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205 箱はどうした
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気が付いたら朝だった。
昨夜はマーティーに、俺らが置かれている状況について説明していた。実際に本物ユリスと入れ替わってまで根気強く説明してやった。夢中になるあまり時間をすっかり忘れて過ごしていた。そうしていつの間にか寝落ちしたらしい。最後の方は、なんかもうよく覚えていない。
人間に戻っていた俺は、隣で呑気に寝息をたてるマーティーを揺すり起こす。俺のベッドだというのに無遠慮に占領している。
「起きろ、マーティー」
「うぅん?」
ぼやぼやしているマーティーは、のっそりと体を起こす。眠そうだ。
ついで布団を勢いよく剥いで、中で丸まる黒猫ユリスを引っ張り出す。『やめろ馬鹿』と口の悪い黒猫をマーティーに押し付ければ、途端に黒猫ユリスが大暴れした。それにビビるマーティーは、すっかり目が覚めたらしい。驚いたように目を瞬いている。
「朝だぞ」
まだジャンの姿は見えないが、そろそろ起床時間である。はよベッドから降りろとマーティーを急かせば、彼は俺と黒猫ユリスをしきりに見比べている。
「……もしかして、偽ユリスの方か?」
「正解!」
おそるおそるといった様子で口にしたマーティーは、俺の答えを聞くなりなんとも言えない表情を作った。困惑しているようにも微笑んでいるようにも見える微妙なお顔である。
「昨日の話。夢じゃないのか」
「夢違う。現実」
まだ寝ぼけているのかもしれない。覚醒のお手伝いをしてやろうと思って、マーティーの頭を叩けば「なにをするんだ!」と勢いのある抗議が返ってきた。
「寝ぼけるな!」
「寝ぼけてはいない。なんですぐに手を出してくるんだ」
ぶつぶつと朝っぱらから文句を言うマーティーは、ようやくベッドを降りた。まだ信じられないといった顔をしている。
「この猫はユリスか?」
「そうだよ。本物ユリス」
じっと黒猫を見下ろすマーティーは、考え込むように腕を組む。
「確かに。目付き悪いな」
「性格も悪いぞ。マーティーが触るとわざと大暴れしてるぞ、そいつ」
『別にいいだろ』
くわっと欠伸した黒猫をなでなでしておく。どうやらマーティーは、俺の話を信じてくれたらしい。変なところで物分かりのいいお子様である。いや、お子様だからか? もしかしたら世の中の常識とか知らないのかもしれない。人間が猫になるなんて普通のことだと思っている可能性もある。どっちだろ?
ちょっと心配になっていると、ベッドに腰掛けたマーティーが「それで?」と首を捻る。
「どうしてユリスが猫になって、ユリスの中に見知らぬ六歳児が入るなんて訳のわからない状況になっているんだ」
「誰が六歳児だ!」
この野郎! 本物ユリスの昨日の冗談を真に受けてやがる。拳を握り締めて、言い返そうと真正面から彼を見据える。
「俺は十六歳なの! マーティーより年上だから! わかったか!」
「……くだらない見栄を張るな」
「見栄じゃない!」
なんだか生温い目を向けてくるマーティーは、自分が年上だという余裕からか、舐めた態度をとってくる。つい昨日までは俺相手にビビっていたくせに。中身が偽ユリスだとわかった途端、俺を舐めに舐めまくってくる。マジで俺のことを六歳児だと信じて疑っていないらしい。
こんなに大人な俺のどこを見て、そんな冗談信じているのか。さすがベイビー。思考が意味不明である。
「それで? なぜこんな事態に?」
ジャンがまだ来ないのをいいことに、俺は隠していたクッキーを取り出す。「なんでそんなところに隠しているんだ」とドン引きしているマーティーに、一枚取り出して手渡す。反射的に受け取った彼は、そっとサイドテーブルに置いてしまう。なぜ食べない。
「それはユリスにきいて。俺も知らないから」
こうなった原因に心当たりなんて皆無だ。突然この世界にやって来たのだから。
だから俺もわからないと再度口にしようとして、はっと思い出す。
「そういえばマーティー。箱はどうした」
「あぁ、あれな。部屋にあるぞ」
「持って来て!」
はよ! と急かせば、黒猫ユリスが『おい!』と声をあげる。
『あの中身は探るなと言っただろうが!』
「……ユリスはなんだって? なんかキレてないか?」
察しのいいマーティーは、そろそろと黒猫から距離をとっている。ふんふん怒っている黒猫が、俺の足を踏んでくる。もふもふが足に乗っても楽しいだけである。
「あの箱に魔導書隠してるんだろ! 知ってるんだぞ!」
『妙なところで勘のいいガキだな』
吐き捨てた黒猫ユリスは、すごく苛々しているようだった。どうやら図星らしい。意外とわかりやすい場所に隠すな。大人びているとはいえ、所詮は十歳児だ。十六歳の俺には敵うわけがない。不敵に笑って、マーティーに箱を持ってくるよう伝える。うるさい黒猫ユリスは抱っこしてやる。
『マーティー! 下僕のくせに生意気だぞ』
「ユリスはなんだって?」
「箱もってこい。急げって言ってる」
「本当に?」
疑いの目を向けてくるマーティー。しかしあの箱は元々ユリスの物である。返しても不都合はないと考えたのだろう。ドアを開けるマーティーは、そそくさと客室へと急いでいる。
「マーティー様?」
入れ替わりで顔を見せたジャンが、怪訝な顔をしてマーティーの背中を見つめているが、追いかけることはしない。
「おはよう。ジャン」
「おはようございます。ユリス様」
カーテンを開けるジャンを横目に、俺は大暴れする黒猫ユリスを抱えるのに苦労していた。
最終的にベッドの上で抱き締めながら横になって、マーティーが戻ってくるのを待つ。再びベッドにダイブした俺を見て、ジャンが困惑顔をみせていた。
昨夜はマーティーに、俺らが置かれている状況について説明していた。実際に本物ユリスと入れ替わってまで根気強く説明してやった。夢中になるあまり時間をすっかり忘れて過ごしていた。そうしていつの間にか寝落ちしたらしい。最後の方は、なんかもうよく覚えていない。
人間に戻っていた俺は、隣で呑気に寝息をたてるマーティーを揺すり起こす。俺のベッドだというのに無遠慮に占領している。
「起きろ、マーティー」
「うぅん?」
ぼやぼやしているマーティーは、のっそりと体を起こす。眠そうだ。
ついで布団を勢いよく剥いで、中で丸まる黒猫ユリスを引っ張り出す。『やめろ馬鹿』と口の悪い黒猫をマーティーに押し付ければ、途端に黒猫ユリスが大暴れした。それにビビるマーティーは、すっかり目が覚めたらしい。驚いたように目を瞬いている。
「朝だぞ」
まだジャンの姿は見えないが、そろそろ起床時間である。はよベッドから降りろとマーティーを急かせば、彼は俺と黒猫ユリスをしきりに見比べている。
「……もしかして、偽ユリスの方か?」
「正解!」
おそるおそるといった様子で口にしたマーティーは、俺の答えを聞くなりなんとも言えない表情を作った。困惑しているようにも微笑んでいるようにも見える微妙なお顔である。
「昨日の話。夢じゃないのか」
「夢違う。現実」
まだ寝ぼけているのかもしれない。覚醒のお手伝いをしてやろうと思って、マーティーの頭を叩けば「なにをするんだ!」と勢いのある抗議が返ってきた。
「寝ぼけるな!」
「寝ぼけてはいない。なんですぐに手を出してくるんだ」
ぶつぶつと朝っぱらから文句を言うマーティーは、ようやくベッドを降りた。まだ信じられないといった顔をしている。
「この猫はユリスか?」
「そうだよ。本物ユリス」
じっと黒猫を見下ろすマーティーは、考え込むように腕を組む。
「確かに。目付き悪いな」
「性格も悪いぞ。マーティーが触るとわざと大暴れしてるぞ、そいつ」
『別にいいだろ』
くわっと欠伸した黒猫をなでなでしておく。どうやらマーティーは、俺の話を信じてくれたらしい。変なところで物分かりのいいお子様である。いや、お子様だからか? もしかしたら世の中の常識とか知らないのかもしれない。人間が猫になるなんて普通のことだと思っている可能性もある。どっちだろ?
ちょっと心配になっていると、ベッドに腰掛けたマーティーが「それで?」と首を捻る。
「どうしてユリスが猫になって、ユリスの中に見知らぬ六歳児が入るなんて訳のわからない状況になっているんだ」
「誰が六歳児だ!」
この野郎! 本物ユリスの昨日の冗談を真に受けてやがる。拳を握り締めて、言い返そうと真正面から彼を見据える。
「俺は十六歳なの! マーティーより年上だから! わかったか!」
「……くだらない見栄を張るな」
「見栄じゃない!」
なんだか生温い目を向けてくるマーティーは、自分が年上だという余裕からか、舐めた態度をとってくる。つい昨日までは俺相手にビビっていたくせに。中身が偽ユリスだとわかった途端、俺を舐めに舐めまくってくる。マジで俺のことを六歳児だと信じて疑っていないらしい。
こんなに大人な俺のどこを見て、そんな冗談信じているのか。さすがベイビー。思考が意味不明である。
「それで? なぜこんな事態に?」
ジャンがまだ来ないのをいいことに、俺は隠していたクッキーを取り出す。「なんでそんなところに隠しているんだ」とドン引きしているマーティーに、一枚取り出して手渡す。反射的に受け取った彼は、そっとサイドテーブルに置いてしまう。なぜ食べない。
「それはユリスにきいて。俺も知らないから」
こうなった原因に心当たりなんて皆無だ。突然この世界にやって来たのだから。
だから俺もわからないと再度口にしようとして、はっと思い出す。
「そういえばマーティー。箱はどうした」
「あぁ、あれな。部屋にあるぞ」
「持って来て!」
はよ! と急かせば、黒猫ユリスが『おい!』と声をあげる。
『あの中身は探るなと言っただろうが!』
「……ユリスはなんだって? なんかキレてないか?」
察しのいいマーティーは、そろそろと黒猫から距離をとっている。ふんふん怒っている黒猫が、俺の足を踏んでくる。もふもふが足に乗っても楽しいだけである。
「あの箱に魔導書隠してるんだろ! 知ってるんだぞ!」
『妙なところで勘のいいガキだな』
吐き捨てた黒猫ユリスは、すごく苛々しているようだった。どうやら図星らしい。意外とわかりやすい場所に隠すな。大人びているとはいえ、所詮は十歳児だ。十六歳の俺には敵うわけがない。不敵に笑って、マーティーに箱を持ってくるよう伝える。うるさい黒猫ユリスは抱っこしてやる。
『マーティー! 下僕のくせに生意気だぞ』
「ユリスはなんだって?」
「箱もってこい。急げって言ってる」
「本当に?」
疑いの目を向けてくるマーティー。しかしあの箱は元々ユリスの物である。返しても不都合はないと考えたのだろう。ドアを開けるマーティーは、そそくさと客室へと急いでいる。
「マーティー様?」
入れ替わりで顔を見せたジャンが、怪訝な顔をしてマーティーの背中を見つめているが、追いかけることはしない。
「おはよう。ジャン」
「おはようございます。ユリス様」
カーテンを開けるジャンを横目に、俺は大暴れする黒猫ユリスを抱えるのに苦労していた。
最終的にベッドの上で抱き締めながら横になって、マーティーが戻ってくるのを待つ。再びベッドにダイブした俺を見て、ジャンが困惑顔をみせていた。
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