178 / 656
168 任せておけと言われても
しおりを挟む
俺がブルース兄様の部屋に避難している間にデニスは帰ったらしい。「デニス様のこと放っておいてよかったんですか?」とティアンが困った顔をしていた。あんな奴知らないもんね。勝手に帰ればいいだろ。
「別れることにする」
自室にて。
ティアン、ジャン、そしてタイラーを前にそう宣言すれば全員が「でしょうね」みたいな顔をしていた。
「正直なにひとつ噛み合っていませんでしたからね。ユリス様も最後はキレちゃいましたし。もはや関係修復は不可能ですね」
わかったような口を利くティアンは、子供のくせに偉そうである。恋人いないティアンになにがわかるっていうんだ。だが俺が頼れるのは彼らしかいないというのも事実である。由々しき事態だ。
「穏便に別れたい。どうすればいいと思う?」
「穏便って。もう手遅れでは?」
ネガティブなことを言うタイラーは、もっと真剣に俺のことを考えるべきだと思う。デニスは厄介なのだ。それはもうすごく厄介なのだ。このまま喧嘩別れになればネチネチ嫌がらせをされそうである。よく知りもしないお子様に恨まれるのはごめんだ。俺の平穏生活が危機だ。なんとかせねばならない。
『あいつに気を使う必要なんてない。振られる前にこっちから盛大に振ってやれ!』
どうやら本物ユリス的にはデニスに振られるのは許せないらしい。彼のプライドの問題だろう。振られる前に振ってやれと威勢の良いことを言っている。自分で蒔いた種なんだから自分でどうにかしろよ。なんで俺がこんなに困らないといけないんだ。
「デニスは明日も来そう?」
「おそらく」
ティアンいわく、デニスは「また明日ね!」との言葉を残していったらしい。間違いなく明日も来るじゃん。あの状況でなんで明日も来ようなんて思えるんだよ。どんな顔して俺と会うつもりなのか。
となれば勝負は明日だ。
「みんな協力してね」
作戦は皆無だが、とりあえず協力だけは募っておこう。
※※※
『明日は僕に任せてみろ』
その日の夜。
ベッドでうとうとしていた俺の胸に乗ってきた黒猫ユリスがそんなことを言う。
「任せるって、なにが」
眠い目を擦りながら訊ねれば『デニスのことだ』と静かな声が返ってきた。
デニス? あぁ。別れ話の件か。
いいよ、と応じようとしてハッとする。危ない。寝ぼけて全部を本物ユリスにお任せするところだった。
「俺、ユリスには頼らないって決めたから」
『なぜ?』
心底不思議そうな顔をする黒猫ユリスは、先の激ヤバ行動を忘れたらしい。本物ユリスはダメだ。予想もできないヤバいことをやらかすのだ。お任せしたらまたとんでもないことをしでかすに決まっている。そしてその後に怒られるのは俺なのだ。絶対に嫌だ。
『じゃあどうするつもりだ。おまえにデニーをどうにかできるのか』
「うーん」
なんかできるかもしれない。どうにかなる気がするとお伝えすれば、『どこから湧いてくるんだ、その自信』と呆れ声が降ってきた。
『あいつはしつこいぞ。おまえだと丸め込まれる』
「うーん、そうかもしれない」
すでに何度も丸め込まれている自覚がある。
『僕に任せておけ』
「うーん」
正直、デニスの相手はしたくない。だが本物ユリスに任せると変な展開になる気もする。
「余計なことしないでね?」
『大丈夫だ』
「本当に?」
『僕をなんだと思っている。おまえよりマシだ』
なんだとって、サイコパスだろ? やべぇ奴だと思っている。
「デニスを殴ったりしたらダメだよ」
『……じゃあ明日は入れ替われよ。上手くやってやる』
「殴ったらダメだよ?」
『あのクソガキ。思い知らせてやる』
「殴らないでね? 蹴るのもダメだよ?」
『……』
ダメだ。この猫。
なんだかお任せしてはいけない気がする。
「別れることにする」
自室にて。
ティアン、ジャン、そしてタイラーを前にそう宣言すれば全員が「でしょうね」みたいな顔をしていた。
「正直なにひとつ噛み合っていませんでしたからね。ユリス様も最後はキレちゃいましたし。もはや関係修復は不可能ですね」
わかったような口を利くティアンは、子供のくせに偉そうである。恋人いないティアンになにがわかるっていうんだ。だが俺が頼れるのは彼らしかいないというのも事実である。由々しき事態だ。
「穏便に別れたい。どうすればいいと思う?」
「穏便って。もう手遅れでは?」
ネガティブなことを言うタイラーは、もっと真剣に俺のことを考えるべきだと思う。デニスは厄介なのだ。それはもうすごく厄介なのだ。このまま喧嘩別れになればネチネチ嫌がらせをされそうである。よく知りもしないお子様に恨まれるのはごめんだ。俺の平穏生活が危機だ。なんとかせねばならない。
『あいつに気を使う必要なんてない。振られる前にこっちから盛大に振ってやれ!』
どうやら本物ユリス的にはデニスに振られるのは許せないらしい。彼のプライドの問題だろう。振られる前に振ってやれと威勢の良いことを言っている。自分で蒔いた種なんだから自分でどうにかしろよ。なんで俺がこんなに困らないといけないんだ。
「デニスは明日も来そう?」
「おそらく」
ティアンいわく、デニスは「また明日ね!」との言葉を残していったらしい。間違いなく明日も来るじゃん。あの状況でなんで明日も来ようなんて思えるんだよ。どんな顔して俺と会うつもりなのか。
となれば勝負は明日だ。
「みんな協力してね」
作戦は皆無だが、とりあえず協力だけは募っておこう。
※※※
『明日は僕に任せてみろ』
その日の夜。
ベッドでうとうとしていた俺の胸に乗ってきた黒猫ユリスがそんなことを言う。
「任せるって、なにが」
眠い目を擦りながら訊ねれば『デニスのことだ』と静かな声が返ってきた。
デニス? あぁ。別れ話の件か。
いいよ、と応じようとしてハッとする。危ない。寝ぼけて全部を本物ユリスにお任せするところだった。
「俺、ユリスには頼らないって決めたから」
『なぜ?』
心底不思議そうな顔をする黒猫ユリスは、先の激ヤバ行動を忘れたらしい。本物ユリスはダメだ。予想もできないヤバいことをやらかすのだ。お任せしたらまたとんでもないことをしでかすに決まっている。そしてその後に怒られるのは俺なのだ。絶対に嫌だ。
『じゃあどうするつもりだ。おまえにデニーをどうにかできるのか』
「うーん」
なんかできるかもしれない。どうにかなる気がするとお伝えすれば、『どこから湧いてくるんだ、その自信』と呆れ声が降ってきた。
『あいつはしつこいぞ。おまえだと丸め込まれる』
「うーん、そうかもしれない」
すでに何度も丸め込まれている自覚がある。
『僕に任せておけ』
「うーん」
正直、デニスの相手はしたくない。だが本物ユリスに任せると変な展開になる気もする。
「余計なことしないでね?」
『大丈夫だ』
「本当に?」
『僕をなんだと思っている。おまえよりマシだ』
なんだとって、サイコパスだろ? やべぇ奴だと思っている。
「デニスを殴ったりしたらダメだよ」
『……じゃあ明日は入れ替われよ。上手くやってやる』
「殴ったらダメだよ?」
『あのクソガキ。思い知らせてやる』
「殴らないでね? 蹴るのもダメだよ?」
『……』
ダメだ。この猫。
なんだかお任せしてはいけない気がする。
418
お気に入りに追加
3,165
あなたにおすすめの小説
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません
めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。
家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。
しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。
調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。
だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。
煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!?
///////////////////////////////
※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。
///////////////////////////////
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる