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163 大人ですが?
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俺はどうしたんですかとうるさいアロンを撒いて自室に戻る。てかなんでアロンが被害者ぶっているんだ。先にキャンベルと縁談進めるとか言い出したのはアロンの方だろ。俺だけ責められるのは納得いかない。むしろアロンの方が二股かけようとしているじゃんね。
「いいんですか?」
「なにが」
部屋に戻るなりティアンが顔を曇らせる。タイラーとジャンも微妙な顔だ。もしかして俺のお付き合い云々に反対なのだろうか。
「あのねデニスとはお試しでお付き合いするだけだから」
「お試し?」
変な顔をするティアンは「そんなことしなくても」と文句を言ってくる。
仕方がないだろう。
そうでもしないとデニスは一歩も引かなかったんだから。あの後「自分の発言には責任もって」と五回くらい言われた。俺もあれだけ粘られると折れるしかない。黒猫ユリスも『騙されるな!』と言うだけで役に立たなかったし。もっと具体的なアドバイスをくれよ。なにその抽象的なアドバイス。
「なに? 俺に恋人できて羨ましいのか?」
しかしお試しとはいえ恋人ができたのは事実である。得意になって自慢すれば、すんっとティアンが真顔になる。なにその顔。
「アロン殿のことが好きだったのでは?」
腕を組むティアンに、タイラーが目を見開いている。「え! それ本気だったんですか? なんでよりによってあんな人」と失礼なことを口走っている。
いやそれよりも。
「別にアロンのことは好きじゃない」
「はぁ? あんだけベタベタしておいてなにを今更」
ベタベタなんてしていない。アロンはちょっと気が合うから仲良くしているだけだ。お菓子くれるし。そう伝えるとティアンは眉を吊り上げる。こいつなんでちょっと不機嫌なの?
「でもアロン殿が縁談進めると聞いて怒っていたじゃないですか」
「怒ってはない。不満なだけ」
「だから! なにが不満なんですか。アロン殿が誰と結婚しようとユリス様には無関係でしょ」
そうかな?
アロンは俺の子分候補である。だから俺も無関係ではないと思う。そう伝えればティアンがますます変な顔をする。
「意味がわかりません」
意味がわからないのはこっちだよ。なんでちょっと仲良くしたくらいで好きと勘違いされなければならないのか。なんでもかんでも恋愛に結びつけるな。
「それにアロンは男でしょ。あと歳の差考えて」
「デニス様も男です。歳は確かに近いですけど」
「デニスは顔が可愛い」
「顔が可愛ければ誰でもいいんですか?」
なにやら機嫌が急降下するティアン。だって俺、デニスのことほとんど知らないし。それこそ顔が可愛いのとちょっと強引な性格してるってことくらいしか知らない。マジで初めまして状態なのだ。本物ユリスも詳しく教えてくれないから。
「これから仲良くなるから大丈夫」
「なにが大丈夫なんですか。ほんっと意味わかりません!」
ふいっと顔を背けたティアンは読書を始めてしまう。なんだか怒っている。そんなに俺に先越されたことが悔しいのか。でもデニスとはほんとお試しなだけだから。
※※※
「やあ! ユリス」
「よく来たな、デニス」
「デニーって呼んで」
翌日。
宣言通りにやって来たデニスは今日も可愛い顔だった。「顔が可愛ければなんでもいいんですね?」とティアンがうるさい。
お供を引き連れて来たデニスは、早速俺の手を取る。
「お出迎えしてくれたの? 嬉しいな」
屋敷の玄関前で待ち構えていた俺に、そう言って微笑む。
俺はジャンが用意した厚手のコートにマフラー、手袋も装着した完全防備であった。これだけ着込めば寒くないもんね。
少し離れてタイラーとジャンが待機している。
そして肝心の俺の両隣にはティアンと、なぜか仏頂面のアロンがいた。仕事はどうしたのだろうか。まさかサボってるのか。アロンならあり得る。
『顔だけは良いな。なんでこれで男なんだ』
足元では黒猫ユリスがぶつぶつ言っている。普段は寒いと言って外に出たがらないのに今日はついて来た。よほど俺とデニスの行先が気になるらしい。
「じゃあ遊ぼう」
早速デニスと遊んでやろうと手を引いて庭園の方に足を進める。するとデニスが怪訝な顔をした。
「え? 外で遊ぶの?」
他にどこで遊ぶんだ。俺がなんのためにコートを着込んでお出迎えしたと思っている。外で遊ぶために決まっているだろうが。
「外はちょっと。寒いよ?」
ティアンみたいなことを言うデニスは、玄関前から動こうとしない。マジかよ。こいつもティアンみたいなインドアタイプかよ。趣味あわないな。
「向こうに大きい噴水あるよ」
だがデニスは十一歳である。ユリスより一個上。高校生の俺からしたらまだまだお子様である。とりあえず巨大噴水で釣ってやろうと庭を指差すが、デニスは「そうなんだ」と素っ気ない反応をするだけでやはり動こうとはしない。
は? なんで?
「噴水あるんだけど」
「聞こえてたよ。噴水でしょ? すごいね」
「すごいでしょ‼︎」
「声でか」
見に行こうとお誘いするが「興味ない」ときっぱり断られてしまった。
「噴水で遊びたくないの?」
「寒いじゃん。というか噴水でどうやって遊ぶの?」
「泳ぐ」
「……」
途端に黙り込んだデニス。夏になったらだよ? 今日は泳がないよ? と補足するが無言のままだ。なにこいつ。愛想わる。
どうやら噴水はお気に召さなかったらしい。びっくりしてティアンを見遣れば「でしょうね」と言われた。なにが?
アロンは肩が細かく震えている。どうやら笑いを堪えているらしい。俺がデニス相手に苦戦している様子を見て笑うなんて。酷い奴である。
「じゃあ泥団子でも作る?」
本当はクレイグ団長に禁止されているけど。デニスのためだ。仕方がない。
けれどもデニスは嫌そうな顔をした。
「服が汚れる」
「俺は気にしない」
「僕が気にするの」
「じゃあ猫探す?」
「そこにいるじゃん」
「違う。これは俺の猫。新しい猫を探すの」
「この屋敷、そんなにたくさん猫いるの?」
「ううん。見たことない。でもいるかもしれないから探そう」
「嫌」
嫌? なんで?
「もっと普通のことしようよ。そんな子供っぽい遊びじゃなくて」
終いにはそんなことを言い出すデニス。子供っぽいってなに? 俺は大人ですが?
「いいんですか?」
「なにが」
部屋に戻るなりティアンが顔を曇らせる。タイラーとジャンも微妙な顔だ。もしかして俺のお付き合い云々に反対なのだろうか。
「あのねデニスとはお試しでお付き合いするだけだから」
「お試し?」
変な顔をするティアンは「そんなことしなくても」と文句を言ってくる。
仕方がないだろう。
そうでもしないとデニスは一歩も引かなかったんだから。あの後「自分の発言には責任もって」と五回くらい言われた。俺もあれだけ粘られると折れるしかない。黒猫ユリスも『騙されるな!』と言うだけで役に立たなかったし。もっと具体的なアドバイスをくれよ。なにその抽象的なアドバイス。
「なに? 俺に恋人できて羨ましいのか?」
しかしお試しとはいえ恋人ができたのは事実である。得意になって自慢すれば、すんっとティアンが真顔になる。なにその顔。
「アロン殿のことが好きだったのでは?」
腕を組むティアンに、タイラーが目を見開いている。「え! それ本気だったんですか? なんでよりによってあんな人」と失礼なことを口走っている。
いやそれよりも。
「別にアロンのことは好きじゃない」
「はぁ? あんだけベタベタしておいてなにを今更」
ベタベタなんてしていない。アロンはちょっと気が合うから仲良くしているだけだ。お菓子くれるし。そう伝えるとティアンは眉を吊り上げる。こいつなんでちょっと不機嫌なの?
「でもアロン殿が縁談進めると聞いて怒っていたじゃないですか」
「怒ってはない。不満なだけ」
「だから! なにが不満なんですか。アロン殿が誰と結婚しようとユリス様には無関係でしょ」
そうかな?
アロンは俺の子分候補である。だから俺も無関係ではないと思う。そう伝えればティアンがますます変な顔をする。
「意味がわかりません」
意味がわからないのはこっちだよ。なんでちょっと仲良くしたくらいで好きと勘違いされなければならないのか。なんでもかんでも恋愛に結びつけるな。
「それにアロンは男でしょ。あと歳の差考えて」
「デニス様も男です。歳は確かに近いですけど」
「デニスは顔が可愛い」
「顔が可愛ければ誰でもいいんですか?」
なにやら機嫌が急降下するティアン。だって俺、デニスのことほとんど知らないし。それこそ顔が可愛いのとちょっと強引な性格してるってことくらいしか知らない。マジで初めまして状態なのだ。本物ユリスも詳しく教えてくれないから。
「これから仲良くなるから大丈夫」
「なにが大丈夫なんですか。ほんっと意味わかりません!」
ふいっと顔を背けたティアンは読書を始めてしまう。なんだか怒っている。そんなに俺に先越されたことが悔しいのか。でもデニスとはほんとお試しなだけだから。
※※※
「やあ! ユリス」
「よく来たな、デニス」
「デニーって呼んで」
翌日。
宣言通りにやって来たデニスは今日も可愛い顔だった。「顔が可愛ければなんでもいいんですね?」とティアンがうるさい。
お供を引き連れて来たデニスは、早速俺の手を取る。
「お出迎えしてくれたの? 嬉しいな」
屋敷の玄関前で待ち構えていた俺に、そう言って微笑む。
俺はジャンが用意した厚手のコートにマフラー、手袋も装着した完全防備であった。これだけ着込めば寒くないもんね。
少し離れてタイラーとジャンが待機している。
そして肝心の俺の両隣にはティアンと、なぜか仏頂面のアロンがいた。仕事はどうしたのだろうか。まさかサボってるのか。アロンならあり得る。
『顔だけは良いな。なんでこれで男なんだ』
足元では黒猫ユリスがぶつぶつ言っている。普段は寒いと言って外に出たがらないのに今日はついて来た。よほど俺とデニスの行先が気になるらしい。
「じゃあ遊ぼう」
早速デニスと遊んでやろうと手を引いて庭園の方に足を進める。するとデニスが怪訝な顔をした。
「え? 外で遊ぶの?」
他にどこで遊ぶんだ。俺がなんのためにコートを着込んでお出迎えしたと思っている。外で遊ぶために決まっているだろうが。
「外はちょっと。寒いよ?」
ティアンみたいなことを言うデニスは、玄関前から動こうとしない。マジかよ。こいつもティアンみたいなインドアタイプかよ。趣味あわないな。
「向こうに大きい噴水あるよ」
だがデニスは十一歳である。ユリスより一個上。高校生の俺からしたらまだまだお子様である。とりあえず巨大噴水で釣ってやろうと庭を指差すが、デニスは「そうなんだ」と素っ気ない反応をするだけでやはり動こうとはしない。
は? なんで?
「噴水あるんだけど」
「聞こえてたよ。噴水でしょ? すごいね」
「すごいでしょ‼︎」
「声でか」
見に行こうとお誘いするが「興味ない」ときっぱり断られてしまった。
「噴水で遊びたくないの?」
「寒いじゃん。というか噴水でどうやって遊ぶの?」
「泳ぐ」
「……」
途端に黙り込んだデニス。夏になったらだよ? 今日は泳がないよ? と補足するが無言のままだ。なにこいつ。愛想わる。
どうやら噴水はお気に召さなかったらしい。びっくりしてティアンを見遣れば「でしょうね」と言われた。なにが?
アロンは肩が細かく震えている。どうやら笑いを堪えているらしい。俺がデニス相手に苦戦している様子を見て笑うなんて。酷い奴である。
「じゃあ泥団子でも作る?」
本当はクレイグ団長に禁止されているけど。デニスのためだ。仕方がない。
けれどもデニスは嫌そうな顔をした。
「服が汚れる」
「俺は気にしない」
「僕が気にするの」
「じゃあ猫探す?」
「そこにいるじゃん」
「違う。これは俺の猫。新しい猫を探すの」
「この屋敷、そんなにたくさん猫いるの?」
「ううん。見たことない。でもいるかもしれないから探そう」
「嫌」
嫌? なんで?
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