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208 猫になる方法
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「あの変な本。あれなにが書いてあるんだ?」
その日の夜。
今日もマーティーを俺の部屋に招待した。一応、嫉妬深いオーガス兄様に再度確認すれば「だから別にいいんじゃない? マーティーと随分仲良くなったね」と小首を傾げていた。なんでマーティーはいいんだろうか。アロンはダメなのに。どんだけアロンのことが嫌いなんだ。
タイラーたちが引き上げた後、ソワソワしていたマーティーが、そんなことを訊いてくる。どうやら魔導書に興味津々らしい。昼間、ティアンに読めないことを指摘されたのが悔しいのかもしれない。戸棚から勝手に魔導書を引っ張り出してきたマーティーは、ベッドに寝転がってパラパラとページを捲っている。それを横から覗き込んで、ついでに黒猫をなでなでしておく。
「これなんて書いてあんの?」
『自分で読めばいいだろ』
黒猫ユリスは素っ気ない。ふにゃふにゃ言って協力してくれない。
なんでこんな頑なに中身を教えてくれないのか。そんなにマズイことが? と考えて、ハッとする。わかってしまった。魔導書の中身。
だって黒猫ユリスが秘密にしたいことなんて、あれしかないのでは?
「……もしかして、猫になる方法が書いてあるのか?」
ピクリと、黒猫の耳が動く。ジトッと半眼になる黒猫は、誤魔化すように顔を背けた。
『……人間が猫になれるわけないだろ』
「なってるじゃん!」
おまえがその実例だろが。
しかしこの反応は間違いない。これはあれだ。絶対に猫になれる方法が書いてあるに違いない。それを使って、こいつは黒猫になったんだ。
「マーティー! こいつ猫になる方法を独り占めするつもりだぞ!」
とりあえずマーティーに教えてやれば、彼は「なんで?」と首を捻る。なんでってなに? 知らないよ。
急いで魔導書をマーティーから奪い取る。そうして真剣にページを捲ってみるが、やはり読めない。挿絵も少ないからマジで意味がわからない。ちくしょう。
悔しさのあまり、ベッドに転がって足をバタバタさせる。「埃がするからやめろ」と文句を言うマーティーは無視だ。
「俺も猫になりたい! 自分だけズルいぃ!」
「……こいつはなにを言っているんだ?」
若干引いた目で俺を見下ろしてくるマーティーは、黒猫ユリスに問いかけている。おまえ、猫の言葉理解できないだろ。なんで猫と会話しようとするんだ。
『相変わらずお気楽な奴だな』
くわっと欠伸する黒猫ユリスは、俺の仮説を否定しない。ということはだ。どうやらユリスは、この魔導書をもとに色々やって猫になったらしい。俺がユリスに成り代わったのもこれが原因だろう。
全ての原因はこの魔導書ということか。
「ねぇ! 教えて! 猫になる方法! 教えてくれないならこれオーガス兄様に返してやる!」
『やめろ馬鹿』
素早く寄ってきた黒猫ユリスは、やはり魔導書の中身をオーガス兄様には知られたくないらしい。
教えてくれないならオーガス兄様に魔導書見せてやる! と盛大に騒いでやれば、マーティーが「静かにしないか。今何時だと思っている」とお兄さんぶってくる。
俺を六歳児だと酷い誤解をしているマーティーは、すっかりお兄さん気分でいるらしい。つい先日までは少しお子様扱いするだけで泣き喚いていたというのに。今ではちょっと困ったように眉尻を下げるだけで流してしまう。なんだその余裕な態度は。
「マーティー! おまえはなんで読めないんだ! 勉強してないからだろ!」
真面目に勉強しておけと指を突きつければ、マーティーが「い、今から習うんだ!」と言い訳を紡ぐ。
「……ティアンに読んでもらう!」
『絶対にダメだ』
どうやら黒猫ユリスは、ティアンのことも嫌いらしい。思えば、ティアンに触られる度に威嚇していた。気難しい猫である。
「俺はやる時はやるぞ。魔導書みんなに見せびらかしてやる」
『ダメだと言っている』
冷たい黒猫は、苛立ったようにバタバタしている。だが魔導書を俺が本当に見せびらかしてまわると考えているのだろう。悔しそうに顔を歪めている。黒猫の言葉が聞こえないマーティーは、「なにがどうなっているんだ」とひとりで困っている。
今は黒猫ユリスが我儘言っているところだ。マーティーは、俺に味方しろ。やがて、渋々といった感じで、黒猫ユリスが低く唸る。
『……絶対に誰にも言わないと約束できるか』
「できる! 任せておけ!」
『不安だ』
なんだと。とりあえずマーティーにも「内緒な!」と念押しすれば、「よくわからんが、わかった」と力強い頷きが返ってきた。よしよし。
「マーティーも内緒にできるってよ」
『なによりもおまえが心配なんだが』
「俺? 俺は口堅いよ」
『嘘をつくな』
全然俺のことを信用していないらしい黒猫ユリスは、悩むように険しい顔をしている。そんなに悩まなくても。俺マジで秘密は守れるから大丈夫だよ。
その日の夜。
今日もマーティーを俺の部屋に招待した。一応、嫉妬深いオーガス兄様に再度確認すれば「だから別にいいんじゃない? マーティーと随分仲良くなったね」と小首を傾げていた。なんでマーティーはいいんだろうか。アロンはダメなのに。どんだけアロンのことが嫌いなんだ。
タイラーたちが引き上げた後、ソワソワしていたマーティーが、そんなことを訊いてくる。どうやら魔導書に興味津々らしい。昼間、ティアンに読めないことを指摘されたのが悔しいのかもしれない。戸棚から勝手に魔導書を引っ張り出してきたマーティーは、ベッドに寝転がってパラパラとページを捲っている。それを横から覗き込んで、ついでに黒猫をなでなでしておく。
「これなんて書いてあんの?」
『自分で読めばいいだろ』
黒猫ユリスは素っ気ない。ふにゃふにゃ言って協力してくれない。
なんでこんな頑なに中身を教えてくれないのか。そんなにマズイことが? と考えて、ハッとする。わかってしまった。魔導書の中身。
だって黒猫ユリスが秘密にしたいことなんて、あれしかないのでは?
「……もしかして、猫になる方法が書いてあるのか?」
ピクリと、黒猫の耳が動く。ジトッと半眼になる黒猫は、誤魔化すように顔を背けた。
『……人間が猫になれるわけないだろ』
「なってるじゃん!」
おまえがその実例だろが。
しかしこの反応は間違いない。これはあれだ。絶対に猫になれる方法が書いてあるに違いない。それを使って、こいつは黒猫になったんだ。
「マーティー! こいつ猫になる方法を独り占めするつもりだぞ!」
とりあえずマーティーに教えてやれば、彼は「なんで?」と首を捻る。なんでってなに? 知らないよ。
急いで魔導書をマーティーから奪い取る。そうして真剣にページを捲ってみるが、やはり読めない。挿絵も少ないからマジで意味がわからない。ちくしょう。
悔しさのあまり、ベッドに転がって足をバタバタさせる。「埃がするからやめろ」と文句を言うマーティーは無視だ。
「俺も猫になりたい! 自分だけズルいぃ!」
「……こいつはなにを言っているんだ?」
若干引いた目で俺を見下ろしてくるマーティーは、黒猫ユリスに問いかけている。おまえ、猫の言葉理解できないだろ。なんで猫と会話しようとするんだ。
『相変わらずお気楽な奴だな』
くわっと欠伸する黒猫ユリスは、俺の仮説を否定しない。ということはだ。どうやらユリスは、この魔導書をもとに色々やって猫になったらしい。俺がユリスに成り代わったのもこれが原因だろう。
全ての原因はこの魔導書ということか。
「ねぇ! 教えて! 猫になる方法! 教えてくれないならこれオーガス兄様に返してやる!」
『やめろ馬鹿』
素早く寄ってきた黒猫ユリスは、やはり魔導書の中身をオーガス兄様には知られたくないらしい。
教えてくれないならオーガス兄様に魔導書見せてやる! と盛大に騒いでやれば、マーティーが「静かにしないか。今何時だと思っている」とお兄さんぶってくる。
俺を六歳児だと酷い誤解をしているマーティーは、すっかりお兄さん気分でいるらしい。つい先日までは少しお子様扱いするだけで泣き喚いていたというのに。今ではちょっと困ったように眉尻を下げるだけで流してしまう。なんだその余裕な態度は。
「マーティー! おまえはなんで読めないんだ! 勉強してないからだろ!」
真面目に勉強しておけと指を突きつければ、マーティーが「い、今から習うんだ!」と言い訳を紡ぐ。
「……ティアンに読んでもらう!」
『絶対にダメだ』
どうやら黒猫ユリスは、ティアンのことも嫌いらしい。思えば、ティアンに触られる度に威嚇していた。気難しい猫である。
「俺はやる時はやるぞ。魔導書みんなに見せびらかしてやる」
『ダメだと言っている』
冷たい黒猫は、苛立ったようにバタバタしている。だが魔導書を俺が本当に見せびらかしてまわると考えているのだろう。悔しそうに顔を歪めている。黒猫の言葉が聞こえないマーティーは、「なにがどうなっているんだ」とひとりで困っている。
今は黒猫ユリスが我儘言っているところだ。マーティーは、俺に味方しろ。やがて、渋々といった感じで、黒猫ユリスが低く唸る。
『……絶対に誰にも言わないと約束できるか』
「できる! 任せておけ!」
『不安だ』
なんだと。とりあえずマーティーにも「内緒な!」と念押しすれば、「よくわからんが、わかった」と力強い頷きが返ってきた。よしよし。
「マーティーも内緒にできるってよ」
『なによりもおまえが心配なんだが』
「俺? 俺は口堅いよ」
『嘘をつくな』
全然俺のことを信用していないらしい黒猫ユリスは、悩むように険しい顔をしている。そんなに悩まなくても。俺マジで秘密は守れるから大丈夫だよ。
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