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164 反撃
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結局、我儘デニスのせいで外遊びはやめになった。せっかくコートも着込んで準備万端だったのに。
渋々室内に戻った俺は、デニスに付き合わされる羽目になった。
外遊び以外になにをするのかと問いかければ、お喋りしようと言い出したデニス。なにそのつまらない提案。だが俺は大人なので。年下に付き合ってやるのも必要なことだろう。
そうして俺の部屋にやって来たデニスは、興味津々といった様子で室内を見回す。
「いつもなにしてるの?」
「散歩」
「部屋では? へー、本読むんだ」
「読まないけど」
「え? でもすごいたくさんあるよ」
そう言ってデニスは備え付けの本棚に近付く。それはブルース兄様が勝手に置いているものだ。俺のではない。
「じゃあ普段はなにしてるの?」
やけに俺の私生活を気にするデニスに俺はお望み通り普段の行動を説明してやる。
「朝は外で遊ぶ。昼からも外で遊ぶ」
「そんな面白い? 外遊び」
「うん」
なんか明らかにデニスが引いている。自分で訊いておいて失礼だろ。
「あとはたまにお絵描きしたり、ちょっとだけ勉強したり、アロンと遊んだりする」
アロンと遊ぶのくだりで、隅にいたアロンがわかりやすくドヤ顔した。なんだろう。デニス相手にマウントでもとっているのか。大人気ないな。
「ふーん」
興味なさそうに応じたデニスは、「なんか思っていたより子供っぽいね」といきなり毒を吐く。
は? なに?
「ユリスって前はもうちょい大人だったよね? なんで急に子供っぽくなってるの」
「成長したから!」
「どこら辺が?」
心底不思議そうな顔をするデニスは、本気で俺を子供だと思っているらしい。つくづく合わない。なんかもう無理。
だが俺が口を開く前に、デニスがため息をついた。
「まぁいいや。それで? 最近はなにか変わったことあった?」
「なんでそんなこと訊くの」
「ただのお喋りでしょ。理由とか必要?」
めんど、と吐き捨てたデニスに、なんだかムカっとする。こっちは頑張ってデニスの相手をしてやっているのになにその態度。ぎゅっと拳を握り締めれば、足元から『なんだこの生意気なガキ。やり返せ!』と声援が聞こえてくる。
うむ。
一度深呼吸をした俺は、握った拳をゆっくり開く。俺は先の本物ユリスの激ヤバ行動を見て学んだのだ。暴力はいけない。あとで怒られてしまう。とりあえずやり返すにしても手を出してはいけないと。ブルース兄様も言っていた。話し合いで解決しろと。
であれば、言葉でやり返してやるのみ。
「デニス!」
「デニーって呼んで」
「デニー!」
「なに? てか手土産にお菓子持って来たんだけど食べる?」
「食べる!」
『この馬鹿』
黒猫ユリスが『おまえ本当にふざけるなよ?』と低い声を出す。別にふざけてはいない。お菓子大事。
一緒に連れて来たお供に声をかけてお菓子を出すよう言い付けるデニスは、なんだか手慣れていた。こう、なんというか人に命令し慣れている感がすごい。本物のお坊ちゃんみたいだ。
威厳を感じる。俺も真似をせねば。デニスに舐められてしまう。今こそ本物ユリスの真似をする時だ。
「ジャン!」
「は、はい?」
デニスがやったように、ビシッと威厳たっぷりにジャンを呼んだのに、肝心のジャンが間の抜けた返事をしてしまう。
「お茶! お茶淹れて!」
デニスがお菓子を持ってきたというのならばこっちはお茶を出すのが礼儀だろう。紅茶を催促すれば「はい、ただいま」とジャンが動いてくれる。
どうだ。俺もちゃんとお坊ちゃんやれているだろ。威厳たっぷりだ。得意気にデニスを見るが、彼はなにやら室内を彷徨いており俺のことを見ていなかった。なんでだよ。
『なにをしている。さっさと反撃しろ。マーティーの時みたいに泣かせてやれ』
なるほど。その手があったか。
確かあの時はマーティーをお子様扱いして泣かせてしまった。子供っていうのはいつでも大人ぶりたいものだもんね。であれば! デニスもお子様扱いすれば反撃できるのでは?
ふんっと気合いを入れた俺。
ティアンとタイラーが心配そうに眉尻を下げているが安心してくれ。俺はデニスに勝ってみせる。
「デニス!」
「だからデニーって呼んでって言ってるでしょ」
「デニー!」
なに? と小首を傾げるデニスをぎゅっと目力込めて睨み付けてやる。
「紅茶にミルクいるでしょ! お子様だから!」
『どういうことだよ』
呆れた声をもらす黒猫ユリスは『下手くそか? もっとちゃんと反撃しろよ』と文句を言っている。今まさに反撃中でしょうが。マーティーならこれで泣く。「僕はお子様じゃない!」とか言って大泣きする。さぁ! 泣いてみろ! と待ち構えていれば、予想に反してデニスは穏やかに応じた。
「僕はいらないよ。お気遣いどうも」
にこっと微笑まれてたじろぐ。な、なんか普通に感謝されてしまった。
「ジャン」
「はい、ユリス様」
「デニスはミルクいらないって」
「かしこまりました」
「俺はいる」
「かしこまりました」
『おまえ本当にふざけるなよ』
だってジャンはなぜかミルク付けてくれないもん。言わないと伝わらないでしょ。
渋々室内に戻った俺は、デニスに付き合わされる羽目になった。
外遊び以外になにをするのかと問いかければ、お喋りしようと言い出したデニス。なにそのつまらない提案。だが俺は大人なので。年下に付き合ってやるのも必要なことだろう。
そうして俺の部屋にやって来たデニスは、興味津々といった様子で室内を見回す。
「いつもなにしてるの?」
「散歩」
「部屋では? へー、本読むんだ」
「読まないけど」
「え? でもすごいたくさんあるよ」
そう言ってデニスは備え付けの本棚に近付く。それはブルース兄様が勝手に置いているものだ。俺のではない。
「じゃあ普段はなにしてるの?」
やけに俺の私生活を気にするデニスに俺はお望み通り普段の行動を説明してやる。
「朝は外で遊ぶ。昼からも外で遊ぶ」
「そんな面白い? 外遊び」
「うん」
なんか明らかにデニスが引いている。自分で訊いておいて失礼だろ。
「あとはたまにお絵描きしたり、ちょっとだけ勉強したり、アロンと遊んだりする」
アロンと遊ぶのくだりで、隅にいたアロンがわかりやすくドヤ顔した。なんだろう。デニス相手にマウントでもとっているのか。大人気ないな。
「ふーん」
興味なさそうに応じたデニスは、「なんか思っていたより子供っぽいね」といきなり毒を吐く。
は? なに?
「ユリスって前はもうちょい大人だったよね? なんで急に子供っぽくなってるの」
「成長したから!」
「どこら辺が?」
心底不思議そうな顔をするデニスは、本気で俺を子供だと思っているらしい。つくづく合わない。なんかもう無理。
だが俺が口を開く前に、デニスがため息をついた。
「まぁいいや。それで? 最近はなにか変わったことあった?」
「なんでそんなこと訊くの」
「ただのお喋りでしょ。理由とか必要?」
めんど、と吐き捨てたデニスに、なんだかムカっとする。こっちは頑張ってデニスの相手をしてやっているのになにその態度。ぎゅっと拳を握り締めれば、足元から『なんだこの生意気なガキ。やり返せ!』と声援が聞こえてくる。
うむ。
一度深呼吸をした俺は、握った拳をゆっくり開く。俺は先の本物ユリスの激ヤバ行動を見て学んだのだ。暴力はいけない。あとで怒られてしまう。とりあえずやり返すにしても手を出してはいけないと。ブルース兄様も言っていた。話し合いで解決しろと。
であれば、言葉でやり返してやるのみ。
「デニス!」
「デニーって呼んで」
「デニー!」
「なに? てか手土産にお菓子持って来たんだけど食べる?」
「食べる!」
『この馬鹿』
黒猫ユリスが『おまえ本当にふざけるなよ?』と低い声を出す。別にふざけてはいない。お菓子大事。
一緒に連れて来たお供に声をかけてお菓子を出すよう言い付けるデニスは、なんだか手慣れていた。こう、なんというか人に命令し慣れている感がすごい。本物のお坊ちゃんみたいだ。
威厳を感じる。俺も真似をせねば。デニスに舐められてしまう。今こそ本物ユリスの真似をする時だ。
「ジャン!」
「は、はい?」
デニスがやったように、ビシッと威厳たっぷりにジャンを呼んだのに、肝心のジャンが間の抜けた返事をしてしまう。
「お茶! お茶淹れて!」
デニスがお菓子を持ってきたというのならばこっちはお茶を出すのが礼儀だろう。紅茶を催促すれば「はい、ただいま」とジャンが動いてくれる。
どうだ。俺もちゃんとお坊ちゃんやれているだろ。威厳たっぷりだ。得意気にデニスを見るが、彼はなにやら室内を彷徨いており俺のことを見ていなかった。なんでだよ。
『なにをしている。さっさと反撃しろ。マーティーの時みたいに泣かせてやれ』
なるほど。その手があったか。
確かあの時はマーティーをお子様扱いして泣かせてしまった。子供っていうのはいつでも大人ぶりたいものだもんね。であれば! デニスもお子様扱いすれば反撃できるのでは?
ふんっと気合いを入れた俺。
ティアンとタイラーが心配そうに眉尻を下げているが安心してくれ。俺はデニスに勝ってみせる。
「デニス!」
「だからデニーって呼んでって言ってるでしょ」
「デニー!」
なに? と小首を傾げるデニスをぎゅっと目力込めて睨み付けてやる。
「紅茶にミルクいるでしょ! お子様だから!」
『どういうことだよ』
呆れた声をもらす黒猫ユリスは『下手くそか? もっとちゃんと反撃しろよ』と文句を言っている。今まさに反撃中でしょうが。マーティーならこれで泣く。「僕はお子様じゃない!」とか言って大泣きする。さぁ! 泣いてみろ! と待ち構えていれば、予想に反してデニスは穏やかに応じた。
「僕はいらないよ。お気遣いどうも」
にこっと微笑まれてたじろぐ。な、なんか普通に感謝されてしまった。
「ジャン」
「はい、ユリス様」
「デニスはミルクいらないって」
「かしこまりました」
「俺はいる」
「かしこまりました」
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だってジャンはなぜかミルク付けてくれないもん。言わないと伝わらないでしょ。
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