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183 挙式ってなに

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「オーガス兄様の相手は面倒だからもう帰っていい?」
「なんでそれを本人に直接言うのかな? もうちょっと僕に配慮して」
「はいはい、配慮配慮」
「適当に流さないで?」

 ぐちぐち文句を言うオーガス兄様の相手は楽しくない。黒猫ユリスは楽しそうに『いいぞ! そのまま失恋しろ!』とはしゃいでいるから相談ならそっちにしてほしい。多分話だけは真剣に聞いてくれると思う。アドバイスは期待できないけど。

「そこの猫に相談しなよ」
「ユリスが酷い」

 しくしくと涙を拭うフリをしてみせたオーガス兄様は、キャンベルがどうのとぐちぐち言っている。

「ブルース兄様に相談しなよ」
「無理だよ。なんか僕らの結婚に反対みたいだし。それになんか怒ってるんだもん」
「ブルース兄様はすぐ怒る」

 俺もしょっちゅう怒られているから同情する。ブルース兄様は眉間のシワをどうにかするべきだと思うのだ。

「じゃあ頑張ってね、オーガス兄様。俺もちょっとだけ応援するから」
「なんでちょっとなの? 本気で応援してくれてもよくない?」
「さよなら」

 ばいばいと大きく手を振って、温室をあとにする。外に出た瞬間、ジャンがわかりやすくホッとしていた。タイラーとティアンも胸を撫で下ろしている。

 オーガス兄様は長男だからな。彼らも緊張したのだろう。

『おまえもいい仕事するな。次にオーガスを泣かせる時も僕を呼べよ』

 変な念押しをしてくる黒猫ユリスは、オーガス兄様が困って泣き喚く場面がお気に入りらしい。嫌な猫だな。

 そうして部屋に戻った俺は、まったりとおやつを食べる。朝ケーキ食べたでしょ、と眉を寄せたタイラーが本日のおやつは少なめにしてしまったので不満である。あれはオーガス兄様の部屋を退出するのと引き換えに手に入れたケーキである。おやつとは別カウントにすべきだ。後出しは卑怯だぞ。

 そうしてティアンのクッキーと自分のクッキーを見比べつつ、おやつタイムを満喫した俺。「そんなに見ても僕の分はあげませんよ」と唇を尖らせるティアンは相変わらずお子様だな。ティアンの方が枚数多いんじゃないかと確かめていただけだ。決してティアンのおやつを奪うためではない。

 紅茶を飲みつつまったりしていると、突然やってきたアロンが「俺の分はないんですか?」と皿を覗き込んでくる。あるわけないだろ。おやつの時間にふらっとやって来て横から奪おうとするなんて嫌な大人だ。

「ブルース兄様とオーガス兄様って喧嘩中なの?」
「そうなんですか?」

 なんでお訊ねしているのに疑問で返すのか。どうやら仕事をサボっていたらしいアロンは、兄ふたりの言い争いを詳しくは把握していないらしい。

「それよりユリス様にご報告がありまして」
「なに?」

 アロンの報告とか嫌な予感しかしないけどな。だが俺は暇してた。だから話くらいは聞いてやろうと思う。ふんぞり返って腕を組めば、ティアンが「やめなさい」と冷たい目をする。

 ブルース兄様は許されるのに、なんで俺は許されないのか。そんなの差別だ。許してはいけない。

「俺にやめて欲しければ、ブルース兄様にもやめさせるんだな」
「またそんな屁理屈言う」
「屁理屈じゃないから」

 すぐに俺を悪者にするティアンは、嫌そうに眉を寄せる。どうせあれだろ。俺には注意できるけど、ブルース兄様相手だと注意できないってやつだろ。ひどい差別だ。

 黙り込んだティアン。どこからどう見ても俺の勝利だった。

 ふふんっと胸を張っていれば、アロンが「そろそろ俺の話してもいいですか?」と割り込んでくる。どうぞ、と促せばアロンがにこっと微笑む。

「キャンベル嬢との縁談はお断りしてきました。オーガス様のこともありますし」
「へー」

 そういやそんな話になっていたな。どうでもいい話に適当に相槌を打っておく。すると俺の横に片膝を付いたアロンが、そっと俺の右手を取ってくる。

「これで心置きなく俺とお付き合いできますね」
「なんで?」
「? 俺がキャンベル嬢と縁談するから嫉妬していたのではないんですか?」
「別に」

 なんで俺が嫉妬しないといけないのか。違うと首を振るが、アロンは「またまたぁ」と言って相手にしてくれない。相変わらずのポジティブだ。

「いつにしますか? 挙式」
「ひとりで挙げるの? 式」
「まさか。ユリス様とですよ」

 ひとり突っ走るアロンの相手は大変だ。ちらりとタイラーに視線を遣れば、やれやれと肩をすくめていた。

「タイラー。アロンをどうにかして」
「無茶言わんでください」

 なんでだよ。いつもの口煩さをアロン相手に発揮してみろ。頑張れタイラー!
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