冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
155 / 637

146 生意気な子分

しおりを挟む
「ユリス様? お勉強をサボってはいけませんよ」
「ユリス様。お屋敷の中を走ってはいけません」
「お兄様のお仕事の邪魔をしてはいけませんよ」
「猫ちゃんに意地悪したらダメです」

 ストレスである。
 なにがって? タイラーがだ。

 新しく俺の護衛としてやってきた騎士のタイラーは若い兄ちゃんだ。はじめこそは気が合いそうなんて呑気に考えていたがとんでもない。

 タイラーはものすごく口うるさかった。

 俺のやることなすこと全部に文句をつけてくる。非常にうるさい。横でずっとネチネチ言われてみろ。ストレスだ。

 ということで俺はタイラーに対抗すべく、奴がなにか小言を口にするたびに「ストレス!」と大声で主張しているのだが、タイラーはちょっと眉を寄せるだけでやめようとはしない。なんて奴だ。信じられない。

 そんなわけで俺は本日も朝からオーガス兄様の部屋を訪れていた。

「タイラーをどうにかして欲しい」
「いや、だから」

 俺の顔を見るなりげんなりした表情をみせるオーガス兄様は「ブルースに言いなよ」と冷たいことを言う。ここ最近、オーガス兄様は毎日そればかりだ。

「いい加減諦めて。お願いだから。毎朝突入してこないで……」

 オーガス兄様が弱々しく吐き出すが無視だ。だったらタイラーをどうにかしてくれ。俺の背後ではジャンが申し訳なさそうな顔でオーガス兄様にぺこぺこ頭を下げている。そしてタイラーは仁王立ちで偉そうにしている。

「ユリス様。オーガス様にご迷惑ですよ」

 誰のせいだと思っているんだ、こいつ。すべてはおまえが口うるさいのが原因だろうが。改めろ! と勢いよく指を突きつけるが、「人を指差さない」とあっさりあしらわれてしまう。

「でも本当に。僕に言われても困るよ。騎士団のことは全部ブルース任せだから。文句ならそっちに言って」
「毎日言ってる」
「あぁ、そっちにも毎日押しかけてんのね」

 ブルースはすごいな、なんて我慢強いんだ、と変な感心をしているオーガス兄様は、本日も役に立ちそうにない。

「タイラーをどうにかして!」

 再度大声で主張するが「やめて。朝から大声出さないで」と弱々しい声が返ってくるのみだ。進展が一切ない。

 ムスッとしていれば、ノックが聞こえてきた。ドアに目を遣れば、「おはようございます」とニックが入室してくる。俺の姿を捉えるなり「またか」という顔をしたニックはタイラーに視線を注ぐ。

「いい加減どうにかしてくれないか」
「そう言われましても」

 困ったように眉根を寄せるタイラーは、どうやらニックには強く出られないらしい。立場的にニックの方が上なのだろうか。タイラーは見るからに若いしな。たしか二十歳だったはず。これは使える。

「おい! 子分その2!」
「……」

 俺をガン無視したニックは、何事もなかったかのようにオーガス兄様の方へ歩み寄る。

「どうした、ニック」

 軽く肩をすくめたニックは、「なんですか、ユリス様」とこちらを振り返る。さっきの呼びかけは聞こえていなかったのか? まぁいい。

「タイラーをどうにかして」
「どうにかとは?」
「俺に優しくしろって言って」
「はぁ」

 やる気のない声を上げたニックは、すぐにタイラーを視界に入れた。

「タイラー。ユリス様に優しくしてやれ」
「はい」
「これでいいですか? ユリス様」

 いいわけあるか。なんだその小芝居は。俺は騙されないぞ。

「もっとちゃんとして!」
「ちゃんとってなんですか。わかりません」

 はいはいと適当に俺をあしらうニックは、遠慮なしにグイグイ背中を押してくる。どうやら俺をこの部屋から追い出すつもりらしい。子分のくせに生意気だぞ。
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

処理中です...