冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
160 / 656

151 開けたらダメ

しおりを挟む
 仕事をするオーガス兄様を横目にごろごろする俺。どうやらティアンと俺がプチ喧嘩したと思い込んでいるらしいオーガス兄様は「気が済んだら帰ってね」と言ったきり特に口出ししてこない。平和である。

 遊び相手もいなくて暇な俺は、ごろごろしながら兄様の部屋をあさるが面白いものは出てこない。マジで仕事関係の物しか出てこない。つまらない長男である。

 ドアの向こうにはティアンとジャンがいる。ティアンが「オーガス様のお邪魔になるでしょうが!」としきりに俺に声をかけてくる。どっちかっていうとティアンの大声の方がお邪魔だと思うけど。
 肝心のオーガス兄様は「そろそろ許してあげたら? 時には自分が折れてあげるのも大事だよ」とよくわからないアドバイスをよこしてくる。今折れるべきはブルース兄様とタイラーだ。俺ではない。

「そういえばさ、あれどうした?」

 忙しそうに書類を捲りながら、オーガス兄様が突然俺の知らない話を始める。はて? あれとは一体?

 黙っていれば「え? まさかなかったことにしてる?」とちょっと引かれてしまった。だからあれってなんだよ。

「ほら、あの魔導書みたいな怪しい本。あれどこにやったの?」

 魔導書? なんそれ。ファンタジーじゃん。

「僕にも見せて欲しいんだけど。てかあれ取ってきたの僕だよね? さも君が見つけてきたみたいに我が物顔で独占してるけどさ」
「俺のだもん」
「あ、はい。すみません」

 よくわからんが、魔導書的なものがあるらしい。マジでよくわからんが俺の物だと主張しておこう。ガチでなにがなにやらわからんけど。

 本物ユリスなら知っているだろうが、あいつは激ヤバな性格である。頼らないと決意した直後に頼るのもな。そんなわくわくする物を隠し持っているなんて。わるにゃんこめ。

 こりゃあ、あとで部屋の中を捜索せねば。俺も魔導書に興味ある。存在感が薄過ぎてすっかり忘れていたが、この世界にも一応魔法はあるからね。誰も使ってないけどね。魔導書的なものがあればもっと本格的な魔法が使えるかもしれない。

 そうして呑気にしていた俺とオーガス兄様であったが、廊下からブルース兄様の低い声が聞こえてきたことで態度が一変した。

「兄上。ここを開けてください」
「ん?」

 目を瞬いたオーガス兄様は「なんでブルース?」ときょとんとしている。

「開けないでね?」

 今にも立ち上がりそうなオーガス兄様に念押しするが、どこまで事態を把握できているか不明である。よくよく見張っておかねばならない。

「兄上」

 ドアの向こうからブルース兄様の舌打ちが聞こえたと思った次の瞬間。

 ガンッ、とすごい音がした。思わずオーガス兄様とふたりで顔を見合わせる。どうやらブルース兄様がドアを蹴り上げたらしい。そんなんだからお母様に「あの子ちょっと乱暴なところあるでしょ? ユリスは真似しちゃダメよ」なんて言われるんだ。

「え、ちょっと待った! 今開けるから!」

 なんだと⁉︎

「ダメ! 絶対ダメ!」

 ブルース兄様の剣幕にビビったオーガス兄様がドアの方へと走っていく。その腰に後ろから勢いよくしがみついて引き止めれば、オーガス兄様が変な顔をする。

「君なにしたの? まさかブルースと喧嘩したの?」
「違う。そうじゃない」
「とりあえず一旦話し合おう?」
「ダメェ!」

 絶対ダメ! とありったけの大声で叫んでやる。なにやらドアの向こうがざわざわしている。ついでにオーガス兄様も青い顔をしている。だが俺は譲らないぞ。籠城すると決めたのだ。

「えっと? うぅん? あ! そうだ」

 ぱんっと手を打ったオーガス兄様が引き攣った笑みを浮かべる。

「ユリス? 美味しいお菓子あるけど食べる?」
「食べる!」
「そうかそうか。じゃあ厨房に取りに行こうね」

 む! その手にはのらないぞ。

「じゃあいらない!」

 お菓子を餌にドアを開けるつもりである。なんて卑怯な手だ。そういうことならいりません! と突っぱねてやればオーガス兄様があわあわと焦り始める。

「君がお菓子に釣られないなんて。よっぽどのことが?」

 ようやく理解してくれてなによりだ。
しおりを挟む
感想 474

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。

音無野ウサギ
BL
目覚めたら親指姫サイズになっていた僕。親切なチョウチョさんに助けられたけど童話の世界みたいな展開についていけない。 親切なチョウチョを食べたヒキガエルに攫われてこのままヒキガエルのもとでシンデレラのようにこき使われるの?と思ったらヒキガエルの飼い主である悪い魔法使いを倒した強面騎士様に拾われて人形用のお家に住まわせてもらうことになった。夜の間に元のサイズに戻れるんだけど騎士様に幽霊と思われて…… 可愛いもの好きの強面騎士様と異世界転生して親指姫サイズになった僕のほのぼの日常BL

なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません

めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。 家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。 しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。 調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。 だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。 煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!? /////////////////////////////// ※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。 ///////////////////////////////

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

処理中です...