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124 ファーストキス?
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「キスされちゃった」
「されちゃった、じゃないですよ! なにしてくれてんですか! あのクソ野郎!」
爽やかな笑みと共に去って行ったアロン。残された俺は困惑のあまり呆然と立ち尽くしていた。なにやらティアンがキレている。アロンのことをすごい勢いで罵っている。内容には概ね同意である。アロンはクソ野郎。間違いない。
「あのアホ! ブルース様がいない時を狙いやがりましたよ⁉︎」
ティアンの口が悪い。やっぱりアロンのことが嫌いみたいだ。セドリックはぼけっと突っ立っており無関心。ジャンは青い顔でおろおろしている。
しかし俺は大事なことを考えていた。
たぶん俺は今アロンにキスされたと思われる。触れるだけの軽いやつだけどティアンのキレ具合をみるに間違いないだろう。
「俺のファーストキス」
ピシリとティアンが固まった。
多分だけどファーストキスだと思われる。前世で彼女がいた記憶はない。いや前世のことなんてほとんど覚えていないからもしかしたら彼女がいた可能性もあるけど。
いやしかし。
この体的にはファーストキスなのか? 俺の気分的には間違いなく初めてだが、本物ユリスはどうなんだ。プチパニックに陥った俺は、これがファーストキスか否かを延々考え込む。
「今のファーストキスだよね⁉︎」
床で丸まっている黒猫ユリスに確認すれば、「そんなの知りませんよ⁉︎」となぜかティアンが返事をよこした。違う、おまえじゃない。黒猫ユリスに訊いているんだ。
「ねえ! ファーストキスであってる? どっち?」
「そんなの僕に訊かれても! あんなのノーカンでいいんじゃないですか」
だからおまえじゃねぇよ。ちょっと退いてろ。ティアンを押し退けて黒猫ユリスを抱え上げる。「どっちなの⁉︎」と揺さぶれば『知らん』となんとも素っ気ない答えが返ってきた。なんで教えてくれないの、こいつ。もしかして初めてなのか? そうなのか? 背後では「なんで猫に確認するんですか!」とティアンがうるさい。お子様は黙っていろ。
「仮にファーストキスだったらどうすればいいと思う⁉︎」
「どうもしなくて結構ですよ!」
もう忘れましょう! と言い切ったティアンは苛立ったようにドアを睨みつけている。塩でもまきそうな勢いだ。
※※※
その日の夜。
昨日はティアンがお泊まりしたからゆっくり眠れなかった。やっと伸び伸びできる。ジャンも引き上げて静まり返った寝室にて。ベッドの上で黒猫ユリスを腕の中に引き寄せて枕に頭を預ける。『やめろ』と黒猫がむにゃむにゃ言ってる。こいつ昼間も寝てばかりのくせに夜もまだ眠いらしい。
「俺、今日キスしてしまった」
『よかったな』
別によくはない。黒猫ユリスは興味なさそうに欠伸をしている。自分の体なのに興味なさすぎじゃない? 気になんないの? 信じられないんだけど。
「でもキスくらい誰とでもする感じなのかな?」
海外だと挨拶代わりにしたりするイメージ。ここは海外どころか異世界だし。そうじゃなくても相手はアロンだ。おふざけの可能性もある。
でも本気とか諦めないとか言ってたな。マジで?
「アロンって俺のこと好きなのかな」
『そう言ってただろ』
「言ってたけど。アロンは嘘つきだから」
『そうだな。あいつの言うことはだいたい全部嘘だな』
「じゃあ俺のことを好きってのも嘘かもしれない。子供を揶揄って遊んでるのかも。俺は大人だけど」
『そうだな』
面倒くさそうにくわっと再び欠伸をもらした黒猫ユリスの毛を撫でる。文句を言われなかったので、そっと顔を近づけてその毛に顔を埋めてみる。
『やめろ』
「いいじゃん、ちょっとくらい」
もふもふを堪能して頭を悩ませる。俺は一体どうすればいいんだ。でも相手はアロンだしな。放っておいてもどうにかなるかも。なにやらティアンがガチ切れしていたのも気になる。
「あぁー! わかんない!」
『うるさい』
なんで俺がこんなことで悩まないといけないのだ。すべてはアロンのせいだ。俺のことが好きとか言ってキスするくせにキャンベルとの縁談にも乗り気とかクソにも程がある。なんであんな奴が大人を名乗っているんだ。
なんだかすごくムカつく。
「あー! 猫ぉ!」
『だからうるさい』
黒猫ユリスを抱きかかえて顔を覗き込む。目付きの悪いにゃんこに顔を近づけてキスしてやる。
『やめろ馬鹿!』
「いいじゃん、猫なんだし」
今日のもやもやを忘れてやろうと、もふもふにゃんこと軽いキスをしてみせる。なんだか黒猫ユリスがお怒りだが気にしない。なんせ俺の猫なので。
しかし次の瞬間、くらっと意識が遠くなる。
え? なにごと?
考える間もなく瞼が下りる。黒猫ユリスがなにやら大声を出している気もするがよくわからない。そのまま目の前が真っ暗になった。
「されちゃった、じゃないですよ! なにしてくれてんですか! あのクソ野郎!」
爽やかな笑みと共に去って行ったアロン。残された俺は困惑のあまり呆然と立ち尽くしていた。なにやらティアンがキレている。アロンのことをすごい勢いで罵っている。内容には概ね同意である。アロンはクソ野郎。間違いない。
「あのアホ! ブルース様がいない時を狙いやがりましたよ⁉︎」
ティアンの口が悪い。やっぱりアロンのことが嫌いみたいだ。セドリックはぼけっと突っ立っており無関心。ジャンは青い顔でおろおろしている。
しかし俺は大事なことを考えていた。
たぶん俺は今アロンにキスされたと思われる。触れるだけの軽いやつだけどティアンのキレ具合をみるに間違いないだろう。
「俺のファーストキス」
ピシリとティアンが固まった。
多分だけどファーストキスだと思われる。前世で彼女がいた記憶はない。いや前世のことなんてほとんど覚えていないからもしかしたら彼女がいた可能性もあるけど。
いやしかし。
この体的にはファーストキスなのか? 俺の気分的には間違いなく初めてだが、本物ユリスはどうなんだ。プチパニックに陥った俺は、これがファーストキスか否かを延々考え込む。
「今のファーストキスだよね⁉︎」
床で丸まっている黒猫ユリスに確認すれば、「そんなの知りませんよ⁉︎」となぜかティアンが返事をよこした。違う、おまえじゃない。黒猫ユリスに訊いているんだ。
「ねえ! ファーストキスであってる? どっち?」
「そんなの僕に訊かれても! あんなのノーカンでいいんじゃないですか」
だからおまえじゃねぇよ。ちょっと退いてろ。ティアンを押し退けて黒猫ユリスを抱え上げる。「どっちなの⁉︎」と揺さぶれば『知らん』となんとも素っ気ない答えが返ってきた。なんで教えてくれないの、こいつ。もしかして初めてなのか? そうなのか? 背後では「なんで猫に確認するんですか!」とティアンがうるさい。お子様は黙っていろ。
「仮にファーストキスだったらどうすればいいと思う⁉︎」
「どうもしなくて結構ですよ!」
もう忘れましょう! と言い切ったティアンは苛立ったようにドアを睨みつけている。塩でもまきそうな勢いだ。
※※※
その日の夜。
昨日はティアンがお泊まりしたからゆっくり眠れなかった。やっと伸び伸びできる。ジャンも引き上げて静まり返った寝室にて。ベッドの上で黒猫ユリスを腕の中に引き寄せて枕に頭を預ける。『やめろ』と黒猫がむにゃむにゃ言ってる。こいつ昼間も寝てばかりのくせに夜もまだ眠いらしい。
「俺、今日キスしてしまった」
『よかったな』
別によくはない。黒猫ユリスは興味なさそうに欠伸をしている。自分の体なのに興味なさすぎじゃない? 気になんないの? 信じられないんだけど。
「でもキスくらい誰とでもする感じなのかな?」
海外だと挨拶代わりにしたりするイメージ。ここは海外どころか異世界だし。そうじゃなくても相手はアロンだ。おふざけの可能性もある。
でも本気とか諦めないとか言ってたな。マジで?
「アロンって俺のこと好きなのかな」
『そう言ってただろ』
「言ってたけど。アロンは嘘つきだから」
『そうだな。あいつの言うことはだいたい全部嘘だな』
「じゃあ俺のことを好きってのも嘘かもしれない。子供を揶揄って遊んでるのかも。俺は大人だけど」
『そうだな』
面倒くさそうにくわっと再び欠伸をもらした黒猫ユリスの毛を撫でる。文句を言われなかったので、そっと顔を近づけてその毛に顔を埋めてみる。
『やめろ』
「いいじゃん、ちょっとくらい」
もふもふを堪能して頭を悩ませる。俺は一体どうすればいいんだ。でも相手はアロンだしな。放っておいてもどうにかなるかも。なにやらティアンがガチ切れしていたのも気になる。
「あぁー! わかんない!」
『うるさい』
なんで俺がこんなことで悩まないといけないのだ。すべてはアロンのせいだ。俺のことが好きとか言ってキスするくせにキャンベルとの縁談にも乗り気とかクソにも程がある。なんであんな奴が大人を名乗っているんだ。
なんだかすごくムカつく。
「あー! 猫ぉ!」
『だからうるさい』
黒猫ユリスを抱きかかえて顔を覗き込む。目付きの悪いにゃんこに顔を近づけてキスしてやる。
『やめろ馬鹿!』
「いいじゃん、猫なんだし」
今日のもやもやを忘れてやろうと、もふもふにゃんこと軽いキスをしてみせる。なんだか黒猫ユリスがお怒りだが気にしない。なんせ俺の猫なので。
しかし次の瞬間、くらっと意識が遠くなる。
え? なにごと?
考える間もなく瞼が下りる。黒猫ユリスがなにやら大声を出している気もするがよくわからない。そのまま目の前が真っ暗になった。
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