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145 例のもの?
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そろそろ帰るという時である。
ちゃんとお土産も渡したし、マーティーに猫見せたし、エリックにオーガス兄様からの伝言も聞かせたし。やり残したことはないな、と指折り数えて確認していた俺を、マーティーが険しい顔で呼んだ。
「どうした」
「ちょっとこっちに来い」
「ん?」
どうやら内緒話でもあるらしい。周囲をキョロキョロと見回すマーティーは、挙動不審であった。今から内緒話するんで! 邪魔しないでください! みたいな雰囲気をひしひしと感じた。隠し事下手くそかよ。
ちらりとティアンに目をやれば、さっと視線を逸らされた。どうやら気が付いていないふりをしてくれるらしい。そうしてその場にいた全員がマーティーの不審行動に気が付かないふりをするという異常事態の中、俺は黒猫ユリスを抱えて彼に近寄った。
「なに?」
「あれはどうすればいい」
あれ?
声をひそめたマーティーは、俺の手を取って壁際まで引きずっていく。されるがままについていく俺は偉い。相手はベイビーだからな。付き合ってやらねば。泣かれても困るし。
そうして壁際にたどり着いたマーティーは、ひそひそ声で再び問いかけてくる。
「ほら、あれだ。おまえが僕に預けてきたあれ。あの箱いつまで保管しておけばいいんだ」
「はこ」
なにそれ、知らん。
こういう時は黒猫ユリスの出番だ。腕の中の猫を揺らすと、『そのまま預かっておけ』と眠そうな声が聞こえてきた。
「そのまま預かっておけ」
「なんだそれ。それは別に構わないが」
言葉を切ったマーティーは、少し離れたところに佇むガブリエルに視線を投げる。
「誰にも見られるなとか無茶を言うなよ。ガブリエルに見つかりそうなんだが」
『そこをなんとか頑張るのがおまえの仕事だろ』
「頑張ってなんとかして」
黒猫ユリスの言葉をお伝えすれば、マーティーは目を細める。
「なんとかって。ところであれ、中身はなんだ?」
『見たら死ぬぞ』
なんか物騒な言葉が発せられた。ぱちぱち目を瞬いた俺は、黒猫ユリスとマーティーを見比べる。けれども他に手がないので、黒猫ユリスの言葉をそのままお伝えする。
「見たら死ぬから、見たらダメだよ」
「怖いんだが!」
拳を握ったマーティーは、「持って帰れよ!」と今にも例の箱とやらを取りに行きそうな勢いだ。
『とにかく預かっておけ。中を見たら許さない。絶対にだ』
「もうちょっと預かってて。中身見たら怒るから!」
マーティーがこれ以上ビビらないようにマイルドな表現に改めてみる。なにやら渋い顔をしたマーティーは、「もうちょっとだけだぞ。早いところ引き取ってくれ」と嫌そうな顔をする。
「わかったわかった」
「なんだその適当な返事は」
ふんっとそっぽを向いたマーティーは、ガブリエルのところに戻ってしまう。
「例の箱ってなに?」
『さあな。おまえは知らなくていい』
「気になるから教えて」
『おまえは恐ろしく口が軽いから絶対に教えない』
「俺、口は堅いよ」
『嘘をつくな』
なんでだよ。
腹いせに腕の中にいる黒猫ユリスが遠慮なく揺らしてやった。『やめろ』と不満が上がるが無視してやった。
※※※
「ただいまブルース兄様」
「あぁ。マーティーは元気だったか?」
馬車に乗って帰宅した俺らを律儀に出迎えてくれたブルース兄様は、腕の中の黒猫ユリスに眉を顰めた。
「猫も連れて行ったのか?」
「マーティーに見せてやった」
「そうか」
「可愛いって言ってた」
「よかったな」
「俺も一緒に行きたかったです」
適当に返事をしてくる兄様の背後から、アロンがひょっこりと顔を覗かせた。恨めしそうな顔をするアロンは、黒猫ユリスを視界に捉えると不満そうに片眉を持ち上げた。
なにやらご不満らしい。察した俺は、アロンに黒猫を差し出してやった。
「ちょっとなら触ってもいいよ」
「そうじゃないです」
そうじゃないの? じゃあなに?
「俺もユリス様に抱っこしてもらいたい」
「無理だよ」
なにを言い出すんだ、こいつは。身長差わかんないのか。おまえが俺を抱っこする側だろうに。
聞かなかったふりをしていれば、ブルース兄様がこっそりとアロンを小突いていた。ブルース兄様でもそういうことするんだな。
ちゃんとお土産も渡したし、マーティーに猫見せたし、エリックにオーガス兄様からの伝言も聞かせたし。やり残したことはないな、と指折り数えて確認していた俺を、マーティーが険しい顔で呼んだ。
「どうした」
「ちょっとこっちに来い」
「ん?」
どうやら内緒話でもあるらしい。周囲をキョロキョロと見回すマーティーは、挙動不審であった。今から内緒話するんで! 邪魔しないでください! みたいな雰囲気をひしひしと感じた。隠し事下手くそかよ。
ちらりとティアンに目をやれば、さっと視線を逸らされた。どうやら気が付いていないふりをしてくれるらしい。そうしてその場にいた全員がマーティーの不審行動に気が付かないふりをするという異常事態の中、俺は黒猫ユリスを抱えて彼に近寄った。
「なに?」
「あれはどうすればいい」
あれ?
声をひそめたマーティーは、俺の手を取って壁際まで引きずっていく。されるがままについていく俺は偉い。相手はベイビーだからな。付き合ってやらねば。泣かれても困るし。
そうして壁際にたどり着いたマーティーは、ひそひそ声で再び問いかけてくる。
「ほら、あれだ。おまえが僕に預けてきたあれ。あの箱いつまで保管しておけばいいんだ」
「はこ」
なにそれ、知らん。
こういう時は黒猫ユリスの出番だ。腕の中の猫を揺らすと、『そのまま預かっておけ』と眠そうな声が聞こえてきた。
「そのまま預かっておけ」
「なんだそれ。それは別に構わないが」
言葉を切ったマーティーは、少し離れたところに佇むガブリエルに視線を投げる。
「誰にも見られるなとか無茶を言うなよ。ガブリエルに見つかりそうなんだが」
『そこをなんとか頑張るのがおまえの仕事だろ』
「頑張ってなんとかして」
黒猫ユリスの言葉をお伝えすれば、マーティーは目を細める。
「なんとかって。ところであれ、中身はなんだ?」
『見たら死ぬぞ』
なんか物騒な言葉が発せられた。ぱちぱち目を瞬いた俺は、黒猫ユリスとマーティーを見比べる。けれども他に手がないので、黒猫ユリスの言葉をそのままお伝えする。
「見たら死ぬから、見たらダメだよ」
「怖いんだが!」
拳を握ったマーティーは、「持って帰れよ!」と今にも例の箱とやらを取りに行きそうな勢いだ。
『とにかく預かっておけ。中を見たら許さない。絶対にだ』
「もうちょっと預かってて。中身見たら怒るから!」
マーティーがこれ以上ビビらないようにマイルドな表現に改めてみる。なにやら渋い顔をしたマーティーは、「もうちょっとだけだぞ。早いところ引き取ってくれ」と嫌そうな顔をする。
「わかったわかった」
「なんだその適当な返事は」
ふんっとそっぽを向いたマーティーは、ガブリエルのところに戻ってしまう。
「例の箱ってなに?」
『さあな。おまえは知らなくていい』
「気になるから教えて」
『おまえは恐ろしく口が軽いから絶対に教えない』
「俺、口は堅いよ」
『嘘をつくな』
なんでだよ。
腹いせに腕の中にいる黒猫ユリスが遠慮なく揺らしてやった。『やめろ』と不満が上がるが無視してやった。
※※※
「ただいまブルース兄様」
「あぁ。マーティーは元気だったか?」
馬車に乗って帰宅した俺らを律儀に出迎えてくれたブルース兄様は、腕の中の黒猫ユリスに眉を顰めた。
「猫も連れて行ったのか?」
「マーティーに見せてやった」
「そうか」
「可愛いって言ってた」
「よかったな」
「俺も一緒に行きたかったです」
適当に返事をしてくる兄様の背後から、アロンがひょっこりと顔を覗かせた。恨めしそうな顔をするアロンは、黒猫ユリスを視界に捉えると不満そうに片眉を持ち上げた。
なにやらご不満らしい。察した俺は、アロンに黒猫を差し出してやった。
「ちょっとなら触ってもいいよ」
「そうじゃないです」
そうじゃないの? じゃあなに?
「俺もユリス様に抱っこしてもらいたい」
「無理だよ」
なにを言い出すんだ、こいつは。身長差わかんないのか。おまえが俺を抱っこする側だろうに。
聞かなかったふりをしていれば、ブルース兄様がこっそりとアロンを小突いていた。ブルース兄様でもそういうことするんだな。
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