172 / 586
162 恋人できちゃった
しおりを挟む
「……デニスはどうした」
「帰った」
「帰った? なんでそんな急に」
デニス帰宅後。
ブルース兄様の部屋を訪れれば、兄様は不審な顔をした。
廊下で拾ったタイラー、ジャン。それにティアンも一緒である。どうやら彼らは俺とデニスの話し合いが終わるのを廊下で待っていたらしい。
俺の腕にはきちんと黒猫ユリスもいる。
「デニスはなんだって?」
問いかけるブルース兄様の後ろには、興味津々といった感じのアロンもいる。
「明日も来るって」
「なぜ」
俺に訊かれましても。
一方的に、約束守ってねと念押ししてきたデニスは「また明日」と上機嫌に帰って行った。去り際に黒猫ユリスをもふもふしていた。そんな名残惜しそうにしても猫はあげないぞ。俺のだから。
「デニス、手強かった」
「そうか」
なにやら微妙な反応をするブルース兄様は、口を開いては閉じるといった不審な行動を繰り返す。どうやら俺にききたいことがあるらしい。わかっている。婚約者のくだりだろ。
「兄様」
「なんだ」
その件について報告しなければならないことがある。
「俺、なんかわかんないけどデニスと付き合うことになった」
ガンっとすごい音がした。
ブルース兄様がテーブルに突っ伏している。大丈夫か? 頭ぶつけた?
「はぁ⁉︎」
ありったけの大声をあげるのはアロンである。先程までにやにやしていたくせに急に真顔になる彼は「俺はどうなるんですか!」と詰め寄ってくる。どうなるんですかってなに? 知らんがな。
「俺と結婚してくれるっていう約束でしたよね?」
「そんな約束したっけ」
「しました! ブルース様の許可も頂いたじゃないですか!」
「……俺は許可した覚えなんてない」
アロンの叫びに苦い声で応じたブルース兄様はひどく深いため息をつく。「なんでこんなわけわからん展開になるんだ」と嘆いている。
「よくわからないのにお付き合いなんてするものじゃない」
そんな正論をぶつけてくる。俺だって粘ったぞ? でもデニスが一歩も引かなかった。自分の言葉には責任持てとうるさかった。俺はそんな無責任な言葉吐いた覚えないけどな。すべてやったのは本物ユリスの方だ。この場で呑気に欠伸している黒猫だ。
「どうしよう。恋人できちゃった」
「できちゃったって、おまえ」
言葉を失う兄様は、遠くを見つめて現実逃避をしているようだ。わかるよ、兄様の気持ち。俺はできた弟である。なので兄様にひと言伝えなければならない。
「兄様よりも先に恋人作っちゃってごめんね」
「うるせぇ」
呻いたブルース兄様は顔を覆ってしまう。どうやら俺に先越されたことが相当ショックみたいだ。
「オーガス兄様に言ってもいいと思う?」
大事なことを確認すれば、ブルース兄様とアロンが顔を見合わせる。
「オーガス兄様プライド高いから。俺に先越されたら泣いちゃうかもしれない」
弟に先越されるのは許せない的なことを先日ブルース兄様相手に暴露していた長男である。ブルース兄様どころか末っ子の俺に先越されたと知ったらまた泣いちゃうかも。
「いや、それは、え、てか本当に付き合うのか?」
「うん」
なんだか疑いの目を向けてくるブルース兄様。後ろではアロンが「俺はどうなるんですか!」と喚いている。
「嫌なら嫌って言ってもいいんだぞ?」
「嫌って言っても聞いてくれない人もいるって知った」
「……そうか」
再び遠い目をしたブルース兄様は「どうなってんだよ」と呟いている。ほんと、どうなってんだよ。
「でもデニス可愛かった。顔だけね。俺には負けるけどね」
「おまえはなんでそんなお気楽なんだ」
誰がお気楽だ。
色々悩んだ末の結論である。本物ユリスに振り回されたデニスも可哀想だし、それにデニス可愛かったし。顔だけね。性格はちょっと強引だけど。あと俺の猫を勝手に触る点はちょっとな。
「明日もデニスと遊ぶから」
「まぁ、一緒に遊ぶくらいなら」
そのうちデニスも飽きるだろ、と天を仰いだ兄様は投げやりになりつつあった。
「ユリス様? 俺はどうなるんですか?」
とりあえず今はアロンがうるさい。
「二股かけるおつもりですか?」
「おい、アロン。ユリスに変な言葉教えるんじゃない」
うるさいアロンにブルース兄様が食ってかかる。あと二股の意味くらい知っている。ブルース兄様は俺をなんだと思っているんだ。
「帰った」
「帰った? なんでそんな急に」
デニス帰宅後。
ブルース兄様の部屋を訪れれば、兄様は不審な顔をした。
廊下で拾ったタイラー、ジャン。それにティアンも一緒である。どうやら彼らは俺とデニスの話し合いが終わるのを廊下で待っていたらしい。
俺の腕にはきちんと黒猫ユリスもいる。
「デニスはなんだって?」
問いかけるブルース兄様の後ろには、興味津々といった感じのアロンもいる。
「明日も来るって」
「なぜ」
俺に訊かれましても。
一方的に、約束守ってねと念押ししてきたデニスは「また明日」と上機嫌に帰って行った。去り際に黒猫ユリスをもふもふしていた。そんな名残惜しそうにしても猫はあげないぞ。俺のだから。
「デニス、手強かった」
「そうか」
なにやら微妙な反応をするブルース兄様は、口を開いては閉じるといった不審な行動を繰り返す。どうやら俺にききたいことがあるらしい。わかっている。婚約者のくだりだろ。
「兄様」
「なんだ」
その件について報告しなければならないことがある。
「俺、なんかわかんないけどデニスと付き合うことになった」
ガンっとすごい音がした。
ブルース兄様がテーブルに突っ伏している。大丈夫か? 頭ぶつけた?
「はぁ⁉︎」
ありったけの大声をあげるのはアロンである。先程までにやにやしていたくせに急に真顔になる彼は「俺はどうなるんですか!」と詰め寄ってくる。どうなるんですかってなに? 知らんがな。
「俺と結婚してくれるっていう約束でしたよね?」
「そんな約束したっけ」
「しました! ブルース様の許可も頂いたじゃないですか!」
「……俺は許可した覚えなんてない」
アロンの叫びに苦い声で応じたブルース兄様はひどく深いため息をつく。「なんでこんなわけわからん展開になるんだ」と嘆いている。
「よくわからないのにお付き合いなんてするものじゃない」
そんな正論をぶつけてくる。俺だって粘ったぞ? でもデニスが一歩も引かなかった。自分の言葉には責任持てとうるさかった。俺はそんな無責任な言葉吐いた覚えないけどな。すべてやったのは本物ユリスの方だ。この場で呑気に欠伸している黒猫だ。
「どうしよう。恋人できちゃった」
「できちゃったって、おまえ」
言葉を失う兄様は、遠くを見つめて現実逃避をしているようだ。わかるよ、兄様の気持ち。俺はできた弟である。なので兄様にひと言伝えなければならない。
「兄様よりも先に恋人作っちゃってごめんね」
「うるせぇ」
呻いたブルース兄様は顔を覆ってしまう。どうやら俺に先越されたことが相当ショックみたいだ。
「オーガス兄様に言ってもいいと思う?」
大事なことを確認すれば、ブルース兄様とアロンが顔を見合わせる。
「オーガス兄様プライド高いから。俺に先越されたら泣いちゃうかもしれない」
弟に先越されるのは許せない的なことを先日ブルース兄様相手に暴露していた長男である。ブルース兄様どころか末っ子の俺に先越されたと知ったらまた泣いちゃうかも。
「いや、それは、え、てか本当に付き合うのか?」
「うん」
なんだか疑いの目を向けてくるブルース兄様。後ろではアロンが「俺はどうなるんですか!」と喚いている。
「嫌なら嫌って言ってもいいんだぞ?」
「嫌って言っても聞いてくれない人もいるって知った」
「……そうか」
再び遠い目をしたブルース兄様は「どうなってんだよ」と呟いている。ほんと、どうなってんだよ。
「でもデニス可愛かった。顔だけね。俺には負けるけどね」
「おまえはなんでそんなお気楽なんだ」
誰がお気楽だ。
色々悩んだ末の結論である。本物ユリスに振り回されたデニスも可哀想だし、それにデニス可愛かったし。顔だけね。性格はちょっと強引だけど。あと俺の猫を勝手に触る点はちょっとな。
「明日もデニスと遊ぶから」
「まぁ、一緒に遊ぶくらいなら」
そのうちデニスも飽きるだろ、と天を仰いだ兄様は投げやりになりつつあった。
「ユリス様? 俺はどうなるんですか?」
とりあえず今はアロンがうるさい。
「二股かけるおつもりですか?」
「おい、アロン。ユリスに変な言葉教えるんじゃない」
うるさいアロンにブルース兄様が食ってかかる。あと二股の意味くらい知っている。ブルース兄様は俺をなんだと思っているんだ。
331
お気に入りに追加
3,020
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います
ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。
フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。
「よし。お前が俺に嫁げ」
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる