冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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168 任せておけと言われても

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 俺がブルース兄様の部屋に避難している間にデニスは帰ったらしい。「デニス様のこと放っておいてよかったんですか?」とティアンが困った顔をしていた。あんな奴知らないもんね。勝手に帰ればいいだろ。

「別れることにする」

 自室にて。
 ティアン、ジャン、そしてタイラーを前にそう宣言すれば全員が「でしょうね」みたいな顔をしていた。

「正直なにひとつ噛み合っていませんでしたからね。ユリス様も最後はキレちゃいましたし。もはや関係修復は不可能ですね」

 わかったような口を利くティアンは、子供のくせに偉そうである。恋人いないティアンになにがわかるっていうんだ。だが俺が頼れるのは彼らしかいないというのも事実である。由々しき事態だ。

「穏便に別れたい。どうすればいいと思う?」
「穏便って。もう手遅れでは?」

 ネガティブなことを言うタイラーは、もっと真剣に俺のことを考えるべきだと思う。デニスは厄介なのだ。それはもうすごく厄介なのだ。このまま喧嘩別れになればネチネチ嫌がらせをされそうである。よく知りもしないお子様に恨まれるのはごめんだ。俺の平穏生活が危機だ。なんとかせねばならない。

『あいつに気を使う必要なんてない。振られる前にこっちから盛大に振ってやれ!』

 どうやら本物ユリス的にはデニスに振られるのは許せないらしい。彼のプライドの問題だろう。振られる前に振ってやれと威勢の良いことを言っている。自分で蒔いた種なんだから自分でどうにかしろよ。なんで俺がこんなに困らないといけないんだ。

「デニスは明日も来そう?」
「おそらく」

 ティアンいわく、デニスは「また明日ね!」との言葉を残していったらしい。間違いなく明日も来るじゃん。あの状況でなんで明日も来ようなんて思えるんだよ。どんな顔して俺と会うつもりなのか。

 となれば勝負は明日だ。

「みんな協力してね」

 作戦は皆無だが、とりあえず協力だけは募っておこう。


※※※


『明日は僕に任せてみろ』

 その日の夜。
 ベッドでうとうとしていた俺の胸に乗ってきた黒猫ユリスがそんなことを言う。

「任せるって、なにが」

 眠い目を擦りながら訊ねれば『デニスのことだ』と静かな声が返ってきた。

 デニス? あぁ。別れ話の件か。

 いいよ、と応じようとしてハッとする。危ない。寝ぼけて全部を本物ユリスにお任せするところだった。

「俺、ユリスには頼らないって決めたから」
『なぜ?』

 心底不思議そうな顔をする黒猫ユリスは、先の激ヤバ行動を忘れたらしい。本物ユリスはダメだ。予想もできないヤバいことをやらかすのだ。お任せしたらまたとんでもないことをしでかすに決まっている。そしてその後に怒られるのは俺なのだ。絶対に嫌だ。

『じゃあどうするつもりだ。おまえにデニーをどうにかできるのか』
「うーん」

 なんかできるかもしれない。どうにかなる気がするとお伝えすれば、『どこから湧いてくるんだ、その自信』と呆れ声が降ってきた。

『あいつはしつこいぞ。おまえだと丸め込まれる』
「うーん、そうかもしれない」

 すでに何度も丸め込まれている自覚がある。

『僕に任せておけ』
「うーん」

 正直、デニスの相手はしたくない。だが本物ユリスに任せると変な展開になる気もする。

「余計なことしないでね?」
『大丈夫だ』
「本当に?」
『僕をなんだと思っている。おまえよりマシだ』

 なんだとって、サイコパスだろ? やべぇ奴だと思っている。

「デニスを殴ったりしたらダメだよ」
『……じゃあ明日は入れ替われよ。上手くやってやる』
「殴ったらダメだよ?」
『あのクソガキ。思い知らせてやる』
「殴らないでね? 蹴るのもダメだよ?」
『……』

 ダメだ。この猫。
 なんだかお任せしてはいけない気がする。
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