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140 泣いちゃう原因
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タイラーに連行された俺は、ティアンとジャンが待機していた部屋までやってきた。道中、ずっとタイラーがネチネチとうるさかった。いわく、王子を泣かせるとは何事ですかとか、従兄弟なんですから仲良くしてください、とか。ずっとうるさかった。
セドリックよ、戻って来てくれ。
彼が副団長に戻れたことは喜ばしいが、そのせいで俺の側にタイラーがいるのは許せない。思えば、セドリックが副団長に戻ることが決定してから新しい護衛騎士が来るまで随分時間がかかった。これはあれだ。ブルース兄様が口うるさい奴を選んでいたに違いない。俺はロニーがよかったのに。
「大人しくしてたか、ティアン」
「それはこっちのセリフですよ」
のんびりお茶していたらしいティアンは、首を捻りつつ俺を出迎える。座っていたジャンが慌てて立ち上がるのが見えた。
「どうかされたのですか? なんで戻ってくるんですか?」
不機嫌顔のタイラーにようやく降ろしてもらった俺は、「マーティー泣いちゃったの」と簡潔に事情を説明してやった。
「はぁ⁉︎」
目を剥いたティアンが「なにやってるんですか! ユリス様!」と俺を責めてくる。こいつ。ろくに話も聞かないで俺のせいだと決めつけるのはよくないぞ。
「お土産お菓子ちょうだい。マーティーにあげてくる」
とりあえず美味しいお菓子でも渡しておけば上機嫌になるだろう。幸い俺は美味しいお土産お菓子を持参している。ジャンに手を差し出せば、彼はすぐさま手土産を取りに走る。
「なんで泣かせるんですか?」
「泣かしてない。勝手に泣いた」
すべては黒猫ユリスのせいである。と、ここまで考えて「あ」と気が付いた。
「猫置いてきちゃった」
なんてことだ。あのいじめっ子をマーティーの側に置いてきてしまった。これはまずい。
「猫、取りに行かないと」
「大丈夫では? あの猫ちゃん大人しいでしょう」
あとで迎えに行きましょう、とのんびりするティアンは状況がわかっていない。あの猫は本物ユリスなのだ。正真正銘のいじめっ子なのだ。
「マーティーが猫にいじめられて泣いちゃう」
はやく引き取りに行かないと。だが、それを受けてティアンが半眼となる。
「そういうところでは?」
「なにが?」
小首を傾げれば、ティアンが「ですから」と言葉を続ける。
「そうやって無意識かどうかは知りませんが、マーティー様を馬鹿にするような発言をするから。それが原因で泣かせてしまったのでは?」
「そんなわけーー」
え? そうなの? マジで?
俺そんな酷いこと言ったか? 事実を言っただけだろ。
※※※
「よく来たな! ユリス!」
相変わらず声がでかいな。ずかずかと入室してきたエリックは、どかりと腰を下ろした。
結局、黒猫ユリスはマーティーのところに置いたまま。迎えに行こうとしたのだが、エリックが来るというので後回しになっている。頼むから大人しくしておけよ、黒猫ユリス。
そうしてやって来たエリックは、いつも通り騒々しい。なんでこんなに声でかいんだ?
「うちの弟を泣かせたらしいな。あまりいじめてやるな」
「いじめてはいない」
なにやらすっかり俺がいじめたということで話がまとまってしまっている。どうしたものか。
とりあえずマーティーに渡し損ねたお土産を差し出しておく。
「お土産です」
「あぁ。気を使わせてすまないな」
「開けていい?」
「ん? 別に構わないが」
一瞬動きを止めたエリックだが、すぐに頷いた。なので遠慮なく開封すれば、「こら! なんで手土産なのにユリス様が開けるんですか」と背後でティアンが騒ぎ始めた。うるさいお子様め。
まぁ、中身は知ってるんだけどね。美味しいお菓子だ。
「食べていい?」
「マーティーに持ってきたんじゃないのか?」
「マーティーの分も残しておく」
早速手を伸ばそうとするが、それよりも早くタイラーがお土産を取り上げてしまう。
「返せ!」
「ユリス様。これはダメです」
「エリックがいいって言った」
「殿下はそんなことおっしゃっていません。開けていいとおっしゃっただけです」
なんだって?
セドリックよ、戻って来てくれ。
彼が副団長に戻れたことは喜ばしいが、そのせいで俺の側にタイラーがいるのは許せない。思えば、セドリックが副団長に戻ることが決定してから新しい護衛騎士が来るまで随分時間がかかった。これはあれだ。ブルース兄様が口うるさい奴を選んでいたに違いない。俺はロニーがよかったのに。
「大人しくしてたか、ティアン」
「それはこっちのセリフですよ」
のんびりお茶していたらしいティアンは、首を捻りつつ俺を出迎える。座っていたジャンが慌てて立ち上がるのが見えた。
「どうかされたのですか? なんで戻ってくるんですか?」
不機嫌顔のタイラーにようやく降ろしてもらった俺は、「マーティー泣いちゃったの」と簡潔に事情を説明してやった。
「はぁ⁉︎」
目を剥いたティアンが「なにやってるんですか! ユリス様!」と俺を責めてくる。こいつ。ろくに話も聞かないで俺のせいだと決めつけるのはよくないぞ。
「お土産お菓子ちょうだい。マーティーにあげてくる」
とりあえず美味しいお菓子でも渡しておけば上機嫌になるだろう。幸い俺は美味しいお土産お菓子を持参している。ジャンに手を差し出せば、彼はすぐさま手土産を取りに走る。
「なんで泣かせるんですか?」
「泣かしてない。勝手に泣いた」
すべては黒猫ユリスのせいである。と、ここまで考えて「あ」と気が付いた。
「猫置いてきちゃった」
なんてことだ。あのいじめっ子をマーティーの側に置いてきてしまった。これはまずい。
「猫、取りに行かないと」
「大丈夫では? あの猫ちゃん大人しいでしょう」
あとで迎えに行きましょう、とのんびりするティアンは状況がわかっていない。あの猫は本物ユリスなのだ。正真正銘のいじめっ子なのだ。
「マーティーが猫にいじめられて泣いちゃう」
はやく引き取りに行かないと。だが、それを受けてティアンが半眼となる。
「そういうところでは?」
「なにが?」
小首を傾げれば、ティアンが「ですから」と言葉を続ける。
「そうやって無意識かどうかは知りませんが、マーティー様を馬鹿にするような発言をするから。それが原因で泣かせてしまったのでは?」
「そんなわけーー」
え? そうなの? マジで?
俺そんな酷いこと言ったか? 事実を言っただけだろ。
※※※
「よく来たな! ユリス!」
相変わらず声がでかいな。ずかずかと入室してきたエリックは、どかりと腰を下ろした。
結局、黒猫ユリスはマーティーのところに置いたまま。迎えに行こうとしたのだが、エリックが来るというので後回しになっている。頼むから大人しくしておけよ、黒猫ユリス。
そうしてやって来たエリックは、いつも通り騒々しい。なんでこんなに声でかいんだ?
「うちの弟を泣かせたらしいな。あまりいじめてやるな」
「いじめてはいない」
なにやらすっかり俺がいじめたということで話がまとまってしまっている。どうしたものか。
とりあえずマーティーに渡し損ねたお土産を差し出しておく。
「お土産です」
「あぁ。気を使わせてすまないな」
「開けていい?」
「ん? 別に構わないが」
一瞬動きを止めたエリックだが、すぐに頷いた。なので遠慮なく開封すれば、「こら! なんで手土産なのにユリス様が開けるんですか」と背後でティアンが騒ぎ始めた。うるさいお子様め。
まぁ、中身は知ってるんだけどね。美味しいお菓子だ。
「食べていい?」
「マーティーに持ってきたんじゃないのか?」
「マーティーの分も残しておく」
早速手を伸ばそうとするが、それよりも早くタイラーがお土産を取り上げてしまう。
「返せ!」
「ユリス様。これはダメです」
「エリックがいいって言った」
「殿下はそんなことおっしゃっていません。開けていいとおっしゃっただけです」
なんだって?
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