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160 約束
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デニスいわく。
彼とユリスは結婚の約束をしたらしい。いつの話だよ。ちなみに現在、ユリス十歳、デニス十一歳らしい。マジでいつの約束だよ。
ぽかんとする俺に構わず、デニスはひとり楽しそうににこにこしている。愛想のいい子供だ。
『……昔、こいつ髪が長かったんだ』
え。なにそれ見たかった。俺が好きなのは大人の長髪男子であるが、別に子供でもいいかもしれない。デニスは可愛い系だからちょっと俺の好みからはズレるけど、単純に長髪は好き。なんで切ったんだ。長髪に対する冒涜だ。
『それにこの顔だろ。あの時はもっと幼かったし』
なにやらもごもごと言い訳を始めた黒猫ユリス。もしやなにか心当たりでもあるのか。ぎゅっと抱える腕に力を込めれば、黒猫ユリスが苦々しい声を出した。
『女だと思ってたんだ』
「は?」
え? なんだって?
思わず困惑を口に出した俺に、デニスが「どうしたの?」と優しく問いかけてくるが、それどころではない。
黒猫ユリスを凝視すれば、ばっちりと目があった。
『だから。三、四年前くらいの話か? こいつに会った時、女だと思ったんだ。それで結婚してくれとか言われたから』
結婚するって言ったのか?
視線で訊ねれば、黒猫ユリスが小さく頷いた。
『顔が可愛かったから。とりあえず唾付けとくかと思ってな』
やってることがアロンと一緒だ。わるにゃんこめ。てか三、四年前ってユリス六歳とかじゃん。ませてる。すごくませてる子供じゃん。なんか嫌だ。
なんてことだ。デニスはその時のユリスの言葉を覚えていて、なおかつ本気にしているらしい。彼も彼でどうなってんだよ。そんな子供の頃の口約束なんて真に受けるなよ。
『いやあ、後から実は男だと知ってな。それ以来会うこともなかったんだが。まさか本気にしていたとは。こいつ頭大丈夫か?』
責任転嫁がひどい。デニス可哀想。
つまり本物ユリスはデニスを女の子と勘違いして結婚の約束をした。ところがデニスが男の子だと判明し、めっきり興味を失いそれきり放置していた、ということらしい。クソじゃん。アロンにも負けないくらいのクソ野郎じゃん。
だが今のユリスは俺である。
いくら本物ユリスがクソな行いをやっていたとしても、俺が責任を取るのはごめんである。丁重にお断りせねば。
「あ、あのね、デニス」
「前みたいにデニーって呼んでよ」
「デニー」
ダメだ。なんかこう、罪悪感が。いや、ここで諦めたらダメだ。頑張れ、俺。
ちなみにタイラーとティアンは無言で俺らのことを見守っている。デニスが公爵家のご令息だから強く出られないらしい。ジャンも少し離れたところでオロオロしている。援護射撃は期待できないぞ。
「えっと、それは昔の話だから」
「うん。だからユリスが覚えていてくれてすごく嬉しい」
「お、おぉ」
ポジティブ。
あとなんかふにゃふにゃ笑ってて「おまえと結婚するなんて冗談に決まってるだろ!」とは言い難い。相手がアロンだったらズバズバ言いたいこと言えるのに。なんかデニス相手だと言い難い。顔が可愛いからか? 可愛い系だとちょっと強く言えないんだが?
交代して欲しい。今こそ本物ユリスと入れ替わって彼に全てをお任せしてしまいたい。俺にはちょっと無理。
ごくりと唾を飲み込んで、黒猫ユリスと視線を合わせる。だが何かを察したらしい黒猫がふいっと視線を逸らしてしまう。そのまま顔を俯けて断固入れ替わり拒否体勢を取ってしまう。薄情者。
「せっかく会えたんだし、少しお話でもしない?」
「う、うん」
うるうるしたお目めで覗き込まれると、お断りできない。話くらいならとこくこく頷けば、黒猫ユリスが『絆されてどうする』と呆れ声をもらした。いや誰のせいでこうなったと思っているんだ。
彼とユリスは結婚の約束をしたらしい。いつの話だよ。ちなみに現在、ユリス十歳、デニス十一歳らしい。マジでいつの約束だよ。
ぽかんとする俺に構わず、デニスはひとり楽しそうににこにこしている。愛想のいい子供だ。
『……昔、こいつ髪が長かったんだ』
え。なにそれ見たかった。俺が好きなのは大人の長髪男子であるが、別に子供でもいいかもしれない。デニスは可愛い系だからちょっと俺の好みからはズレるけど、単純に長髪は好き。なんで切ったんだ。長髪に対する冒涜だ。
『それにこの顔だろ。あの時はもっと幼かったし』
なにやらもごもごと言い訳を始めた黒猫ユリス。もしやなにか心当たりでもあるのか。ぎゅっと抱える腕に力を込めれば、黒猫ユリスが苦々しい声を出した。
『女だと思ってたんだ』
「は?」
え? なんだって?
思わず困惑を口に出した俺に、デニスが「どうしたの?」と優しく問いかけてくるが、それどころではない。
黒猫ユリスを凝視すれば、ばっちりと目があった。
『だから。三、四年前くらいの話か? こいつに会った時、女だと思ったんだ。それで結婚してくれとか言われたから』
結婚するって言ったのか?
視線で訊ねれば、黒猫ユリスが小さく頷いた。
『顔が可愛かったから。とりあえず唾付けとくかと思ってな』
やってることがアロンと一緒だ。わるにゃんこめ。てか三、四年前ってユリス六歳とかじゃん。ませてる。すごくませてる子供じゃん。なんか嫌だ。
なんてことだ。デニスはその時のユリスの言葉を覚えていて、なおかつ本気にしているらしい。彼も彼でどうなってんだよ。そんな子供の頃の口約束なんて真に受けるなよ。
『いやあ、後から実は男だと知ってな。それ以来会うこともなかったんだが。まさか本気にしていたとは。こいつ頭大丈夫か?』
責任転嫁がひどい。デニス可哀想。
つまり本物ユリスはデニスを女の子と勘違いして結婚の約束をした。ところがデニスが男の子だと判明し、めっきり興味を失いそれきり放置していた、ということらしい。クソじゃん。アロンにも負けないくらいのクソ野郎じゃん。
だが今のユリスは俺である。
いくら本物ユリスがクソな行いをやっていたとしても、俺が責任を取るのはごめんである。丁重にお断りせねば。
「あ、あのね、デニス」
「前みたいにデニーって呼んでよ」
「デニー」
ダメだ。なんかこう、罪悪感が。いや、ここで諦めたらダメだ。頑張れ、俺。
ちなみにタイラーとティアンは無言で俺らのことを見守っている。デニスが公爵家のご令息だから強く出られないらしい。ジャンも少し離れたところでオロオロしている。援護射撃は期待できないぞ。
「えっと、それは昔の話だから」
「うん。だからユリスが覚えていてくれてすごく嬉しい」
「お、おぉ」
ポジティブ。
あとなんかふにゃふにゃ笑ってて「おまえと結婚するなんて冗談に決まってるだろ!」とは言い難い。相手がアロンだったらズバズバ言いたいこと言えるのに。なんかデニス相手だと言い難い。顔が可愛いからか? 可愛い系だとちょっと強く言えないんだが?
交代して欲しい。今こそ本物ユリスと入れ替わって彼に全てをお任せしてしまいたい。俺にはちょっと無理。
ごくりと唾を飲み込んで、黒猫ユリスと視線を合わせる。だが何かを察したらしい黒猫がふいっと視線を逸らしてしまう。そのまま顔を俯けて断固入れ替わり拒否体勢を取ってしまう。薄情者。
「せっかく会えたんだし、少しお話でもしない?」
「う、うん」
うるうるしたお目めで覗き込まれると、お断りできない。話くらいならとこくこく頷けば、黒猫ユリスが『絆されてどうする』と呆れ声をもらした。いや誰のせいでこうなったと思っているんだ。
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