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139 泣くなよ

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「そんな泣かないでよ。俺が悪いみたいじゃん」
「おまえのせいだろぉ」

 ううっ、と目を擦るマーティーは俺のせいにしてくる。俺なにかした? ちょっと小さい子に会えてテンション上がっただけなのに。あとマーティーをネチネチいじめていたのは俺ではなく本物ユリスの方だ。

 しかしどうしようもない。

 泣いてるベイビーの扱い方なんて俺は知らない。キャンディーをころころしながら、俺はドアへと向かった。外にはタイラーとサムがいるはず。あのふたりにどうにかしてもらおう。

 カチャリとドアを開けて顔を覗かせれば、すぐそばに控えていたサムと目があった。隣にはタイラーと見知らぬ若いお兄さんもいる。

「ユリス様?」

 どうかしましたか、と小首を傾げるタイラーに、俺は手短に状況を説明してやる。

「マーティーが泣いてる」
「は?」

 タイラーに話しかけたはずなのに、見知らぬお兄さんが目を見開く。どちら様ですか?

 呑気に口をもごもごさせていると、タイラーが眉を寄せた。

「ユリス様? なにか食べてます?」
「キャンディー。うちから持ってきた。マーティーにあげるって言ったんだけど、いらないって言うから俺が食べた。そしたらマーティー泣いちゃった」

 もしかしてマーティーは、本当はキャンディー食べたかったのだろうか。でも俺一個しか持ってきてないしな。それにいらないと言ったのはマーティー本人だ。

「なにかお菓子持ってない? マーティーにあげたら泣き止むかも」

 タイラーに手を差し出せば、彼は「持ってませんよ」と静かに首を振る。

「マーティー様!」

 なにやら見知らぬお兄さんが室内へと入っていく。どうやらマーティーの様子を見に行くらしい。それにみんなで続く。

 相変わらずえぐえぐ泣いているマーティーは、駆け寄ってきたお兄さんを見てびっくりしたように一瞬動きを止めた。

「ガブリエル」
「マーティー様。どうされたのですか?」

 ハンカチを取り出して優しく涙を拭ってやるお兄さんはガブリエルというらしい。固まるマーティーに代わり、俺が説明してやる。

「キャンディー食べたくて泣いちゃったんだよ。マーティーはベイビーだから」
「誰がベイビー、うぇぇ」
「また泣いちゃったよ」

 呆れたと肩をすくめれば、なぜかその肩をガッチリとタイラーに掴まれた。片膝をついた彼は、怖い顔で俺を凝視してくる。

「ユリス様?」
「どうした、タイラー」
「どうしたじゃありませんよ。マーティー様を泣かせるとは何事ですか」
「俺が泣かせたわけじゃないもん」

 マーティーが勝手に泣いたのだ。なんでも俺のせいにするのはよくないぞ。

「俺小さい子には優しくしてるもん。キャンディーあげようとしたもん」
「僕は小さい子じゃないぃ」

 なにやらマーティーが喚いている。それにしてもよく泣くな。そんなに泣いて飽きないのだろうか。

 椅子の上では、黒猫ユリスがにやにやしている。楽しそうでなによりですね。俺はタイラーに詰められているというのに。あの意地悪にゃんこが犯人だと言ってやりたい。決して俺のせいではないと思う。

「ねぇ、なんで泣いてるの? そんなにキャンディー食べたかったの? でも食べるって訊いたよね、俺。自分がいらないって言ったんじゃん」

 とりあえず、このままでは俺が犯人にされてしまう。こいつらの誤解を解いて欲しくてマーティーに近寄れば、またもやタイラーに止められた。

「ダメですよ、ユリス様」

 なにがダメなのか。タイラーが眉を寄せて怖い顔をしている。そんな中、果敢にもマーティーが声を上げた。

「僕は! うぅ、そんな、飴ごときで泣いたりはっ、しない!」
「泣いてるじゃん」

 嘘つきめ! と指差せば、タイラーが眉を吊り上げた。だってあいつ泣いてるもん。嘘つきじゃん。

 俺の言葉に、マーティーがますます泣きじゃくる。もう手のつけようがなかった。なぜ。

『いいぞ! その調子だぞ』

 この場で唯一、黒猫ユリスだけが俺を応援してくれる。だがこいつはわるにゃんこだ。こいつが褒めるということはなにやらマズイかもしれない。

「ユリス様、向こうに行きましょうね」

 タイラーがひょいっと俺を抱えてしまう。抱っこはもう卒業したのに!

 そのまま俺は、なにやら怒っているらしいタイラーに連れられて退出した。俺が悪いのか?
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