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162 恋人できちゃった

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「……デニスはどうした」
「帰った」
「帰った? なんでそんな急に」

 デニス帰宅後。
 ブルース兄様の部屋を訪れれば、兄様は不審な顔をした。

 廊下で拾ったタイラー、ジャン。それにティアンも一緒である。どうやら彼らは俺とデニスの話し合いが終わるのを廊下で待っていたらしい。

 俺の腕にはきちんと黒猫ユリスもいる。

「デニスはなんだって?」

 問いかけるブルース兄様の後ろには、興味津々といった感じのアロンもいる。

「明日も来るって」
「なぜ」

 俺に訊かれましても。
 一方的に、約束守ってねと念押ししてきたデニスは「また明日」と上機嫌に帰って行った。去り際に黒猫ユリスをもふもふしていた。そんな名残惜しそうにしても猫はあげないぞ。俺のだから。

「デニス、手強かった」
「そうか」

 なにやら微妙な反応をするブルース兄様は、口を開いては閉じるといった不審な行動を繰り返す。どうやら俺にききたいことがあるらしい。わかっている。婚約者のくだりだろ。

「兄様」
「なんだ」

 その件について報告しなければならないことがある。

「俺、なんかわかんないけどデニスと付き合うことになった」

 ガンっとすごい音がした。

 ブルース兄様がテーブルに突っ伏している。大丈夫か? 頭ぶつけた?

「はぁ⁉︎」

 ありったけの大声をあげるのはアロンである。先程までにやにやしていたくせに急に真顔になる彼は「俺はどうなるんですか!」と詰め寄ってくる。どうなるんですかってなに? 知らんがな。

「俺と結婚してくれるっていう約束でしたよね?」
「そんな約束したっけ」
「しました! ブルース様の許可も頂いたじゃないですか!」
「……俺は許可した覚えなんてない」

 アロンの叫びに苦い声で応じたブルース兄様はひどく深いため息をつく。「なんでこんなわけわからん展開になるんだ」と嘆いている。

「よくわからないのにお付き合いなんてするものじゃない」

 そんな正論をぶつけてくる。俺だって粘ったぞ? でもデニスが一歩も引かなかった。自分の言葉には責任持てとうるさかった。俺はそんな無責任な言葉吐いた覚えないけどな。すべてやったのは本物ユリスの方だ。この場で呑気に欠伸している黒猫だ。

「どうしよう。恋人できちゃった」
「できちゃったって、おまえ」

 言葉を失う兄様は、遠くを見つめて現実逃避をしているようだ。わかるよ、兄様の気持ち。俺はできた弟である。なので兄様にひと言伝えなければならない。

「兄様よりも先に恋人作っちゃってごめんね」
「うるせぇ」

 呻いたブルース兄様は顔を覆ってしまう。どうやら俺に先越されたことが相当ショックみたいだ。

「オーガス兄様に言ってもいいと思う?」

 大事なことを確認すれば、ブルース兄様とアロンが顔を見合わせる。

「オーガス兄様プライド高いから。俺に先越されたら泣いちゃうかもしれない」

 弟に先越されるのは許せない的なことを先日ブルース兄様相手に暴露していた長男である。ブルース兄様どころか末っ子の俺に先越されたと知ったらまた泣いちゃうかも。

「いや、それは、え、てか本当に付き合うのか?」
「うん」

 なんだか疑いの目を向けてくるブルース兄様。後ろではアロンが「俺はどうなるんですか!」と喚いている。

「嫌なら嫌って言ってもいいんだぞ?」
「嫌って言っても聞いてくれない人もいるって知った」
「……そうか」

 再び遠い目をしたブルース兄様は「どうなってんだよ」と呟いている。ほんと、どうなってんだよ。

「でもデニス可愛かった。顔だけね。俺には負けるけどね」
「おまえはなんでそんなお気楽なんだ」

 誰がお気楽だ。
 色々悩んだ末の結論である。本物ユリスに振り回されたデニスも可哀想だし、それにデニス可愛かったし。顔だけね。性格はちょっと強引だけど。あと俺の猫を勝手に触る点はちょっとな。

「明日もデニスと遊ぶから」
「まぁ、一緒に遊ぶくらいなら」

 そのうちデニスも飽きるだろ、と天を仰いだ兄様は投げやりになりつつあった。

「ユリス様? 俺はどうなるんですか?」

 とりあえず今はアロンがうるさい。

「二股かけるおつもりですか?」
「おい、アロン。ユリスに変な言葉教えるんじゃない」

 うるさいアロンにブルース兄様が食ってかかる。あと二股の意味くらい知っている。ブルース兄様は俺をなんだと思っているんだ。
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