嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

文字の大きさ
87 / 930
連載

157 全力で遊べ

しおりを挟む
「ティアン」
「なんですか」

 今日は例のユリス放火事件の現場を見に行くつもりである。なにか魔導書の痕跡があるかもしれない。ない可能性の方が高いけど。そう。俺はまだ魔導書を諦めてはいなかった。だってそんな面白そうな物、せっかく異世界に来たんだからどうしても見てみたい。

 午後からやって来たティアンに、早速外へ行こうと告げれば予想通り嫌な顔が返ってきた。

「今日寒いですよ」

 そう言ってわざとらしく両手を擦り合わせるティアンは寒いアピールをして外遊びを回避しようとしている。なんて奴だ。子供は外遊び好きだろうが。

「タイラーは外で遊びたいって言ってる」
「俺は言ってませんよ、そんなこと」

 嘘つけ。タイラーは騎士だ。外で走りまわるの好きだろ。

「猫が外で遊びたいって言ってる」
『言ってない』

 律儀に返答をよこした黒猫ユリスは床で丸くなっている。

 まぁいいさ。ひとりでも遊ぶもんね。

 そうと決まれば行動あるのみ。外へ駆け出そうとすれば慌ててジャンがコートと手袋、それにマフラーをかき集める。それを見てティアンが「えぇ?」と嫌そうに顔を顰めるが、最終的には自分も脱いだばかりのコートを着込み始めた。

 そうして外に出た俺であったが、想像以上の寒さに首をすくめる。なんか一気に冬が来たな。

「……やっぱり家で遊ぼう」
「ユリス様が外行くって言ったんでしょ」

 ティアンはこういうところが面倒だよな。さっきまでは外遊びは嫌だと言っていたくせに、一度外に出ると途端にやる気になる。なんでだよ。

 だが俺にも目的がある。マフラーに顔を埋めて渋々足を進めれば、みんなが後からついてくる。ちなみに黒猫ユリスは部屋に残っている。外は寒いから嫌だとごねていた。もふもふのくせに。

「どこ行くんですか」

 噴水はダメですよ、と余計な口出ししてくるティアンを無視してお目当ての黒焦げな木へと一直線に進む。

 寒空の下、焼け焦げた木はなんか虚しかった。

「かわいそ」

 思わずそう呟けば、ティアンとタイラーが顔を見合わせていた。その顔には「おまえが言うな」という困惑がありありと浮かんでいた。

 違うから。これに火をつけたの俺じゃないから。本物ユリスだから。

 そうしてお目当ての放火現場にて。あちこち見てまわったが、やはり魔導書のヒントになるようなものはなにもなかった。ですよね。もう随分時間が経っているみたいだし。

 あぁ、俺も見たかったな魔導書。

 黒猫ユリスめ。なんで燃やしたりなんかするんだ。ここにいないわるにゃんこへの悪態を吐いて、ため息をつく。

「よし。帰ろう」

 吹き付ける風に体を縮める。「もうですか?」とティアンが目を丸くしているが、寒いんだもん。

 わー、と走り出せばティアンが「なんで走るんですか」と後を追ってくる。タイラーとジャンも走っている。そうして屋敷を目指していた俺であったが、走っているうちになんだかテンションが上がってきた。そのままどさくさに紛れて噴水へと駆け寄ろうとすれば、目敏く察したタイラーが前に回り込んでくる。なにをする。邪魔するんじゃない。

「遊ぶなら屋敷近くにしましょうね」

 そんなことを言って俺を噴水から遠ざけようとしてくる。見るだけだから! と粘れば「本当に見るだけですよ?」と譲歩してくれた。なんだかタイラーにしては物分かりがいい。

 おそらく本物ユリスが彼を花瓶でぶん殴ろうとした件が尾を引いている。また殴られてはたまらないと多少は折れることにしたのだろう。ブルース兄様が苦い顔をしていたし。

 てくてく歩いて噴水にたどり着いた俺はぼけっと眺める。勢いよく噴き上げる噴水はいつ見ても楽しい。

「夏になったら泳ぐんだ」
「ダメですよ」

 俺の言葉をすぐに否定してくるティアン。俺はタイラーに話しかけたんだ。お子様は黙っておけ。

 今度はタイラーの裾を引っ張って「夏になったら泳ぐ」と伝える。「タイラーも一緒に泳ごう」とお誘いすれば「嫌ですよ」と衝撃的なお答えがあった。

「え? なんで。騎士なのに?」
「騎士であることに一体なんの関係が」

 首を傾げるタイラー。
 なんでそんなに不思議そうなんだ。騎士って運動好きだろ。泳ぐのも好きだろ。アロンは好きって言ってたぞ。

「アロンが一緒に泳いでくれるって言った」
「アロン殿はちょっと特殊なので。というか噴水って泳ぐものではありませんよ」

 危ないからダメです、と言い切ったタイラーは遊び心が足りないと思う。おまえは一応十歳児の相手が仕事だろ。だったら全力で俺と遊べ。

「じゃあ今からみんなで新しい猫を探そう」
「どういう提案ですか」
「もう! ティアンめ! さっきから文句ばっかり!」

 地団駄を踏めば、三人から微妙な視線が飛んでくる。真面目に俺と遊べ!
しおりを挟む
感想 724

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。