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225 俺の猫は?

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「えっとぉ、つまりあの怪しい魔導書のせいでこうなったと」
「そうだ。もとはといえば、おまえがあんな変な物を湖から拾ってきたのが原因だ」
「いや、君が取ってこいって言ったんだろ」
「それに加えて、あんな魔石なんて用意したのも悪手だったな」
「いやそれは。君が喜ぶと思って。え、まさか全部僕のせいにしようとしてる?」

 ようやく気が付いたよ、オーガス兄様。

 先程から、本物ユリスがネチネチとオーガス兄様を責めている。どさくさに紛れて、今回の件の全責任をオーガス兄様に押し付けようとしている。

 偉そうに仁王立ちで兄を見据える本物ユリスは、容赦がなかった。なんとかオーガス兄様に謝らせようと躍起になっている。嫌な弟である。

 俺と本物ユリスを見比べたオーガス兄様は、青い顔をしていながらも、おおよそのことは理解してくれたらしい。「な、なんかごめんね?」と、本物ユリス相手に頭を下げている。なんか知らんが、オーガス兄様が負けてしまった。

 それを苦い顔で見つめているブルース兄様は、静かに本物ユリスを睨み付けていた。

「そういうことだから。弟が増えるけど、きちんと面倒見てあげるのよ」

 そう言って話を切り上げたお母様は、「新しいお洋服を用意しなくちゃね」と張り切っている。また着せ替え人形にされる。危機感を覚えた俺は、本物ユリスを差し出すことにする。

「お母様。ユリスが新しい服欲しいって言ってました」
「言っていないが?」

 素早く否定してくる本物ユリスも、どうやらお母様の服選びに付き合うのはうんざりしているらしい。だが「心配しなくても。ふたりとも用意してあげるわよ」と、にっこり微笑むお母様を前にして、それ以上の苦言を呈することはできなかった。


※※※


「えっと、ユリスはユリスでいいとして。君のことはなんて呼べばいいのかな」

 お母様の部屋を後にして。

 なんとなく全員でユリスの部屋に戻ったのだが、オーガス兄様が気まずそうに俺の様子を窺ってくる。

 どうやら本物ユリスが、本当の弟だと理解したらしいが、偽物である俺相手にもビビっているらしい。激ヤバサイコパスであるユリスはともかく、俺相手にビビる意味がわからない。別人だとわかったのだから、もっと肩の力を抜いて接してくれてもいいのに。

 そう伝えたところ、オーガス兄様が「そう? でも君の扱い方もよくわからない。すごく元気がいいところとか、僕にはちょっと無理」と失礼なことを言ってくる。元気がいいのは、よろしいことだろ。

「それで? なんて呼べばいいかな」
「偽ユリスって呼んで」
「それはちょっと。てか君はそれでいいの?」

 微妙な顔をするオーガス兄様は、偽ユリス呼びに抵抗があるらしい。

「じゃあ俺のことをユリスって呼んで。あっちを本物ユリスって呼びなよ」
「それもちょっと」

 我儘ばかり言うオーガス兄様との会話は、進展がない。ブルース兄様を振り返れば、「偽とか本物とか、名前としてはダメだろ」とオーガス兄様と同意見らしい。

「じゃあ俺の名前考えて」

 かっこいい名前にしてね、と言い添えておけば、兄様たちが顔を見合わせる。

 そんな中、真っ先に手を挙げたのはアロンであった。

「俺が決めてもいいですか」
「ダメに決まっているだろう!」

 なぜか猛反対するオーガス兄様は、そのままアロンと睨み合いを始めてしまう。オーガス兄様は気弱のくせに、アロン相手だとちょっと果敢になるのはなんでだろうか。

「僕が決めてやろうか?」

 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる本物ユリスも、当てにはならない。こいつはこの騒動を楽しんでいる。絶対にろくな名前を考えてくれない。俺にはわかる。

 タイラーとジャンは黙ったままだ。先程合流したニックは、なんともいえない目で俺を見下ろしている。こいつが俺に失礼な目線を向けるのはいつものことだが、今日は特に酷い。「本物のユリス様じゃなかったってことですか? いやでも確かに。氷の花には似つかわしくないアホっぽい感じでしたし」とぶつぶつ俺の悪口を言っている。子分のくせに生意気である。

「もう猫には戻れないのか?」

 どちらが名付け親になるかで揉めるオーガス兄様とアロン。それにブルース兄様が参戦してカオスなことになっている。

 醜い言い争いを繰り広げる兄たちを横目に、本物ユリスにずっと気になっていたことを訊ねねば、「さぁ?」となんとも煮え切らない返事があった。

「足りない魔力が戻ったんだ。多分もう猫になる必要はないだろうな」
「俺の猫」

 せっかく手に入れた黒猫が居なくなってしまったことに、ショックを受ける。中身が激ヤバサイコパスだとしても、俺のペットには変わりなかったのに。

「もう一回猫になって」
「断る。というか戻り方がわからない」

 つんっとそっぽを向く本物ユリスは冷たい。

「ジャン。タイラー」

 沈黙を守っていたふたりに目を向けると、ちょっとだけ気まずそうな顔をしていた。

「新しい猫を探しに行こう」
「マジすか」

 ちょっと嫌そうな顔をするタイラーは、早くも普段通りである。「ちなみに、俺を花瓶でぶん殴ろうとしたのはどちらですか?」と訊ねてきたので、すかさず本物ユリスを指差しておく。

「こっち!」
「ふざけるな。あれは僕ではない」
「はぁ⁉︎」

 俺のせいにしようとしてくる本物ユリスに、拳を握りしめる。再び睨み合う俺らを見たタイラーが「あ、もう大丈夫です。だいたい想像はつきます」と慌てて止めに入ってくる。本当にわかってんのかよ、こいつ。
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