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182 やっぱり面倒な兄

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 いそいそと俺をガーデンテーブルに座らせたオーガス兄様は、真剣な顔で向かいに腰掛けた。そんなふうに見つめ合う俺らを、ティアンとタイラーそしてジャンが心配そうな顔で見守っている。

「俺いま忙しいんだけど」
「猫探すだけでしょう? 暇じゃん」

 暇ではない。大忙しだ。

「それでね、さっきキャンベルに会ってきたんだけどさ」
「振られたんでしょ! オーガス兄様あわれ!」
「振られてはないから! そんな勢いよく憐れまないで」

 ひどいと泣き真似をしたオーガス兄様に、俺は首を傾げる。振られたんじゃないの? だったらあの落ち込み方はなんなのだ。あれは失恋した時の落ち込み方だった。

「結婚して欲しいって言ったら一応は頷いてくれたんだ」
「よかったね。お祝いに猫触らせてあげる。ちょっとだけね」

 ほんのちょっとだけだよと念押しするが、オーガス兄様は微妙な顔である。もしかして一日貸せとか言うつもりか。調子に乗るんじゃない。

「どうしてそんな俺の猫を奪おうとしてくるの」

 酷い兄だと睨みつければ、「僕がいつ君の猫を奪おうとしたよ」と困惑顔が返ってきた。しらばっくれても無駄だぞ。オーガス兄様の魂胆はお見通しなのだ。

「猫はとらないからさ。僕の話聞いてよ」

 ふむ。猫を諦めるなら話くらいは聞いてやる。こくんと頷けば、オーガス兄様が身を乗り出す。

「でね。一応はいいって言ってもらえたんだけどさ。あれ絶対本心じゃないんだって。僕相手に遠慮してとりあえず了承した感がすごかったんだよ」
「じゃあ別にキャンベルはオーガス兄様のこと好きじゃないんだ。オーガス兄様憐れだね」
「だから憐れまないでよ」

 どうしたらいいと思う? と問いかけてくるオーガス兄様は、果たして十歳児になにを期待しているのだろうか。困ってティアンたちを振り返るが、静かに首を左右に振られてしまった。どうやら手がないようだ。相手はオーガス兄様だからな。一応長男だし、ティアンたちでは対処できないのだろう。

「どうやったらキャンベルに好きになってもらえるかな」
「お菓子でもあげればいいんじゃない? キャンディーはダメだよ。あれはもらって嬉しいお菓子ランキングの下の方だから。ケーキにしなよ。大きいケーキ」
「いくらなんでもそんな簡単にはいかないよ」

 苦笑した兄様は、「そういえば」と質問を重ねてくる。

「ユリスはどうやってデニスに好きになってもらえたの? なんかすごい君に惚れているみたいだったけど」
「うーん」

 俺に訊かれても。
 デニスが惚れたのは小さい頃の本物ユリスだ。だが今そこで丸くなっている黒猫こそが本物ユリスである。じっと凝視していれば、『美味い菓子をたくさんやったら僕に惚れたみたいだぞ』と教えてくれた。

「美味しいお菓子たくさんあげたら好きになってもらえた」
「いいな、子供は簡単で」

 羨ましいと頭を抱えるオーガス兄様は、俺のアドバイスを実践するつもりはないらしい。せっかく親身になってあげたのに。

「キャンベルに言えばいいじゃん。オーガス兄様のことが嫌いなら結婚お断りしてもいいよって。遠慮せずにって」
「それは嫌だ」

 なんで? 遠慮されてキャンベルの本音がわからないのが嫌なんだろ。だったら遠慮せずに全部思ったことを言ってもらえれば解決だ。簡単である。

 しかしオーガス兄様は再び「それは嫌」と力強く宣言する。

「なんで?」
「そんなこと訊いたりしてさ、万が一キャンベルに嫌いって言われたら僕はもう立ち直れない」
「オーガス兄様って面倒くさいね」
「ごめんね、面倒な兄で」

 目を伏せたオーガス兄様は、深くため息を吐く。ため息つきたいのはこっちだよ。
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