冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
173 / 637

163 大人ですが?

しおりを挟む
 俺はどうしたんですかとうるさいアロンを撒いて自室に戻る。てかなんでアロンが被害者ぶっているんだ。先にキャンベルと縁談進めるとか言い出したのはアロンの方だろ。俺だけ責められるのは納得いかない。むしろアロンの方が二股かけようとしているじゃんね。

「いいんですか?」
「なにが」

 部屋に戻るなりティアンが顔を曇らせる。タイラーとジャンも微妙な顔だ。もしかして俺のお付き合い云々に反対なのだろうか。

「あのねデニスとはお試しでお付き合いするだけだから」
「お試し?」

 変な顔をするティアンは「そんなことしなくても」と文句を言ってくる。

 仕方がないだろう。
 そうでもしないとデニスは一歩も引かなかったんだから。あの後「自分の発言には責任もって」と五回くらい言われた。俺もあれだけ粘られると折れるしかない。黒猫ユリスも『騙されるな!』と言うだけで役に立たなかったし。もっと具体的なアドバイスをくれよ。なにその抽象的なアドバイス。

「なに? 俺に恋人できて羨ましいのか?」

 しかしお試しとはいえ恋人ができたのは事実である。得意になって自慢すれば、すんっとティアンが真顔になる。なにその顔。

「アロン殿のことが好きだったのでは?」

 腕を組むティアンに、タイラーが目を見開いている。「え! それ本気だったんですか? なんでよりによってあんな人」と失礼なことを口走っている。

 いやそれよりも。

「別にアロンのことは好きじゃない」
「はぁ? あんだけベタベタしておいてなにを今更」

 ベタベタなんてしていない。アロンはちょっと気が合うから仲良くしているだけだ。お菓子くれるし。そう伝えるとティアンは眉を吊り上げる。こいつなんでちょっと不機嫌なの?

「でもアロン殿が縁談進めると聞いて怒っていたじゃないですか」
「怒ってはない。不満なだけ」
「だから! なにが不満なんですか。アロン殿が誰と結婚しようとユリス様には無関係でしょ」

 そうかな?
 アロンは俺の子分候補である。だから俺も無関係ではないと思う。そう伝えればティアンがますます変な顔をする。

「意味がわかりません」

 意味がわからないのはこっちだよ。なんでちょっと仲良くしたくらいで好きと勘違いされなければならないのか。なんでもかんでも恋愛に結びつけるな。

「それにアロンは男でしょ。あと歳の差考えて」
「デニス様も男です。歳は確かに近いですけど」
「デニスは顔が可愛い」
「顔が可愛ければ誰でもいいんですか?」

 なにやら機嫌が急降下するティアン。だって俺、デニスのことほとんど知らないし。それこそ顔が可愛いのとちょっと強引な性格してるってことくらいしか知らない。マジで初めまして状態なのだ。本物ユリスも詳しく教えてくれないから。

「これから仲良くなるから大丈夫」
「なにが大丈夫なんですか。ほんっと意味わかりません!」

 ふいっと顔を背けたティアンは読書を始めてしまう。なんだか怒っている。そんなに俺に先越されたことが悔しいのか。でもデニスとはほんとお試しなだけだから。


※※※


「やあ! ユリス」
「よく来たな、デニス」
「デニーって呼んで」

 翌日。
 宣言通りにやって来たデニスは今日も可愛い顔だった。「顔が可愛ければなんでもいいんですね?」とティアンがうるさい。

 お供を引き連れて来たデニスは、早速俺の手を取る。

「お出迎えしてくれたの? 嬉しいな」

 屋敷の玄関前で待ち構えていた俺に、そう言って微笑む。

 俺はジャンが用意した厚手のコートにマフラー、手袋も装着した完全防備であった。これだけ着込めば寒くないもんね。

 少し離れてタイラーとジャンが待機している。

 そして肝心の俺の両隣にはティアンと、なぜか仏頂面のアロンがいた。仕事はどうしたのだろうか。まさかサボってるのか。アロンならあり得る。

『顔だけは良いな。なんでこれで男なんだ』

 足元では黒猫ユリスがぶつぶつ言っている。普段は寒いと言って外に出たがらないのに今日はついて来た。よほど俺とデニスの行先が気になるらしい。

「じゃあ遊ぼう」

 早速デニスと遊んでやろうと手を引いて庭園の方に足を進める。するとデニスが怪訝な顔をした。

「え? 外で遊ぶの?」

 他にどこで遊ぶんだ。俺がなんのためにコートを着込んでお出迎えしたと思っている。外で遊ぶために決まっているだろうが。

「外はちょっと。寒いよ?」

 ティアンみたいなことを言うデニスは、玄関前から動こうとしない。マジかよ。こいつもティアンみたいなインドアタイプかよ。趣味あわないな。

「向こうに大きい噴水あるよ」

 だがデニスは十一歳である。ユリスより一個上。高校生の俺からしたらまだまだお子様である。とりあえず巨大噴水で釣ってやろうと庭を指差すが、デニスは「そうなんだ」と素っ気ない反応をするだけでやはり動こうとはしない。

 は? なんで?

「噴水あるんだけど」
「聞こえてたよ。噴水でしょ? すごいね」
「すごいでしょ‼︎」
「声でか」

 見に行こうとお誘いするが「興味ない」ときっぱり断られてしまった。

「噴水で遊びたくないの?」
「寒いじゃん。というか噴水でどうやって遊ぶの?」
「泳ぐ」
「……」

 途端に黙り込んだデニス。夏になったらだよ? 今日は泳がないよ? と補足するが無言のままだ。なにこいつ。愛想わる。

 どうやら噴水はお気に召さなかったらしい。びっくりしてティアンを見遣れば「でしょうね」と言われた。なにが?

 アロンは肩が細かく震えている。どうやら笑いを堪えているらしい。俺がデニス相手に苦戦している様子を見て笑うなんて。酷い奴である。

「じゃあ泥団子でも作る?」

 本当はクレイグ団長に禁止されているけど。デニスのためだ。仕方がない。

 けれどもデニスは嫌そうな顔をした。

「服が汚れる」
「俺は気にしない」
「僕が気にするの」

「じゃあ猫探す?」
「そこにいるじゃん」
「違う。これは俺の猫。新しい猫を探すの」
「この屋敷、そんなにたくさん猫いるの?」
「ううん。見たことない。でもいるかもしれないから探そう」
「嫌」

 嫌? なんで?

「もっと普通のことしようよ。そんな子供っぽい遊びじゃなくて」

 終いにはそんなことを言い出すデニス。子供っぽいってなに? 俺は大人ですが?
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

処理中です...