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129 面倒な兄

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「嘘つきだ! アロンはもとから嘘つきだけど。ブルース兄様も嘘つきになってしまった!」
「騒ぐな」

 俺をひと睨みした酷いブルース兄様は、大きく息を吐く。ため息つきたいのはこっちだよ。

 アロンにキスされたのは本当なのに。アロンとブルース兄様のせいで俺が嘘つきみたいに思われてしまった。腹を立てる俺に、アロンが本日二個目のキャンディーを押し付けてくる。
 キャンディーに罪はない。しっかり受け取って握りしめておけば「もらうんですね」とティアンが冷たい目を向けてくる。もらえる物はもらっておく。これ常識だろ。

「頼むから兄上に余計なことを吹き込まないでくれ。後々面倒なことになる。ただでさえネガティブなのに」

 どうやらブルース兄様もオーガス兄様のネガティブに苦労しているらしい。俺も心当たりがあるため「確かに」と肯定しておく。プライドだけはあるオーガス兄様だ。俺が本当にキスをしたと知ったらおそらく童貞っぽいオーガス兄様は嫉妬してしまうかもしれない。弟に先越されるのはプライド的に許せないと言っていたし。

「俺の方がオーガス兄様より経験豊富になってしまった」
「おま、いやまあそれでいいや。そういうことだから兄上には黙っておいてくれ」

 無理矢理納得したようなブルース兄様の後ろでアロンが笑いを堪えている。今のどこに笑うところがあった。ムスッとしていると、ブルース兄様が申し訳なさそうに小さく唸った。

「悪かったな。ほら、これやるから機嫌なおせ」

 ブルース兄様が引き出しから取り出したのはお高そうな箱だった。その引き出しから出てくるのは美味しいお菓子である。これもきっと美味しいお菓子に違いない。

 にんまり笑って受け取れば「それでいいんですか、ユリス様」とティアンが呆れていた。そんな目で見ても分けてあげないぞ。これは俺がもらったお菓子だ。

『なんでおまえがアロンとキスするとオーガスが怒るんだ? あいつそんなにおまえを気に入っているのか?』

 黒猫ユリスが首を捻っている。こいつは中身十歳児だから嫉妬とかいう人間の繊細な感情は理解できないのだろう。これだからお子様は。

「オーガス兄様は多分ファーストキスまだなんだよ。それで俺に嫉妬してるんだよ」

 しゃがみ込んでこそっと教えてやれば、黒猫ユリスが『あいつは童貞なのか?』と訊いてくる。知らないけど。多分童貞っぽい。なんかそんな感じする。適当に「そうだよ」と頷いておこう。

「ほら、俺は忙しいんだ。さっさと帰れ」

 偉そうに足を組んだブルース兄様は、だが直後に「あ」と声を上げた。

「おまえの新しい護衛騎士を用意した。あとで向かわせるから」
「ロニー?」

 この間から散々ロニーにしてくださいとお願いしておいた。期待を込めて見つめれば、兄様は「違う」ときっぱり切り捨ててしまった。

 ロニーじゃないの? じゃあいらん。

「結構です」

 丁寧にお断りすれば「うるさい」と暴言が返ってきた。そんなんだからお母様に可愛くないと言われるんだぞ。相変わらずブルース兄様のことをお気に召さないらしいお母様は、俺と会うたびに「あの子は愛想がないのよね」と嘆いている。ちなみにオーガス兄様のことは「ちょっと頼りなくてね。困っちゃうわね」と言っていた。ちょっと? かなり頼りないぞ。

「本当にいらない。俺大人だから大丈夫」
「おまえのどこが大人なんだ?」
「精神年齢的にはブルース兄様にも負けないくらい大人」
「ふざけるな。おまえと同列にされるのは腹が立つ」

 なんて失礼な兄様だ。「俺の方が大人だよね?」とティアンに確認すれば「そんなわけないです」と冷たい目を向けられた。なにがそんなわけないのか言ってみろよ。
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