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128 結託
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「ブルース兄様! 遊びに来てやったぞ。感謝しろ」
「おいアロン。そいつをつまみ出せ」
酷い。
シクシク泣き真似してみせれば、足元の黒猫ユリスが『僕はそんなことしない! やめろ!』と足を踏んでくる。もふもふが足に乗っている。
相変わらずソファーでだらけていたアロンは、俺と目が合うなりにこりと微笑んだ。
「こんにちは、ユリス様」
ティアンがアロンを睨みつけている。なんだか例のキスを思い出してしまった俺は慌てて目を逸らす。
「なにを騒いでいたんだ。兄上の悲鳴らしきものが聞こえたが」
どうやら先程の騒動が聞こえたらしい。眉を寄せるブルース兄様は、不機嫌な様子で椅子に背を預けている。
「オーガス兄様は汚い大人なんだって」
「なにがあったんだ」
息を吐くブルース兄様はそれ以上深入りしてこない。面倒事に巻き込まれたくないらしい。
「あのね、俺、昨日猫になれたの。羨ましいか?」
「わけわからんこと言ってないで勉強しろ」
しっしと手を振って俺を追い出そうとしてくるブルース兄様は人の心がないんだと思う。弟には優しくしろ。
『おまえ、秘密とか内緒話とかいう概念を持ち合わせていないのか? いままでどうやって生きてきたんだ?』
黒猫ユリスが失礼なことを喚いている。
「あと昨日ね、アロンにキスされた。俺のファーストキス」
「うぇい! それ言っちゃいます⁉︎ マジですか、ユリス様!」
慌てたアロンが俺に駆け寄ってくる。だがオーガス兄様には伝えてしまったしな。ブルース兄様だけ仲間外れは可哀想だ。教えてやらねば。
「……は?」
またしても語気強めである。顔が怖いぞ、ブルース兄様。
「眉間の皺がとれなくなっちゃうよ。老けて見えるからやめなよ」
「ユリス様、空気読んでください」
慌てふためくティアンが腕を掴んでくる。されるがままに揺さぶられていると、アロンが俺の手にキャンディーを握らせてくる。よくわからんが、もらっておこう。
いそいそといただいたキャンディーをポケットに押し込んでいると「おい、アロン」と地を這うようなブルース兄様の声が聞こえた。
「おまえ人の弟になにしてんだ」
「いやだな、ブルース様。昨日言いましたよね? 弟さんを俺にくださいって」
「断ったはずだが?」
「そうでしたっけ? ちょっとそこらへんの記憶が曖昧で」
すっとぼけるアロンは「ところでファーストキスってマジですか?」と食いついてくる。「多分な!」とお答えしておけば「責任はとります」と言われた。別にとらんでいい。
「出会う女の子みんなにそう言ってるんでしょ?」
「いや流石にそこまでは。好みの子にだけですよ」
「言ってるのかよ」
そこは普通否定するところだろ。さすがクソ野郎。ブレないな。
「むやみに人を誑かすのはやめろ」
「たぶらかす」
眉間を揉んだブルース兄様は「エリック殿下のこともあるし、どうなってんだ」と疲れた顔をしている。
そういやエリックにも結婚してくれ的なこと言われていたな。すっかり忘れていた。でもあっちは確かお父様がお断りしておいてくれたはずだ。
ん? そういえばお父様が言ってたな。
「アロンって金と権力もってる?」
「そんなことド直球で訊かれたのは初めてですよ」
面食らったらしいアロンは、けれども「まぁそれなりに。一応伯爵家なので」と教えてくれた。
「エリックとどっちがもってる? 金と権力」
「いくらなんでも殿下には負けますよ。てかこの国に殿下より金と権力のある男なんてそうそういないですよ。それこそ国王陛下くらいですかね?」
「なるほど」
てことはお父様基準ではアロンは失格だな。「どんまい」と肩を叩いてやれば「え? 俺いま殿下に負けました? どういう展開」と騒ぎ始めた。
「俺、お父様に言われてるんだ。金と権力持ってる奴と結婚しろって」
「どういう教育してんすか、大公様は」
まったくだ。十歳児に言うことではないよな。珍しくアロンがまともな反応を返してくる。
机に突っ伏したブルース兄様は「父上の言葉は忘れろ」と無茶なことを言う。にしてもブルース兄様は苦労していそうだな。
「兄様、どんまい」
「うるせぇ」
労ってやったのにこの言い様。相変わらず酷い兄様である。
しかしブルース兄様は多忙なのだ。これくらいの理不尽、大目にみてやろうと緩く腕を組んでいた時である。なんだか廊下がバタバタと騒がしい。思わずドアの方へと視線を向ける。ブルース兄様とアロンも怪訝な顔だ。
「さっきなんて言った⁉︎ 痛っい!」
勢いよく突入してきたオーガス兄様は、ドアに腕を強打して蹲った。怒涛の展開であった。相変わらず勢いだけはすごいな、この人。
「なにをしていらっしゃるんですか、兄上」
慌てたブルース兄様が駆け寄っている。それを振り払ったオーガス兄様は「今なんて言った⁉︎」と俺を見てくる。
俺なんか言ったか?
「キスしたって言った? え、それも夢の話でいいの⁉︎」
「アロンとキーー」
アロンとキスした旨を教えてやろうと思ったのに、背後から素早くアロンに口を塞がれた。なにすんだよ。
「オーガス様。すべてはユリス様の妄言です。お気になさらず」
「本当に?」
「はい、本当に。ですよね? ブルース様」
勝手に妄言扱いするな。まるで俺が嘘つきみたいじゃないか。
だがびっくりすることにブルース兄様がアロンの言葉に頷いてみせた。
え? なんで?
「子供の言うことです。兄上はお気になさらず」
「そ、そうなの?」
オーガス兄様がブルース兄様に騙されている。嘘じゃない、子供だと馬鹿にするなと叫びたいがアロンの手が邪魔で喋れません。クソ野郎め。
「そ、それならいいんだけど。僕はてっきり、ついにアロンがやったのかと」
「俺のことなんだと思っていらっしゃるのですか。流石に子供相手は自重しますよ」
アロンがすごい嘘をついている。嘘つきアロンだ。思い切りキスしてきたくせに。
急にきちんとした大人ぶるアロンを止めないブルース兄様も酷い。そうしてふたりは結託してオーガス兄様を追い返してしまった。
「おいアロン。そいつをつまみ出せ」
酷い。
シクシク泣き真似してみせれば、足元の黒猫ユリスが『僕はそんなことしない! やめろ!』と足を踏んでくる。もふもふが足に乗っている。
相変わらずソファーでだらけていたアロンは、俺と目が合うなりにこりと微笑んだ。
「こんにちは、ユリス様」
ティアンがアロンを睨みつけている。なんだか例のキスを思い出してしまった俺は慌てて目を逸らす。
「なにを騒いでいたんだ。兄上の悲鳴らしきものが聞こえたが」
どうやら先程の騒動が聞こえたらしい。眉を寄せるブルース兄様は、不機嫌な様子で椅子に背を預けている。
「オーガス兄様は汚い大人なんだって」
「なにがあったんだ」
息を吐くブルース兄様はそれ以上深入りしてこない。面倒事に巻き込まれたくないらしい。
「あのね、俺、昨日猫になれたの。羨ましいか?」
「わけわからんこと言ってないで勉強しろ」
しっしと手を振って俺を追い出そうとしてくるブルース兄様は人の心がないんだと思う。弟には優しくしろ。
『おまえ、秘密とか内緒話とかいう概念を持ち合わせていないのか? いままでどうやって生きてきたんだ?』
黒猫ユリスが失礼なことを喚いている。
「あと昨日ね、アロンにキスされた。俺のファーストキス」
「うぇい! それ言っちゃいます⁉︎ マジですか、ユリス様!」
慌てたアロンが俺に駆け寄ってくる。だがオーガス兄様には伝えてしまったしな。ブルース兄様だけ仲間外れは可哀想だ。教えてやらねば。
「……は?」
またしても語気強めである。顔が怖いぞ、ブルース兄様。
「眉間の皺がとれなくなっちゃうよ。老けて見えるからやめなよ」
「ユリス様、空気読んでください」
慌てふためくティアンが腕を掴んでくる。されるがままに揺さぶられていると、アロンが俺の手にキャンディーを握らせてくる。よくわからんが、もらっておこう。
いそいそといただいたキャンディーをポケットに押し込んでいると「おい、アロン」と地を這うようなブルース兄様の声が聞こえた。
「おまえ人の弟になにしてんだ」
「いやだな、ブルース様。昨日言いましたよね? 弟さんを俺にくださいって」
「断ったはずだが?」
「そうでしたっけ? ちょっとそこらへんの記憶が曖昧で」
すっとぼけるアロンは「ところでファーストキスってマジですか?」と食いついてくる。「多分な!」とお答えしておけば「責任はとります」と言われた。別にとらんでいい。
「出会う女の子みんなにそう言ってるんでしょ?」
「いや流石にそこまでは。好みの子にだけですよ」
「言ってるのかよ」
そこは普通否定するところだろ。さすがクソ野郎。ブレないな。
「むやみに人を誑かすのはやめろ」
「たぶらかす」
眉間を揉んだブルース兄様は「エリック殿下のこともあるし、どうなってんだ」と疲れた顔をしている。
そういやエリックにも結婚してくれ的なこと言われていたな。すっかり忘れていた。でもあっちは確かお父様がお断りしておいてくれたはずだ。
ん? そういえばお父様が言ってたな。
「アロンって金と権力もってる?」
「そんなことド直球で訊かれたのは初めてですよ」
面食らったらしいアロンは、けれども「まぁそれなりに。一応伯爵家なので」と教えてくれた。
「エリックとどっちがもってる? 金と権力」
「いくらなんでも殿下には負けますよ。てかこの国に殿下より金と権力のある男なんてそうそういないですよ。それこそ国王陛下くらいですかね?」
「なるほど」
てことはお父様基準ではアロンは失格だな。「どんまい」と肩を叩いてやれば「え? 俺いま殿下に負けました? どういう展開」と騒ぎ始めた。
「俺、お父様に言われてるんだ。金と権力持ってる奴と結婚しろって」
「どういう教育してんすか、大公様は」
まったくだ。十歳児に言うことではないよな。珍しくアロンがまともな反応を返してくる。
机に突っ伏したブルース兄様は「父上の言葉は忘れろ」と無茶なことを言う。にしてもブルース兄様は苦労していそうだな。
「兄様、どんまい」
「うるせぇ」
労ってやったのにこの言い様。相変わらず酷い兄様である。
しかしブルース兄様は多忙なのだ。これくらいの理不尽、大目にみてやろうと緩く腕を組んでいた時である。なんだか廊下がバタバタと騒がしい。思わずドアの方へと視線を向ける。ブルース兄様とアロンも怪訝な顔だ。
「さっきなんて言った⁉︎ 痛っい!」
勢いよく突入してきたオーガス兄様は、ドアに腕を強打して蹲った。怒涛の展開であった。相変わらず勢いだけはすごいな、この人。
「なにをしていらっしゃるんですか、兄上」
慌てたブルース兄様が駆け寄っている。それを振り払ったオーガス兄様は「今なんて言った⁉︎」と俺を見てくる。
俺なんか言ったか?
「キスしたって言った? え、それも夢の話でいいの⁉︎」
「アロンとキーー」
アロンとキスした旨を教えてやろうと思ったのに、背後から素早くアロンに口を塞がれた。なにすんだよ。
「オーガス様。すべてはユリス様の妄言です。お気になさらず」
「本当に?」
「はい、本当に。ですよね? ブルース様」
勝手に妄言扱いするな。まるで俺が嘘つきみたいじゃないか。
だがびっくりすることにブルース兄様がアロンの言葉に頷いてみせた。
え? なんで?
「子供の言うことです。兄上はお気になさらず」
「そ、そうなの?」
オーガス兄様がブルース兄様に騙されている。嘘じゃない、子供だと馬鹿にするなと叫びたいがアロンの手が邪魔で喋れません。クソ野郎め。
「そ、それならいいんだけど。僕はてっきり、ついにアロンがやったのかと」
「俺のことなんだと思っていらっしゃるのですか。流石に子供相手は自重しますよ」
アロンがすごい嘘をついている。嘘つきアロンだ。思い切りキスしてきたくせに。
急にきちんとした大人ぶるアロンを止めないブルース兄様も酷い。そうしてふたりは結託してオーガス兄様を追い返してしまった。
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