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141 式とは?
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俺からお土産を取り上げたタイラーは、返してくれなかった。ひどい。何事もなかったかのように壁際で控えるタイラーは、眼光鋭く俺を見張っている。
ジャンとティアンは外に出て行ってしまった。エリックがいるから遠慮したのだろう。なぜタイラーは出て行かないのか。
おかげで部屋には俺とエリック、それにタイラーの三人になってしまった。嫌な状況だな。
「そういえば、私たちの将来の件だが」
「?」
なにそれ。よくわからんが、うんうん頷いておく。
「カーティス殿から抗議の手紙が届いた。側室とは何事かと」
カーティスというのは俺のお父様だ。そういえばそんな話してたな。お父様は親バカっぽい感じで、エリックに対してキレていた。
どうやらマジでエリックに抗議したらしい。反応に困るな。とりあえず笑っておけば、エリックがテーブルに肘をついた。
「正室にしろとの話だ。それでいいか?」
「なにが?」
それでいいかってなに? いい訳なくない?
なにやら背後でタイラーが息を呑んでいる。だよね。この従兄弟ちょっと言うことおかしいよね。
「式はいつにする?」
「そんなのしない」
眉を寄せたエリックは、「そういうわけには」と困った顔をする。なんだその顔は。まるで俺がおかしいみたいな雰囲気出しやがる。腹立つな。
ここは一度はっきりと断らなければならない。
「エリック」
「どうした?」
なにやら緩く笑ったエリックは、俺の頭を撫でてくる。気安く触らないで欲しい。
「俺はエリックとは結婚しません」
「またそんな冗談を」
「冗談ではない」
話通じないんだけど? どうなってんの?
これは困った。俺の本気が伝わらないなんて。
ムスッとした表情を作って、エリックを睨み付けてやる。だが遠慮を知らない厄介従兄弟は「で? 式はいつにする」とデカい独り言を始めた。知らんがな。
話を逸さなければ。ちょうど結婚で思い出した話がある。
「そういえば、アロンが縁談?するって」
「ほお。アロン子爵が。相手は?」
たいして興味なさそうに訊ねたエリックは、退屈そうに指を組んで遊び始める。
「キャンベル。あのね、オーガス兄様の好きな子なんだって」
オーガス兄様の名前を聞いた途端、エリックが顔を上げた。
「オーガスの? それ本当か」
「ほんと。キャンベルはね、最初はブルース兄様と結婚したかったけどお断りされたからアロンにしたんだよ。それでオーガス兄様が怒ってた」
へえ? と口角を上げたエリックは、なんだか楽しそうだ。悪い顔をしている。
「ところで、キャンベルってまさか男爵家か?」
「そうだよ」
たしかブルース兄様がそんな話してた。貴族階級がどうこうって。
「男爵家が大公子に縁談申し込むとか無謀だろ。そもそもなんでそんなことになってるんだ」
「兄様たちが全然結婚しないから、チャンスなんだって」
確かそんな感じだったはず。記憶を頼りに説明すれば、エリックは正しく理解してくれたらしい。
「あぁ、なるほど。そういえばオーガスは優柔不断だったな。そんでもってブルースは頭が固いからな。大方、兄より先に結婚はできないとかそんなところだろう」
「うんうん」
「それで? 有力貴族のほとんどが結婚話を持ち込んでもなお大公子のお相手が見つからない。だが相手は必要。てことで気を利かせたどこぞの貴族が下級貴族にまで手を広げたのだろうな」
「うんうん」
理解が早くて助かる。この件についてはブルース兄様が一番頭を悩ませていた。結婚までは行かずとも、はやくオーガス兄様に婚約者を決めて欲しいと嘆いている。
「でもオーガス兄様はキャンベルと結婚したいんだよ、たぶん。でもキャンベルがオーガス兄様に話を持ってこないからうじうじしてる」
そのせいでセドリックを副団長から解任するという暴挙に出たのだ。拗らせ方がすごい。黙って話を聞いていたエリックが、オーガス兄様の痴態に眉を寄せた。
「そりゃそうだろ。男爵家が大公家の長男に話を持ってくるわけがないだろ。むしろブルースへ話を持ちかけたことも驚きなんだが」
呆れた顔をするエリックは、やれやれと肩をすくめる。従兄弟の暴走を嘆いているらしい。
「それはもう自分から声をかけるしかないだろ」
つまりオーガス兄様からキャンベルに結婚しようって言えってことか? なるほどね、俺もそう思う。
「普通はある程度身分のあるご令嬢と結婚すべきだが。別に男爵令嬢でもいいんじゃないか? むしろ身分を気にせず相手を選んだと民から歓迎されるんじゃないか?」
「ふーん?」
よくわからんが、オーガス兄様にはお伝えしておこう。正直うじうじしててウザいからな。キャンベルと結婚してもいいというエリックからのお墨付きがあれば少しは前向きになるかもしれない。当のキャンベルがどう思っているかは謎だが。
「そういえばオーガス兄様から伝言あるよ」
「オーガスから? 珍しいな」
なんだって? と先を促すエリックに、俺はポケットから取り出した伝言メモを広げて読み上げてやる。
「んと、エリックはテンションが合わない。声大きいし。正直会いたくないって言ってた」
「ほお? 随分な伝言だな」
軽く鼻で笑ったエリックは、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
ジャンとティアンは外に出て行ってしまった。エリックがいるから遠慮したのだろう。なぜタイラーは出て行かないのか。
おかげで部屋には俺とエリック、それにタイラーの三人になってしまった。嫌な状況だな。
「そういえば、私たちの将来の件だが」
「?」
なにそれ。よくわからんが、うんうん頷いておく。
「カーティス殿から抗議の手紙が届いた。側室とは何事かと」
カーティスというのは俺のお父様だ。そういえばそんな話してたな。お父様は親バカっぽい感じで、エリックに対してキレていた。
どうやらマジでエリックに抗議したらしい。反応に困るな。とりあえず笑っておけば、エリックがテーブルに肘をついた。
「正室にしろとの話だ。それでいいか?」
「なにが?」
それでいいかってなに? いい訳なくない?
なにやら背後でタイラーが息を呑んでいる。だよね。この従兄弟ちょっと言うことおかしいよね。
「式はいつにする?」
「そんなのしない」
眉を寄せたエリックは、「そういうわけには」と困った顔をする。なんだその顔は。まるで俺がおかしいみたいな雰囲気出しやがる。腹立つな。
ここは一度はっきりと断らなければならない。
「エリック」
「どうした?」
なにやら緩く笑ったエリックは、俺の頭を撫でてくる。気安く触らないで欲しい。
「俺はエリックとは結婚しません」
「またそんな冗談を」
「冗談ではない」
話通じないんだけど? どうなってんの?
これは困った。俺の本気が伝わらないなんて。
ムスッとした表情を作って、エリックを睨み付けてやる。だが遠慮を知らない厄介従兄弟は「で? 式はいつにする」とデカい独り言を始めた。知らんがな。
話を逸さなければ。ちょうど結婚で思い出した話がある。
「そういえば、アロンが縁談?するって」
「ほお。アロン子爵が。相手は?」
たいして興味なさそうに訊ねたエリックは、退屈そうに指を組んで遊び始める。
「キャンベル。あのね、オーガス兄様の好きな子なんだって」
オーガス兄様の名前を聞いた途端、エリックが顔を上げた。
「オーガスの? それ本当か」
「ほんと。キャンベルはね、最初はブルース兄様と結婚したかったけどお断りされたからアロンにしたんだよ。それでオーガス兄様が怒ってた」
へえ? と口角を上げたエリックは、なんだか楽しそうだ。悪い顔をしている。
「ところで、キャンベルってまさか男爵家か?」
「そうだよ」
たしかブルース兄様がそんな話してた。貴族階級がどうこうって。
「男爵家が大公子に縁談申し込むとか無謀だろ。そもそもなんでそんなことになってるんだ」
「兄様たちが全然結婚しないから、チャンスなんだって」
確かそんな感じだったはず。記憶を頼りに説明すれば、エリックは正しく理解してくれたらしい。
「あぁ、なるほど。そういえばオーガスは優柔不断だったな。そんでもってブルースは頭が固いからな。大方、兄より先に結婚はできないとかそんなところだろう」
「うんうん」
「それで? 有力貴族のほとんどが結婚話を持ち込んでもなお大公子のお相手が見つからない。だが相手は必要。てことで気を利かせたどこぞの貴族が下級貴族にまで手を広げたのだろうな」
「うんうん」
理解が早くて助かる。この件についてはブルース兄様が一番頭を悩ませていた。結婚までは行かずとも、はやくオーガス兄様に婚約者を決めて欲しいと嘆いている。
「でもオーガス兄様はキャンベルと結婚したいんだよ、たぶん。でもキャンベルがオーガス兄様に話を持ってこないからうじうじしてる」
そのせいでセドリックを副団長から解任するという暴挙に出たのだ。拗らせ方がすごい。黙って話を聞いていたエリックが、オーガス兄様の痴態に眉を寄せた。
「そりゃそうだろ。男爵家が大公家の長男に話を持ってくるわけがないだろ。むしろブルースへ話を持ちかけたことも驚きなんだが」
呆れた顔をするエリックは、やれやれと肩をすくめる。従兄弟の暴走を嘆いているらしい。
「それはもう自分から声をかけるしかないだろ」
つまりオーガス兄様からキャンベルに結婚しようって言えってことか? なるほどね、俺もそう思う。
「普通はある程度身分のあるご令嬢と結婚すべきだが。別に男爵令嬢でもいいんじゃないか? むしろ身分を気にせず相手を選んだと民から歓迎されるんじゃないか?」
「ふーん?」
よくわからんが、オーガス兄様にはお伝えしておこう。正直うじうじしててウザいからな。キャンベルと結婚してもいいというエリックからのお墨付きがあれば少しは前向きになるかもしれない。当のキャンベルがどう思っているかは謎だが。
「そういえばオーガス兄様から伝言あるよ」
「オーガスから? 珍しいな」
なんだって? と先を促すエリックに、俺はポケットから取り出した伝言メモを広げて読み上げてやる。
「んと、エリックはテンションが合わない。声大きいし。正直会いたくないって言ってた」
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