冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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122 なんかムカつく

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「あ、兄さんにも縁談きてたよ。そろそろ身を固めた方がいいんじゃない?」
「断っておいてくれ」

 アリアを軽くあしらったアロン。それにアリアが目を丸くした。こいつらいつまで俺の部屋に居座るつもりだよ。ブルース兄様も早く出て行ってくれないかな。部屋が狭くなる。

「珍しい。いつもなら縁談がきたらすぐに教えろってうるさいのに」
「アロン、縁談好きなの?」

 アリアの裾を引いて尋ねれば、彼女は「好きというか」と小首を傾げる。

「好みの可愛い女の子をキープしておいて遊んでんだよ」
「最低だね」
「でしょ?」

 妹の言葉を否定しないアロンは「別にいいじゃないですか」と開き直っている。いいわけあるか。

「俺にはユリス様がいるので。その手の話は全部断っておいてくれ」
「は?」

 突然出てきた俺の名前。それに反応したのはブルース兄様だった。

「おいアロン。どういう意味だ」
「ブルース様。弟さんを俺にください」
「断る」

 ありがとう、ブルース兄様。
 アロンしつこいんだよね。きっぱり断ってやってくれ。アリアが「マジ? あの女好きのクソが?」と驚愕している。妹から兄への評価が酷いな。

「残念でしたね、ブルース様。ユリス様は俺と結婚してくれると言いましたよ」

 んなこと言ってない。そっと首を左右に振って否定すれば、ブルース兄様が「そんなことは言っていないようだが?」と強気に出る。頑張れ! ブルース兄様!

『おまえがアロンと結婚して、ブルースがアリアと結婚すれば完璧じゃないか』

 わるにゃんこがうるさい。
 なにが完璧なんだ。どうやらこいつはヴィアン家を滅茶苦茶にしたいらしい。

 睨み合うアロンとブルース兄様。このふたりが言い争っているのはいつものことだ。

 クレイグ団長は眉間を押さえて黙り込んでいる。ジャンは毎度のごとくオドオドしているし、ティアンは俺をこの部屋から連れ出そうと奮闘している。どうやら大人の揉め事を俺に見せたくはないらしい。だが俺は見たい。意地でもこの場に留まるつもりである。あとここ俺の部屋な。

「じゃあ縁談の方はお断りしておくね」

 肩をすくめたアリアであったが、それにアロンが待ったをかける。

「一応、相手が誰かだけ教えて」
「クソ野郎め」

 俺がいるからお断りすると言ったくせに。相手を確認しようとするあたりは流石アロンだ。

「キャンベル・リベラだよ。男爵令嬢の」
「ん?」

 なんか聞き覚えのある名前だな。どこで聞いたんだっけ? 思い出そうと頑張っていると、これまで興味なさそうにしていたアロンが「ちょっと待った!」と大声を出す。びっくりするからやめて。

「おいおい、それって」

 ブルース兄様も顔を引き攣らせている。

「その縁談! 受けてたちます!」
「俺はどうした」

 俺がいるから断ると言ったくせに。忘れたんか?
 ころりと意見を変えたアロンに抗議すれば、彼は申し訳なさそうな顔で「ユリス様のことはもちろん大事ですよ。でも俺にはやらなければならないことができたので」ともっともらしいセリフを述べている。

「やらなきゃいけないことって?」
「全力でオーガス様を揶揄ってきます」
「やめてあげなよ」

 思い出した。キャンベルはオーガス兄様の好きな子だ。彼女をめぐってオーガス兄様が一方的にブルース兄様を責め立てていたのは記憶に新しい。そのせいでセドリックが解任されたんだっけ。

 どうやらオーガス兄様が彼女からのブルース兄様宛の縁談を勝手にお断りした結果、キャンベルはアロンへと縁談相手を変更したらしい。状況は最悪だ。

 案の定、アロンはオーガス兄様で遊ぶ気満々だ。なんだか面白くない。一転して楽しそうなアロンの服の裾を引っ張って「俺はどうした?」と再度問いかけるが軽くあしらわれてしまう。クソ野郎め。

「……ユリス様はアロン殿のことがお好きなんですか?」

 げしげしとアロンの足を蹴っていれば、ティアンが微妙な顔で俺をみてくる。

「いや別に」
「ではなぜアロン殿を執拗に蹴っているのですか」
「なんかムカつくから」
「なぜ?」

 うざいな、こいつ。
 急にどうした?

「アロン殿のことが嫌いなら、彼がキャンベル嬢との縁談を受け入れてもどうでもいいじゃないですか」
「嫌いとは言ってない」

 単にクソ野郎だな、と思っているだけで。
 もしかしてティアンってアロンのこと嫌いなんか? わかるよ、このお兄さん到底いい大人ではないからな。

 なぜか機嫌を悪くしたティアンは「そんなクソ野郎相手にするだけ無駄ですよ」とそっぽを向いてしまう。

「先程から聞いていれば。俺への悪口酷くないですか?」

 偉そうに腕を組んだアロンの足をもう一度蹴ってやった。
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