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223 どちらが上か
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結局、二階はダメと言われてしまった。主にお母様が猛反対した結果である。
いわく、二階に部屋を置いて、俺たちが誤って窓から落ちたら大変ということらしい。んな馬鹿な。何歳児だと思われているんだろう。過保護もここまで来るとすごいな。ユリスの部屋だけ一階に位置していたのもそれが理由らしい。
お母様のひと声で、ぴたりと口を閉じた本物ユリスは、微妙な顔をしていた。自分の主張は通したいが、お母様には強く言えないという複雑な思いが垣間見える。この激ヤバサイコパスに、母親相手に遠慮するというごく一般的な行動をとるだけの常識が備わっていることに驚きだ。
ユリスも母親相手には強く出られないんだな。これはいいことを知った。ニヤリと笑って本物ユリスを眺めていると、「なんだその顔は。調子に乗るんじゃない」と睨み付けられてしまった。双子なんだから。俺には優しく接しろ。
ブルース兄様は、お母様と共に今後どうするかを話し合っている。議題は主に、お父様とオーガス兄様にどう説明するかだ。
真剣に話し合うふたりを横目に、本物ユリスが「僕の言うことには従えよ。弟にしてやるから感謝しろ」と偉そうなことを言ってくる。いやいや。誰のせいで、俺がユリスに成り代わったと思っているんだ。そもそもは本物ユリスが変な魔導書に書かれていることをうっかりお試しなんてしてみたことが原因だろうが。なんでこの状況で威張れるのか。
「俺の方がお兄さんだから」
兄の立場は譲らないと仁王立ちすれば、本物ユリスが短く鼻で笑う。
「マーティーにも舐められているガキが。なにを偉そうに」
「なんだとぉ!」
そのマーティーは、現在疲れたと言って彼のために用意された客室で休んでいる。ガブリエルが側についているはずだ。
俺のことを小馬鹿にしてくる本物ユリスを黙らせようと、とりあえず後頭部を叩こうと手を伸ばす。けれども、それを察した本物ユリスによって、あっさりとかわされてしまった。
「避けるな!」
「いやいや。そんな丸わかりの攻撃、普通に避けるだろ」
はっ、と再び嘲笑する本物ユリスに、俺は両手を強く握りしめる。なんだこのクソ生意気なお子様は。非常に腹が立つ。
こうなったら、意地でも一発入れてやろうと躍起になる。気合いと共に、本物ユリスを追いかけ回せば、俺を嘲笑うかのように、本物ユリスが余裕の表情で逃げ回る。
「やめないか、こら」
バタバタと走り回る俺らを注意してくるブルース兄様は、俺に向けて「走るな」と鋭く声をかけた後、すぐさま本物ユリスに向き直って「子供を揶揄うんじゃない」と言い含めている。誰が子供だ。
「俺、じゃない。僕! 僕の方が大人なの!」
俺と口にした瞬間、お母様の眼光が鋭くなる。慌てて僕と言い直して、俺の方が大人である旨を声高に宣言しておく。油断すると、すぐにお子様扱いされてしまうからな。そうして、俺がひとり地道な努力をしていた時である。
お母様の部屋に来客があった。軽いノックにつられて、メイドさんっぽいお姉さんが静かにドアへと向かっていく。このお姉さんもなかなかの強者である。ユリスがふたり並ぶ場面を目撃しているにも関わらず、眉ひとつ動かさない。おそらくセドリックよりも無表情である。淡々と仕事をこなすタイプと見た。
キリッとした雰囲気を纏う敏腕メイドさんは、少し暗めの茶髪をハーフアップにした、上品なお姉さんである。音も立てずにドアを開け放ったメイドさんは、お客さんの顔を確認すると、くるりとこちらに向き直った。
「オーガス様がお見えです」
「通してちょうだい」
毅然と応じたお母様に、ブルース兄様が慌てる。
「ちょっと、兄上にこの惨状を見せるのはちょっと」
惨状ってなに。俺らのことか? 相変わらず失礼な兄である。しかし、お母様は動じない。ついでにメイドさんも動じない。
ガバリとこちらを振り向いたブルース兄様は、「いいか、おまえら。余計なことをするなよ」と強めに睨み付けてくる。安心して欲しい。特に余計なことをやる予定は、今のところない。
「大丈夫。私に任せてちょうだい」
背筋を伸ばすお母様には、変な迫力があった。なんだか、すごく頼もしかった。ブルース兄様も同様に考えたのだろう。「お願いします」と身を引いた。
かくして。
メイドさんが、オーガス兄様を中に招き入れる。どうやら騒ぎを聞きつけて、やって来たらしい。ビビリのオーガス兄様にしては、珍しく積極的な行動である。
「何かあったんですか? みんなここに居ると聞いたのですが」
呑気に入室してくるオーガス兄様は、のほほんと室内に目をやって、次の瞬間、ピシリと固まった。ほんと、今日はみんなよく固まるな。
みるみると顔色を悪くするオーガス兄様が、口を開く前に。お母様が一歩、前に出た。
「あら、オーガス。どうしたのかしら」
「ど? え、は?」
俺と本物ユリスを見比べて、ごしごし目を擦るオーガス兄様は、すごく混乱しているようだった。しまいには「え? 目の錯覚?」と、とぼけた呟きを発している。
「あら。なにか問題でも?」
そんなオーガス兄様相手に、余裕の笑みをたたえたお母様は強い。
「ユリス、だよね?」
おそるおそる発せられた問いに、お母様が「えぇ、そうよ」と頷く。
「え、ど、どっちが? てか、もう片方は一体?」
呆然と立ち尽くすオーガス兄様は、とても困っているようだった。
いわく、二階に部屋を置いて、俺たちが誤って窓から落ちたら大変ということらしい。んな馬鹿な。何歳児だと思われているんだろう。過保護もここまで来るとすごいな。ユリスの部屋だけ一階に位置していたのもそれが理由らしい。
お母様のひと声で、ぴたりと口を閉じた本物ユリスは、微妙な顔をしていた。自分の主張は通したいが、お母様には強く言えないという複雑な思いが垣間見える。この激ヤバサイコパスに、母親相手に遠慮するというごく一般的な行動をとるだけの常識が備わっていることに驚きだ。
ユリスも母親相手には強く出られないんだな。これはいいことを知った。ニヤリと笑って本物ユリスを眺めていると、「なんだその顔は。調子に乗るんじゃない」と睨み付けられてしまった。双子なんだから。俺には優しく接しろ。
ブルース兄様は、お母様と共に今後どうするかを話し合っている。議題は主に、お父様とオーガス兄様にどう説明するかだ。
真剣に話し合うふたりを横目に、本物ユリスが「僕の言うことには従えよ。弟にしてやるから感謝しろ」と偉そうなことを言ってくる。いやいや。誰のせいで、俺がユリスに成り代わったと思っているんだ。そもそもは本物ユリスが変な魔導書に書かれていることをうっかりお試しなんてしてみたことが原因だろうが。なんでこの状況で威張れるのか。
「俺の方がお兄さんだから」
兄の立場は譲らないと仁王立ちすれば、本物ユリスが短く鼻で笑う。
「マーティーにも舐められているガキが。なにを偉そうに」
「なんだとぉ!」
そのマーティーは、現在疲れたと言って彼のために用意された客室で休んでいる。ガブリエルが側についているはずだ。
俺のことを小馬鹿にしてくる本物ユリスを黙らせようと、とりあえず後頭部を叩こうと手を伸ばす。けれども、それを察した本物ユリスによって、あっさりとかわされてしまった。
「避けるな!」
「いやいや。そんな丸わかりの攻撃、普通に避けるだろ」
はっ、と再び嘲笑する本物ユリスに、俺は両手を強く握りしめる。なんだこのクソ生意気なお子様は。非常に腹が立つ。
こうなったら、意地でも一発入れてやろうと躍起になる。気合いと共に、本物ユリスを追いかけ回せば、俺を嘲笑うかのように、本物ユリスが余裕の表情で逃げ回る。
「やめないか、こら」
バタバタと走り回る俺らを注意してくるブルース兄様は、俺に向けて「走るな」と鋭く声をかけた後、すぐさま本物ユリスに向き直って「子供を揶揄うんじゃない」と言い含めている。誰が子供だ。
「俺、じゃない。僕! 僕の方が大人なの!」
俺と口にした瞬間、お母様の眼光が鋭くなる。慌てて僕と言い直して、俺の方が大人である旨を声高に宣言しておく。油断すると、すぐにお子様扱いされてしまうからな。そうして、俺がひとり地道な努力をしていた時である。
お母様の部屋に来客があった。軽いノックにつられて、メイドさんっぽいお姉さんが静かにドアへと向かっていく。このお姉さんもなかなかの強者である。ユリスがふたり並ぶ場面を目撃しているにも関わらず、眉ひとつ動かさない。おそらくセドリックよりも無表情である。淡々と仕事をこなすタイプと見た。
キリッとした雰囲気を纏う敏腕メイドさんは、少し暗めの茶髪をハーフアップにした、上品なお姉さんである。音も立てずにドアを開け放ったメイドさんは、お客さんの顔を確認すると、くるりとこちらに向き直った。
「オーガス様がお見えです」
「通してちょうだい」
毅然と応じたお母様に、ブルース兄様が慌てる。
「ちょっと、兄上にこの惨状を見せるのはちょっと」
惨状ってなに。俺らのことか? 相変わらず失礼な兄である。しかし、お母様は動じない。ついでにメイドさんも動じない。
ガバリとこちらを振り向いたブルース兄様は、「いいか、おまえら。余計なことをするなよ」と強めに睨み付けてくる。安心して欲しい。特に余計なことをやる予定は、今のところない。
「大丈夫。私に任せてちょうだい」
背筋を伸ばすお母様には、変な迫力があった。なんだか、すごく頼もしかった。ブルース兄様も同様に考えたのだろう。「お願いします」と身を引いた。
かくして。
メイドさんが、オーガス兄様を中に招き入れる。どうやら騒ぎを聞きつけて、やって来たらしい。ビビリのオーガス兄様にしては、珍しく積極的な行動である。
「何かあったんですか? みんなここに居ると聞いたのですが」
呑気に入室してくるオーガス兄様は、のほほんと室内に目をやって、次の瞬間、ピシリと固まった。ほんと、今日はみんなよく固まるな。
みるみると顔色を悪くするオーガス兄様が、口を開く前に。お母様が一歩、前に出た。
「あら、オーガス。どうしたのかしら」
「ど? え、は?」
俺と本物ユリスを見比べて、ごしごし目を擦るオーガス兄様は、すごく混乱しているようだった。しまいには「え? 目の錯覚?」と、とぼけた呟きを発している。
「あら。なにか問題でも?」
そんなオーガス兄様相手に、余裕の笑みをたたえたお母様は強い。
「ユリス、だよね?」
おそるおそる発せられた問いに、お母様が「えぇ、そうよ」と頷く。
「え、ど、どっちが? てか、もう片方は一体?」
呆然と立ち尽くすオーガス兄様は、とても困っているようだった。
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