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221 笑うところだろ
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「ということで、まさかこっちの馬鹿を放り出すわけにもいかないだろ。今日からは双子ということでいくから、頼んだぞ」
「なんちゅう頼みだよ」
本物ユリスの言葉に「無理」と天井を見上げるブルース兄様は、顔を覆ってしまう。まさか弟が突然双子になるとは予想していなかったらしい。そりゃそうか。
だが、ブルース兄様は物分かりがいい方だと思う。こんな突拍子もない話を最後まで聞いてくれるなんて。流石ブルース兄様である。これがオーガス兄様なら、なんかすげぇ大騒ぎして話を最後まで聞いてくれない気がする。
大きくため息をついた兄様は、俺に目を向ける。
「……まぁ、どっちもユリスであることに変わりはない。どっちも俺の弟だ」
はぁっと息を吐いた兄様は、タイラーにアロンを呼んでくるよう言いつけている。
てか、今この人、さらっと俺のことを弟って言ったな。マジかよ。確かにここ最近はずっと俺がユリスをやっていたが、ブルース兄様と俺はまったくの他人である。単に俺がユリスのフリをしていただけ。にも関わらず、俺のことをきちんと弟と言ってくれたブルース兄様に、俺は目を瞬く。
「……ブルース兄様、優しいね」
とりあえず感動した旨をお伝えしておけば、「おまえ、俺の弟をやるからにはちゃんと勉強しろよ」と嫌な返事があった。今、勉強は関係ないだろが。
だがブルース兄様の言葉にホッとしたのは事実である。正直、ユリスに成り代わっていた怪しい奴として、この家を追い出されてもおかしくはない。それにヴィアン家の三男が突然双子になるなんてとんでも事態を危惧するあまり、俺の存在ごと消されてもおかしくはない場面である。ブルース兄様が寛容でよかった。
「ありがとう、ブルース兄様。お礼にでっかいケーキを分けてあげる」
「さっきからなんだ。そのでっかいケーキとやらは」
眉を寄せるブルース兄様に、俺は簡単に本物ユリスが人間に戻ったお祝いをするのだと教える。「まぁ、確かにめでたいが」と変な顔をする兄様は、「それは今日じゃないとダメなのか? 兄上や父上たちにも説明して回らなければならない。今日は忙しい」と文句を言ってくる。それはそれ、これはこれである。ケーキ食べるだけだから大丈夫。
「とりあえず、兄上に説明、いや。兄上は後回しだな。先に母上のところに行くぞ」
どうやらオーガス兄様の面倒な性格を思い出したらしいブルース兄様は、先にお母様に説明に行くと言い出す。お母様はどうだろうか。でもあの人、ユリスのことを猫可愛がりしている。そんな可愛い息子が突然増えたらどうなるのか。ちょっと想像できない。
とりあえず、部屋の隅で気配を消そうと努力しているマーティーの手を握っておく。
「なんのつもりだ」
「俺、双子になっちゃった!」
「聞いていた。よかったな」
「うん」
にこにこ笑っていると、「なんの用ですか? タイラーが訳わからんこと言うんですけど」と間延びした声と共に、アロンがひょっこり顔を覗かせる。
「アロン!」
片手を上げて挨拶すれば、室内を一瞥した彼が、ぴたりと動きを止める。みんな、今日はよく固まるな。
「……ユリス様が増えている」
呆然と呟いたアロンだが、すぐにブルース兄様に視線を向けて、兄様が特に警戒していないことを悟ると、「え、なんですかこれ」と緩く問いかけてくる。
どうやら部屋の状況から、危険な場面ではないと判断したらしい。咄嗟の判断力がすごい。
ズカズカと大股でこちらに寄ってきたアロンは、マーティーと手を繋ぐ俺を見て、露骨に嫌そうな顔をした。そのまま無言で俺とマーティーの手を離しにくる。
なにをする! と抗議すれば、「俺の前で他の男と手を繋がないでもらえます?」とわけわからんことを言われてしまった。
いや、それよりも。
「俺のことわかるの?」
「ユリス様ですよね?」
正確には違うけど。でもアロンがいつもユリス扱いしていたのは俺である。よくわかったな、と感心すれば「表情と動きがまったく違うので」との答えがあった。そんなに違うかな?
「もっと驚かないの?」
「驚いていますよ。でも驚きを顔に出しても意味ないですし。てか、びっくりし過ぎてどう反応すればいいのかわからない、というのが正直なところですね」
「ほーん」
よくわからん。
そんなやけに落ち着いたアロンに対して、ブルース兄様が「おまえは変なところで冷静だな」と頬を引き攣らせている。その顔は、明らかに引いていた。
そのまま事の顛末を説明し始める兄様は、俺と本物ユリスに説明係を任せると時間がかかると判断したらしい。馬鹿にするんじゃない。
「……つまり、そちらの大人びたユリス様が本物のユリス様。こちらのいつものユリス様が、えっと、偽? みたいな感じですか」
「そうそう」
非常に物分かりのよろしいアロンに、うんうん頷いておく。あっさりと受け入れたアロンは、「あなたが誰であろうと、俺があなたを愛していることに変わりはありませんよ」と恋愛ドラマみたいな甘ったるいセリフを吐き始める。急にどうしたよ。
きっとあまりの事態に混乱しているのだろう。そうに違いないと結論付けて、ははっと笑っておく。笑うところではありませんよ、とアロンがムスッとする。そうなの? どう考えても笑うところだろ。
「なんちゅう頼みだよ」
本物ユリスの言葉に「無理」と天井を見上げるブルース兄様は、顔を覆ってしまう。まさか弟が突然双子になるとは予想していなかったらしい。そりゃそうか。
だが、ブルース兄様は物分かりがいい方だと思う。こんな突拍子もない話を最後まで聞いてくれるなんて。流石ブルース兄様である。これがオーガス兄様なら、なんかすげぇ大騒ぎして話を最後まで聞いてくれない気がする。
大きくため息をついた兄様は、俺に目を向ける。
「……まぁ、どっちもユリスであることに変わりはない。どっちも俺の弟だ」
はぁっと息を吐いた兄様は、タイラーにアロンを呼んでくるよう言いつけている。
てか、今この人、さらっと俺のことを弟って言ったな。マジかよ。確かにここ最近はずっと俺がユリスをやっていたが、ブルース兄様と俺はまったくの他人である。単に俺がユリスのフリをしていただけ。にも関わらず、俺のことをきちんと弟と言ってくれたブルース兄様に、俺は目を瞬く。
「……ブルース兄様、優しいね」
とりあえず感動した旨をお伝えしておけば、「おまえ、俺の弟をやるからにはちゃんと勉強しろよ」と嫌な返事があった。今、勉強は関係ないだろが。
だがブルース兄様の言葉にホッとしたのは事実である。正直、ユリスに成り代わっていた怪しい奴として、この家を追い出されてもおかしくはない。それにヴィアン家の三男が突然双子になるなんてとんでも事態を危惧するあまり、俺の存在ごと消されてもおかしくはない場面である。ブルース兄様が寛容でよかった。
「ありがとう、ブルース兄様。お礼にでっかいケーキを分けてあげる」
「さっきからなんだ。そのでっかいケーキとやらは」
眉を寄せるブルース兄様に、俺は簡単に本物ユリスが人間に戻ったお祝いをするのだと教える。「まぁ、確かにめでたいが」と変な顔をする兄様は、「それは今日じゃないとダメなのか? 兄上や父上たちにも説明して回らなければならない。今日は忙しい」と文句を言ってくる。それはそれ、これはこれである。ケーキ食べるだけだから大丈夫。
「とりあえず、兄上に説明、いや。兄上は後回しだな。先に母上のところに行くぞ」
どうやらオーガス兄様の面倒な性格を思い出したらしいブルース兄様は、先にお母様に説明に行くと言い出す。お母様はどうだろうか。でもあの人、ユリスのことを猫可愛がりしている。そんな可愛い息子が突然増えたらどうなるのか。ちょっと想像できない。
とりあえず、部屋の隅で気配を消そうと努力しているマーティーの手を握っておく。
「なんのつもりだ」
「俺、双子になっちゃった!」
「聞いていた。よかったな」
「うん」
にこにこ笑っていると、「なんの用ですか? タイラーが訳わからんこと言うんですけど」と間延びした声と共に、アロンがひょっこり顔を覗かせる。
「アロン!」
片手を上げて挨拶すれば、室内を一瞥した彼が、ぴたりと動きを止める。みんな、今日はよく固まるな。
「……ユリス様が増えている」
呆然と呟いたアロンだが、すぐにブルース兄様に視線を向けて、兄様が特に警戒していないことを悟ると、「え、なんですかこれ」と緩く問いかけてくる。
どうやら部屋の状況から、危険な場面ではないと判断したらしい。咄嗟の判断力がすごい。
ズカズカと大股でこちらに寄ってきたアロンは、マーティーと手を繋ぐ俺を見て、露骨に嫌そうな顔をした。そのまま無言で俺とマーティーの手を離しにくる。
なにをする! と抗議すれば、「俺の前で他の男と手を繋がないでもらえます?」とわけわからんことを言われてしまった。
いや、それよりも。
「俺のことわかるの?」
「ユリス様ですよね?」
正確には違うけど。でもアロンがいつもユリス扱いしていたのは俺である。よくわかったな、と感心すれば「表情と動きがまったく違うので」との答えがあった。そんなに違うかな?
「もっと驚かないの?」
「驚いていますよ。でも驚きを顔に出しても意味ないですし。てか、びっくりし過ぎてどう反応すればいいのかわからない、というのが正直なところですね」
「ほーん」
よくわからん。
そんなやけに落ち着いたアロンに対して、ブルース兄様が「おまえは変なところで冷静だな」と頬を引き攣らせている。その顔は、明らかに引いていた。
そのまま事の顛末を説明し始める兄様は、俺と本物ユリスに説明係を任せると時間がかかると判断したらしい。馬鹿にするんじゃない。
「……つまり、そちらの大人びたユリス様が本物のユリス様。こちらのいつものユリス様が、えっと、偽? みたいな感じですか」
「そうそう」
非常に物分かりのよろしいアロンに、うんうん頷いておく。あっさりと受け入れたアロンは、「あなたが誰であろうと、俺があなたを愛していることに変わりはありませんよ」と恋愛ドラマみたいな甘ったるいセリフを吐き始める。急にどうしたよ。
きっとあまりの事態に混乱しているのだろう。そうに違いないと結論付けて、ははっと笑っておく。笑うところではありませんよ、とアロンがムスッとする。そうなの? どう考えても笑うところだろ。
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