冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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113 実家に帰ります

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「俺しばらく居ないので」
「へー。なんでわざわざ俺に言いにくるの」

 朝。
 部屋でうだうだしていた俺のもとへ突撃してきたアロンは、どうでもいい報告をしてくる。

 ティアンもセドリックも居なくて暇していた俺は、黒猫ユリスと遊んでいるところだった。適当に丸めた紙を投げて「取ってこい!」とやっているのに黒猫ユリスは一向に取ってこない。ガン無視されている。仕方がないのでノコノコやってきたアロンに「取ってこい!」と投げつけてみれば見事にキャッチしてくれた。

「これ犬にやるやつでは?」
「俺の猫は賢いから。犬には負けない」

 なんせ中身は人間である。十歳児だけど。だが極端に愛想がないので苦労している。

 さりげなく俺自作の紙ボールをゴミ箱に放り捨てたアロンは「理由とか訊かないんですか」と勝手に椅子に座ってしまう。取ってこいって言っただろ、俺のボール。誰が捨ててこいと言った。

「興味ない」
「そんなこと言わずに。実は実家に帰ろうと思いまして」

 実家。家出でもするんか。

「……アロン、実家とかあるんだ」
「そりゃあね。ありますよ」

 軽く肩をすくめたアロンは、ジャンにお茶を要求している。ついでに俺もと手を上げて、床に落ちていた黒猫ユリスを抱えて空いている椅子に置く。うとうとしていた黒猫は、はっと顔を上げた。

『なんでこいつがここにいる』

 アロンに向かってにゃあにゃあ言う黒猫ユリス。どうやら話を聞いていなかったらしい。

「妹が帰ってこいとうるさくて」
「妹」

 未知の言葉に目を瞬く。

「アロンって妹いるの?」
「はい」
「なんで」
「なんで? 妹の存在意義をきいてます?」

 アロンに妹がいるなんて初耳だ。実に羨ましい。俺も口煩い兄や気弱な兄ではなく可愛い妹が欲しかった。それにしてもクソ野郎の妹か。

「アロンの妹ってどんな人?」
「普通ですよ。特に面白みもない普通の妹です」

 アロンのいう普通ってなんだろう。アロンは大概普通じゃないからな。もしかしたらアロンに似ているかもしれない。だったらちょっと性格があれな可能性もあるな。

「妹かわいい?」
「ユリス様の方が可愛いですよ」
「そういうのいいから」

 首を傾げたアロンは「そんなに可愛くはないですね」と酷いことを言う。こいつ、妹に対してもこんな感じなのか。

「俺がいない間、ちゃんと大人しくしておいてくださいね」
「俺はいつも大人しい」

 今だって部屋でひとりダラダラしている。ティアンが来るのは午後からだし、セドリックは正式に副団長に戻ったことで俺の側を離れる時間が多くなった。一応まだ俺の護衛騎士ということになってはいるが、どうやら副団長としての仕事が忙しいらしい。副団長不在の間に溜まっている仕事がたくさんあると言っていた。

 そんなわけで俺の側にはジャンだけという時間が増えた。ブルース兄様が近いうちに新しい護衛騎士を用意すると言っていたが人選になんだか強いこだわりを持っているようでなかなか新しい騎士とやらはやって来ない。俺としてはこのまま有耶無耶になってくれると嬉しい。今はお子様ティアンと子分であるジャンの面倒をみるので手一杯だから。ブルース兄様にもその旨お伝えしたのだが「おまえが面倒みてもらっているんだろ」とため息が返ってきた。

 どうしてもというのであればロニーでお願いしますとも伝えたのだが、彼が来る気配はない。なぜだ。

「アロンが居ないと静かだろうね」
「俺そんなにうるさくないですよ」

 アロンは妹に会うために数日休みをもらったらしい。それでしばらく留守にすると俺に伝えに来たようだ。ふむ。目上の俺にご挨拶に来たのか。その心がけは感心だな。近々子分にしてやってもいいぞ。

「お土産よろしく」
「いいですよ。とっておきの土産話を用意してきますので期待しておいてください」
「そういうのじゃなくて。いやマジで。話とかで誤魔化さないで、ちゃんとしたお土産持ってきて。忘れたらダメだから。美味しいお菓子とかちゃんと用意して」
「そんなガチめに怒らんでも」

 こうしてアロンは実家へと帰っていった。
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