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112 解決

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「意味がわからない」

 短く吐き出したブルース兄様は天を仰いだ。俺も真似して天井を見上げてみるが特に何もなかった。「やめなさい」とティアンがうるさい。

 姿勢を正した兄様は、「なんでそんなことを」とオーガス兄様を責めている。しかし頼りない長男はへらへらするばかりでまともな返答をしない。

「セドリックも黙っていないで相談してくれれば良かったんじゃないのか? いくらなんでも理不尽過ぎるだろ」

 ついには被害者であるセドリックまで睨みつけている。他人事みたいな顔で静観していたセドリックは「お言葉ですが」とブルース兄様に果敢に立ち向かう。

「相談とは言いますが、一体なんと? まさかオーガス様がブルース様への縁談の手紙を執拗に細かく切り裂いている場面を目撃したところ解任されましたとでも? 家臣としてそのような主人の恥ずべき行為をたとえブルース様相手とはいえ露呈させるわけにはまいりません」
「なんかすまん」

 キリッと言い切ったセドリックに、ブルース兄様がすぐさま折れた。セドリックはちょっと怒っているようだった。どうやらオーガス兄様の名誉を守るために今まで黙っていたらしい。なんていい人。ずっと無口で愛想のない奴だと思っててごめんね。

「アロンよりいい人。まぁアロンと比べたら大抵の人はいい人だけど」
「聞こえてますよ、ユリス様」

 俺の独り言に食いついてきたアロンは「納得いきません」と腕を組む。

「セドリック殿が副団長に戻ったら俺が出世できないじゃないですか」
「そもそもなんで出世できると思ってんの?」
「ユリス様? 俺相手なら何言ってもいいわけではありませんからね?」

 にこっと笑ったアロンは「とにかく」とブルース兄様へ向き直る。

「俺も副団長やりたいです」
「清々しいな、おまえ」

 呆れたらしいブルース兄様は緩く首を振ってアロンの主張を却下してしまう。

 それにしてもセドリックが無事に副団長に戻れてよかった。オーガス兄様のなんやかんやも多分解決したし。

『アロンが副団長になれば面白そうだな』

 黒猫ユリスがなんか言ってる。アロンを副団長にしてもマジで愉快なだけで騎士団にとってプラスにはならない気がする。むしろマイナスさえあり得る。

 どうやら黒猫ユリスは他人がピンチに陥っている場面や揉め事なんかが好きらしい。アロンが上に立って混乱する騎士団を見たいようだ。嫌な奴。

「もう帰っていい? 飽きた」

 先程からずっとソファーに大人しく座って待っているのにブルース兄様が茶菓子を出す気配がない。マジで気の利かない兄だ。

 オーガス兄様とブルース兄様の女の子を巡る争いも顛末を聞けて満足した。要するにオーガス兄様の勝手な勘違いだ。もっとこう刺激的でドラマみたいな展開を想像していたためちょっと期待外れだ。

 あんまり面白い話ではなかった旨をオーガス兄様にお伝えしておけば「一体なにを期待してたの?」と変な目で見られた。
 
「はやく結婚できるといいね」
「余計なお世話だよー」

 苦笑したオーガス兄様はしょんぼりしていた。

「ばいばい、子分その2」
「ですから。そこまで成り下がった覚えはありません」

 今日一日で仲良くなれたニックにお別れの挨拶をしたところ、わけわからんことを言われた。

 成り下がったってなに? 俺の子分になるのは成り下がりなのか。俺への悪口だろ。

「ニックが酷いことを言う」

 オーガス兄様に告げ口すれば苦笑が返ってきた。そのうちブルース兄様となにやら言い合っていたアロンが寄ってくる。

「ユリス様。お兄様方は大人同士の話があるのでお部屋に戻りましょうね」
「俺も大人だが?」
「気がはやいですよ」

 いえーい、と変なテンションで俺の腕を掴んだアロンにより廊下へと追い出されてしまった俺。子供扱いするんじゃない。

 なにもしてないくせに非常に疲れた顔をしているジャンがしっかり黒猫ユリスを抱えていることを確認する。ついでにティアンのことも。セドリックはついてこない。大人枠に入っているのだろう。

 ちらりとアロンを見上げる。

「なんですか?」
「アロンは大人に入れてもらえなかったんだ。可哀想」
「違います。ユリス様の面倒みておけと頼まれただけです」

 見栄を張るアロン。そういうことにしておいてやろう。
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