過ぎるよ。

 どうやら下手な時間稼ぎは終わったらしい。一転して、屋敷に戻ろうとするティアンに続く。

「行くよ、ジャン。ロニーも」

 声をかければ、ロニーがにこやかに応じてくれる。何度も思っているのだが、長髪男子くんがずっと一緒って最高だな。

 ふふっとご機嫌で屋敷に戻ると、ティアンが手を洗えと俺の背中をぐいぐい押してくる。雑草抜いたから、手が汚れているのだ。

 言われるがままに、手を洗う。そうして自室に駆け込もうとした俺を、再びティアンとロニーのふたりが止めに入る。

「向こうに! 向こうに行きましょう!」
「嫌だ! なんでティアンの言うこと聞かなきゃいけないんだ」

 もう! と拗ねるティアンは、ロニーを振り返る。それを受けて、ロニーが俺の前に屈み込んだ。

「ルイス様。本日のおやつは客間に用意してありますよ?」
「なぜ!」

 勢いよく訊ねれば、「ついてからのお楽しみですよ」とロニーに手を引かれる。ふむ。ロニーがそう言うのなら、仕方がない。

 黙って従い、おやつが用意されているという客間へと足を向ける。なにやらサプライズの予感である。どうしても俺を自室に戻したくない理由があるのだろう。これはきっとサプライズ的ななにかだ。俺は察しがいいからな。おまけに空気も読める。サプライズには気が付かないフリをして、わくわくと客間に向かう。

 ドアを開け放って、勢いよく突入すれば、そこには不機嫌顔のユリスと、困り顔のタイラーが居た。引き返したい。サプライズどこ?

「なにをしている、ユリス」
「おまえこそ、なんのつもりだ」

 僕が先に来たんだから、おまえは出て行けと酷いこと言うユリスは通常運転である。「そんなこと言ったらダメですよ」と諌めるタイラーも、いつも通りである。

 よくわからんが、とりあえずユリスの隣に座っておく。あっちに座れと文句を言われたが、気にしない。そうして足をぷらぷらしていると、兄様たちがやってきた。

 なんだかニヤケ顔のオーガス兄様は、不自然に両手を後ろにまわしていた。何かを隠し持っているらしい。覗いてやろうと立ち上がる俺を、ティアンが慌てて引き止める。

 ユリスはあんまり興味がないようで、ムスッと腕を組んでいる。ついでに足も組んでいる。タイラーがお行儀悪いと眉を寄せた。

「オーガス兄様。なんでそんな変な顔してんの。なに持ってるの」
「変な顔なんてしてないよ」

 んんっと、わざとらしい咳払いで誤魔化したオーガス兄様の後ろでは、ブルース兄様とアロンが小競り合いを繰り広げている。このふたりが、くだらない争いをするのも、いつものことである。たいていはアロンが悪いのだ。

 最後にドアを閉めたニックは、ちょっと疲れた顔をしていた。そうしてなんだか人が集まった空間にわくわくしていると、ユリスが小さく嘲笑した。つられて、そちらに視線を向ける。

「なに?」
「今日は僕の誕生日だからな」

 誕生日?

 誕生日って、えっと。お祝いだ!

「いえーい!」

 よくわからんが、とりあえず叫んでおく。元気よく両手を上げておけば、オーガス兄様が「なんで言っちゃうの⁉︎ サプライズが台無しだよ!」と悲痛な声を上げる。

「誕生日パーティー! ケーキ! プレゼント! いえーい!」
「おまえはいつ見ても楽しそうでいいな」

 誕生日で思いつくハッピーな単語を並べておく。そんな俺を小馬鹿にするような感じで肩をすくめるユリスに、オーガス兄様は頭を抱えている。サプライズを台無しにされて落ち込みモードらしい。だが、みんなサプライズ下手くそだな。なんかあるってバレバレだったもん。

「何歳⁉︎」
「十一歳に決まっているだろ」

 なんてこった。ユリスが成長してしまった。十歳児だったくせに。今日から十一歳児か。マジかよ。
 
 しかしここで疑問がある。

「俺は? 俺は何歳?」

 ユリスだけ成長するのはずるいと思う。俺も俺もと主張すれば、ブルース兄様が「そうだな」と大きく頷く。

「一応、ルイスとユリスは双子ということになっているからな。ルイスも今日が誕生日でいいか?」
「いいよ!」

 前世の誕生日なんて覚えていないし。てことは、俺も今日から十一歳だ。

「プレゼントは?」

 オーガス兄様が隠しているつもりらしいプレゼントに目を向ける。はよ渡せと急かせば、苦笑したオーガス兄様が、綺麗に包まれたプレゼントをユリスに渡す。雑に受け取ったユリスは「ふーん」と偉そうに眺めている。

「開けていい?」

 横から手を伸ばしてユリスに訊ねれば、「なんでだよ。これは僕がもらったものだ。おまえはあっちに行け」と言われてしまう。ビリビリと包装紙を破き始めたユリスに、「お礼くらい言ったらどうなんだ」とブルース兄様が小言を漏らす。

 それをガン無視したユリスは、遠慮なくプレゼントを開封する。中から出てきたのは、本だった。つまんな。

「君が好きそうな魔法に関する本。見つけるの大変だったんだから。今度は捨てないでね」

 弱々しく言葉を紡ぐオーガス兄様は、十歳の誕生日にユリスにあげた魔石を湖に投げ捨てられたことを根に持っているらしい。

 興味なさそうな顔をしていながらも、なんだか嬉しそうな雰囲気を醸し出すユリスは、早速本を開いている。横から覗き込んでみたが、難しくて面白くない。だがユリスは気に入っているようで、今回は捨てるなんてことはなさそうである。

「俺は? 俺のプレゼントは?」

 オーガス兄様が、他にプレゼントを持っている気配はない。ブルース兄様もだ。もしかして俺にはないのか? 俺も誕生日なのに?

 もしかしたら本当の弟じゃないからプレゼント貰えないのかもしれない。ちょっとショックを受けていると、オーガス兄様が「えっとぉ」と頬を掻いた。

「ルイスの分も用意してあるよ」
「やったぁ!」

 そうしてブルース兄様と顔を見合わせたオーガス兄様は、得意気な顔をする。

「こっちも見つけるの大変だったんだから」
「ありがとう、オーガス兄様!」

 もったいぶる兄様たちは、なかなかプレゼントを渡してくれない。お礼は述べておいたが、それでもまだ渡してくれない。なんでだよ。

 そわそわしていると、オーガス兄様がにやっと笑った。

「プレゼントは部屋に置いてあるよ。見てきなよ」
「なんだって」

 部屋に? もしかしてそれが原因で、ティアンたちが俺を頑なに部屋に入れてくれなかったのだろうか。隠し事が下手くそだな。

 それにしても。
 わざわざ部屋に置いておくってことは、こちらに持ってこられない理由があったのだろうか。持ち運びが簡単ではないとか? これはあれだ。でっかいプレゼントの可能性が大だ。

「俺の勝ちだな」

 とりあえず、ユリス相手に胸を張って勝利宣言をしておく。もらった本に夢中のユリスは、反応してくれない。「なにが勝ちなんですか?」とティアンが首を捻っている。

 しかし、こうしてはいられない。

 一刻もはやく、プレゼントの確認に行かなければならない。勢いよく部屋をかけ出す俺の後を、ティアンとロニーが追いかけてくる。「走るな!」と、ブルース兄様が叫んでいるが無視である。今はなによりも、プレゼントの方が大事である。
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