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172 恋人のコツ
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「デニスとお別れした」
「あぁ、俺も見てたけどな」
苦い顔をしたブルース兄様は、疲れたとため息をつく。
あの後、己の失態に気が付いた本物ユリスは全力で俺の真似をした、らしい。デニスに向かって馬鹿とかアホとか小学生みたいな悪口を言いまくっていた。ついには「おまえみたいなお子様を僕が相手にするわけないだろ! 顔しか取り柄がないくせに!」と指を突きつけてデニスを激怒させていた。
ひとつ言わせて欲しい。俺はそんなんじゃない。もうちょい語彙力あるから。そんな小学生みたいな喧嘩の売り方しないから。慌てて抗議をしたのだが、本物ユリスは「おまえはいつもこんな感じだろう?」と首を捻るばかりでやめてくれなかった。
そうして怒ったデニスが「もうユリスなんて知らない! こんなお子様が恋人なんてもう嫌!」と大声あげて帰って行ったことで俺たちの勝利が確定した。
長かった。付き合うのはすんなりだったのに、お別れするのはすごく苦労した。
「俺もう気軽に恋人作るのやめる。別れるの大変」
人間に戻ってやれやれと肩をすくめれば、ブルース兄様が「そうだな」と声を絞り出す。
黒猫に戻った本物ユリスは丸くなって欠伸をしている。
『ものすごく疲れた。なんで僕がおまえのフリをしないといけないんだ。おまえが僕に合わせるべきだろ』
そんなこと言われても。
俺の本物ユリスっぷりが板につき過ぎてしまったらしい。本物ユリスに戻ってしまうとそっちの方が周囲に違和感を与えてしまうというよくわからん展開になっている。
落ち込みユリスを励ましてやろうと艶やかな黒毛をもふもふする。わーっと遠慮なしに撫でまわせば『やめろ』と低い声が返ってきた。だがやめない。俺が楽しいので。
「ユリス様に恋人はちょっと早かったですね」
「うるさいぞ、ティアン。早くないから。デニスと性格が合わなかっただけ」
おそらく精神年齢の差が原因だろう。デニスは正真正銘の十一歳。対する俺は高校生。話が合わなくて当然だ。俺の方がずっと大人だから。
疲れたと連呼するブルース兄様は、そのままとぼとぼと帰って行った。自室で休むらしい。なんで俺より疲れているんだろうか、あの人。
「ジャン」
「はい、ユリス様」
「クッキーちょうだい」
「かしこまりました」
とりあえずデニスが置いていったお詫びのクッキーを食べようと思う。わくわくとソファーに腰掛ければ、ティアンが「お菓子もらえればなんでもいいんですか?」と冷たい目をしていた。
「タイラーも食べる?」
目に付いたタイラーにクッキーを一枚差し出せば「お気持ちだけで結構ですよ」とお断りされてしまった。
「恋人って難しいね」
クッキーをもぐもぐしながら呟く。お付き合いってもっと楽しいものだと思っていたのに、そんなに楽しくなかったのは衝撃だ。
やっぱりお相手は大事だな。今回の学びを噛み締めて、ついでにクッキーもぽいぽい口に放り込んでおく。「夕飯入らなくなりますよ」とタイラーが小言を言ってくるが無視する。タイラーは俺がなにをしても文句しか言わないので真面目に取り合うだけ無駄なのだ。
「タイラーは恋人いる?」
「いませんね。ユリス様のお世話で忙しいので」
恋人いないことをさりげなく俺のせいにしたタイラーは酷いと思う。
「ジャンは?」
「いません」
だろうな。なんかジャンに彼女いたら衝撃すぎるもん。
「ティアン、はいないか」
「なんで僕だけ決めつけるんですか」
「え? いるの?」
「いませんけど」
いないのかよ。なんの抗議だよ。
今後の参考にしようと思ったのだが、恋人持ちが周りにいない。兄様たちもダメだし。なんてこった。
モテない男ばかりだな。一番年下の俺が一番経験豊富になってしまった。
そこまで考えて俺は思い出した。いるじゃないか! 彼女持ちのモテ男子くんが!
「ロニーに訊きに行こう!」
「は?」
怪訝な顔をするティアンの後ろで、なにやらジャンが「まずい!」といった感じの顔をしている。だがジャンが挙動不審なのはいつものことなので気にしない。
「ロニー彼女いるって言ってた。恋人のコツを訊きに行こう」
ついでに美味しいお菓子のお裾分けもしてあげよう。久しぶりに長髪男子くんを拝みたくなった俺は早速準備をする。おそらく騎士棟に居るはずなのでジャンに頼んでコートを着せてもらう。デニスに貰ったクッキーの残りを持てば完璧である。
「行くぞ! 猫!」
『僕はいかない。ひとりで行ってこい』
愛想の悪いにゃんこは動く気配がない。仕方ない。置いていこう。
「行くぞ! ティアン!」
「ロニーに会いたいだけですよね?」
さすがティアン。よくわかっている。
そうして俺はお裾分けクッキーを手にロニーの元へと向かったのだ。
「あぁ、俺も見てたけどな」
苦い顔をしたブルース兄様は、疲れたとため息をつく。
あの後、己の失態に気が付いた本物ユリスは全力で俺の真似をした、らしい。デニスに向かって馬鹿とかアホとか小学生みたいな悪口を言いまくっていた。ついには「おまえみたいなお子様を僕が相手にするわけないだろ! 顔しか取り柄がないくせに!」と指を突きつけてデニスを激怒させていた。
ひとつ言わせて欲しい。俺はそんなんじゃない。もうちょい語彙力あるから。そんな小学生みたいな喧嘩の売り方しないから。慌てて抗議をしたのだが、本物ユリスは「おまえはいつもこんな感じだろう?」と首を捻るばかりでやめてくれなかった。
そうして怒ったデニスが「もうユリスなんて知らない! こんなお子様が恋人なんてもう嫌!」と大声あげて帰って行ったことで俺たちの勝利が確定した。
長かった。付き合うのはすんなりだったのに、お別れするのはすごく苦労した。
「俺もう気軽に恋人作るのやめる。別れるの大変」
人間に戻ってやれやれと肩をすくめれば、ブルース兄様が「そうだな」と声を絞り出す。
黒猫に戻った本物ユリスは丸くなって欠伸をしている。
『ものすごく疲れた。なんで僕がおまえのフリをしないといけないんだ。おまえが僕に合わせるべきだろ』
そんなこと言われても。
俺の本物ユリスっぷりが板につき過ぎてしまったらしい。本物ユリスに戻ってしまうとそっちの方が周囲に違和感を与えてしまうというよくわからん展開になっている。
落ち込みユリスを励ましてやろうと艶やかな黒毛をもふもふする。わーっと遠慮なしに撫でまわせば『やめろ』と低い声が返ってきた。だがやめない。俺が楽しいので。
「ユリス様に恋人はちょっと早かったですね」
「うるさいぞ、ティアン。早くないから。デニスと性格が合わなかっただけ」
おそらく精神年齢の差が原因だろう。デニスは正真正銘の十一歳。対する俺は高校生。話が合わなくて当然だ。俺の方がずっと大人だから。
疲れたと連呼するブルース兄様は、そのままとぼとぼと帰って行った。自室で休むらしい。なんで俺より疲れているんだろうか、あの人。
「ジャン」
「はい、ユリス様」
「クッキーちょうだい」
「かしこまりました」
とりあえずデニスが置いていったお詫びのクッキーを食べようと思う。わくわくとソファーに腰掛ければ、ティアンが「お菓子もらえればなんでもいいんですか?」と冷たい目をしていた。
「タイラーも食べる?」
目に付いたタイラーにクッキーを一枚差し出せば「お気持ちだけで結構ですよ」とお断りされてしまった。
「恋人って難しいね」
クッキーをもぐもぐしながら呟く。お付き合いってもっと楽しいものだと思っていたのに、そんなに楽しくなかったのは衝撃だ。
やっぱりお相手は大事だな。今回の学びを噛み締めて、ついでにクッキーもぽいぽい口に放り込んでおく。「夕飯入らなくなりますよ」とタイラーが小言を言ってくるが無視する。タイラーは俺がなにをしても文句しか言わないので真面目に取り合うだけ無駄なのだ。
「タイラーは恋人いる?」
「いませんね。ユリス様のお世話で忙しいので」
恋人いないことをさりげなく俺のせいにしたタイラーは酷いと思う。
「ジャンは?」
「いません」
だろうな。なんかジャンに彼女いたら衝撃すぎるもん。
「ティアン、はいないか」
「なんで僕だけ決めつけるんですか」
「え? いるの?」
「いませんけど」
いないのかよ。なんの抗議だよ。
今後の参考にしようと思ったのだが、恋人持ちが周りにいない。兄様たちもダメだし。なんてこった。
モテない男ばかりだな。一番年下の俺が一番経験豊富になってしまった。
そこまで考えて俺は思い出した。いるじゃないか! 彼女持ちのモテ男子くんが!
「ロニーに訊きに行こう!」
「は?」
怪訝な顔をするティアンの後ろで、なにやらジャンが「まずい!」といった感じの顔をしている。だがジャンが挙動不審なのはいつものことなので気にしない。
「ロニー彼女いるって言ってた。恋人のコツを訊きに行こう」
ついでに美味しいお菓子のお裾分けもしてあげよう。久しぶりに長髪男子くんを拝みたくなった俺は早速準備をする。おそらく騎士棟に居るはずなのでジャンに頼んでコートを着せてもらう。デニスに貰ったクッキーの残りを持てば完璧である。
「行くぞ! 猫!」
『僕はいかない。ひとりで行ってこい』
愛想の悪いにゃんこは動く気配がない。仕方ない。置いていこう。
「行くぞ! ティアン!」
「ロニーに会いたいだけですよね?」
さすがティアン。よくわかっている。
そうして俺はお裾分けクッキーを手にロニーの元へと向かったのだ。
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