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111 何歳?
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オーガス兄様は頑張ってブルース兄様と対峙している。オーガス兄様の好きな子はキャンベルというらしい。男爵令嬢と言っていた。子爵であるアロンとどっちが偉いのかは教えてくれなかった。酷い。
ムスッとしていれば、隣に屈み込んだアロンが「俺の方が偉いに決まっています」とドヤ顔を披露してきた。なんでも貴族階級の中では男爵が一番下らしい。アロンは将来伯爵の地位を継ぐそうなので断然アロンの方が偉いとのことだった。ここぞとばかりに自慢してくるな、こいつ。権力を振りかざそうとする嫌な大人だ。
「縁談を勝手に断っていた件についてはよしとしましょう」
無駄に偉そうなブルース兄様はソファーにふんぞり返る。真似をしようと腕を組んで背中を大きく反らせば、ティアンが「やめなさい」と小突いてくる。
「ブルース兄様の真似」
ぴくりとブルース兄様が片眉を上げた。なにかを誤魔化すように咳払いをした兄様は姿勢を正す。なんだその目は。
「いや本当に。キャンベル嬢とはなんでもありません」
苦々しく吐き出した兄様はとても疲れた顔をしていた。だがオーガス兄様は納得しない。「でも」と言い募っている。気の弱いオーガス兄様にしては頑張っている。
「なぜ彼女からの縁談が君にくるんだ。僕ではなく」
「彼女が男爵令嬢だからでは?」
簡潔に答えたブルース兄様は眉間を押さえている。なんでも身分の違いという話らしい。大公家の跡継ぎであるオーガス兄様の相手として普通は男爵令嬢は好ましくないらしい。ふむふむ。
「で、でも僕のとこには他の男爵令嬢から普通に縁談くるけど」
「それは兄上が早くお決めにならないから。もしかしたらチャンスがあるかもと考えた貴族たちが運試し気分で申し込んできているだけです」
「僕で運試ししなくても」
顔を覆ったオーガス兄様は俯いてしまう。
「リベラ家はそこら辺きちんとしていますからね。いくらなんでも兄上には相手にされないと思い俺にしたのでしょう。ただそれだけです」
キャンベル嬢側が俺に縁談を持ってきたことに意味などありません、と言い放ったブルース兄様はちょっと怒っていた。なんだかオーガス兄様が可哀想になってきた。要するに勝手に勘違いして勝手に暴走したわけで。そういえばオーガス兄様は俺相手にも勢いのある勘違いを連発していたな。人の話はよく聞かないとダメだよ、とオーガス兄様を注意すれば「君にだけは言われたくない」と酷い返事があった。
「弟をいじめるな!」
「別にいじめてはないけど」
とりあえず長男に抗議しておけば、ブルース兄様に睨まれた。
ところで普通に結婚云々の話が出ているが、この兄ふたり結婚するんか?
オーガス兄様は気弱だし、ブルース兄様は目付き悪いし正直結婚したいと言ってくれる相手がいるかは微妙なところだろう。てかこいつら何歳だろ。縁談やらなにやら随分と大人ぶった話をしている。
「……ブルース兄様って何歳?」
「おまえは兄の年齢も知らんのか」
教えてくれない。ケチな兄様である。
「オーガス兄様は何歳?」
「何歳だと思う?」
なんだその面倒くさい返し。仕返しも兼ねて適当に「三十」と返しておけば「え? そこまで老けて見える? 嘘だよね?」となんだかウジウジし始めた。これはこれで面倒だな。
「僕、二十四だよ」
「普通だね」
「僕の年齢になにを求めているのさ」
全くもって意外性のない答えだった。
「ちなみにブルースは二十一だよ」
「俺より年上だぁ」
「当たり前だろ。おまえの兄だぞ」
ちょっと感想を言っただけなのにブルース兄様が突っかかってくる。
「兄様、人の揚げ足とったらダメだよ」
「やかましい」
苛立ったように長く息を吐いたブルース兄様は「それで」と再びオーガス兄様を見据える。
「今日はキャンベル嬢からの縁談が俺にきた件について文句を言いにきた、と」
「ま、まぁ。そんな感じ」
「なぜユリスを連れてくる必要が?」
「あ、えっと。話の流れで? いやぁ、僕がセドリックを解任したっていうのがニックにバレちゃって。そこから芋蔓式に全てが露呈してしまったみたいな?」
視線を上に向けて頰を掻くオーガス兄様は「ユリスのせいで」と俺に責任を押し付けてくる。しかし先にオーガス兄様とこっそり話をつけようと思っていたのに、あの場にいた全員にうっかり真実を聞かれてしまったのは痛恨だったな。その点については悪かったと思っている。
「俺がうっかり口を滑らせたばっかりに」
「本当にうっかり? わざとじゃないの?」
意味のわからない疑いをかけてくるオーガス兄様を無視して、ジャンから黒猫ユリスを受け取る。大人しく状況を見守っていた黒猫は『せっかく握った弱みが』と悔しそうにしていたが『また別の弱みを探せばいい話か』とひとりで解決している。やめてやれよ。
「……ちょっと待った。今なんと?」
そんな中、なにやら黙り込んでいたブルース兄様が目を見開いた。
今? なにかおかしなこと言ったか?
心当たりのない俺とオーガス兄様は静かに顔を見合わせる。やがて待ちきれないらしいブルース兄様が声をあげた。
「兄上がセドリックを解任したと言いました?」
「うん。言った」
勢いよく肯定したオーガス兄様は「あ」と口を開ける。そういやその話まだしてなかったな。
「そうだよ。キャンベル嬢の話はどうでもよくて。いやどうでもよくはないけれど。本題はセドリックの件だよ」
ちらりと壁際に佇むセドリックに目を向けたオーガス兄様は「セドリックを副団長に戻すことにしたから」とさらりと告げる。これに驚きの声をあげたブルース兄様に詳しい事情を説明してやる。
「つまり、俺への縁談を勝手に断りまくっていることをセドリックに知られた兄上は、口止めを兼ねて彼を副団長から解任したと」
「短くまとめるとそうだね」
「そんでもってそこにユリスも首を突っ込んでいたと」
俺というか黒猫ユリスがな。
『こういう面倒な事態になるからクビにしておけと言ったのに』
ぐちぐちとオーガス兄様に文句を垂れる黒猫ユリスは不機嫌そうだった。こいつ誰でもクビにしようとするじゃん。物騒な猫だな。
ムスッとしていれば、隣に屈み込んだアロンが「俺の方が偉いに決まっています」とドヤ顔を披露してきた。なんでも貴族階級の中では男爵が一番下らしい。アロンは将来伯爵の地位を継ぐそうなので断然アロンの方が偉いとのことだった。ここぞとばかりに自慢してくるな、こいつ。権力を振りかざそうとする嫌な大人だ。
「縁談を勝手に断っていた件についてはよしとしましょう」
無駄に偉そうなブルース兄様はソファーにふんぞり返る。真似をしようと腕を組んで背中を大きく反らせば、ティアンが「やめなさい」と小突いてくる。
「ブルース兄様の真似」
ぴくりとブルース兄様が片眉を上げた。なにかを誤魔化すように咳払いをした兄様は姿勢を正す。なんだその目は。
「いや本当に。キャンベル嬢とはなんでもありません」
苦々しく吐き出した兄様はとても疲れた顔をしていた。だがオーガス兄様は納得しない。「でも」と言い募っている。気の弱いオーガス兄様にしては頑張っている。
「なぜ彼女からの縁談が君にくるんだ。僕ではなく」
「彼女が男爵令嬢だからでは?」
簡潔に答えたブルース兄様は眉間を押さえている。なんでも身分の違いという話らしい。大公家の跡継ぎであるオーガス兄様の相手として普通は男爵令嬢は好ましくないらしい。ふむふむ。
「で、でも僕のとこには他の男爵令嬢から普通に縁談くるけど」
「それは兄上が早くお決めにならないから。もしかしたらチャンスがあるかもと考えた貴族たちが運試し気分で申し込んできているだけです」
「僕で運試ししなくても」
顔を覆ったオーガス兄様は俯いてしまう。
「リベラ家はそこら辺きちんとしていますからね。いくらなんでも兄上には相手にされないと思い俺にしたのでしょう。ただそれだけです」
キャンベル嬢側が俺に縁談を持ってきたことに意味などありません、と言い放ったブルース兄様はちょっと怒っていた。なんだかオーガス兄様が可哀想になってきた。要するに勝手に勘違いして勝手に暴走したわけで。そういえばオーガス兄様は俺相手にも勢いのある勘違いを連発していたな。人の話はよく聞かないとダメだよ、とオーガス兄様を注意すれば「君にだけは言われたくない」と酷い返事があった。
「弟をいじめるな!」
「別にいじめてはないけど」
とりあえず長男に抗議しておけば、ブルース兄様に睨まれた。
ところで普通に結婚云々の話が出ているが、この兄ふたり結婚するんか?
オーガス兄様は気弱だし、ブルース兄様は目付き悪いし正直結婚したいと言ってくれる相手がいるかは微妙なところだろう。てかこいつら何歳だろ。縁談やらなにやら随分と大人ぶった話をしている。
「……ブルース兄様って何歳?」
「おまえは兄の年齢も知らんのか」
教えてくれない。ケチな兄様である。
「オーガス兄様は何歳?」
「何歳だと思う?」
なんだその面倒くさい返し。仕返しも兼ねて適当に「三十」と返しておけば「え? そこまで老けて見える? 嘘だよね?」となんだかウジウジし始めた。これはこれで面倒だな。
「僕、二十四だよ」
「普通だね」
「僕の年齢になにを求めているのさ」
全くもって意外性のない答えだった。
「ちなみにブルースは二十一だよ」
「俺より年上だぁ」
「当たり前だろ。おまえの兄だぞ」
ちょっと感想を言っただけなのにブルース兄様が突っかかってくる。
「兄様、人の揚げ足とったらダメだよ」
「やかましい」
苛立ったように長く息を吐いたブルース兄様は「それで」と再びオーガス兄様を見据える。
「今日はキャンベル嬢からの縁談が俺にきた件について文句を言いにきた、と」
「ま、まぁ。そんな感じ」
「なぜユリスを連れてくる必要が?」
「あ、えっと。話の流れで? いやぁ、僕がセドリックを解任したっていうのがニックにバレちゃって。そこから芋蔓式に全てが露呈してしまったみたいな?」
視線を上に向けて頰を掻くオーガス兄様は「ユリスのせいで」と俺に責任を押し付けてくる。しかし先にオーガス兄様とこっそり話をつけようと思っていたのに、あの場にいた全員にうっかり真実を聞かれてしまったのは痛恨だったな。その点については悪かったと思っている。
「俺がうっかり口を滑らせたばっかりに」
「本当にうっかり? わざとじゃないの?」
意味のわからない疑いをかけてくるオーガス兄様を無視して、ジャンから黒猫ユリスを受け取る。大人しく状況を見守っていた黒猫は『せっかく握った弱みが』と悔しそうにしていたが『また別の弱みを探せばいい話か』とひとりで解決している。やめてやれよ。
「……ちょっと待った。今なんと?」
そんな中、なにやら黙り込んでいたブルース兄様が目を見開いた。
今? なにかおかしなこと言ったか?
心当たりのない俺とオーガス兄様は静かに顔を見合わせる。やがて待ちきれないらしいブルース兄様が声をあげた。
「兄上がセドリックを解任したと言いました?」
「うん。言った」
勢いよく肯定したオーガス兄様は「あ」と口を開ける。そういやその話まだしてなかったな。
「そうだよ。キャンベル嬢の話はどうでもよくて。いやどうでもよくはないけれど。本題はセドリックの件だよ」
ちらりと壁際に佇むセドリックに目を向けたオーガス兄様は「セドリックを副団長に戻すことにしたから」とさらりと告げる。これに驚きの声をあげたブルース兄様に詳しい事情を説明してやる。
「つまり、俺への縁談を勝手に断りまくっていることをセドリックに知られた兄上は、口止めを兼ねて彼を副団長から解任したと」
「短くまとめるとそうだね」
「そんでもってそこにユリスも首を突っ込んでいたと」
俺というか黒猫ユリスがな。
『こういう面倒な事態になるからクビにしておけと言ったのに』
ぐちぐちとオーガス兄様に文句を垂れる黒猫ユリスは不機嫌そうだった。こいつ誰でもクビにしようとするじゃん。物騒な猫だな。
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