114 / 577
108 わかりやすい嘘
しおりを挟む
「しかし私が副団長となればユリス様の護衛騎士の席が空いてしまいます。適任が見つかるまでは私が引き続き勤めますがよろしいですか」
オーガス兄様に確認したセドリックは、すっかり副団長っぽい雰囲気だ。いつもの無関心さは鳴りを潜めて、ぽんぽんと首を突っ込んでくる。こいつがこんなに喋っているなんて珍しい。もしかして副団長に戻れて浮かれているのかもしれない。
「俺のことはお気になさらず」
正直ジャンだけで十分だ。今までもそれでやってきていたわけだし。護衛は必要ないと拒否すれば、セドリックは眉を顰める。
「そういうわけにはまいりません」
「大丈夫。ジャンがいる」
「ジャンは騎士ではありません。それに」
なぜか言葉を切ったセドリックは、ちらりと俺を見下ろすと視線をオーガス兄様へと移した。
「ユリス様は目を離すとなにをされるかわかりませんので。見張りを兼ねて騎士を側につけた方が賢明かと」
「なんだと!」
今まで無口だったくせに急に饒舌になったセドリックは、ここぞとばかりに俺の悪口を並べ立てる。拳を上げて抗議すれば、オーガス兄様が「確かにね」と賛同してしまう。これは嫌な流れだ。
「俺は大人なので! ひとりで大丈夫です!」
ありったけの大声で主張すれば、ティアンが無言で耳を塞いでうるさいアピールをしてくる。おまえは見ていないで助けろよ。
「……まぁ、それはおいおい考えるとして」
俺の剣幕におされて結論を先送りにしたオーガス兄様は「父上には僕から話を通しておこう」と急に長男っぽいことを言い始める。ついさっきまで泣き喚いていたとは思えない程に背筋を伸ばして長男ぶっている。
そんなオーガス兄様をいまだに睨みつけているニック。
「ユリス様」
「どうした、子分その2」
「子分になった覚えはありません。ちなみにその1は誰ですか」
「ジャン」
なるほど、と納得したようなニックは少し屈んで俺の耳に顔を近づけてくる。
「オーガス様が裏でやっていた色々とはなんでしょうか」
「い、色々だよ」
急にピンチ。
先程オーガス兄様が裏でやっていた色々の一部をユリスに知られてしまったと口を滑らせていた。俺が知らないと答えるのは不自然だ。助けを求めて黒猫ユリスを探すが見当たらない。
じっとこちらを見据えてくるニックの迫力に負けて、俺はおろおろとそれらしき答えを探す。多分ブルース兄様がオーガス兄様の恋人を奪ったみたいな件に関係する話だ。
「え、えっと。オーガス兄様がブルース兄様に裏で色々嫌がらせしてたの」
「具体的には?」
曖昧な答えで濁したのに、ニックは納得してくれない。詳しく教えろと迫ってくる。
「う、うーん。彼女とられた腹いせに、なんかこう、色々」
「ですからもっと具体的に教えていただきたいのですが」
「お、おう。えっと、オーガス兄様がブルース兄様のおやつ勝手に食べちゃったりとか?」
「……滅茶苦茶にわかりやすい嘘をつかないでください。オーガス様がそんな子供じみた嫌がらせをするわけないでしょう」
「するもん!」
咄嗟に思いついた嫌がらせをあげてみたところ、俺に疑いの目を向けてくるニック。なんとか嘘つきの汚名を返上しようと大声で「オーガス兄様がブルース兄様のおやつとってたもん!」とありもしない事実をでっちあげれば「そんなことするわけないだろ⁉︎」とオーガス兄様が割り込んできた。どうやらコソコソ話が聞かれてしまったらしい。なんてことだ。
「そもそも毎日おやつ食べてるの君だけだから!」
なんだって。
「ティアンも食べてる」
気配を消すティアンに話を向ければ、彼は「別にいいじゃないですか」と小首を傾げる。
なんだかますます収拾がつかなくなってきた。ニックとオーガス兄様に詰め寄られてあわあわする俺。
すると今までどこに居たのか。黒猫ユリスがくすくす笑いながら隣にやってきた。どうも黒猫ユリスは人がピンチに陥ると面白くて仕方がないらしい。どこからともなく姿を現してくる。
『ほら、あれだ。ブルースにきた縁談を勝手に断ってたんだ。片っ端から』
嫌な奴だな、オーガス兄様。
しかし黒猫ユリスの助けはありがたい。そのままニックに教えてやることにする。
「んっと、ブルース兄様にきた縁談を全部勝手に断ってた」
半眼になったニックは「なんですか、その地味な嫌がらせ」とオーガス兄様に詰め寄っている。
「……ふっ」
ついにアロンが噴き出した。盛大に笑い声を上げ始めたアロンは「やることがせこい」とオーガス兄様の嫌がらせを酷評している。それを受けてオーガス兄様は「だって!」と声を荒げる。
「僕より先に結婚されたら嫌だし! 弟に先越されるとか僕のプライド的に無理!」
「オーガス兄様にもプライドとかあるんだね」
「こら! ユリス様! やめなさい」
うっかり本音を溢した俺を、ティアンが慌てて止めにかかる。だってねえ、これだけ醜態晒しておいてなにを今更って感じだもん。
オーガス兄様に確認したセドリックは、すっかり副団長っぽい雰囲気だ。いつもの無関心さは鳴りを潜めて、ぽんぽんと首を突っ込んでくる。こいつがこんなに喋っているなんて珍しい。もしかして副団長に戻れて浮かれているのかもしれない。
「俺のことはお気になさらず」
正直ジャンだけで十分だ。今までもそれでやってきていたわけだし。護衛は必要ないと拒否すれば、セドリックは眉を顰める。
「そういうわけにはまいりません」
「大丈夫。ジャンがいる」
「ジャンは騎士ではありません。それに」
なぜか言葉を切ったセドリックは、ちらりと俺を見下ろすと視線をオーガス兄様へと移した。
「ユリス様は目を離すとなにをされるかわかりませんので。見張りを兼ねて騎士を側につけた方が賢明かと」
「なんだと!」
今まで無口だったくせに急に饒舌になったセドリックは、ここぞとばかりに俺の悪口を並べ立てる。拳を上げて抗議すれば、オーガス兄様が「確かにね」と賛同してしまう。これは嫌な流れだ。
「俺は大人なので! ひとりで大丈夫です!」
ありったけの大声で主張すれば、ティアンが無言で耳を塞いでうるさいアピールをしてくる。おまえは見ていないで助けろよ。
「……まぁ、それはおいおい考えるとして」
俺の剣幕におされて結論を先送りにしたオーガス兄様は「父上には僕から話を通しておこう」と急に長男っぽいことを言い始める。ついさっきまで泣き喚いていたとは思えない程に背筋を伸ばして長男ぶっている。
そんなオーガス兄様をいまだに睨みつけているニック。
「ユリス様」
「どうした、子分その2」
「子分になった覚えはありません。ちなみにその1は誰ですか」
「ジャン」
なるほど、と納得したようなニックは少し屈んで俺の耳に顔を近づけてくる。
「オーガス様が裏でやっていた色々とはなんでしょうか」
「い、色々だよ」
急にピンチ。
先程オーガス兄様が裏でやっていた色々の一部をユリスに知られてしまったと口を滑らせていた。俺が知らないと答えるのは不自然だ。助けを求めて黒猫ユリスを探すが見当たらない。
じっとこちらを見据えてくるニックの迫力に負けて、俺はおろおろとそれらしき答えを探す。多分ブルース兄様がオーガス兄様の恋人を奪ったみたいな件に関係する話だ。
「え、えっと。オーガス兄様がブルース兄様に裏で色々嫌がらせしてたの」
「具体的には?」
曖昧な答えで濁したのに、ニックは納得してくれない。詳しく教えろと迫ってくる。
「う、うーん。彼女とられた腹いせに、なんかこう、色々」
「ですからもっと具体的に教えていただきたいのですが」
「お、おう。えっと、オーガス兄様がブルース兄様のおやつ勝手に食べちゃったりとか?」
「……滅茶苦茶にわかりやすい嘘をつかないでください。オーガス様がそんな子供じみた嫌がらせをするわけないでしょう」
「するもん!」
咄嗟に思いついた嫌がらせをあげてみたところ、俺に疑いの目を向けてくるニック。なんとか嘘つきの汚名を返上しようと大声で「オーガス兄様がブルース兄様のおやつとってたもん!」とありもしない事実をでっちあげれば「そんなことするわけないだろ⁉︎」とオーガス兄様が割り込んできた。どうやらコソコソ話が聞かれてしまったらしい。なんてことだ。
「そもそも毎日おやつ食べてるの君だけだから!」
なんだって。
「ティアンも食べてる」
気配を消すティアンに話を向ければ、彼は「別にいいじゃないですか」と小首を傾げる。
なんだかますます収拾がつかなくなってきた。ニックとオーガス兄様に詰め寄られてあわあわする俺。
すると今までどこに居たのか。黒猫ユリスがくすくす笑いながら隣にやってきた。どうも黒猫ユリスは人がピンチに陥ると面白くて仕方がないらしい。どこからともなく姿を現してくる。
『ほら、あれだ。ブルースにきた縁談を勝手に断ってたんだ。片っ端から』
嫌な奴だな、オーガス兄様。
しかし黒猫ユリスの助けはありがたい。そのままニックに教えてやることにする。
「んっと、ブルース兄様にきた縁談を全部勝手に断ってた」
半眼になったニックは「なんですか、その地味な嫌がらせ」とオーガス兄様に詰め寄っている。
「……ふっ」
ついにアロンが噴き出した。盛大に笑い声を上げ始めたアロンは「やることがせこい」とオーガス兄様の嫌がらせを酷評している。それを受けてオーガス兄様は「だって!」と声を荒げる。
「僕より先に結婚されたら嫌だし! 弟に先越されるとか僕のプライド的に無理!」
「オーガス兄様にもプライドとかあるんだね」
「こら! ユリス様! やめなさい」
うっかり本音を溢した俺を、ティアンが慌てて止めにかかる。だってねえ、これだけ醜態晒しておいてなにを今更って感じだもん。
533
お気に入りに追加
3,003
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる