185 / 637
175 子分の不満
しおりを挟む
「今日って授業がある日では?」
サボったらダメですよ、とお兄さんぶるティアンを適当にあしらって俺は騎士棟前で仁王立ちしていた。
今日こそ決着をつけなければならない。
お目当ての人物はそろそろここを通りかかるはずである。アロンからの情報だ。間違いはないだろう。
午後。俺の元にのこのこやってきたティアンを引き連れて、俺は騎士棟前に張り込んでいた。背後には困り顔のジャンと、呆れ顔のタイラーがいる。
「ユリス様。お勉強しないとダメですよ。そろそろカル先生がいらっしゃる時間です」
部屋に戻ろうとうるさいタイラーに構っている暇はない。
「あ! 来た!」
お目当ての人物を見つけた俺は、気合を入れるために拳を握った。
「子分その2!」
「げぇ」
俺の顔を見るなり嫌な顔をしたニックは、そのまま回れ右しそうな勢いであった。
「ニック!」
「なんですか、ユリス様」
俺忙しいんですけど、と多忙アピールをしてくるニックは騎士棟に用があるらしい。いつも昼過ぎのこの時間になると騎士棟にある食堂へと足を運んでいるとアロンに教えてもらっていた。
ジャンとタイラーは交代で食事をとる。俺をひとりにしないという強い意志を感じる。もうちょっと俺から目を離しても大丈夫だと思う。
屋敷の方にも厨房はあるが、なぜかニックは毎日騎士棟の方で食事を取るらしい。そこら辺は個人の自由だからどうでもいいけど。
そうして遅めの昼食をとりにきたニックを待ち構えていた俺は、早速本題に入ることにする。はやくしないとタイラーがうるさいからな。
「俺のどこが不満なんだ!」
「……その話、今じゃないとだめですか?」
「うん、だめ」
俺は最近ニックに避けられている気がする。彼のことを呼んでも一回で返事しなかったり、酷い時には無言で睨んできたりもする。そんなに嫌われるようなことをしただろうか。
ニックはなんかセドリックの信者らしく(アロン情報なので真偽は定かではない)、俺がセドリックを解任したと勘違いしていた彼が俺に冷たくするのはまだ理解できる。
しかしその誤解は解けたはず。セドリックを解任したのがオーガス兄様だと知ったニックはめっちゃ怒っていた。しばらくオーガス兄様をすごい目で睨んでいた。オーガス兄様がずっとビクビクしていた。
俺がセドリック解任の件とは無関係と分かった以上、ニックは俺の親友になったはずである。それなのに最近ニックの俺に対する態度が冷たい。これは何か俺に対して不満があるものと思われる。察しの良くておまけに気遣いもできる俺は早速行動へと移した。
「で? 俺のなにが不満?」
「べつに不満と言う程では」
視線を彷徨わせたニックは、困ったように頬を掻いている。
ニックが俺に対して不満を抱いているというのであれば、それを解決するまでだ。俺だって大人である。ちょっとくらいなら妥協する。そう思って問いただすのだが、ニックはなかなか不満を口にしない。
「不満ないの? じゃあなんで俺に冷たいの。わかった。俺が美少年過ぎて近寄り難いってこと⁉︎」
「相変わらず自己評価高くて羨ましいですね」
だってユリスは美少年だ。黒髪黒目のクール系美少年だ。
「あのですね、ユリス様」
「俺に恋人ができて嫉妬してるのか⁉︎」
「話聞いてくださいね? いちいちそんなんで嫉妬なんてしません」
「でもアロンは嫉妬してたよ。俺のことが羨ましいって言ってた」
「いや、あの人はユリス様ではなくお相手の方に嫉妬を。いやどうでもいいんですよ、この話は」
どうでもよくないが?
俺に恋人できたんだぞ? すぐに別れたけど。それでも重大事件であることに変わりはない。
「あのね、すごく大変だったんだから。お付き合い」
「そうですか。ユリス様に恋愛ははやかったってことですね」
「違う」
今回は相手が悪かっただけだ。顔だけで決めてその後苦労した。性格大事と身をもって知った。
「あの、もういいですか? 俺、時間ないんで」
「俺もない。もうすぐカル先生くる」
「じゃあここでお開きにしましょう!」
お疲れ様です、と頭を下げて先を行こうとするニックを慌てて引きとめる。
「まだ話は終わってないぞ!」
「勘弁してくださいよ」
眉尻を下げたニックは、タイラーに「どうにかしろ」と偉そうに指示している。それを受けてタイラーが俺の肩に手を置いた。
「ユリス様。そろそろ授業の時間ですよ。お部屋に戻りましょうね」
「だってニックが。俺の子分のくせに」
「それですよ!」
なにが?
突然大声を出したニックは、再度「それですよ!」と肩を怒らせる。
「子分というその呼び方が気に入りません」
なんだって?
「でも俺の子分じゃん」
「違います。そこまで成り下がった覚えはありません」
だから成り下がりってなに。俺への悪口じゃん。
ぽかんとしていれば「そういえば子分と呼びかけた時だけ返事してなかったですね」とティアンがわかったように頷いていた。そうなの?
だがニックの不満は理解した。子分呼びが気に食わないということだ。なるほど。
「じゃあなんて呼べばいい?」
「普通に名前でお願いします」
「ニック」
「はい。それで」
理解した。
「じゃあ俺のこともユリスって呼んでね」
「もう呼んでます。ユリス様」
よしよし。
「解決!」
ぱんぱん手を叩いて解散するよう告げれば、ニックが「ではそういうことで」と一礼してから素早く去っていく。
後に残された俺も軽く肩をすくめる。ひと仕事終えて満足した。これでニックとの仲も改善したと言っていい。
「ほら、はやく戻りますよ」
俺の手を引くティアンに先導されて、自室へ戻るとカル先生がいた。
「どこに行ってたんですか?」
教科書を広げながら首を捻るカル先生。
「子分の面倒みてきた」
「はぁ、そうですか」
自分から切り出したくせに興味なさ気に流したカル先生。どうやら早く授業を始めたいらしい。
「憂うつだ」
「はいはい。変なこと言ってないで真面目に聞いてくださいね」
こうして俺は退屈な授業をなんとか乗り切るべく気合を入れたのだった。
サボったらダメですよ、とお兄さんぶるティアンを適当にあしらって俺は騎士棟前で仁王立ちしていた。
今日こそ決着をつけなければならない。
お目当ての人物はそろそろここを通りかかるはずである。アロンからの情報だ。間違いはないだろう。
午後。俺の元にのこのこやってきたティアンを引き連れて、俺は騎士棟前に張り込んでいた。背後には困り顔のジャンと、呆れ顔のタイラーがいる。
「ユリス様。お勉強しないとダメですよ。そろそろカル先生がいらっしゃる時間です」
部屋に戻ろうとうるさいタイラーに構っている暇はない。
「あ! 来た!」
お目当ての人物を見つけた俺は、気合を入れるために拳を握った。
「子分その2!」
「げぇ」
俺の顔を見るなり嫌な顔をしたニックは、そのまま回れ右しそうな勢いであった。
「ニック!」
「なんですか、ユリス様」
俺忙しいんですけど、と多忙アピールをしてくるニックは騎士棟に用があるらしい。いつも昼過ぎのこの時間になると騎士棟にある食堂へと足を運んでいるとアロンに教えてもらっていた。
ジャンとタイラーは交代で食事をとる。俺をひとりにしないという強い意志を感じる。もうちょっと俺から目を離しても大丈夫だと思う。
屋敷の方にも厨房はあるが、なぜかニックは毎日騎士棟の方で食事を取るらしい。そこら辺は個人の自由だからどうでもいいけど。
そうして遅めの昼食をとりにきたニックを待ち構えていた俺は、早速本題に入ることにする。はやくしないとタイラーがうるさいからな。
「俺のどこが不満なんだ!」
「……その話、今じゃないとだめですか?」
「うん、だめ」
俺は最近ニックに避けられている気がする。彼のことを呼んでも一回で返事しなかったり、酷い時には無言で睨んできたりもする。そんなに嫌われるようなことをしただろうか。
ニックはなんかセドリックの信者らしく(アロン情報なので真偽は定かではない)、俺がセドリックを解任したと勘違いしていた彼が俺に冷たくするのはまだ理解できる。
しかしその誤解は解けたはず。セドリックを解任したのがオーガス兄様だと知ったニックはめっちゃ怒っていた。しばらくオーガス兄様をすごい目で睨んでいた。オーガス兄様がずっとビクビクしていた。
俺がセドリック解任の件とは無関係と分かった以上、ニックは俺の親友になったはずである。それなのに最近ニックの俺に対する態度が冷たい。これは何か俺に対して不満があるものと思われる。察しの良くておまけに気遣いもできる俺は早速行動へと移した。
「で? 俺のなにが不満?」
「べつに不満と言う程では」
視線を彷徨わせたニックは、困ったように頬を掻いている。
ニックが俺に対して不満を抱いているというのであれば、それを解決するまでだ。俺だって大人である。ちょっとくらいなら妥協する。そう思って問いただすのだが、ニックはなかなか不満を口にしない。
「不満ないの? じゃあなんで俺に冷たいの。わかった。俺が美少年過ぎて近寄り難いってこと⁉︎」
「相変わらず自己評価高くて羨ましいですね」
だってユリスは美少年だ。黒髪黒目のクール系美少年だ。
「あのですね、ユリス様」
「俺に恋人ができて嫉妬してるのか⁉︎」
「話聞いてくださいね? いちいちそんなんで嫉妬なんてしません」
「でもアロンは嫉妬してたよ。俺のことが羨ましいって言ってた」
「いや、あの人はユリス様ではなくお相手の方に嫉妬を。いやどうでもいいんですよ、この話は」
どうでもよくないが?
俺に恋人できたんだぞ? すぐに別れたけど。それでも重大事件であることに変わりはない。
「あのね、すごく大変だったんだから。お付き合い」
「そうですか。ユリス様に恋愛ははやかったってことですね」
「違う」
今回は相手が悪かっただけだ。顔だけで決めてその後苦労した。性格大事と身をもって知った。
「あの、もういいですか? 俺、時間ないんで」
「俺もない。もうすぐカル先生くる」
「じゃあここでお開きにしましょう!」
お疲れ様です、と頭を下げて先を行こうとするニックを慌てて引きとめる。
「まだ話は終わってないぞ!」
「勘弁してくださいよ」
眉尻を下げたニックは、タイラーに「どうにかしろ」と偉そうに指示している。それを受けてタイラーが俺の肩に手を置いた。
「ユリス様。そろそろ授業の時間ですよ。お部屋に戻りましょうね」
「だってニックが。俺の子分のくせに」
「それですよ!」
なにが?
突然大声を出したニックは、再度「それですよ!」と肩を怒らせる。
「子分というその呼び方が気に入りません」
なんだって?
「でも俺の子分じゃん」
「違います。そこまで成り下がった覚えはありません」
だから成り下がりってなに。俺への悪口じゃん。
ぽかんとしていれば「そういえば子分と呼びかけた時だけ返事してなかったですね」とティアンがわかったように頷いていた。そうなの?
だがニックの不満は理解した。子分呼びが気に食わないということだ。なるほど。
「じゃあなんて呼べばいい?」
「普通に名前でお願いします」
「ニック」
「はい。それで」
理解した。
「じゃあ俺のこともユリスって呼んでね」
「もう呼んでます。ユリス様」
よしよし。
「解決!」
ぱんぱん手を叩いて解散するよう告げれば、ニックが「ではそういうことで」と一礼してから素早く去っていく。
後に残された俺も軽く肩をすくめる。ひと仕事終えて満足した。これでニックとの仲も改善したと言っていい。
「ほら、はやく戻りますよ」
俺の手を引くティアンに先導されて、自室へ戻るとカル先生がいた。
「どこに行ってたんですか?」
教科書を広げながら首を捻るカル先生。
「子分の面倒みてきた」
「はぁ、そうですか」
自分から切り出したくせに興味なさ気に流したカル先生。どうやら早く授業を始めたいらしい。
「憂うつだ」
「はいはい。変なこと言ってないで真面目に聞いてくださいね」
こうして俺は退屈な授業をなんとか乗り切るべく気合を入れたのだった。
412
お気に入りに追加
3,136
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。


実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる