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210 難しい話
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魔導書を使ってどうにかしても、どうにかなるには時間がかかるらしい。本物ユリスも、魔導書を使ってよくわからない術みたいなものを使用したところ、数日経ってから猫になったらしい。
猫になるまでのその間に、魔導書をマーティーに預けていたようだ。なんかオーガス兄様が魔導書いつ貸してくれる? とうるさかったのが原因らしい。なんて奴だ。オーガス兄様が湖に潜ってとってきたのに。少しくらい見せてあげろよ。
だが、あの魔導書は本物である。下手にオーガス兄様に渡すと大変なことになるかもしれないからナイス判断だったのか?
「正確には、ユリスの魂が体から追い出されて、猫になったということだろ。そして空になった体に、この六歳児が入ったと」
「十六歳!」
クソ失礼なマーティーを、すかさず引っ叩いておく。「いてっ」と不満を口にするマーティーだが、泣くことはしない。こっちが年下だと決めつけて、一方的に大人ぶった振る舞いをしてくるのだ。試しに「泣いてみろ!」と言ってみるが、「静かにしろ。今何時だと思っている」と眉を顰めるだけで、泣かない。
今も、俺が通訳した黒猫ユリスの言葉をまとめて、ひとり頷いている。すごく大人ぶっている。ベイビーなのに。
「ということは、今度は逆にこいつの魂を体から出して、そこにユリスの魂を入れるということか? でもそうすると、こいつの魂はどこに行くんだ」
「俺、死ぬってこと⁉︎」
そんなの嫌だ! と主張すれば、「落ち着け。誰もそんなことは言っていない」とマーティーが困った顔をする。困っているのはこっちだが? 言い方は悪いが、この件に関してマーティーは部外者だろ。関係者は俺と黒猫ユリスだけだ。勝手にリーダーをやるんじゃないと睨んでやるが、マーティーは動じない。ベッドの上に胡座をかいて、偉そうに腕を組んでいる。
『それについてだが』
ぴたりと意味深なところで口を閉ざした黒猫ユリスは、微妙な顔をしていた。言うか言わないか迷っているようだ。
「なに?」
『おそらくだが、器の形を変えることはできると思う』
「器の形……?」
なにそれ。
きょとんとする俺とは対照的に、マーティーが「なるほど」と頷いている。なにがなるほどなんだ。
『そっちの方はいじらない方がいいと思うぞ。何かの拍子に魂が体から弾かれたら、うっかりで消滅しかねない。ほら、はやくマーティーに伝えろ』
急かしてくる黒猫ユリスは、俺抜きで話を進めたい感がすごい。俺のことを単なる通訳としか見ていない気がする。マーティーは部外者なのに。
仕方がないので、マーティーに通訳してやる。真剣に耳を傾けていたマーティーは、「確かにな」と納得している。
「要するに、何かやるとしてもユリスの方がいいということか」
『そうだ。だが上手くいかない。おそらく魔力が足りないんだと思う。僕の分はおそらくこの形になった際に全部使い切っている。魔力が足りずに体から弾かれたという可能性もある』
すらすらと小難しい話をする黒猫ユリス。ほとんど意味は理解できないままに、通訳に徹する。
「なんか、魔力足りないって」
「魔法に関しては、正直わからないことだらけだからな」
「そうなの?」
「あぁ」
短く肯定したマーティーは、「そういえば、おまえはこの世界の出身ではないんだっけ?」と詳しく説明してくれる。
いわく、あんまり役に立たない魔法について、積極的に使おうという人も少なければ、研究しようとする人も少ないらしい。俺が見た限りでも、この世界ではまだ科学もあまり発展していない。そのせいもあって、色々とわからないことが多いのだろう。
人が生まれつき魔力を持っていること。魔力の量は人によって多少の差はあるが、今のところ装飾品としての魔石をどれだけ綺麗に作り出せるか程度の違いしかないこと。どんなに魔力が多い人でも、綺麗な魔石を作れるくらいで、強力な魔法を使ったりはできないこと。ましてや、今のユリスのように、人が猫になったり、別世界の人間の魂を呼び出したりなんてお伽話レベルの話であって、現実味がないこと、など。
マーティーは、おおまかにこの世界について教えてくれる。それをふむふむ聞きながら、俺は考える。
確かに魔法は役に立たないとされている。だが、ユリスが拾った魔導書がある。かなり昔の物らしいが、魔法の使い方に関する記述がある。それってつまり、昔は今よりも魔法が盛んに使われていたということではないのか?
けれども、マーティーは「いや」と首を横に振る。
「今までの歴史で、魔法が台頭していたという事実はない。要するに昔から魔法の扱いは変わっていない。これはおそらく、どこかの個人がこっそり魔法について研究した代物なのだろう」
『そういやあの森。昔は神殿かなにかがあったと聞いたことがある』
「神殿? あの森、昔は神殿だってよ、マーティー」
神殿。つまり神様が居たってことか? 日本の神様って曖昧だが、この世界は魔法もある世界である。もしかしたら神獣的な、なんかこう、ザ・神様みたいな生き物が実在していてもおかしくはない。
わくわくする俺だが、マーティーは険しい顔だ。
「……おまえこれ、禁忌じゃないだろうな」
『さぁ? どうだろうな』
にやっと笑う黒猫は、悪い顔をしていた。
猫になるまでのその間に、魔導書をマーティーに預けていたようだ。なんかオーガス兄様が魔導書いつ貸してくれる? とうるさかったのが原因らしい。なんて奴だ。オーガス兄様が湖に潜ってとってきたのに。少しくらい見せてあげろよ。
だが、あの魔導書は本物である。下手にオーガス兄様に渡すと大変なことになるかもしれないからナイス判断だったのか?
「正確には、ユリスの魂が体から追い出されて、猫になったということだろ。そして空になった体に、この六歳児が入ったと」
「十六歳!」
クソ失礼なマーティーを、すかさず引っ叩いておく。「いてっ」と不満を口にするマーティーだが、泣くことはしない。こっちが年下だと決めつけて、一方的に大人ぶった振る舞いをしてくるのだ。試しに「泣いてみろ!」と言ってみるが、「静かにしろ。今何時だと思っている」と眉を顰めるだけで、泣かない。
今も、俺が通訳した黒猫ユリスの言葉をまとめて、ひとり頷いている。すごく大人ぶっている。ベイビーなのに。
「ということは、今度は逆にこいつの魂を体から出して、そこにユリスの魂を入れるということか? でもそうすると、こいつの魂はどこに行くんだ」
「俺、死ぬってこと⁉︎」
そんなの嫌だ! と主張すれば、「落ち着け。誰もそんなことは言っていない」とマーティーが困った顔をする。困っているのはこっちだが? 言い方は悪いが、この件に関してマーティーは部外者だろ。関係者は俺と黒猫ユリスだけだ。勝手にリーダーをやるんじゃないと睨んでやるが、マーティーは動じない。ベッドの上に胡座をかいて、偉そうに腕を組んでいる。
『それについてだが』
ぴたりと意味深なところで口を閉ざした黒猫ユリスは、微妙な顔をしていた。言うか言わないか迷っているようだ。
「なに?」
『おそらくだが、器の形を変えることはできると思う』
「器の形……?」
なにそれ。
きょとんとする俺とは対照的に、マーティーが「なるほど」と頷いている。なにがなるほどなんだ。
『そっちの方はいじらない方がいいと思うぞ。何かの拍子に魂が体から弾かれたら、うっかりで消滅しかねない。ほら、はやくマーティーに伝えろ』
急かしてくる黒猫ユリスは、俺抜きで話を進めたい感がすごい。俺のことを単なる通訳としか見ていない気がする。マーティーは部外者なのに。
仕方がないので、マーティーに通訳してやる。真剣に耳を傾けていたマーティーは、「確かにな」と納得している。
「要するに、何かやるとしてもユリスの方がいいということか」
『そうだ。だが上手くいかない。おそらく魔力が足りないんだと思う。僕の分はおそらくこの形になった際に全部使い切っている。魔力が足りずに体から弾かれたという可能性もある』
すらすらと小難しい話をする黒猫ユリス。ほとんど意味は理解できないままに、通訳に徹する。
「なんか、魔力足りないって」
「魔法に関しては、正直わからないことだらけだからな」
「そうなの?」
「あぁ」
短く肯定したマーティーは、「そういえば、おまえはこの世界の出身ではないんだっけ?」と詳しく説明してくれる。
いわく、あんまり役に立たない魔法について、積極的に使おうという人も少なければ、研究しようとする人も少ないらしい。俺が見た限りでも、この世界ではまだ科学もあまり発展していない。そのせいもあって、色々とわからないことが多いのだろう。
人が生まれつき魔力を持っていること。魔力の量は人によって多少の差はあるが、今のところ装飾品としての魔石をどれだけ綺麗に作り出せるか程度の違いしかないこと。どんなに魔力が多い人でも、綺麗な魔石を作れるくらいで、強力な魔法を使ったりはできないこと。ましてや、今のユリスのように、人が猫になったり、別世界の人間の魂を呼び出したりなんてお伽話レベルの話であって、現実味がないこと、など。
マーティーは、おおまかにこの世界について教えてくれる。それをふむふむ聞きながら、俺は考える。
確かに魔法は役に立たないとされている。だが、ユリスが拾った魔導書がある。かなり昔の物らしいが、魔法の使い方に関する記述がある。それってつまり、昔は今よりも魔法が盛んに使われていたということではないのか?
けれども、マーティーは「いや」と首を横に振る。
「今までの歴史で、魔法が台頭していたという事実はない。要するに昔から魔法の扱いは変わっていない。これはおそらく、どこかの個人がこっそり魔法について研究した代物なのだろう」
『そういやあの森。昔は神殿かなにかがあったと聞いたことがある』
「神殿? あの森、昔は神殿だってよ、マーティー」
神殿。つまり神様が居たってことか? 日本の神様って曖昧だが、この世界は魔法もある世界である。もしかしたら神獣的な、なんかこう、ザ・神様みたいな生き物が実在していてもおかしくはない。
わくわくする俺だが、マーティーは険しい顔だ。
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