冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
146 / 637

137 いじめっ子

しおりを挟む
 王宮に到着した俺は、早々に客間に案内された。なんでもマーティーがゆっくり挨拶したいとか。それを聞いた黒猫ユリスが『殊勝なことだ』と満足そうにしていた。

 ティアンたちと別れて、ひとり客間に案内された俺。どうしてもマーティーに自慢したいとごねまくって黒猫ユリスを持ち込むことに成功した。部屋の外ではサムとタイラーが待機しているそうだ。黒猫ユリスとふたりきりになった室内で『僕を待たせるとはいい度胸だ』と不機嫌にゃんこがゴロゴロしている。

「マーティーってどんな感じ?」
『あいつは僕の下僕だ。なんでも言うことをきく』
「そうなの?」

 よくわからない。だがこの世界に来てから初めて会う十歳児である。ちょっと楽しみ。わくわくしていると、黒猫ユリスがむくりと体を起こした。

『ちょっと僕とかわれ』
「は?」
『マーティーは子供だが、なかなかに勘が鋭いところがある。おまえがユリスじゃないとバレるかもしれない』

 だから入れ替われ、と短い前足を持ち上げて主張してくる。

 俺と黒猫ユリスが、キスによって入れ替われることが判明したのはつい最近のこと。特に使っていなかったが、俺はマーティーに会ったことがない。そうであれば本物ユリスに任せるのも得策かもしれない。それに俺も猫生活を楽しみたい。

「いいよ!」

 すぐに了承した俺は、黒猫ユリスを抱き上げる。

『おそらく長時間はもたない。いいか? おまえがまたユリスに戻ったら、僕らしく振る舞えよ。話を合わせるんだ』
「わかった」

 それくらい理解している。入れ替わりがバレるのはまずいからな。


※※※


 マーティーは泣きそうな顔をしていた。のんびり猫になって様子を見ていた俺であるが、こうして観察すると本物ユリスはいじめっ子だな。マーティーを揶揄って遊んでいる。

 マーティーはエリックに似ていた。主に色が。さすが兄弟。だが性格はあまり似ていないらしい。

 声も主張も大きいエリックに対して、マーティーはなんだかユリスにビビっているようだった。だが心優しい少年らしく、椅子を占領する俺を退けることなく自分は立って話を続けている。なんていい奴。

 マーティーを下僕扱いして鼻で笑うユリスは嫌な子供だ。そうか。俺は本来ならばこう演じなければならなかったのか。難しいな。まぁ、今後の参考にさせてもらおう。

 小さく震えているマーティーは、小さな子供だった。さすが十歳児である。

 気丈に振る舞っているらしいマーティーは、拳を握りしめて果敢にユリスに立ち向かっている。だが時折「こわ」や「ひぃ」といった声が漏れ出ている。面白い奴だな。そんなんだからユリスに揶揄われるんだぞと教えてあげたい。今は猫だから喋れないけど。

 ひとしきり会話をして満足したらしい本物ユリスが、俺に視線を向けてきた。なにやら険しい顔である。どうやらそろそろ戻りそうな感じらしい。入れ替わりの仕組みはいまいちよくわからない。キスをすれば入れ替われることは判明したが、その長さはまちまちらしい。俺はなにもわからないが、本物ユリスにはそろそろ時間的に限界だとわかるらしい。不明な点が多いな。

 すっと席を立ったユリスは、マーティーを見据える。

「もう十分話して満足しただろう。さっさと出て行ってくれないか?」
「はぁ⁉︎ おまえが僕と話したいと言ったんだろうが! 手紙をよこしてきただろ!」
「僕は単にしばらく見ていない下僕の様子を見にきてやっただけだ。主人の寛大さに感謝するといい」
「誰が下僕だ! 僕はそんなものになった覚えはーー」

 頑張れ、マーティー。
 本物ユリスにひと睨みされて口を閉じてしまった彼は、ふるふると震えている。小さい子をいじめちゃダメだぞ、ユリス。
しおりを挟む
感想 448

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

処理中です...