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146 生意気な子分
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「ユリス様? お勉強をサボってはいけませんよ」
「ユリス様。お屋敷の中を走ってはいけません」
「お兄様のお仕事の邪魔をしてはいけませんよ」
「猫ちゃんに意地悪したらダメです」
ストレスである。
なにがって? タイラーがだ。
新しく俺の護衛としてやってきた騎士のタイラーは若い兄ちゃんだ。はじめこそは気が合いそうなんて呑気に考えていたがとんでもない。
タイラーはものすごく口うるさかった。
俺のやることなすこと全部に文句をつけてくる。非常にうるさい。横でずっとネチネチ言われてみろ。ストレスだ。
ということで俺はタイラーに対抗すべく、奴がなにか小言を口にするたびに「ストレス!」と大声で主張しているのだが、タイラーはちょっと眉を寄せるだけでやめようとはしない。なんて奴だ。信じられない。
そんなわけで俺は本日も朝からオーガス兄様の部屋を訪れていた。
「タイラーをどうにかして欲しい」
「いや、だから」
俺の顔を見るなりげんなりした表情をみせるオーガス兄様は「ブルースに言いなよ」と冷たいことを言う。ここ最近、オーガス兄様は毎日そればかりだ。
「いい加減諦めて。お願いだから。毎朝突入してこないで……」
オーガス兄様が弱々しく吐き出すが無視だ。だったらタイラーをどうにかしてくれ。俺の背後ではジャンが申し訳なさそうな顔でオーガス兄様にぺこぺこ頭を下げている。そしてタイラーは仁王立ちで偉そうにしている。
「ユリス様。オーガス様にご迷惑ですよ」
誰のせいだと思っているんだ、こいつ。すべてはおまえが口うるさいのが原因だろうが。改めろ! と勢いよく指を突きつけるが、「人を指差さない」とあっさりあしらわれてしまう。
「でも本当に。僕に言われても困るよ。騎士団のことは全部ブルース任せだから。文句ならそっちに言って」
「毎日言ってる」
「あぁ、そっちにも毎日押しかけてんのね」
ブルースはすごいな、なんて我慢強いんだ、と変な感心をしているオーガス兄様は、本日も役に立ちそうにない。
「タイラーをどうにかして!」
再度大声で主張するが「やめて。朝から大声出さないで」と弱々しい声が返ってくるのみだ。進展が一切ない。
ムスッとしていれば、ノックが聞こえてきた。ドアに目を遣れば、「おはようございます」とニックが入室してくる。俺の姿を捉えるなり「またか」という顔をしたニックはタイラーに視線を注ぐ。
「いい加減どうにかしてくれないか」
「そう言われましても」
困ったように眉根を寄せるタイラーは、どうやらニックには強く出られないらしい。立場的にニックの方が上なのだろうか。タイラーは見るからに若いしな。たしか二十歳だったはず。これは使える。
「おい! 子分その2!」
「……」
俺をガン無視したニックは、何事もなかったかのようにオーガス兄様の方へ歩み寄る。
「どうした、ニック」
軽く肩をすくめたニックは、「なんですか、ユリス様」とこちらを振り返る。さっきの呼びかけは聞こえていなかったのか? まぁいい。
「タイラーをどうにかして」
「どうにかとは?」
「俺に優しくしろって言って」
「はぁ」
やる気のない声を上げたニックは、すぐにタイラーを視界に入れた。
「タイラー。ユリス様に優しくしてやれ」
「はい」
「これでいいですか? ユリス様」
いいわけあるか。なんだその小芝居は。俺は騙されないぞ。
「もっとちゃんとして!」
「ちゃんとってなんですか。わかりません」
はいはいと適当に俺をあしらうニックは、遠慮なしにグイグイ背中を押してくる。どうやら俺をこの部屋から追い出すつもりらしい。子分のくせに生意気だぞ。
「ユリス様。お屋敷の中を走ってはいけません」
「お兄様のお仕事の邪魔をしてはいけませんよ」
「猫ちゃんに意地悪したらダメです」
ストレスである。
なにがって? タイラーがだ。
新しく俺の護衛としてやってきた騎士のタイラーは若い兄ちゃんだ。はじめこそは気が合いそうなんて呑気に考えていたがとんでもない。
タイラーはものすごく口うるさかった。
俺のやることなすこと全部に文句をつけてくる。非常にうるさい。横でずっとネチネチ言われてみろ。ストレスだ。
ということで俺はタイラーに対抗すべく、奴がなにか小言を口にするたびに「ストレス!」と大声で主張しているのだが、タイラーはちょっと眉を寄せるだけでやめようとはしない。なんて奴だ。信じられない。
そんなわけで俺は本日も朝からオーガス兄様の部屋を訪れていた。
「タイラーをどうにかして欲しい」
「いや、だから」
俺の顔を見るなりげんなりした表情をみせるオーガス兄様は「ブルースに言いなよ」と冷たいことを言う。ここ最近、オーガス兄様は毎日そればかりだ。
「いい加減諦めて。お願いだから。毎朝突入してこないで……」
オーガス兄様が弱々しく吐き出すが無視だ。だったらタイラーをどうにかしてくれ。俺の背後ではジャンが申し訳なさそうな顔でオーガス兄様にぺこぺこ頭を下げている。そしてタイラーは仁王立ちで偉そうにしている。
「ユリス様。オーガス様にご迷惑ですよ」
誰のせいだと思っているんだ、こいつ。すべてはおまえが口うるさいのが原因だろうが。改めろ! と勢いよく指を突きつけるが、「人を指差さない」とあっさりあしらわれてしまう。
「でも本当に。僕に言われても困るよ。騎士団のことは全部ブルース任せだから。文句ならそっちに言って」
「毎日言ってる」
「あぁ、そっちにも毎日押しかけてんのね」
ブルースはすごいな、なんて我慢強いんだ、と変な感心をしているオーガス兄様は、本日も役に立ちそうにない。
「タイラーをどうにかして!」
再度大声で主張するが「やめて。朝から大声出さないで」と弱々しい声が返ってくるのみだ。進展が一切ない。
ムスッとしていれば、ノックが聞こえてきた。ドアに目を遣れば、「おはようございます」とニックが入室してくる。俺の姿を捉えるなり「またか」という顔をしたニックはタイラーに視線を注ぐ。
「いい加減どうにかしてくれないか」
「そう言われましても」
困ったように眉根を寄せるタイラーは、どうやらニックには強く出られないらしい。立場的にニックの方が上なのだろうか。タイラーは見るからに若いしな。たしか二十歳だったはず。これは使える。
「おい! 子分その2!」
「……」
俺をガン無視したニックは、何事もなかったかのようにオーガス兄様の方へ歩み寄る。
「どうした、ニック」
軽く肩をすくめたニックは、「なんですか、ユリス様」とこちらを振り返る。さっきの呼びかけは聞こえていなかったのか? まぁいい。
「タイラーをどうにかして」
「どうにかとは?」
「俺に優しくしろって言って」
「はぁ」
やる気のない声を上げたニックは、すぐにタイラーを視界に入れた。
「タイラー。ユリス様に優しくしてやれ」
「はい」
「これでいいですか? ユリス様」
いいわけあるか。なんだその小芝居は。俺は騙されないぞ。
「もっとちゃんとして!」
「ちゃんとってなんですか。わかりません」
はいはいと適当に俺をあしらうニックは、遠慮なしにグイグイ背中を押してくる。どうやら俺をこの部屋から追い出すつもりらしい。子分のくせに生意気だぞ。
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