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209 魔導書について
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『おまえ、猫になってどうするつもりなんだ』
「のんびりまったり暮らす」
『今と変わらないだろ』
「なんだと!」
自分は猫生活を満喫しているくせに、なんだその言い草は。
ベッドに寝転がって、マーティーと一緒に魔導書を覗き込む。真剣な顔のマーティーは、無意識かどうかは知らないが黒猫を撫でている。
「触るな! マーティー!」
とりあえず黒猫を取り返して、文句を言っておく。「ケチな奴だな」とマーティーが吐き捨てるが、おまえが図々しいだけだ。お泊まりさせてもらっている分際で偉そうにするんじゃない。
『これは相当古い魔導書だな。今ではほとんど使われていない魔法に関する記述がある』
「マーティー! これ魔法について書いてあるってよ」
「魔法なんて役に立たなくないか?」
「黙れ! マーティー!」
「……この六歳児、いちいちうるさいんだが」
「誰が六歳だ!」
スパンッとマーティーの後頭部を叩いておく。「やめろ!」と言い返してくるマーティーは生意気だ。お子様のくせに。『真面目に聞かないならもうやめるぞ』と黒猫ユリスが半眼になる。慌てて真剣に耳を傾ける。はよ、はよ、と急かせば、黒猫が短い前足で魔導書をペシペシ叩く。反射的にぎゅっと握って肉球を触れば、威嚇された。
「そんなのどこで手に入れたんだ」
「オーガス兄様がとってきたんだって!」
『裏の森にある湖に落ちてた』
どうやら本当に不思議な魔導書らしく、水の中に放置されていたわりには無事だったようだ。本を湖に投げたら、ふやけて破れそうなものだけどな。なんで無事なんだ。さすが魔導書。
『湖の中に石造りの古い小さな箱のような物があった。気になるから中を見てこいとオーガスに言ったんだ』
「オーガス兄様が可哀想」
あの人、本物ユリスにパシられてたんか。憐れだな。言い返せずに、渋々と湖に潜るオーガス兄様の姿が容易に想像できる。
『それで中にこれが入っていたというわけだ』
再び魔導書をペシペシする黒猫ユリスは、得意気である。オーガス兄様にとってきてもらっただけのくせに。
「で? なにこれ? 結局なにが書いてあるの?」
入手の経緯とかどうでもいい。はよ猫になる方法を教えろと黒猫をゆさゆさすれば、『やめろと言っている』とちょっと怒られてしまった。「ユリスはなんだって?」と首を捻るマーティー。特に重要なことは言ってないから大人しく待て。
『……言っておくが、猫になる方法なんて書いてないぞ?』
「嘘つきめ! 自分猫じゃん! なってるじゃん!」
突然とんでもない嘘をつく黒猫を、とりあえずもふもふしておく。「さっきからなんだ。声がデカいぞ」と苦言を呈してくるマーティーを大人しくさせておくのも大変だ。この場に居るのはベイビーばかりだ。一番年上の俺がしっかりしないと。
『猫というか。ここにある変な術みたいなものを試したんだ。そうしたらこうなった』
「どうなったの?」
『だから。僕がこの姿になって、おまえが僕になっていた』
「ふむふむ」
そんなよくわからん変な術を試すなよ。さすが本物ユリス。変な物をコレクションするだけはある。好奇心旺盛だ。
「だってよ、マーティー」
「いや、わからない」
「なんでだ。これだからベイビーは。ちゃんと猫の話聞いていたのか」
「いやだから。その猫の声とやらが、おまえ以外には聞こえないんだろ?」
そういやそうだったな。
改めて黒猫ユリスの言ったことを伝えてやる。要するに魔導書に書かれていたことを試したら大変なことになったという話だ。真面目に耳を傾けていたマーティーは、「なんでそんな得体の知れないものを試すんだ」と呆れている。
その表情にカチンときたのだろう。黒猫ユリスが、寝転ぶマーティーの頭に勢いのある猫パンチをしている。いいな。俺にもちょっとして欲しい。猫パンチ。
羨ましいなという目をマーティーに注いでいると、彼はこてりと首を傾げた。
「……それってつまり、その魔導書をうまく使えば、ユリスを元に戻すこともできるのでは?」
「……そうなのか?」
予想外の言葉に、目を瞬く。でも考えてみればそうかもしれない。
元に戻る。
それって具体的にどうなるの? 黒猫ユリスが本物ユリスに戻るってことだよな。俺は? 俺はどうなんの? 猫か、猫になるのか?
どういうことだとマーティーに詰め寄るが、「そ、そんなの知るわけないだろ」と逃げられてしまう。
「俺は? 俺はどうなるの?」
「もといたところに戻るのでは?」
もといたところってどこだよ。日本? 記憶ないのに? てか前世の俺ってどうなってんの? 死んでるのか? ど、どうなんのさ。
意味わからんくてフリーズする俺を、マーティーが怪訝な顔で見つめてくる。だが、考えても仕方がない。頭を振って、切り替えておく。
まぁ、どうにかなった時に考えればいいや。それより今は魔導書である。
「じゃあ黒猫ユリスを元に戻してみようよ!」
『人を実験台にするんじゃない』
苦い顔をする黒猫を無視して、早速計画を練る。どうやら黒猫ユリスは魔導書が読めるらしい。勉強嫌いじゃなかったのか、こいつ。だが変なコレクションを見るに、古い物や珍しい物が好きみたいだ。そういうことに関する知識は豊富なのかもしれない。
「で? どうすれば戻るの?」
『……何度か試したが、無理だった』
「ずるい! なんで俺抜きで勝手にやるんだ!」
『うるさい』
舌打ちした黒猫は、『時間が経てば戻ると思ったんだがな』と首を捻っている。
「時間?」
『あぁ。そもそも初めに術を試した時も効果が出るまでに変な時間差があった。それも数日とかだぞ』
そういえば、俺がユリスに成り代わったのも、なんか部屋で居眠りしている時だったな。目を開けたらユリスの部屋で、ジャンがいた。特に直前、怪しげな儀式的なことをしていた雰囲気はなかった。なるほど、時間差か。
「なんで?」
『いや、だから知らないと言っている』
「のんびりまったり暮らす」
『今と変わらないだろ』
「なんだと!」
自分は猫生活を満喫しているくせに、なんだその言い草は。
ベッドに寝転がって、マーティーと一緒に魔導書を覗き込む。真剣な顔のマーティーは、無意識かどうかは知らないが黒猫を撫でている。
「触るな! マーティー!」
とりあえず黒猫を取り返して、文句を言っておく。「ケチな奴だな」とマーティーが吐き捨てるが、おまえが図々しいだけだ。お泊まりさせてもらっている分際で偉そうにするんじゃない。
『これは相当古い魔導書だな。今ではほとんど使われていない魔法に関する記述がある』
「マーティー! これ魔法について書いてあるってよ」
「魔法なんて役に立たなくないか?」
「黙れ! マーティー!」
「……この六歳児、いちいちうるさいんだが」
「誰が六歳だ!」
スパンッとマーティーの後頭部を叩いておく。「やめろ!」と言い返してくるマーティーは生意気だ。お子様のくせに。『真面目に聞かないならもうやめるぞ』と黒猫ユリスが半眼になる。慌てて真剣に耳を傾ける。はよ、はよ、と急かせば、黒猫が短い前足で魔導書をペシペシ叩く。反射的にぎゅっと握って肉球を触れば、威嚇された。
「そんなのどこで手に入れたんだ」
「オーガス兄様がとってきたんだって!」
『裏の森にある湖に落ちてた』
どうやら本当に不思議な魔導書らしく、水の中に放置されていたわりには無事だったようだ。本を湖に投げたら、ふやけて破れそうなものだけどな。なんで無事なんだ。さすが魔導書。
『湖の中に石造りの古い小さな箱のような物があった。気になるから中を見てこいとオーガスに言ったんだ』
「オーガス兄様が可哀想」
あの人、本物ユリスにパシられてたんか。憐れだな。言い返せずに、渋々と湖に潜るオーガス兄様の姿が容易に想像できる。
『それで中にこれが入っていたというわけだ』
再び魔導書をペシペシする黒猫ユリスは、得意気である。オーガス兄様にとってきてもらっただけのくせに。
「で? なにこれ? 結局なにが書いてあるの?」
入手の経緯とかどうでもいい。はよ猫になる方法を教えろと黒猫をゆさゆさすれば、『やめろと言っている』とちょっと怒られてしまった。「ユリスはなんだって?」と首を捻るマーティー。特に重要なことは言ってないから大人しく待て。
『……言っておくが、猫になる方法なんて書いてないぞ?』
「嘘つきめ! 自分猫じゃん! なってるじゃん!」
突然とんでもない嘘をつく黒猫を、とりあえずもふもふしておく。「さっきからなんだ。声がデカいぞ」と苦言を呈してくるマーティーを大人しくさせておくのも大変だ。この場に居るのはベイビーばかりだ。一番年上の俺がしっかりしないと。
『猫というか。ここにある変な術みたいなものを試したんだ。そうしたらこうなった』
「どうなったの?」
『だから。僕がこの姿になって、おまえが僕になっていた』
「ふむふむ」
そんなよくわからん変な術を試すなよ。さすが本物ユリス。変な物をコレクションするだけはある。好奇心旺盛だ。
「だってよ、マーティー」
「いや、わからない」
「なんでだ。これだからベイビーは。ちゃんと猫の話聞いていたのか」
「いやだから。その猫の声とやらが、おまえ以外には聞こえないんだろ?」
そういやそうだったな。
改めて黒猫ユリスの言ったことを伝えてやる。要するに魔導書に書かれていたことを試したら大変なことになったという話だ。真面目に耳を傾けていたマーティーは、「なんでそんな得体の知れないものを試すんだ」と呆れている。
その表情にカチンときたのだろう。黒猫ユリスが、寝転ぶマーティーの頭に勢いのある猫パンチをしている。いいな。俺にもちょっとして欲しい。猫パンチ。
羨ましいなという目をマーティーに注いでいると、彼はこてりと首を傾げた。
「……それってつまり、その魔導書をうまく使えば、ユリスを元に戻すこともできるのでは?」
「……そうなのか?」
予想外の言葉に、目を瞬く。でも考えてみればそうかもしれない。
元に戻る。
それって具体的にどうなるの? 黒猫ユリスが本物ユリスに戻るってことだよな。俺は? 俺はどうなんの? 猫か、猫になるのか?
どういうことだとマーティーに詰め寄るが、「そ、そんなの知るわけないだろ」と逃げられてしまう。
「俺は? 俺はどうなるの?」
「もといたところに戻るのでは?」
もといたところってどこだよ。日本? 記憶ないのに? てか前世の俺ってどうなってんの? 死んでるのか? ど、どうなんのさ。
意味わからんくてフリーズする俺を、マーティーが怪訝な顔で見つめてくる。だが、考えても仕方がない。頭を振って、切り替えておく。
まぁ、どうにかなった時に考えればいいや。それより今は魔導書である。
「じゃあ黒猫ユリスを元に戻してみようよ!」
『人を実験台にするんじゃない』
苦い顔をする黒猫を無視して、早速計画を練る。どうやら黒猫ユリスは魔導書が読めるらしい。勉強嫌いじゃなかったのか、こいつ。だが変なコレクションを見るに、古い物や珍しい物が好きみたいだ。そういうことに関する知識は豊富なのかもしれない。
「で? どうすれば戻るの?」
『……何度か試したが、無理だった』
「ずるい! なんで俺抜きで勝手にやるんだ!」
『うるさい』
舌打ちした黒猫は、『時間が経てば戻ると思ったんだがな』と首を捻っている。
「時間?」
『あぁ。そもそも初めに術を試した時も効果が出るまでに変な時間差があった。それも数日とかだぞ』
そういえば、俺がユリスに成り代わったのも、なんか部屋で居眠りしている時だったな。目を開けたらユリスの部屋で、ジャンがいた。特に直前、怪しげな儀式的なことをしていた雰囲気はなかった。なるほど、時間差か。
「なんで?」
『いや、だから知らないと言っている』
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