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229 ティアンはお子様
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午後になると、ティアンがやって来る。
ユリスに部屋を追い出された俺は、仕方がなく玄関先で彼を待ち構えていた。コートを着込んでとことこ歩いてきたティアンは、俺を視界に入れるなり、ちょっとだけ気まずい顔をした。さっと視線を逸らされる。
「よく来たな! ティアン!」
「こんにちは、ルイス様」
仁王立ちで歓迎すれば、ティアンが形だけの挨拶を返してくる。
最近、ティアンがずっとこんな感じだ。
微妙に俺と視線を合わせてくれないし、なんだかぎこちない。どうやら俺が実はユリスではないことを、彼に黙っていた件を根に持っているらしい。なんて器の小さい奴だ。
「噴水見に行くぞ!」
だがティアンのご機嫌とかどうでもいい。早速、庭を駆け回ろうとする俺の後ろで、ジャンが「え、また?」と小さく呟いたが、これも気にしない。午前中にもう見ただろと言いたいらしい。だからなんだ。噴水見るのは一日一回だと誰が決めたんだ。
しかし、ティアンは動かない。
仕方がないので、立ち尽くす彼の手を取って、噴水まで引っ張っていく。されるがままのティアンは、なんだかしょんぼりモードだ。
これはいけない。多分だけど、噴水見たら元気になると思う。
勢いよく水を噴き上げる噴水の前までやってきて、「ほら、みろ」と促しておく。ちらりと水に目をやったティアンであるが、またすぐに俯いてしまう。
「……どうしたの?」
流石に心配になってくる。ティアンの右手を両手で掴んだまま問いかければ、彼は小さく息を吐いた。そのまま俺の手を振り払ってしまう。
「ティアン?」
水音が響く中、ティアンがようやく顔を上げた。
「僕は、多分、頼りないんだと思います」
突然の自虐に、反応が遅れる。急にどうしたよ。なんて言えばいいのかわからない。考えている間に、ティアンが拳をぎゅっと握りしめる。
「ルイス様は、何かあるとアロン殿を頼りますよね。あの人、すごくクズなのに」
なぜ急にアロンの悪口。だが、クズでクソ野郎のお兄さんなのは紛れもない事実だ。うんうん頷いておくことにする。
「僕は、僕は」
口ごもるティアンは、一度唇を噛み締めるような仕草をしてみせた。なんだか思い詰めた表情に見える。本当にどうしたよ。
「僕は。ルイス様に頼ってもらえない今の状況がすごく嫌です。嫌だということに気が付いたんです」
「う、うん」
「すぐには無理ですけど。でも、絶対にどうにかするので、成長するので。その、ちょっとだけ時間をください!」
後半、早口で捲し立てたティアンは、そのまま誤魔化すように咳払いをする。そうして「もうこの話は終わりにします! そういうことなので!」と、ひとりで勝手に話を終わらせてしまう。
「あの、ティアン」
「それ以上なにも言わないでください! 空気読んで! お願いですから!」
「はぁ?」
なんじゃそりゃ。ちょっと名前を呼んだだけで、この剣幕である。八つ当たりだ。
だが俺は空気の読める大人なので。ぴたりと口を閉ざして、様子を窺う。
ふうっと大袈裟に息を吐いたティアンは、なんだか少しだけ顔が赤かった。
「その、どうにかするので」
「はぁ、がんばれ」
なにをどうやって、どうにかするのか。ティアンの話がまったく見えないが、俺は大人なので。わかった風に頷いておく。
やがて、ティアンが静かに目を閉じる。なんか、よくわからんが、変な空気だ。ちょっと逃げたいような気がする。
ジリっと一歩後退れば、ティアンが勢いよく目を開けた。
「本気で! どうにかするので! この際、相手がクソ野郎だろうと利用できるものは利用してみせます!」
「う、うん。がんばれ」
クソ野郎って、多分アロンのことだよね。
相変わらず話は見えないが、どうやらティアンはアロンを利用してどうにかするらしい。応援くらいはしてやろうと思う。
頑張れと声をかければ、ティアンが「任せておいてください!」と、元気に応じてくる。
うん、よくわからんが頑張れ。
ユリスに部屋を追い出された俺は、仕方がなく玄関先で彼を待ち構えていた。コートを着込んでとことこ歩いてきたティアンは、俺を視界に入れるなり、ちょっとだけ気まずい顔をした。さっと視線を逸らされる。
「よく来たな! ティアン!」
「こんにちは、ルイス様」
仁王立ちで歓迎すれば、ティアンが形だけの挨拶を返してくる。
最近、ティアンがずっとこんな感じだ。
微妙に俺と視線を合わせてくれないし、なんだかぎこちない。どうやら俺が実はユリスではないことを、彼に黙っていた件を根に持っているらしい。なんて器の小さい奴だ。
「噴水見に行くぞ!」
だがティアンのご機嫌とかどうでもいい。早速、庭を駆け回ろうとする俺の後ろで、ジャンが「え、また?」と小さく呟いたが、これも気にしない。午前中にもう見ただろと言いたいらしい。だからなんだ。噴水見るのは一日一回だと誰が決めたんだ。
しかし、ティアンは動かない。
仕方がないので、立ち尽くす彼の手を取って、噴水まで引っ張っていく。されるがままのティアンは、なんだかしょんぼりモードだ。
これはいけない。多分だけど、噴水見たら元気になると思う。
勢いよく水を噴き上げる噴水の前までやってきて、「ほら、みろ」と促しておく。ちらりと水に目をやったティアンであるが、またすぐに俯いてしまう。
「……どうしたの?」
流石に心配になってくる。ティアンの右手を両手で掴んだまま問いかければ、彼は小さく息を吐いた。そのまま俺の手を振り払ってしまう。
「ティアン?」
水音が響く中、ティアンがようやく顔を上げた。
「僕は、多分、頼りないんだと思います」
突然の自虐に、反応が遅れる。急にどうしたよ。なんて言えばいいのかわからない。考えている間に、ティアンが拳をぎゅっと握りしめる。
「ルイス様は、何かあるとアロン殿を頼りますよね。あの人、すごくクズなのに」
なぜ急にアロンの悪口。だが、クズでクソ野郎のお兄さんなのは紛れもない事実だ。うんうん頷いておくことにする。
「僕は、僕は」
口ごもるティアンは、一度唇を噛み締めるような仕草をしてみせた。なんだか思い詰めた表情に見える。本当にどうしたよ。
「僕は。ルイス様に頼ってもらえない今の状況がすごく嫌です。嫌だということに気が付いたんです」
「う、うん」
「すぐには無理ですけど。でも、絶対にどうにかするので、成長するので。その、ちょっとだけ時間をください!」
後半、早口で捲し立てたティアンは、そのまま誤魔化すように咳払いをする。そうして「もうこの話は終わりにします! そういうことなので!」と、ひとりで勝手に話を終わらせてしまう。
「あの、ティアン」
「それ以上なにも言わないでください! 空気読んで! お願いですから!」
「はぁ?」
なんじゃそりゃ。ちょっと名前を呼んだだけで、この剣幕である。八つ当たりだ。
だが俺は空気の読める大人なので。ぴたりと口を閉ざして、様子を窺う。
ふうっと大袈裟に息を吐いたティアンは、なんだか少しだけ顔が赤かった。
「その、どうにかするので」
「はぁ、がんばれ」
なにをどうやって、どうにかするのか。ティアンの話がまったく見えないが、俺は大人なので。わかった風に頷いておく。
やがて、ティアンが静かに目を閉じる。なんか、よくわからんが、変な空気だ。ちょっと逃げたいような気がする。
ジリっと一歩後退れば、ティアンが勢いよく目を開けた。
「本気で! どうにかするので! この際、相手がクソ野郎だろうと利用できるものは利用してみせます!」
「う、うん。がんばれ」
クソ野郎って、多分アロンのことだよね。
相変わらず話は見えないが、どうやらティアンはアロンを利用してどうにかするらしい。応援くらいはしてやろうと思う。
頑張れと声をかければ、ティアンが「任せておいてください!」と、元気に応じてくる。
うん、よくわからんが頑張れ。
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