嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

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204 年齢詐称

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「……え? 意味がわからない」

 開口一番そう言ったマーティーに、本物ユリスが小さく舌打ちする。見るからに不機嫌な美少年は、偉そうに腕を組んでいる。

 無事にユリスと入れ替わった俺は、あとのことは本物ユリスにお任せすることにした。てか今の俺は黒猫姿だから。会話はできるけど、それは本物ユリス限定であり、マーティーには伝わらない。頑張れよ、ユリス。

 突然、黒猫とキスをして、次の瞬間には不機嫌マックスとなったユリスを前にして、マーティーは首を捻っている。謎行動に困惑しているようだった。

「見てわかるだろ。それともなんだ。おまえには僕とそこの馬鹿が同一人物に見えるとでも? ここまで頭の中お花畑だと会話もひと苦労だな」

 短く鼻で笑った本物ユリスに、マーティーは唖然としている。

 それでもなお、マーティーを小馬鹿のする本物ユリスは、ここぞとばかりに悪口を並べ立てている。嫌な子供だな。マーティーが本物ユリスを苦手とするのもわかる。

「で? つい先程までの僕と今の僕。同じに見えるのか?」

 偉そうに答えを迫る本物ユリスに、マーティーがぼんやりと首を横に振った。だがその顔には疑心が浮かんでいる。

 イライラと足でリズムを刻む本物ユリスは、「だから言っただろ。馬鹿に説明するだけ無駄だ」と吐き捨てている。その言葉に反応したマーティーは、「だ、誰が馬鹿だって?」と弱々しく抗議している。なんか泣きそうな顔してないか? 大丈夫か?

 とりあえず猫姿を満喫しておこうと、ベッドの中に潜っておく。いつも黒猫ユリスがこうやって寝ているのが少し羨ましかったのだ。

 ベッドの中でぬくぬくしていると、マーティーの困惑した声が降ってくる。

「えっと、今のは本物のユリスか? 確かに僕の知るユリスだが」
「そうだ。僕が本来のユリスだ。そして先程までの馬鹿は僕の代わりだ。わかったか」
『誰が馬鹿だ』

 ベッドの中から抗議をするが、本物ユリスに黙殺されてしまった。

「……その、要するにまぁ、ユリスの話を信じるとして。ではこの猫は? 先程までのユリスが今度は猫になったってことか?」
「そういうことだ。ようやく理解したか? 馬鹿でも根気強く説明してやれば案外どうにかなるものだな」

 終始偉そうな本物ユリスは、ずっと苛々している。突然説明係をやらされて不機嫌なのだろう。こいつは猫姿の時には呑気にヤジを飛ばすくせに、人間に戻ると途端に会話を面倒くさがる。気難しいな。

「……ど、な、なぜ? 百歩譲って、本物ユリスと偽ユリスのふたりいるとしてだ。なんで片方が猫になるんだ」
「それは知らない」
「はぁ?」

 俺も知らない。てかなんでユリスに成り代わったのかもよく知らない。本物ユリスなら心当たりくらいありそうだと思っていたのだが、どうやらそうでもないのか? だがユリスは秘密主義的なところがある。あとナチュラルに俺を見下している。成り代わりの秘密を知っていても教えてくれないだけかもしれない。

 じっと本物ユリスを観察していると、彼は深くため息をついた。

「とにかく、色々あってこういう状況になっている。このことは誰にも教えていない。他言したら容赦しないぞ」

 ギロッとマーティーを睨みつけた本物ユリスは、変な迫力を有していた。こくこくと機械的に頷くマーティーは、絶対に本物ユリス相手にビビっている。ちょっと涙目だもん。

 マーティーは、果たして俺たちの言い分を理解したのかは不明だが、猫姿の俺を見る目付きが困惑を含んでいることは間違いなかった。

「おまえ、名前はなんていうんだ?」

 おずおずと猫姿の俺に問いかけてきたマーティー。なるほど。本物ユリスの件を理解したマーティーは、だったら偽ユリス(今は猫姿の俺)は何者なのかと気になっているらしい。

『俺、自分の名前覚えてない』

 前世の記憶が薄らあるのみで、細部についてはほとんど覚えていない。なんか日本の男子高校生だったような記憶はあるのだが、具体的に自分の名前とかどういう暮らしをしていたかとかはイマイチ記憶にないのだ。そう説明するのだが、マーティーに俺の言葉は伝わらない。本物ユリスをちょいちょいと鼻で突つけば、彼は面倒くさそうに眉を寄せた。

「……特にないと言っている」
「おまえは? こいつのことなんて呼んでいるんだ」

 マーティーの言葉に、本物ユリスが黙り込む。そういや「おい」とか「おまえ」とかで済ませていたな。沈黙する本物ユリスの様子からそれを察したらしい。「せめて呼び名くらい決めてやったらどうなんだ?」と提案するマーティーは、とても良い子だ。

「別にこれまで通りで不自由はないから気にするな」
「僕が気になるんだが。なんて呼べば良いんだよ」
「僕がユリスで、こっちの馬鹿は馬鹿とでも呼んでおけ」
「いくらなんでもそれは可哀想だろ」

 そうだそうだ! 頑張れマーティー!
 俺のことを馬鹿呼ばわりする本物ユリスは、小さく舌打ちする。

「これだからガキの相手は面倒なんだ」
「そっちの偽? ユリス? の方は何歳なんだ」
『十六』

 すかさずお答えして、本物ユリスに伝言をお願いする。けれどもなぜか口を閉ざしたままの本物ユリスは、なにやら考え込むように顎に手をあてた。

 そして彼はとんでもない答えを発した。

「……六歳だと」
『十六! 誰が六歳って言ったよ!』

 ふざけるなと盛大に抗議をするが、全部シカトされた。頼みのマーティーも「そうか」と特に違和感を覚えないようですんなり納得している。

 なんでだよ。俺はどこからどう見ても大人な振る舞いしてただろうが!
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