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193 添い寝です
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「オーガス兄様! 起きてるか!」
「起きてるよ、起きてるからそんな大声出さないで」
弱々しく答えたオーガス兄様は、朝から眠そうだった。横のニックは、しゃきっとしているのに。
ふにゃふにゃしているオーガス兄様を急かす。早くしないと湖に行く時間がなくなる。急いで急いでと頑張って急かせば、オーガス兄様は「そんなに急がなくても。湖は逃げないよ」と苦笑する。
「ところでさ、なんか朝から廊下が騒がしかったけど。何かあったの?」
「あ。みんなが俺のこと探してたの」
「探す? なんで?」
首を捻るオーガス兄様は、心底不思議そうであった。どうやら起床してから外に出ていないらしい兄様は、朝のちょっとした騒動を知らないらしい。てか騒がしいと思ったのなら廊下に顔を出してみればいいのに。そうしないあたり、さすがビビリのオーガス兄様である。
「ジャンが俺を起こしにきたけど、俺がいなかったからちょっと探したんだって」
「君はどこに居たのさ」
「アロンと寝てた」
「は?」
は? と再度強めに声を発したオーガス兄様は、みるみる目を見開く。
「え、な、は?」
「オーガス兄様、ちゃんと喋って」
そんな一音だけ並べられても意味がわからん。長男なんだからしっかりしろ、と釘を刺せば、オーガス兄様が「はぁ⁉︎」と馬鹿でかい声を上げた。
びっくりする俺。
そんな突然大声出さなくても。俺についてきていたジャンも、ビクリと大きく肩を揺らしていた。
「なにそれ⁉︎」
「いいから早く準備して。置いて行くよ?」
「それどころじゃなくない⁉︎」
「なんだと!」
湖見に行く以上に大事なことなんてない。相変わらず意味不明なところに突っかかってくるオーガス兄様の相手は大変である。
早くしろと身振り手振りで頑張ってお伝えするのだが、オーガス兄様は逆に床に蹲ってしまう。なんでそうなる。はよ立て。
両手を床について土下座のような姿勢をとった兄様は「あのクソ野郎が……!」と、突如誰かの悪口を言い始める。しかし言い方からして、相手はアロンだろう。この屋敷でクソ野郎といえば彼しかいない。
ドンっと床を殴ったオーガス兄様は、直後に「痛い」と情けない声を上げている。この人マジでなにがしたいの?
困った末にニックを見上げれば、彼はものすごい目で俺を凝視していた。
「え? なにがどうなったらそうなるんですか?」
「なにが?」
「アロンと寝るって」
「うん」
「部屋に入れたんですか? あのクズを」
「ううん。俺がアロンの部屋にお邪魔した」
はぁ? と目を剥いたニックは、「え? それでなにしたんですか?」と訊いてくる。なにしたってなに。一緒に寝たって言ってるだろうが。
「そんなの認めないからな!」
「オーガス兄様、急に大声出さないで」
耳を塞いでうるさいアピールすれば、オーガス兄様は謝るどころか勢いよく立ち上がった。さっきから俺の話聞いてないな? オーガス兄様の暴走はいつものことである。ジトッと半眼になる俺に構わず、オーガス兄様は部屋を飛び出して行った。相変わらず勢いだけはすごい。その後を慌ててニックが追っている。
しんと静かになった室内にて、俺はジャンと顔を見合わせた。
※※※
「アロンは⁉︎」
「……あいつなら外だと思いますが。あの? どうかしましたか、兄上」
勢いよくブルース兄様の部屋に飛び込んだらしいオーガス兄様の後を追う。
案の定、オーガス兄様がすごい形相でブルース兄様に詰め寄っている。意味がわからず困惑するブルース兄様は、入口に佇む俺に気が付いて眉を寄せた。その顔には「またおまえは余計なことしやがって……!」とはっきり書いてある。俺はなにもしてないけどな。
「あのクソ野郎が! ついに弟に手を出しやがった!」
「あ、あぁその話」
遠い目をしたブルース兄様は、オーガス兄様を落ち着かせようと奮闘している。
「いえあの、落ち着いてくださいよ、兄上。ただの添い寝ですって、添い寝」
「そ、添い寝ぇ?」
きょとんとしたオーガス兄様は、しかしすぐさま険しい顔に戻ってしまう。
「添い寝もダメだよ!」
「そうですか」
一発ぶん殴りたい、とバイオレンスなことを呟くオーガス兄様は泣いていた。本当にすぐ泣く長男である。
だが俺はできた弟なので。ジャンに用意してもらったハンカチをポケットから取り出して、咽び泣くオーガス兄様に差し出した。
「泣かないで。困ってるなら俺が相談に乗るよ」
「まさに君が原因で困ってるんだけど」
嫌味を言いつつもハンカチを受け取った兄様は、涙を拭う。
「あの、兄上」
「なんだい、ブルース」
「なにをそんなに取り乱すことが? 確かにアロンの私室に入ったことは問題ではありますが、なにもそんなショックを受けなくとも」
「君はなんにもわかってない!」
ビシッと、ブルース兄様を指差すオーガス兄様。その仕草に俺はハッとする。口煩いティアンにいつも言われていることを、そのままお伝えしておくべきだ。
「人を指差したらダメなんだぞ!」
「え、あ、そうだね。ごめん」
わる兄様め! とオーガス兄様の周りをくるくるまわれば、ジャンが青い顔して俺を止めにくる。
咳払いをしたブルース兄様は、仕切り直すように再び口を開く。
「なにもわかっていないとは?」
「アロンがユリスに手出したらどうする!」
「はぁ」
気の抜けた返事をするブルース兄様は、清々しい朝だというのに疲れた顔をしていた。
ところで手を出すってマジでなに? アロンってそんなに暴力的な人だったっけ? 意味わからん。
「起きてるよ、起きてるからそんな大声出さないで」
弱々しく答えたオーガス兄様は、朝から眠そうだった。横のニックは、しゃきっとしているのに。
ふにゃふにゃしているオーガス兄様を急かす。早くしないと湖に行く時間がなくなる。急いで急いでと頑張って急かせば、オーガス兄様は「そんなに急がなくても。湖は逃げないよ」と苦笑する。
「ところでさ、なんか朝から廊下が騒がしかったけど。何かあったの?」
「あ。みんなが俺のこと探してたの」
「探す? なんで?」
首を捻るオーガス兄様は、心底不思議そうであった。どうやら起床してから外に出ていないらしい兄様は、朝のちょっとした騒動を知らないらしい。てか騒がしいと思ったのなら廊下に顔を出してみればいいのに。そうしないあたり、さすがビビリのオーガス兄様である。
「ジャンが俺を起こしにきたけど、俺がいなかったからちょっと探したんだって」
「君はどこに居たのさ」
「アロンと寝てた」
「は?」
は? と再度強めに声を発したオーガス兄様は、みるみる目を見開く。
「え、な、は?」
「オーガス兄様、ちゃんと喋って」
そんな一音だけ並べられても意味がわからん。長男なんだからしっかりしろ、と釘を刺せば、オーガス兄様が「はぁ⁉︎」と馬鹿でかい声を上げた。
びっくりする俺。
そんな突然大声出さなくても。俺についてきていたジャンも、ビクリと大きく肩を揺らしていた。
「なにそれ⁉︎」
「いいから早く準備して。置いて行くよ?」
「それどころじゃなくない⁉︎」
「なんだと!」
湖見に行く以上に大事なことなんてない。相変わらず意味不明なところに突っかかってくるオーガス兄様の相手は大変である。
早くしろと身振り手振りで頑張ってお伝えするのだが、オーガス兄様は逆に床に蹲ってしまう。なんでそうなる。はよ立て。
両手を床について土下座のような姿勢をとった兄様は「あのクソ野郎が……!」と、突如誰かの悪口を言い始める。しかし言い方からして、相手はアロンだろう。この屋敷でクソ野郎といえば彼しかいない。
ドンっと床を殴ったオーガス兄様は、直後に「痛い」と情けない声を上げている。この人マジでなにがしたいの?
困った末にニックを見上げれば、彼はものすごい目で俺を凝視していた。
「え? なにがどうなったらそうなるんですか?」
「なにが?」
「アロンと寝るって」
「うん」
「部屋に入れたんですか? あのクズを」
「ううん。俺がアロンの部屋にお邪魔した」
はぁ? と目を剥いたニックは、「え? それでなにしたんですか?」と訊いてくる。なにしたってなに。一緒に寝たって言ってるだろうが。
「そんなの認めないからな!」
「オーガス兄様、急に大声出さないで」
耳を塞いでうるさいアピールすれば、オーガス兄様は謝るどころか勢いよく立ち上がった。さっきから俺の話聞いてないな? オーガス兄様の暴走はいつものことである。ジトッと半眼になる俺に構わず、オーガス兄様は部屋を飛び出して行った。相変わらず勢いだけはすごい。その後を慌ててニックが追っている。
しんと静かになった室内にて、俺はジャンと顔を見合わせた。
※※※
「アロンは⁉︎」
「……あいつなら外だと思いますが。あの? どうかしましたか、兄上」
勢いよくブルース兄様の部屋に飛び込んだらしいオーガス兄様の後を追う。
案の定、オーガス兄様がすごい形相でブルース兄様に詰め寄っている。意味がわからず困惑するブルース兄様は、入口に佇む俺に気が付いて眉を寄せた。その顔には「またおまえは余計なことしやがって……!」とはっきり書いてある。俺はなにもしてないけどな。
「あのクソ野郎が! ついに弟に手を出しやがった!」
「あ、あぁその話」
遠い目をしたブルース兄様は、オーガス兄様を落ち着かせようと奮闘している。
「いえあの、落ち着いてくださいよ、兄上。ただの添い寝ですって、添い寝」
「そ、添い寝ぇ?」
きょとんとしたオーガス兄様は、しかしすぐさま険しい顔に戻ってしまう。
「添い寝もダメだよ!」
「そうですか」
一発ぶん殴りたい、とバイオレンスなことを呟くオーガス兄様は泣いていた。本当にすぐ泣く長男である。
だが俺はできた弟なので。ジャンに用意してもらったハンカチをポケットから取り出して、咽び泣くオーガス兄様に差し出した。
「泣かないで。困ってるなら俺が相談に乗るよ」
「まさに君が原因で困ってるんだけど」
嫌味を言いつつもハンカチを受け取った兄様は、涙を拭う。
「あの、兄上」
「なんだい、ブルース」
「なにをそんなに取り乱すことが? 確かにアロンの私室に入ったことは問題ではありますが、なにもそんなショックを受けなくとも」
「君はなんにもわかってない!」
ビシッと、ブルース兄様を指差すオーガス兄様。その仕草に俺はハッとする。口煩いティアンにいつも言われていることを、そのままお伝えしておくべきだ。
「人を指差したらダメなんだぞ!」
「え、あ、そうだね。ごめん」
わる兄様め! とオーガス兄様の周りをくるくるまわれば、ジャンが青い顔して俺を止めにくる。
咳払いをしたブルース兄様は、仕切り直すように再び口を開く。
「なにもわかっていないとは?」
「アロンがユリスに手出したらどうする!」
「はぁ」
気の抜けた返事をするブルース兄様は、清々しい朝だというのに疲れた顔をしていた。
ところで手を出すってマジでなに? アロンってそんなに暴力的な人だったっけ? 意味わからん。
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