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105 新しい子分
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セドリックを喜ばせるには下手なプレゼントよりも、彼を副団長に戻すのが一番いい。現状、騎士団における副団長の席は空席のまま。そこにセドリックを戻すだけでいい。
ニックのアドバイスを受け入れた俺は、早速行動に出た。それはもちろんオーガス兄様の説得である。
屋敷の二階へと急ぐ俺。顔色の悪いジャンと、お兄さんぶったティアンも続く。なぜかニヤニヤと悪い笑みを浮かべているアロンと、そんなアロンを鬱陶しそうに追い払うニックもついてきた。こいつらは騎士棟に置いてくるつもりだったのに。濡れた服を素早く着替えた彼らは、当然のような顔でしれっとついてきた。なんて奴らだ。
クレイグ団長は仕事があるとかで騎士棟に残っている。しかし彼からは、団長としてはセドリックを副団長に戻すことには賛成である旨のご意見をもらった。オーガス兄様に伝えておいてくれと。
そうして意気揚々とオーガス兄様の元へと乗り込んだ俺たちは、さっと顔を俯ける兄様と対面していた。
「……いつの間にニックと仲良くなったの?」
「ニックは俺の子分」
顔を引き攣らせるオーガス兄様にニックを紹介してやれば、当のニックから「子分になった覚えはありません」と苦い声で否定された。
「ニック殿がユリス様のこと泣かせたんで。当面ユリス様の言うことに従うってことで話がまとまったんですよ」
横からアロンが補足した通りである。俺を泣かせたお詫びとして、俺に協力するとの言質をとっている。すべてはアロンが画策したことである。こんな時だけ手際のいい嫌な奴である。
しばらくポカンとしていたオーガス兄様は、「え?」と弱々しい声と共に執務机から立ち上がった。
「え、泣かせたの? なんで?」
「ニックが俺の悪口言った」
ニックの言動をお伝えしてやれば、ニックが「悪口というわけでは。事実を述べただけです」と悪あがきをする。こいつ絶対反省してないだろ。
「えぇ? マジで? ユリスって泣くことあるんだ。びっくり」
どこに驚いてんだよ、オーガス兄様。だが本物ユリスは太々しいからな。あいつが泣くところは俺もちょっと想像できない。
「それでオーガス兄様にお願いがあるんだけどさ」
「え。まさかニックをクビにしろって? それはちょっと困るな。一応僕の護衛騎士なわけだし、いや君に対して無礼なことをしたのは認めるけどさ。でもやっぱりいきなりクビにするのは、どうかな。ニックにも言い分があるみたいだし。いや別にユリスのことを蔑ろにしているわけではないからね。大事な弟だし。でもそれとこれとは話が別っていうかなんていうかーー」
「誰もそんなこと言ってない」
勢いよく勘違いをしたオーガス兄様は、勝手に早口で捲し立てる。人の話を聞け。
「え、あ。そうなの? てっきり僕に責任取れって殴り込みに来たのかと」
おまえ弟に対してどんなイメージ持ってんの?
半眼になる俺に、オーガス兄様が「ご、ごめん」と弱々しく謝罪する。
とりあえず話は聞いてもらえそうな雰囲気だったため、早速本題に入る。
「セドリックを副団長に戻してあげて欲しい」
「え」
要望をストレートに伝えたところ、ピシリと音を立てて固まったオーガス兄様。
「そ、それはえっと、なんで?」
ちらちらとニックへ視線を遣りながら、おずおずと問いかけてくる。なんでって、だってセドリックが可哀想だろ。
何もしていないのに解任されたセドリックが可哀想だと理由を告げれば、オーガス兄様が顔を覆った。
「ちょ、ちょっと待って。え? だ、ど」
「どうしたの?」
オーガス兄様が過去一挙動不審になってしまった。壊れたように意味をなさない音を発する兄様は、顔色が真っ青だった。
「……言ったの?」
「なにを?」
「いや、だから。セドリックを解任した理由」
「? ううん、まだ」
瞬間、ぱっと顔色の戻ったオーガス兄様は馴々しく俺の背中に手をあてる。
「そうか! ユリスがいいなら別にいいんじゃないかな。セドリックにユリスの護衛を任せて正解だったよ。仲良くなってくれて嬉しいよ」
途端に饒舌になった兄様は、バシバシと俺の背中を叩く。なんだこいつ。
「じゃあセドリックを戻してくれる?」
「うん。正直、他に適任がいなくて困っていたところだから」
よかった! これでセドリックは晴れて副団長に戻れる。静観していたアロンが「適任であれば、ここにいますけどね」と己を指差して心底不思議そうな顔をする。なんて図々しい奴だ。
わーいと喜んでいると、背後で成り行きを見守っていたニックが怖い顔で進み出る。
「お言葉ですが、オーガス様」
「ん? なんだい」
「先程ユリス様が、セドリック殿が解任されたのはオーガス様のせいだと。お心当たりは?」
「うぇ!」
変な声を上げたオーガス兄様は、すごい勢いで俺を見る。
「言っちゃってるじゃん! なにがまだ言ってないだ。思い切りバラしてるし!」
「? 俺なにも言ってない」
あわあわと狼狽えはじめた兄様は、じりじりと後退ってニックから距離をとる。
「ユリス! 君なにを言ったの⁉︎」
「なにも言ってない。セドリックを解任したのはオーガス兄様だって話はまだしてない」
「うわぁ‼︎」
オーガス兄様が盛大に悲鳴を上げた。「は⁉︎ なんですかその話!」とティアンが目を見開いている。
あ、しまった。俺としたことがついうっかり。
すっかりと顔色を悪くしたオーガス兄様は多分絶望していた。なんかそんな顔をしている。一方のニックとアロンは驚愕の表情だ。ジャンは黙り込んで空気に徹している。
「い、言っちゃった」
ごめんよ、オーガス兄様。ぽつりと俺が呟いた瞬間、オーガス兄様が膝から崩れ落ちた。
ニックのアドバイスを受け入れた俺は、早速行動に出た。それはもちろんオーガス兄様の説得である。
屋敷の二階へと急ぐ俺。顔色の悪いジャンと、お兄さんぶったティアンも続く。なぜかニヤニヤと悪い笑みを浮かべているアロンと、そんなアロンを鬱陶しそうに追い払うニックもついてきた。こいつらは騎士棟に置いてくるつもりだったのに。濡れた服を素早く着替えた彼らは、当然のような顔でしれっとついてきた。なんて奴らだ。
クレイグ団長は仕事があるとかで騎士棟に残っている。しかし彼からは、団長としてはセドリックを副団長に戻すことには賛成である旨のご意見をもらった。オーガス兄様に伝えておいてくれと。
そうして意気揚々とオーガス兄様の元へと乗り込んだ俺たちは、さっと顔を俯ける兄様と対面していた。
「……いつの間にニックと仲良くなったの?」
「ニックは俺の子分」
顔を引き攣らせるオーガス兄様にニックを紹介してやれば、当のニックから「子分になった覚えはありません」と苦い声で否定された。
「ニック殿がユリス様のこと泣かせたんで。当面ユリス様の言うことに従うってことで話がまとまったんですよ」
横からアロンが補足した通りである。俺を泣かせたお詫びとして、俺に協力するとの言質をとっている。すべてはアロンが画策したことである。こんな時だけ手際のいい嫌な奴である。
しばらくポカンとしていたオーガス兄様は、「え?」と弱々しい声と共に執務机から立ち上がった。
「え、泣かせたの? なんで?」
「ニックが俺の悪口言った」
ニックの言動をお伝えしてやれば、ニックが「悪口というわけでは。事実を述べただけです」と悪あがきをする。こいつ絶対反省してないだろ。
「えぇ? マジで? ユリスって泣くことあるんだ。びっくり」
どこに驚いてんだよ、オーガス兄様。だが本物ユリスは太々しいからな。あいつが泣くところは俺もちょっと想像できない。
「それでオーガス兄様にお願いがあるんだけどさ」
「え。まさかニックをクビにしろって? それはちょっと困るな。一応僕の護衛騎士なわけだし、いや君に対して無礼なことをしたのは認めるけどさ。でもやっぱりいきなりクビにするのは、どうかな。ニックにも言い分があるみたいだし。いや別にユリスのことを蔑ろにしているわけではないからね。大事な弟だし。でもそれとこれとは話が別っていうかなんていうかーー」
「誰もそんなこと言ってない」
勢いよく勘違いをしたオーガス兄様は、勝手に早口で捲し立てる。人の話を聞け。
「え、あ。そうなの? てっきり僕に責任取れって殴り込みに来たのかと」
おまえ弟に対してどんなイメージ持ってんの?
半眼になる俺に、オーガス兄様が「ご、ごめん」と弱々しく謝罪する。
とりあえず話は聞いてもらえそうな雰囲気だったため、早速本題に入る。
「セドリックを副団長に戻してあげて欲しい」
「え」
要望をストレートに伝えたところ、ピシリと音を立てて固まったオーガス兄様。
「そ、それはえっと、なんで?」
ちらちらとニックへ視線を遣りながら、おずおずと問いかけてくる。なんでって、だってセドリックが可哀想だろ。
何もしていないのに解任されたセドリックが可哀想だと理由を告げれば、オーガス兄様が顔を覆った。
「ちょ、ちょっと待って。え? だ、ど」
「どうしたの?」
オーガス兄様が過去一挙動不審になってしまった。壊れたように意味をなさない音を発する兄様は、顔色が真っ青だった。
「……言ったの?」
「なにを?」
「いや、だから。セドリックを解任した理由」
「? ううん、まだ」
瞬間、ぱっと顔色の戻ったオーガス兄様は馴々しく俺の背中に手をあてる。
「そうか! ユリスがいいなら別にいいんじゃないかな。セドリックにユリスの護衛を任せて正解だったよ。仲良くなってくれて嬉しいよ」
途端に饒舌になった兄様は、バシバシと俺の背中を叩く。なんだこいつ。
「じゃあセドリックを戻してくれる?」
「うん。正直、他に適任がいなくて困っていたところだから」
よかった! これでセドリックは晴れて副団長に戻れる。静観していたアロンが「適任であれば、ここにいますけどね」と己を指差して心底不思議そうな顔をする。なんて図々しい奴だ。
わーいと喜んでいると、背後で成り行きを見守っていたニックが怖い顔で進み出る。
「お言葉ですが、オーガス様」
「ん? なんだい」
「先程ユリス様が、セドリック殿が解任されたのはオーガス様のせいだと。お心当たりは?」
「うぇ!」
変な声を上げたオーガス兄様は、すごい勢いで俺を見る。
「言っちゃってるじゃん! なにがまだ言ってないだ。思い切りバラしてるし!」
「? 俺なにも言ってない」
あわあわと狼狽えはじめた兄様は、じりじりと後退ってニックから距離をとる。
「ユリス! 君なにを言ったの⁉︎」
「なにも言ってない。セドリックを解任したのはオーガス兄様だって話はまだしてない」
「うわぁ‼︎」
オーガス兄様が盛大に悲鳴を上げた。「は⁉︎ なんですかその話!」とティアンが目を見開いている。
あ、しまった。俺としたことがついうっかり。
すっかりと顔色を悪くしたオーガス兄様は多分絶望していた。なんかそんな顔をしている。一方のニックとアロンは驚愕の表情だ。ジャンは黙り込んで空気に徹している。
「い、言っちゃった」
ごめんよ、オーガス兄様。ぽつりと俺が呟いた瞬間、オーガス兄様が膝から崩れ落ちた。
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