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215 やればできる
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「……マーティー。いつまでここに居るんだ」
「いつまでって。おまえが遊びにこいと言ったんだろ」
言ったかな。
魔導書持ってこいとは言ったが、お泊まりしようとは言ってない気がする。まったく帰る気配のないマーティーは、今夜も俺の部屋で寝るつもりらしい。一応、オーガス兄様に確認しておけば、「だからいいよって。なんで毎日確認に来るの?」と困惑されてしまった。
みんな引き上げてしまって、部屋には俺とマーティー。それに黒猫ユリスだけになってしまう。
セドリックにとってきてもらった魔石を左手に握りしめて、右手で床に落ちている黒猫を引っ張る。
『やめろ。触るな』
「ねえ! この魔石でどうにかして人間に戻ってみて」
『無茶言うな。なんだその丸投げ』
ひょいっと俺の手を避けた黒猫ユリスは、そのままベッドまで走って行く。そしてついでのようにマーティーに猫パンチをしている。ビビるマーティーは、びくりと大きく肩を揺らしている。
「マーティー。この魔石でどうにかして猫を戻して」
「どうにかってなんだ」
お子様マーティーは、どうにもできないと早くも諦めている。やってみないとわからないでしょうが。俺だって異世界に来たり、猫と入れ替わったり色々やっている。猫を人間に戻すこともできる気がする。
きらきらの魔石を睨み付ける。
マーティーたちは、これの使い道がわからないと主張している。だが魔法が存在する世界で、魔力を込めた石だぞ。単なる装飾品で終わるわけがないと思う。
「とりあえずやってみよう。やるぞ! 猫!」
『だからうるさい』
魔導書を棚から引っ張り出して、ベッドの上に広げる。すかさずマーティーが横から覗き込んでくる。
「お子様は読めないだろ。あっちに行ってろ」
「おまえも読めないだろ」
はよはよと黒猫をベッドに呼ぶ。のそのそと歩いてきた黒猫ユリスは、ペタンと魔導書の上に座り込んでしまう。そこに座ったら読めないだろ。退けよ。
ぐいっと黒猫を押して、魔導書を引き寄せる。それらしきページを探すが、マジで意味不明過ぎて理解できない。
「どれ? どれ試す?」
「そんな軽いノリで決めるな」
いちいち文句を言ってくるマーティーは、面倒なお子様だ。適当にパラパラしていると、黒猫ユリスが『おまえは、それでいいのか?』と、唐突に質問してくる。
「なにが?」
『だから。僕を人間に戻したいんだろ? 戻っていいのか?』
「いいんじゃない?」
なにかダメなの?
なぜか猫になってしまった本物ユリスが、人間に戻れたら全部丸くおさまる。悪いことなんてなくない?
首を捻れば、黒猫ユリスがさらに言葉を続ける。
『僕が戻ったら、おまえはどうする?』
「どうする?」
『おまえは今でこそ僕の代わりとしてここに居るが。僕が戻ったらどうするんだ』
「どう? どうするんだろ」
『おい』
どうするって言われてもな。そんなの今考えてもどうしようもないだろ。そもそも、どうなるかもわからないのに。その後のこととか知らんがな。
「あとで考える」
『馬鹿なのか? 先のことを考えられない馬鹿なのか?』
ひたすらに俺のことを罵倒してくる黒猫をもふもふしてやる。ついでに肉球にも触っておく。
「ユリスはなんだって?」
猫の言葉が理解できないマーティーが、不思議そうな顔をしている。
「別に。戻ったらなにするかって話」
「はぁ」
気の抜けた返事をするマーティー、そして不満そうな黒猫ユリスを順番に見て、俺は大きく頷いた。
「よし! どうにかして猫を戻すぞ!」
気合いを入れて拳を突き上げれば、部屋がしんと静まり返る。なんでだよ。ここは頑張るぞって一緒に拳を突き上げるところだよ。空気読めよな、お子様共が。
※※※
「とりあえずこれを試してみる。猫、読んで」
『全部僕に丸投げじゃないか』
嫌そうにちょっと身を引いた黒猫ユリスは、『そっちじゃなくてこっちだ』と隣のページをさしてくる。マーティーと一緒になって覗き込めば、『おそらくこれが最適だな』と偉そうに鼻を鳴らす。
「これがいいってさ。マーティー」
「そうなのか?」
黒猫ユリスの指示を伝えれば、マーティーは変な顔をする。
「おまえ、ちゃんとユリスの言葉をそのまま僕に伝えているか?」
「伝えてますけど?」
「通訳の質が不安なんだが」
突然、俺を疑い始めるマーティーの頭を勢いよく叩いておく。「すぐに手を出すんじゃない!」と偉そうに説教してくるので、もう一発叩いておく。マーティーは文句ばかりで使えない。相手にするだけ時間の無駄である。
「ほら、読んで」
今度は黒猫ユリスの背中をぺしぺし叩いておく。深くため息を吐いた黒猫は、『本当にいいのか?』と変な念押しをしてくる。どうやら俺に諦めさせたいらしい。だが、諦める理由は特に見当たらない。
これからのことをよく考えろと黒猫ユリスは言うが、考えても仕方ないだろ。だってなにがどうなるかわかんないし。
魔石だって、思った通りに上手く使えるのかわからない。だからとりあえず、思いついたらなんでもやってみるべきだ。意外とやればできるかもしれないからな。
「いつまでって。おまえが遊びにこいと言ったんだろ」
言ったかな。
魔導書持ってこいとは言ったが、お泊まりしようとは言ってない気がする。まったく帰る気配のないマーティーは、今夜も俺の部屋で寝るつもりらしい。一応、オーガス兄様に確認しておけば、「だからいいよって。なんで毎日確認に来るの?」と困惑されてしまった。
みんな引き上げてしまって、部屋には俺とマーティー。それに黒猫ユリスだけになってしまう。
セドリックにとってきてもらった魔石を左手に握りしめて、右手で床に落ちている黒猫を引っ張る。
『やめろ。触るな』
「ねえ! この魔石でどうにかして人間に戻ってみて」
『無茶言うな。なんだその丸投げ』
ひょいっと俺の手を避けた黒猫ユリスは、そのままベッドまで走って行く。そしてついでのようにマーティーに猫パンチをしている。ビビるマーティーは、びくりと大きく肩を揺らしている。
「マーティー。この魔石でどうにかして猫を戻して」
「どうにかってなんだ」
お子様マーティーは、どうにもできないと早くも諦めている。やってみないとわからないでしょうが。俺だって異世界に来たり、猫と入れ替わったり色々やっている。猫を人間に戻すこともできる気がする。
きらきらの魔石を睨み付ける。
マーティーたちは、これの使い道がわからないと主張している。だが魔法が存在する世界で、魔力を込めた石だぞ。単なる装飾品で終わるわけがないと思う。
「とりあえずやってみよう。やるぞ! 猫!」
『だからうるさい』
魔導書を棚から引っ張り出して、ベッドの上に広げる。すかさずマーティーが横から覗き込んでくる。
「お子様は読めないだろ。あっちに行ってろ」
「おまえも読めないだろ」
はよはよと黒猫をベッドに呼ぶ。のそのそと歩いてきた黒猫ユリスは、ペタンと魔導書の上に座り込んでしまう。そこに座ったら読めないだろ。退けよ。
ぐいっと黒猫を押して、魔導書を引き寄せる。それらしきページを探すが、マジで意味不明過ぎて理解できない。
「どれ? どれ試す?」
「そんな軽いノリで決めるな」
いちいち文句を言ってくるマーティーは、面倒なお子様だ。適当にパラパラしていると、黒猫ユリスが『おまえは、それでいいのか?』と、唐突に質問してくる。
「なにが?」
『だから。僕を人間に戻したいんだろ? 戻っていいのか?』
「いいんじゃない?」
なにかダメなの?
なぜか猫になってしまった本物ユリスが、人間に戻れたら全部丸くおさまる。悪いことなんてなくない?
首を捻れば、黒猫ユリスがさらに言葉を続ける。
『僕が戻ったら、おまえはどうする?』
「どうする?」
『おまえは今でこそ僕の代わりとしてここに居るが。僕が戻ったらどうするんだ』
「どう? どうするんだろ」
『おい』
どうするって言われてもな。そんなの今考えてもどうしようもないだろ。そもそも、どうなるかもわからないのに。その後のこととか知らんがな。
「あとで考える」
『馬鹿なのか? 先のことを考えられない馬鹿なのか?』
ひたすらに俺のことを罵倒してくる黒猫をもふもふしてやる。ついでに肉球にも触っておく。
「ユリスはなんだって?」
猫の言葉が理解できないマーティーが、不思議そうな顔をしている。
「別に。戻ったらなにするかって話」
「はぁ」
気の抜けた返事をするマーティー、そして不満そうな黒猫ユリスを順番に見て、俺は大きく頷いた。
「よし! どうにかして猫を戻すぞ!」
気合いを入れて拳を突き上げれば、部屋がしんと静まり返る。なんでだよ。ここは頑張るぞって一緒に拳を突き上げるところだよ。空気読めよな、お子様共が。
※※※
「とりあえずこれを試してみる。猫、読んで」
『全部僕に丸投げじゃないか』
嫌そうにちょっと身を引いた黒猫ユリスは、『そっちじゃなくてこっちだ』と隣のページをさしてくる。マーティーと一緒になって覗き込めば、『おそらくこれが最適だな』と偉そうに鼻を鳴らす。
「これがいいってさ。マーティー」
「そうなのか?」
黒猫ユリスの指示を伝えれば、マーティーは変な顔をする。
「おまえ、ちゃんとユリスの言葉をそのまま僕に伝えているか?」
「伝えてますけど?」
「通訳の質が不安なんだが」
突然、俺を疑い始めるマーティーの頭を勢いよく叩いておく。「すぐに手を出すんじゃない!」と偉そうに説教してくるので、もう一発叩いておく。マーティーは文句ばかりで使えない。相手にするだけ時間の無駄である。
「ほら、読んで」
今度は黒猫ユリスの背中をぺしぺし叩いておく。深くため息を吐いた黒猫は、『本当にいいのか?』と変な念押しをしてくる。どうやら俺に諦めさせたいらしい。だが、諦める理由は特に見当たらない。
これからのことをよく考えろと黒猫ユリスは言うが、考えても仕方ないだろ。だってなにがどうなるかわかんないし。
魔石だって、思った通りに上手く使えるのかわからない。だからとりあえず、思いついたらなんでもやってみるべきだ。意外とやればできるかもしれないからな。
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