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197 魔石
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ピクニックは楽しかった。
ティアンと一緒におやつを食べて、黒猫ユリスと盛大に走り回った。途中からはアロンも参戦して大はしゃぎだった。アロンのノリの良さは抜群である。兄様たちはちょっと退屈そうだったけど。なんでついて来たんだ。こういう時は全力で楽しむべきだろうが。
本日のティアンは、珍しく寒いと駄々をこねない。おそらく父親であるクレイグ団長が一緒だからだろう。いつもより大人しいティアンに、ちょっとだけ調子が狂う気がする。父親の前では良い子を演じたいのだろう。とりあえず美味しいお菓子を押し付けておいた。
「あの魔石とって」
「だから嫌ですって」
帰り際、湖に沈むきらきらした魔石を再度おねだりしてみるが、アロンは素っ気ない。寒いから嫌ですの一点張りである。ニックに至っては、俺と視線すら合わせてくれない。
「というか、兄上。魔石なんて珍しい物、どこで入手したんですか」
怪訝な顔で腕を組むブルース兄様に、オーガス兄様が「出入りの商人からだよ」と簡潔に説明している。初耳なのだが、屋敷にはたまに商人がやって来るらしい。遠方から旅がてら立ち寄る商人もいれば、顔馴染みの商人もいるそうだ。中には普通では手に入らない珍しい商品もあるのだとか。
「俺も見たい! 商人!」
「えー?」
なんでそんな面白そうな物をひた隠しにしているのか。困ったように返答を濁すオーガス兄様は、話を切り上げようとしてしまう。自分だけ楽しい買い物なんてずるい。
今度商人が来た時は俺も呼んでね、とオーガス兄様に念押しするが、渋い反応しかない。これはあまり期待できない。自力で察知するしかないな。
商人が来る際には、きっと屋敷の正門が開くに違いない。見張っておかないと。
そうして名残惜しい気持ちで湖を後にした俺たち。
森から抜けて、各自バラバラに行動する。仕事に戻るクレイグ団長に、ばいばいと手を振れば、今度乗馬の練習を、と嫌なことを言い置いて去って行った。馬は嫌だと何度言えば理解してくれるのか。
屋敷に戻るブルース兄様とオーガス兄様の後を追う。横に並んでくるティアンは、「魔石なんて手に入れてどうするんですか?」と訊いてくる。
「きれいだから部屋に飾る」
「そうですか」
ところで魔石ってなに? なんかこう、魔力的な石ってのはわかるけどさ。この世界では魔法はあってないようなものだ。そんな世界における魔石の役割って一体どんなものなのか。
ティアンに尋ねれば、彼は「うーん」と悩んでしまう。
「魔石といっても色々ですよね。微々たる魔力を込めてあるものが大半です。この場合はほとんど飾りみたいなものですね。魔力を込めるときらきらと輝くので。さっきの魔石も光っていたでしょ? 装飾品です」
「ほー」
宝石みたいな立ち位置なのか。確かにきらきらしていたもんな。
「魔力がいっぱいだとどうなるの?」
「そんなに魔力を込められる人はほとんどいません。そういった魔石は、既にほとんど国が管理しているかと。具体的な使い道はよくわからないんですよね。なんせ魔法なんてあってもたいした役には立たないですし」
「へー」
相変わらず夢のない世界である。魔石があるのに、ほとんどは装飾品扱いで、稀に絶大な力の込められた魔石があっても使い道不明とはこれいかに。
「石に魔力を込めるのは結構簡単なんですよ。普段通り魔法を使うイメージで石に流せばいいので。ですが、石に込められた魔力を引き出すとなると、また勝手が違うらしくて。魔石なんてほとんど意味をなしませんね」
どうやらマジでこの世界の魔法はおまけ扱いらしい。とりあえず石に魔力を込めるときらきらするから、装飾品感覚で魔石を作り出すのだそうだ。とはいえ、装飾品として市場に出しても恥ずかしくないほどきらきらさせるには、一定以上の魔力が必要らしく、質の良い魔石は素人が簡単に作り出せる代物ではないらしい。
その点、湖に落ちていた魔石はすごくきらきらしていた。あれは装飾品としても価値の高い代物らしい。さすがオーガス兄様である。
「でもなぜ魔石をユリスに?」
俺らの話を聞いていたらしいブルース兄様が、オーガス兄様に再び疑問を投げかけている。
「なんでって。ユリスはああいう珍しい物好きだろ。よく変な骨董品みたいな物集めているし」
「あぁ、そういや好きだったな」
ちらりとふたりの兄から視線を向けられて頷いておく。確かに。ユリスの部屋にはわけわからんコレクションがたくさんある。
「しかし兄上からの贈り物を投げ捨てるとは何事だ」
突然小言をぶち込んでくるブルース兄様に、俺はこっそり肩をすくめる。ジャンの腕の中でにやにやしている黒猫ユリスが、『魔石は欲しいけどな。あの時のオーガスの得意気な顔に腹が立って、思わず捨ててしまった』と悪びれもせずに白状した。どんだけオーガス兄様のことが嫌いなんだよ。
流石にこのことを馬鹿正直にお伝えするのは酷な気がする。へへっと曖昧に笑って流しておくことにする。ブルース兄様の顔が険しいのは、いつものことだ。
ティアンと一緒におやつを食べて、黒猫ユリスと盛大に走り回った。途中からはアロンも参戦して大はしゃぎだった。アロンのノリの良さは抜群である。兄様たちはちょっと退屈そうだったけど。なんでついて来たんだ。こういう時は全力で楽しむべきだろうが。
本日のティアンは、珍しく寒いと駄々をこねない。おそらく父親であるクレイグ団長が一緒だからだろう。いつもより大人しいティアンに、ちょっとだけ調子が狂う気がする。父親の前では良い子を演じたいのだろう。とりあえず美味しいお菓子を押し付けておいた。
「あの魔石とって」
「だから嫌ですって」
帰り際、湖に沈むきらきらした魔石を再度おねだりしてみるが、アロンは素っ気ない。寒いから嫌ですの一点張りである。ニックに至っては、俺と視線すら合わせてくれない。
「というか、兄上。魔石なんて珍しい物、どこで入手したんですか」
怪訝な顔で腕を組むブルース兄様に、オーガス兄様が「出入りの商人からだよ」と簡潔に説明している。初耳なのだが、屋敷にはたまに商人がやって来るらしい。遠方から旅がてら立ち寄る商人もいれば、顔馴染みの商人もいるそうだ。中には普通では手に入らない珍しい商品もあるのだとか。
「俺も見たい! 商人!」
「えー?」
なんでそんな面白そうな物をひた隠しにしているのか。困ったように返答を濁すオーガス兄様は、話を切り上げようとしてしまう。自分だけ楽しい買い物なんてずるい。
今度商人が来た時は俺も呼んでね、とオーガス兄様に念押しするが、渋い反応しかない。これはあまり期待できない。自力で察知するしかないな。
商人が来る際には、きっと屋敷の正門が開くに違いない。見張っておかないと。
そうして名残惜しい気持ちで湖を後にした俺たち。
森から抜けて、各自バラバラに行動する。仕事に戻るクレイグ団長に、ばいばいと手を振れば、今度乗馬の練習を、と嫌なことを言い置いて去って行った。馬は嫌だと何度言えば理解してくれるのか。
屋敷に戻るブルース兄様とオーガス兄様の後を追う。横に並んでくるティアンは、「魔石なんて手に入れてどうするんですか?」と訊いてくる。
「きれいだから部屋に飾る」
「そうですか」
ところで魔石ってなに? なんかこう、魔力的な石ってのはわかるけどさ。この世界では魔法はあってないようなものだ。そんな世界における魔石の役割って一体どんなものなのか。
ティアンに尋ねれば、彼は「うーん」と悩んでしまう。
「魔石といっても色々ですよね。微々たる魔力を込めてあるものが大半です。この場合はほとんど飾りみたいなものですね。魔力を込めるときらきらと輝くので。さっきの魔石も光っていたでしょ? 装飾品です」
「ほー」
宝石みたいな立ち位置なのか。確かにきらきらしていたもんな。
「魔力がいっぱいだとどうなるの?」
「そんなに魔力を込められる人はほとんどいません。そういった魔石は、既にほとんど国が管理しているかと。具体的な使い道はよくわからないんですよね。なんせ魔法なんてあってもたいした役には立たないですし」
「へー」
相変わらず夢のない世界である。魔石があるのに、ほとんどは装飾品扱いで、稀に絶大な力の込められた魔石があっても使い道不明とはこれいかに。
「石に魔力を込めるのは結構簡単なんですよ。普段通り魔法を使うイメージで石に流せばいいので。ですが、石に込められた魔力を引き出すとなると、また勝手が違うらしくて。魔石なんてほとんど意味をなしませんね」
どうやらマジでこの世界の魔法はおまけ扱いらしい。とりあえず石に魔力を込めるときらきらするから、装飾品感覚で魔石を作り出すのだそうだ。とはいえ、装飾品として市場に出しても恥ずかしくないほどきらきらさせるには、一定以上の魔力が必要らしく、質の良い魔石は素人が簡単に作り出せる代物ではないらしい。
その点、湖に落ちていた魔石はすごくきらきらしていた。あれは装飾品としても価値の高い代物らしい。さすがオーガス兄様である。
「でもなぜ魔石をユリスに?」
俺らの話を聞いていたらしいブルース兄様が、オーガス兄様に再び疑問を投げかけている。
「なんでって。ユリスはああいう珍しい物好きだろ。よく変な骨董品みたいな物集めているし」
「あぁ、そういや好きだったな」
ちらりとふたりの兄から視線を向けられて頷いておく。確かに。ユリスの部屋にはわけわからんコレクションがたくさんある。
「しかし兄上からの贈り物を投げ捨てるとは何事だ」
突然小言をぶち込んでくるブルース兄様に、俺はこっそり肩をすくめる。ジャンの腕の中でにやにやしている黒猫ユリスが、『魔石は欲しいけどな。あの時のオーガスの得意気な顔に腹が立って、思わず捨ててしまった』と悪びれもせずに白状した。どんだけオーガス兄様のことが嫌いなんだよ。
流石にこのことを馬鹿正直にお伝えするのは酷な気がする。へへっと曖昧に笑って流しておくことにする。ブルース兄様の顔が険しいのは、いつものことだ。
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