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176 なんかオシャレだね
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「オーガス兄様、今日はなんかオシャレだね」
「そう?」
「いつもはもっと寝癖ひどいのに」
「え。嘘でしょ」
「嘘だよ」
なんでそんなくだらない嘘をつくんですか、と俺を見下ろすニックもなんかオシャレしてた。ふたりして浮かれている。こりゃ絶対になんかあるぞ。
「ニックも気合十分だね」
「気合というか、正装しているだけですよ」
「ほう」
なんだかかっちりした服装のニックはそう言って腕を組む。いつもの黒い騎士服になんかチャラチャラ飾りが付いて豪華バージョンだ。
今日は朝から屋敷が騒がしかった。
楽しいことが起こる気配を察知した俺は、早速部屋を出た。慌ててコートを手にしたジャンとタイラーが追いかけて来た。外に行くわけではないからコートはいらない。ちょっと兄様の部屋にお邪魔するだけだ。
ブルース兄様の部屋をノックしたのだが、反応がない。ノブをガチャガチャするが開かなかった。不在らしい。「勝手に開けない」とタイラーが小言をぶつけてくるが今はそれどころではない。
くるりと踵を返した俺は、オーガス兄様の部屋を目指す。そうして勢いよく突撃した俺を出迎えたオーガス兄様とニックは、なんだかオシャレをしていた。
「なにかあるの?」
これは絶対に楽しいことがあるに違いない。わくわくしながら訊ねれば、ニックが「なにもないですよ」と明らかな嘘をつく。騙されないぞ、俺は。
「じゃあなんでそんなにオシャレしてんの」
「オーガス様はいつもこんな感じです」
「ニック。嘘はダメだよ。オーガス兄様はいつもなんかふにゃってしてる。こんなきっちりしてない」
ふにゃってなに? と首を捻るオーガス兄様は、しきりに鏡を覗き込んでいる。身だしなみチェックに余念がない。絶対になにかある。
「もしかしてお出かけ? 俺も行く!」
「違います。お出かけではないです」
きっぱり否定したニックは、タイラーに向かって「どうにかしろ」と小声で囁いている。
「なにをどうにかするの?」
俺抜きで会話をするんじゃない。ふたりに駆け寄れば、ニックが明らかに「げっ」と嫌な顔をした。
「ユリス様。オーガス様はお忙しいので、お部屋に戻りましょうね」
「ねぇ。なにをどうにかするの?」
俺の肩を背後からガッチリ掴んでくるタイラーは、そのまま廊下に出ようとしてしまう。踏ん張って抵抗すれば、なんだかニヤニヤ顔で襟元を整えるオーガス兄様の姿が目に入った。
「オーガス兄様。お出かけ?」
「ん? 違うよ」
「じゃあお客さん?」
「……」
すっと黙り込んだオーガス兄様は、視線を逸らしてしまう。これは間違いない。お客さんが来るんだ。いつも屋敷内で暇している俺にとっては大事件だ。
「俺も! 俺もおもてなしする!」
「ユリス様」
「どうした、タイラー」
「お部屋に戻ってケーキでも食べますか? ご用意しますよ」
「ケーキ‼︎」
朝からケーキなんてついている。急なラッキーにわーいと両手を上げた俺であったが、はっと気が付く。
いつもは小言ばかりで好き嫌いはダメとうるさいタイラーが、おやつの時間でもないのに俺にケーキを食べていいと言うなんて。これはあれだ。罠だ。罠に違いない。俺をこの場から追い出すつもりだ。
「その手にはのらないぞ!」
ビシッと指を突きつけてやれば、オーガス兄様が「急に成長しないで⁉︎」と変ないちゃもんをつけてくる。いつ成長しようが俺の勝手でしょうが。あと兄ならば弟の成長を喜べ。
「いつもならケーキで釣られてくれるのに」
悔しい顔をしたオーガス兄様は、しきりにニックとアイコンタクトをとっている。
「ユリス様? オーガス様のお邪魔になるので戻りましょうね」
再び俺を外に出そうとするタイラー。ジャンに俺の味方をするよう求めるが、気弱な彼は目を伏せるばかりで俺のアイコンタクトに気が付いてくれない。
「ユリス様。天気がいいのでお散歩でもしますか?」
「今忙しい」
「噴水でも見に行きますか?」
「行く!」
なんてこった。いつもは寒いとか危ないとか言って近付くのを阻止してくるのに。だがこれはチャンスだ。またとない機会だ。
オーガス兄様は気になるが、後で誰が来たか教えてくれればそれでいいや。
「行くぞ! ジャン!」
「はい、ただいま」
手にしていたコートを俺に着せたジャンは、オーガス兄様に一礼する。そうしてジャンとタイラーを引き連れて、俺は噴水へと向かった。
「そう?」
「いつもはもっと寝癖ひどいのに」
「え。嘘でしょ」
「嘘だよ」
なんでそんなくだらない嘘をつくんですか、と俺を見下ろすニックもなんかオシャレしてた。ふたりして浮かれている。こりゃ絶対になんかあるぞ。
「ニックも気合十分だね」
「気合というか、正装しているだけですよ」
「ほう」
なんだかかっちりした服装のニックはそう言って腕を組む。いつもの黒い騎士服になんかチャラチャラ飾りが付いて豪華バージョンだ。
今日は朝から屋敷が騒がしかった。
楽しいことが起こる気配を察知した俺は、早速部屋を出た。慌ててコートを手にしたジャンとタイラーが追いかけて来た。外に行くわけではないからコートはいらない。ちょっと兄様の部屋にお邪魔するだけだ。
ブルース兄様の部屋をノックしたのだが、反応がない。ノブをガチャガチャするが開かなかった。不在らしい。「勝手に開けない」とタイラーが小言をぶつけてくるが今はそれどころではない。
くるりと踵を返した俺は、オーガス兄様の部屋を目指す。そうして勢いよく突撃した俺を出迎えたオーガス兄様とニックは、なんだかオシャレをしていた。
「なにかあるの?」
これは絶対に楽しいことがあるに違いない。わくわくしながら訊ねれば、ニックが「なにもないですよ」と明らかな嘘をつく。騙されないぞ、俺は。
「じゃあなんでそんなにオシャレしてんの」
「オーガス様はいつもこんな感じです」
「ニック。嘘はダメだよ。オーガス兄様はいつもなんかふにゃってしてる。こんなきっちりしてない」
ふにゃってなに? と首を捻るオーガス兄様は、しきりに鏡を覗き込んでいる。身だしなみチェックに余念がない。絶対になにかある。
「もしかしてお出かけ? 俺も行く!」
「違います。お出かけではないです」
きっぱり否定したニックは、タイラーに向かって「どうにかしろ」と小声で囁いている。
「なにをどうにかするの?」
俺抜きで会話をするんじゃない。ふたりに駆け寄れば、ニックが明らかに「げっ」と嫌な顔をした。
「ユリス様。オーガス様はお忙しいので、お部屋に戻りましょうね」
「ねぇ。なにをどうにかするの?」
俺の肩を背後からガッチリ掴んでくるタイラーは、そのまま廊下に出ようとしてしまう。踏ん張って抵抗すれば、なんだかニヤニヤ顔で襟元を整えるオーガス兄様の姿が目に入った。
「オーガス兄様。お出かけ?」
「ん? 違うよ」
「じゃあお客さん?」
「……」
すっと黙り込んだオーガス兄様は、視線を逸らしてしまう。これは間違いない。お客さんが来るんだ。いつも屋敷内で暇している俺にとっては大事件だ。
「俺も! 俺もおもてなしする!」
「ユリス様」
「どうした、タイラー」
「お部屋に戻ってケーキでも食べますか? ご用意しますよ」
「ケーキ‼︎」
朝からケーキなんてついている。急なラッキーにわーいと両手を上げた俺であったが、はっと気が付く。
いつもは小言ばかりで好き嫌いはダメとうるさいタイラーが、おやつの時間でもないのに俺にケーキを食べていいと言うなんて。これはあれだ。罠だ。罠に違いない。俺をこの場から追い出すつもりだ。
「その手にはのらないぞ!」
ビシッと指を突きつけてやれば、オーガス兄様が「急に成長しないで⁉︎」と変ないちゃもんをつけてくる。いつ成長しようが俺の勝手でしょうが。あと兄ならば弟の成長を喜べ。
「いつもならケーキで釣られてくれるのに」
悔しい顔をしたオーガス兄様は、しきりにニックとアイコンタクトをとっている。
「ユリス様? オーガス様のお邪魔になるので戻りましょうね」
再び俺を外に出そうとするタイラー。ジャンに俺の味方をするよう求めるが、気弱な彼は目を伏せるばかりで俺のアイコンタクトに気が付いてくれない。
「ユリス様。天気がいいのでお散歩でもしますか?」
「今忙しい」
「噴水でも見に行きますか?」
「行く!」
なんてこった。いつもは寒いとか危ないとか言って近付くのを阻止してくるのに。だがこれはチャンスだ。またとない機会だ。
オーガス兄様は気になるが、後で誰が来たか教えてくれればそれでいいや。
「行くぞ! ジャン!」
「はい、ただいま」
手にしていたコートを俺に着せたジャンは、オーガス兄様に一礼する。そうしてジャンとタイラーを引き連れて、俺は噴水へと向かった。
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