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173 ロニーの恋人
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「ロニー!」
「お久しぶりです、ユリス様」
にこにこ笑顔で俺を歓迎してくれるロニーは最高だと思う。
騎士棟にて。
早速お目当ての長髪男子くんに飛びついた俺は、ここ数日の怒涛の出来事について説明してやった。
「恋人できたんだけどね、別れちゃった」
「ちょっとお会いできない間に随分色々ありましたね?」
苦笑するロニーは「今回はご縁がなかったんでしょうね」と俺を励ましてくれる。めっちゃ優しい。二股なんてかけるからですよ、となぜか俺を責めてくるアロンと大違いだ。
「ロニーは? 恋人と順調?」
そういえばロニーの恋人について具体的な情報をなにひとつ知らない。好奇心のままにぐいぐい質問すれば、ロニーがちょっと困ったような顔をする。もしやなにかあったのか?
「俺もロニーの恋人に会ってみたい」
「え」
驚愕の表情を見せたロニーは、なぜか俺の背後に控えるジャンに視線を投げる。だがそれも一瞬のことで、すぐに俺へと顔を戻すと困ったように頬を掻いた。
「実は、私も先日別れまして」
「え!」
なんてこった。こんな魅力的で優しい長髪男子くんとお別れするなんてどこの誰だ。信じられない。
「ロニー可哀想!」
とりあえず励ましてやろうと抱きつけば、苦笑したロニーが俺の背中に手を回して応じてくれる。
ちなみにタイラーはこの件については知らなかったらしく「え、ロニーさん恋人いたんですか?」と目を丸くしている。ロニーはタイラーの先輩らしく、「みんなには内緒ね」と砕けた態度でタイラーを口止めしていた。
「なんで別れちゃったの?」
ロニーでも失敗することがあるなんて。こりゃ恋愛ってものすごく難しいぞ。今後の参考に理由を訊いてみれば、ロニーが一瞬動きを止めた。だがすぐに柔らかく笑った彼は、「ユリス様は? どうして別れるなんてことに?」と小首を傾げる。
「あのね、性格の不一致だよ。好きなことが全然違った」
「そうですか。じゃあ私もそれで」
なるほど。ロニーもお互いの性格で苦労したのか。ロニーは優しいからな。ついつい相手に合わせてしまって我慢の限界が来たってところだろう。
わかるよとうんうん頷いている俺の後ろで、ティアンが「じゃあ私もそれでってなんですか? 適当すぎません?」と文句を言っている。ロニーにいちゃもんつけるとは何事だ。やめなさい。
「ちなみに恋人のどこが好きだったの?」
「ユリス様は?」
「俺? 俺はね、顔。顔が可愛かった」
「じゃあ私もそういうことで。顔が好みだったんですよ」
なるほどなるほど。
俺と一緒だ。俺とロニー、気が合うかもしれない。やったね。
「サムおすすめだよ」
「おすすめ」
とりあえずフリーになったのならサムを応援してあげないと。サムはロニーのことが好き過ぎてうちの騎士団に潜入までしていた健気な男だ。そろそろ報われてもいいと思う。
先日、ロニーに恋人がいることをお伝えしたらサムは多分だけどショックを受けていた。本人は頑張ってにこにこしていたが、俺にはわかる。あれはショックのあまりなんかこう、自分を誤魔化していたに違いない。可哀想なサム。
「あの、ユリス様」
「なに? ロニー」
「申し上げにくいのですが、サムはちょっと。私のタイプではありませんので」
「え!」
サム可哀想! なんか普通に振られてるよ。
「わ、わぁ。サムあわれ」
「勝手に憐れまないであげてください」
いきなり首を突っ込んできたティアンがそんなことを言う。だが確かに。憐れむのはまだ早いかもしれない。
「あのねロニー」
「はい?」
「人はね見た目だけじゃないから」
「……はい」
苦笑しつつも俺の言葉に真剣に耳を傾けてくれるロニーに教えてあげる。
「顔が良くてもね、性格がクソな人って結構いるから。アロンみたいに」
「はぁ、そうですね」
「その逆でね、顔がちょっと好みじゃなくても性格がめちゃくちゃ良い人もいるから。サムもそうかもしれないよ」
「そうですね」
「わかった?」
「はい」
ユリス様は大人ですね、と俺を褒めるロニーはわかっている。さすが長髪男子くん。
仕事があるというロニーの邪魔をするわけにはいかないので早々に引き上げた。持参したクッキーを渡したところすごく喜んでくれた。よかった。
「大人って言われちゃった」
騎士棟からの帰り道。へへっと笑えば、ティアンが「お世辞に決まっているでしょ」と嫌味を言ってくる。どうやら俺だけ大人扱いされたことが気に入らないらしい。さすがお子様。器が小さいな。
もしかしたら自分だけクッキーもらえなくて拗ねているのかもしれない。確かにね。一番お子様のティアンにクッキーあげなかった俺も悪いな。部屋に戻ったら残りをティアンにも分けてやろうと考えながら歩いていると、タイラーが「それにしても」と変な顔をした。
「ロニーさんってなんかこう、適当ですね? 恋人の話、あれ絶対嘘でしょ」
なんてことを言うんだ、タイラー。ロニーが嘘つくわけないだろ。アロンじゃあるまいし。
しかしそのタイラーのあり得ない主張にティアンが賛同した。
「僕も思いました。恋人のくだりは絶対嘘ですよね」
「そんなことないから! ロニーは嘘つかない!」
なんだこのふたり。さては完璧なロニーに嫉妬でもしているのか。
「ロニーは優しくて嘘つかないもん。だよね、ジャン」
味方を得ようとジャンを振り返れば、彼は「え?」とおかしな顔をする。
「わ、私には判断致しかねます」
さっと目を伏せたジャンは挙動不審である。だが彼がユリスに対して挙動不審なのは毎度のことである。気にしない。
「ロニーは優しいから。なんでそんなこと言うの」
こうして俺は、長髪男子くんの魅力を懇々と三人に教えてあげる羽目になった。
「お久しぶりです、ユリス様」
にこにこ笑顔で俺を歓迎してくれるロニーは最高だと思う。
騎士棟にて。
早速お目当ての長髪男子くんに飛びついた俺は、ここ数日の怒涛の出来事について説明してやった。
「恋人できたんだけどね、別れちゃった」
「ちょっとお会いできない間に随分色々ありましたね?」
苦笑するロニーは「今回はご縁がなかったんでしょうね」と俺を励ましてくれる。めっちゃ優しい。二股なんてかけるからですよ、となぜか俺を責めてくるアロンと大違いだ。
「ロニーは? 恋人と順調?」
そういえばロニーの恋人について具体的な情報をなにひとつ知らない。好奇心のままにぐいぐい質問すれば、ロニーがちょっと困ったような顔をする。もしやなにかあったのか?
「俺もロニーの恋人に会ってみたい」
「え」
驚愕の表情を見せたロニーは、なぜか俺の背後に控えるジャンに視線を投げる。だがそれも一瞬のことで、すぐに俺へと顔を戻すと困ったように頬を掻いた。
「実は、私も先日別れまして」
「え!」
なんてこった。こんな魅力的で優しい長髪男子くんとお別れするなんてどこの誰だ。信じられない。
「ロニー可哀想!」
とりあえず励ましてやろうと抱きつけば、苦笑したロニーが俺の背中に手を回して応じてくれる。
ちなみにタイラーはこの件については知らなかったらしく「え、ロニーさん恋人いたんですか?」と目を丸くしている。ロニーはタイラーの先輩らしく、「みんなには内緒ね」と砕けた態度でタイラーを口止めしていた。
「なんで別れちゃったの?」
ロニーでも失敗することがあるなんて。こりゃ恋愛ってものすごく難しいぞ。今後の参考に理由を訊いてみれば、ロニーが一瞬動きを止めた。だがすぐに柔らかく笑った彼は、「ユリス様は? どうして別れるなんてことに?」と小首を傾げる。
「あのね、性格の不一致だよ。好きなことが全然違った」
「そうですか。じゃあ私もそれで」
なるほど。ロニーもお互いの性格で苦労したのか。ロニーは優しいからな。ついつい相手に合わせてしまって我慢の限界が来たってところだろう。
わかるよとうんうん頷いている俺の後ろで、ティアンが「じゃあ私もそれでってなんですか? 適当すぎません?」と文句を言っている。ロニーにいちゃもんつけるとは何事だ。やめなさい。
「ちなみに恋人のどこが好きだったの?」
「ユリス様は?」
「俺? 俺はね、顔。顔が可愛かった」
「じゃあ私もそういうことで。顔が好みだったんですよ」
なるほどなるほど。
俺と一緒だ。俺とロニー、気が合うかもしれない。やったね。
「サムおすすめだよ」
「おすすめ」
とりあえずフリーになったのならサムを応援してあげないと。サムはロニーのことが好き過ぎてうちの騎士団に潜入までしていた健気な男だ。そろそろ報われてもいいと思う。
先日、ロニーに恋人がいることをお伝えしたらサムは多分だけどショックを受けていた。本人は頑張ってにこにこしていたが、俺にはわかる。あれはショックのあまりなんかこう、自分を誤魔化していたに違いない。可哀想なサム。
「あの、ユリス様」
「なに? ロニー」
「申し上げにくいのですが、サムはちょっと。私のタイプではありませんので」
「え!」
サム可哀想! なんか普通に振られてるよ。
「わ、わぁ。サムあわれ」
「勝手に憐れまないであげてください」
いきなり首を突っ込んできたティアンがそんなことを言う。だが確かに。憐れむのはまだ早いかもしれない。
「あのねロニー」
「はい?」
「人はね見た目だけじゃないから」
「……はい」
苦笑しつつも俺の言葉に真剣に耳を傾けてくれるロニーに教えてあげる。
「顔が良くてもね、性格がクソな人って結構いるから。アロンみたいに」
「はぁ、そうですね」
「その逆でね、顔がちょっと好みじゃなくても性格がめちゃくちゃ良い人もいるから。サムもそうかもしれないよ」
「そうですね」
「わかった?」
「はい」
ユリス様は大人ですね、と俺を褒めるロニーはわかっている。さすが長髪男子くん。
仕事があるというロニーの邪魔をするわけにはいかないので早々に引き上げた。持参したクッキーを渡したところすごく喜んでくれた。よかった。
「大人って言われちゃった」
騎士棟からの帰り道。へへっと笑えば、ティアンが「お世辞に決まっているでしょ」と嫌味を言ってくる。どうやら俺だけ大人扱いされたことが気に入らないらしい。さすがお子様。器が小さいな。
もしかしたら自分だけクッキーもらえなくて拗ねているのかもしれない。確かにね。一番お子様のティアンにクッキーあげなかった俺も悪いな。部屋に戻ったら残りをティアンにも分けてやろうと考えながら歩いていると、タイラーが「それにしても」と変な顔をした。
「ロニーさんってなんかこう、適当ですね? 恋人の話、あれ絶対嘘でしょ」
なんてことを言うんだ、タイラー。ロニーが嘘つくわけないだろ。アロンじゃあるまいし。
しかしそのタイラーのあり得ない主張にティアンが賛同した。
「僕も思いました。恋人のくだりは絶対嘘ですよね」
「そんなことないから! ロニーは嘘つかない!」
なんだこのふたり。さては完璧なロニーに嫉妬でもしているのか。
「ロニーは優しくて嘘つかないもん。だよね、ジャン」
味方を得ようとジャンを振り返れば、彼は「え?」とおかしな顔をする。
「わ、私には判断致しかねます」
さっと目を伏せたジャンは挙動不審である。だが彼がユリスに対して挙動不審なのは毎度のことである。気にしない。
「ロニーは優しいから。なんでそんなこと言うの」
こうして俺は、長髪男子くんの魅力を懇々と三人に教えてあげる羽目になった。
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