冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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184 ひらめき

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 その日の夜。
 ベッドの中で、俺はすごいことをひらめいた。

 魔導書持っているのはマーティーかもしれない、と。

 前にマーティーと遊んだ際、なんか帰り際に預かっている箱をどうにかしろ云々言われた。あの時は黒猫ユリスが見るなの一点張りで中身を教えてくれなかった。その箱の中に魔導書が入っているのでは?

 そっと、横で丸くなる黒猫の様子を見る。寝息を立てる黒猫は夢の中だ。

 黒猫ユリスに、例の箱とやらの中身を訊いても教えてはくれないだろう。そんな予感がする。なんか頑なに隠している様子だったしな。

 であれば、黒猫ユリスにこの件は黙っておいた方がいいかもしれない。

 なんとかこの件について探っていることがバレないよう秘密で調べなければならない。もともとユリスには変な収集癖があるっぽい。部屋の中にも使い道不明のガラクタが多数ある。いつもジャンが片付けに苦労している。

 そんな変な物が好きな本物ユリスが、読み終わったというシンプルな理由で魔導書なんて面白そうな物を手放すわけがないと思う。

 もう一度マーティーに会って、例の箱とやらを回収しないと。


※※※


「マーティーと遊ぶ」
「この前遊んだだろ」
「もう一回遊ぶ」

 そんなに楽しかったのか? と首を捻るブルース兄様は、微妙な表情だ。なんだその反応は。単に従兄弟と遊ぶだけだ。渋る理由がどこにある。

 例の箱の中身を確認しようと思い立った翌日。

 さっそくブルース兄様の元を訪れていた俺は、ちょっとした困難に直面していた。遊びに行くのをブルース兄様が許可してくれない。まさかここで躓くとは思っていなかったので驚きだ。

「ちょっと遊ぶだけだから。なんでダメとか言うの」
「ダメとは言わんが」

 言葉を切った兄様は、タイラーに視線を向ける。

「おまえ、マーティーを泣かしたそうじゃないか」
「泣かせてはない。マーティーが勝手に泣いただけ」

 なにやら子供扱いされることを非常に気にするらしいマーティーは、ちょっとしたことですぐに泣いてしまう。それはマーティーの性格の問題であって、決して俺のせいではないと思う。

 そういうことを淡々とブルース兄様に説明してやるが、兄様の眉間の皺は取れない。それどころかますます深くなる。老けて見えるからやめろと言っているのに。

「おまえが王宮に行くとエリック殿下もうるさいからな」
「俺ってエリックに嫌われてたっけ?」

 首を捻ると、ブルース兄様が「逆だ」と訂正してくる。

「結婚がどうとかうるさいだろう。なんであんなに好かれたんだ?」
「俺が美少年だからだ。どうしよう」
「だからそのポジティブさはなんなんだ」

 頭を抱えたブルース兄様は、「そういうわけでダメだ」と言い放つ。そういうわけってどういうわけ? 納得いかない。

「マーティーと遊ぶだけ。エリックとは会わないから!」
「おまえが会わないと言っても殿下が放っておかないだろ」
「エリックめ!」

 俺が美少年なばっかりに。面倒な事態になってしまった。

 だがマーティーに会わないことには(正確には例の箱を渡してもらわないことには)前に進めない。きっとマーティーが魔導書を持っているはずなのだ。どうにかして入手しなければならない。

 だってせっかく異世界に来たのに魔法はたいして役に立たない世界だ。せめて魔導書くらいは見てみたい。それに本物ユリスが頑なに存在を隠していることが俺の好奇心を非常にくすぐる。オーガス兄様にも見せない徹底ぶりである。よほど面白いことが書いてあるに違いない。

「……じゃあマーティーをここに呼ぶ。そしたらエリックとは会わなくて大丈夫になるよ」

 妥協案を提案すれば、ブルース兄様が眉を顰める。

「そこまでしてマーティーに会いたいか?」
「うん。マーティーとは親友になったから」
「本当か?」

 なにやら疑いの目を向けてくるブルース兄様の説得には苦労した。しかし持ち前の粘り強さを活かして延々と「いいでしょ? いいでしょ?」と側で言い続けたところ、ブルース兄様は渋々といった感じで了承してくれた。

「そのしつこさはなんなんだ」

 疲れた顔で呟く兄様は、マーティーをこの屋敷に招待してくれるという。あとはマーティーへの招待状に例の箱をもってこいと書き添えるだけだ。黒猫ユリスに見つからないようこっそりお手紙を書こうと思う。

 ふんっと気合いを入れる俺に、ブルース兄様が呆れたような目を送ってくる。「遊んでばかりいないで勉強もしろよ?」と小言をぶつけてくるが、聞こえないフリをしておいた。
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