冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
222 / 656

211 魔石ゲットしたい

しおりを挟む
「とりあえず、やってみたい。魔法。猫を元に戻す」
「いや、だから。そんな簡単な話ではないって」

 俺を宥めるかのように眉を寄せるマーティーは、大きく欠伸をする。もう夜中である。だが更けていく夜とは対照的に、俺はすっかり目が冴えていた。

 だってこんな楽しいこと、滅多にないぞ。

 猫を元に戻そうと主張するのだが、マーティーと黒猫ユリスは乗り気ではない。面倒くさそうに顔を見合わせている。

「もう寝てもいいか? 流石に眠い」
「確かに。ベイビーは寝る時間だな」
「ベイビーはおまえの方だろ」
「なんだと! もう一回言ってみろ!」
「うるさい」

 軽くあしらってベッドに潜るマーティーは、本当に寝るつもりらしい。まだ話は終わってないのに。

『おまえも寝ろ』

 そんなことを言って、黒猫ユリスも丸くなる。「眠くない! 眠れない!」と主張しておくが、誰も反応してくれない。いくらなんでも無視は酷い。人としてどうなんだ。腹いせにマーティーの頭を小突いておく。「やめろ」と小さく抗議をしたマーティーは、目を開けることすらしない。ちくしょう。


※※※


「……おい、朝だぞ」

 ゆさゆさと体を遠慮なしに揺さぶられて、目を擦る。むにゃむにゃしながら体を起こすと、「遅くまで起きているからだぞ」となにやらお兄さんぶったマーティーの声が聞こえた。

 ふわぁっと欠伸して、ベッドの中を確認する。丸くなる黒猫を発見したので、引っ張り出しておく。『寒い』と文句が聞こえてきたが、知らんふりをした。

「おはようございます、ユリス様」
「おはよう、ジャン」

 いつの間にか顔を見せていたジャンに挨拶をしておく。そうしてきょろきょろした俺は、部屋の本棚をぼけっと眺めているセドリックが居ることに気がついた。

「セドリック!」

 とりあえず大声で呼んでおけば、振り向いた彼が「お久しぶりです」と一礼してくる。そういえば、昨日タイラーがお休み欲しいと言っていたな。代わりにセドリックが来るとも。

 いつの間にか、すっかり着替えて身支度を整えていたマーティーを横目に、俺ももそもそと着替える。

「もうちょいはやく起こしてよ」

 なんで自分だけ準備バッチリなんだ。マーティーに文句を言っておけば、「何度も起こしたさ。おまえが起きなかったんだろ」との苦情があった。そうなの? 記憶にない。

「セドリック! 今日は一緒に遊ぼうね」
「……私のことはお気になさらず」

 一瞬嫌な顔をしたセドリックは、冷たい反応だ。だが彼の無表情無関心はいつものことだ。気にしていたらきりがない。

 マーティーと一緒に朝食を食べて、早速庭に出ようと提案してみる。渋るマーティーであったが、ガブリエルの困ったような顔を見て意見を翻した。

「まぁ、子供と遊んでやるのも大人の勤めだな」
「違う。俺がマーティーと遊んでやっているんだ」

 慌てて訂正するが、マーティーはなんだか小馬鹿にするような視線を向けてくる。クソ失礼なお子様である。

 そうして庭に出た俺らであったが、マーティーははやくも室内に戻りたい様子であった。寒いと言いながら両手を擦り合わせてアピールしてくる。

 黒猫ユリスも一緒である。マフラーでぐるぐる巻きにしてジャンに持たせている。『僕は必要ないだろ』とぐちぐち言っている。

 そうして存分に庭を駆け回った俺は、ピンときた。昨夜は魔力が足りなくて黒猫ユリスを元に戻せない的な小難しい話をしていた。では、足りない魔力を補えば、黒猫ユリスを元に戻せるのでは?

 そして魔力と言われて思い浮かぶものがある。

「魔石取りに行こう!」
「……は?」

 そうだよ。魔石があるのだ。それもオーガス兄様とブルース兄様が、相当珍しい魔石だと言っていた。なんかお高そうな石だった。あれがあれば、どうにかなるのでは?

 勢い込んで宣言すれば、マーティーが「魔石……?」と首を捻る。そういやこいつは湖の件は知らなかったな。マーティーの手を引っ張って、魔石について教えてやる。オーガス兄様が本物ユリスにあげたのだが、苛立ったユリスが湖に投げ捨てた件だ。「なんでそんな酷いことをするんだ」と若干引いている。だよな。やること酷すぎるよな。

「魔石ゲットしに行くぞ!」
「はぁ」

 気の抜けた返事をするマーティーは、あてになりそうにない。黒猫ユリスに目を向けると、『それは、どうなんだ』との微妙な返事があった。

 どうなんだってなに?

『確かに魔力は込められてはいるが、使い方がよくわからん』
「そうなの?」

 でもティアンもそんなこと言ってたな。でも現物がないことには考えても仕方がないと思う。とりあえず魔石取りに行こうと急かせば、マーティーが「どうやって?」と目を瞬く。

 どうやって?

「湖に潜ってとる」
「おまえ、潜れるのか?」
「……やればできる気がする」
「そんな無茶な」

 呆れたと言わんばかりのマーティー。ふむ。じゃあどうするか。視線を動かして黒猫ユリス、ジャンを視界におさめる。こいつらはちょっとあてにならない。そして次に視界に映ったセドリックに、俺はピンとくる。

「セドリック!」
「無茶です」
「セドリック!」
「ユリス様。森はダメです」
「セドリック!」
「……」

 ぴたりと口を閉じたセドリックは、微かにではあるが口元を引き攣らせている。基本、何事にも無関心な彼であるが、俺もしつこさには自信があるぞ。ひたすら名前を連呼しておけば、逃れられないと悟ったらしいセドリックが、ガブリエルに目を向けた。

 だが、固まる年若い彼は、さっと視線を逸らす。

「あの、ユリス様」
「セドリック! 魔石とって! 湖の中に落ちてるやつ。アロンはとってくれなかった」
「森の中は危険です」
「この間行ったじゃん。大丈夫。余計なことはしないからぁ!」

 お願いとしつこくセドリックのまわりをぐるぐる回れば、セドリックは遠い目をしていた。

「……では私がとってきます。ユリス様はお部屋でお待ちください」
「やったぁ!」

 ありがとう、セドリック。アロンとは大違いだ。
しおりを挟む
感想 474

あなたにおすすめの小説

なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません

めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。 家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。 しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。 調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。 だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。 煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!? /////////////////////////////// ※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。 ///////////////////////////////

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

物語なんかじゃない

mahiro
BL
あの日、俺は知った。 俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。 それから数百年後。 俺は転生し、ひとり旅に出ていた。 あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...