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171 別れ話は難しい
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「僕と結婚してくれるって言ったよね?」
「それはおまえが女だと思ったからで」
「はぁ? 最低。いいから責任取って」
「……正直、おまえは顔以外に取り柄なんてないだろ。その顔も見飽きたから帰ってくれないか」
「さ、最低!」
本物ユリスがえげつないこと言ってる。
しかし中途半端に首を突っ込んで巻き込まれるのは嫌なので、ジャンの足元で大人しく丸まっておこうと思う。俺を撫でろと鳴いてアピールするが、ジャンは青い顔で本物ユリスを見つめており俺を見てくれない。ひどい。仕返しに足を踏んでやるが、それでもジャンは動かない。こっちを見ろ。
普段であればタイラーが止めに入る頃だが、今は困ったように突っ立っている。痴話喧嘩に巻き込まれたくはないのだろう。わかるよ、俺も巻き込まれたくないもん。
デニスのお供もちょっと引き攣った顔で主人を観察している。
そうして言い争いがヒートアップしたあたりで、来客があった。ドアを軽くノックして、返事も待たずに開け放たれたそこから顔を覗かせたのはブルース兄様だった。
「おい。外まで響いているぞ」
大声出すな、と不機嫌そうなブルース兄様は、勢いよく喧嘩するデニスと本物ユリスを視界にとらえて眉を寄せた。どうやら俺たちの別れ話を見学に来たらしい。見せ物ではないんだけどな。
「また喧嘩してるのか」
「お兄様!」
「お、お兄様?」
なぜかブルース兄様に向かってお兄様と呼びかけたデニスに、兄様が困惑する。
ところで俺がユリスに成り代わってから、本物ユリスとブルース兄様が対峙するのは初めてでは? 入れ替わりがバレないよう上手くやってくれよ、本物ユリス!
ブルース兄様の顔を見るなり、すんっと真顔になった本物ユリスは偉そうに腕を組んでいる。
「お兄様。ユリスが僕と別れたいっていうんです」
「別れたらどうだ? 正直、絶望的に噛み合っていないだろ、おまえら」
おぉ! ブルース兄様がこっちの味方した。頑張れ兄様! デニスに勝つんだ!
「そんなことないです。相性バッチリです」
「どこら辺が?」
首を捻るブルース兄様は、無言で事の成り行きを見守っている本物ユリスへ視線を向ける。
「ユリスはどうなんだ。おまえはどうしたい」
「デニーをぶん殴りたい」
なんちゅうこと言うんだ、あのサイコパス。案の定、ブルース兄様が「暴力はダメだと言っているだろ」と怖い顔をする。
「まだ殴ってはいない。今から殴ろうと思っている」
「ダメだと言っているだろうが」
キッと、ブルース兄様を睨み付ける本物ユリス。すぐに手が出るのはあいつの悪い癖だと思う。あとで怒られるのは俺なんだから本当にやめてね。
「そもそもデニスは、なぜうちの弟と付き合いたいんだ」
「それは、ユリスがかっこいいから」
「か、かっこいいか? これが?」
どういう意味だ、兄様。
信じられないと目を見開くブルース兄様に、デニスが「今はそうでもないけど」と付け足している。どういう意味だ、デニス。
「昔はもっとかっこよかった。今はすごく子供っぽいからちょっとショック」
「そ、そうか」
勝手にショックを受けるデニス。彼のいう昔のかっこいいユリスとやらは今不機嫌そうに腕を組んでいる本物ユリスのことだ。もしかして俺がかっこよくないってことか? なんでだよ。俺すごく大人だけどな。
『デニスには大人の良さが理解できなかったか』
これだからお子様は。やれやれと首を振れば、本物ユリスが俺を冷たい目で見下ろしていた。
「しかし、あれだな。ユリスも成長、成長というか、その。まぁ、色々あったから昔のままというわけにもいかない」
なんだかすごく歯切れの悪い兄様は、要するに昔のかっこいいユリスはいないから諦めろと言いたいらしい。今の俺もかっこいいと思うけどね?
「僕の王子様だったのに」
ぽつりと呟いたデニス。しゅんと肩を落とした彼は泣きそうな顔をしていた。その健気な様子に、俺の心がざわざわする。
『デニス泣いちゃう! 可哀想!』
「誰のせいだと」
小声で応じた本物ユリスは、はあっとため息をつくとハンカチを取り出した。毎朝ジャンが用意して俺のポケットに突っ込んでいるやつだ。俺はあんまり使わないけど。
ブルース兄様が泣きそうなデニスのことを宥めている。
「じゃあそういうことで。悪いがユリスのことは諦めてくれ」
「……はい」
「あの馬鹿と一緒に居ても楽しくはないだろう」
「正直、あんまり楽しくない。趣味合わないし」
「だろうな」
おぉ!
デニスがついに俺を諦めた。ありがとう、ブルース兄様。これで平穏にお別れできる。なにやら俺の悪口言われたような気もするが、今は許そう。にゃあにゃあ鳴いて喜びを表現していれば、デニスに近寄った本物ユリスが、彼の肩をガシッと掴んだ。
「おい、デニー」
「ん」
「泣くな。おまえに泣かれるとどうしていいかわからない」
ほらっと差し出されたハンカチを受け取って、ぽかんとするデニス。
「え……?」
「もう満足したか。おまえの顔なら他に相手なんていくらでもいるだろう。せいぜい僕よりいい相手を見つけることだな」
偉そうに鼻を鳴らした本物ユリス。
これにデニスがきらきらと目を輝かせた。ん?
「好き!」
す、すき?
ガシッと本物ユリスの手を握ったデニスが「え! めっちゃかっこいい! そう! ユリスってやっぱりこうだよね!」と興奮気味にぶんぶん手を振っている。
「……」
ブルース兄様が頭を抱えている。
う、うーん、これは。
『なにしてくれてんだ、ユリスめ』
今お別れできる雰囲気だったのに。一転して本物ユリスをかっこいいと褒めまくるデニスは「やっぱり別れるのはやめる!」と最悪なことを言い出す。
マジでなにしてくれてんだ、本物ユリスめ。
「それはおまえが女だと思ったからで」
「はぁ? 最低。いいから責任取って」
「……正直、おまえは顔以外に取り柄なんてないだろ。その顔も見飽きたから帰ってくれないか」
「さ、最低!」
本物ユリスがえげつないこと言ってる。
しかし中途半端に首を突っ込んで巻き込まれるのは嫌なので、ジャンの足元で大人しく丸まっておこうと思う。俺を撫でろと鳴いてアピールするが、ジャンは青い顔で本物ユリスを見つめており俺を見てくれない。ひどい。仕返しに足を踏んでやるが、それでもジャンは動かない。こっちを見ろ。
普段であればタイラーが止めに入る頃だが、今は困ったように突っ立っている。痴話喧嘩に巻き込まれたくはないのだろう。わかるよ、俺も巻き込まれたくないもん。
デニスのお供もちょっと引き攣った顔で主人を観察している。
そうして言い争いがヒートアップしたあたりで、来客があった。ドアを軽くノックして、返事も待たずに開け放たれたそこから顔を覗かせたのはブルース兄様だった。
「おい。外まで響いているぞ」
大声出すな、と不機嫌そうなブルース兄様は、勢いよく喧嘩するデニスと本物ユリスを視界にとらえて眉を寄せた。どうやら俺たちの別れ話を見学に来たらしい。見せ物ではないんだけどな。
「また喧嘩してるのか」
「お兄様!」
「お、お兄様?」
なぜかブルース兄様に向かってお兄様と呼びかけたデニスに、兄様が困惑する。
ところで俺がユリスに成り代わってから、本物ユリスとブルース兄様が対峙するのは初めてでは? 入れ替わりがバレないよう上手くやってくれよ、本物ユリス!
ブルース兄様の顔を見るなり、すんっと真顔になった本物ユリスは偉そうに腕を組んでいる。
「お兄様。ユリスが僕と別れたいっていうんです」
「別れたらどうだ? 正直、絶望的に噛み合っていないだろ、おまえら」
おぉ! ブルース兄様がこっちの味方した。頑張れ兄様! デニスに勝つんだ!
「そんなことないです。相性バッチリです」
「どこら辺が?」
首を捻るブルース兄様は、無言で事の成り行きを見守っている本物ユリスへ視線を向ける。
「ユリスはどうなんだ。おまえはどうしたい」
「デニーをぶん殴りたい」
なんちゅうこと言うんだ、あのサイコパス。案の定、ブルース兄様が「暴力はダメだと言っているだろ」と怖い顔をする。
「まだ殴ってはいない。今から殴ろうと思っている」
「ダメだと言っているだろうが」
キッと、ブルース兄様を睨み付ける本物ユリス。すぐに手が出るのはあいつの悪い癖だと思う。あとで怒られるのは俺なんだから本当にやめてね。
「そもそもデニスは、なぜうちの弟と付き合いたいんだ」
「それは、ユリスがかっこいいから」
「か、かっこいいか? これが?」
どういう意味だ、兄様。
信じられないと目を見開くブルース兄様に、デニスが「今はそうでもないけど」と付け足している。どういう意味だ、デニス。
「昔はもっとかっこよかった。今はすごく子供っぽいからちょっとショック」
「そ、そうか」
勝手にショックを受けるデニス。彼のいう昔のかっこいいユリスとやらは今不機嫌そうに腕を組んでいる本物ユリスのことだ。もしかして俺がかっこよくないってことか? なんでだよ。俺すごく大人だけどな。
『デニスには大人の良さが理解できなかったか』
これだからお子様は。やれやれと首を振れば、本物ユリスが俺を冷たい目で見下ろしていた。
「しかし、あれだな。ユリスも成長、成長というか、その。まぁ、色々あったから昔のままというわけにもいかない」
なんだかすごく歯切れの悪い兄様は、要するに昔のかっこいいユリスはいないから諦めろと言いたいらしい。今の俺もかっこいいと思うけどね?
「僕の王子様だったのに」
ぽつりと呟いたデニス。しゅんと肩を落とした彼は泣きそうな顔をしていた。その健気な様子に、俺の心がざわざわする。
『デニス泣いちゃう! 可哀想!』
「誰のせいだと」
小声で応じた本物ユリスは、はあっとため息をつくとハンカチを取り出した。毎朝ジャンが用意して俺のポケットに突っ込んでいるやつだ。俺はあんまり使わないけど。
ブルース兄様が泣きそうなデニスのことを宥めている。
「じゃあそういうことで。悪いがユリスのことは諦めてくれ」
「……はい」
「あの馬鹿と一緒に居ても楽しくはないだろう」
「正直、あんまり楽しくない。趣味合わないし」
「だろうな」
おぉ!
デニスがついに俺を諦めた。ありがとう、ブルース兄様。これで平穏にお別れできる。なにやら俺の悪口言われたような気もするが、今は許そう。にゃあにゃあ鳴いて喜びを表現していれば、デニスに近寄った本物ユリスが、彼の肩をガシッと掴んだ。
「おい、デニー」
「ん」
「泣くな。おまえに泣かれるとどうしていいかわからない」
ほらっと差し出されたハンカチを受け取って、ぽかんとするデニス。
「え……?」
「もう満足したか。おまえの顔なら他に相手なんていくらでもいるだろう。せいぜい僕よりいい相手を見つけることだな」
偉そうに鼻を鳴らした本物ユリス。
これにデニスがきらきらと目を輝かせた。ん?
「好き!」
す、すき?
ガシッと本物ユリスの手を握ったデニスが「え! めっちゃかっこいい! そう! ユリスってやっぱりこうだよね!」と興奮気味にぶんぶん手を振っている。
「……」
ブルース兄様が頭を抱えている。
う、うーん、これは。
『なにしてくれてんだ、ユリスめ』
今お別れできる雰囲気だったのに。一転して本物ユリスをかっこいいと褒めまくるデニスは「やっぱり別れるのはやめる!」と最悪なことを言い出す。
マジでなにしてくれてんだ、本物ユリスめ。
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