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101 クレイグ団長の目標
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人間が猫になるのは難しいと思いますよ、なんて諭してくるティアンは無視だ。確かに難しいかもしれないが本物ユリスという実例がある。俺は諦めない。
アロンは騎士棟にいるらしいという話をブルース兄様から聞き出した俺は、その足で早速騎士棟へと向かっていた。
不用意に近づくなよ、という兄様の言葉は無視した。
かくして騎士棟に到着した俺であったが早くも後悔していた。まさかブルース兄様の言うこときいておけば良かったと後悔する日がくるなんて。
「ユリス様」
俺の前に立ち塞がるクレイグ団長は動く気配がない。
「俺今忙しい」
だから今度にしてくれないかとクレイグ団長を見上げるが、彼は一歩も引かないつもりらしい。横でティアンが「そろそろあきらめましょうよ、ユリス様」と無責任なことを言っている。おまえの父親だろうが。止めろよ。
ここ最近、クレイグ団長は俺を馬に乗せようとしつこい。俺が乗馬できないことを大変気にしているらしいという話は聞いてはいたが、だからといってすぐに実行するんじゃない。放っておいてくれ。
自動車のないこの世界では移動手段はもっぱら馬だ。いくら貴族のお坊ちゃんとはいえ遠出することだってある。そろそろ馬に乗れるようにならないと本気でマズイというのがクレイグ団長の考えらしい。やめて。
他の騎士たちがユリスを遠巻きにする一方で、クレイグ団長はグイグイくる。俺を乗馬できるようにするというのが最近のクレイグ団長の目標らしい。知らんがな。
「ユリス様。そろそろ馬に乗れるようになってもらわないと困ります」
「俺は困らない」
「いいえ、遠出もままなりません」
「一生家に引き篭もるから大丈夫」
「なにも大丈夫ではありません」
頑ななクレイグ団長はどうにか乗馬の練習をさせようと躍起になっている。とりあえず落ち着いて欲しい。ティアンはファザコンだからこの件に関してはあてにならない。どうせ父親であるクレイグ団長の味方をするのだ。
であれば俺の味方になってくれそうなのはひとりしかいないわけで。
「ジャン。どうにかして」
「え」
突然話を向けられたジャンは、途端に挙動不審となる。俺とクレイグ団長を忙しなく見比べては出てもいない汗を拭っている。ダメだ。こいつも頼りにならない。
「馬は嫌」
ティアンを盾にして隠れるが、「往生際が悪いですよ」と今にも俺を団長に差し出そうとしてくる。信用できない盾である。
そんな俺らの様子を見守っていたクレイグ団長は、俺の前に跪くと「ユリス様」と真剣な声色でじっと目を見つめてくる。
「二択です。私と練習するか、アロンと練習するか。どちらがよろしいですか」
「アロンは絶対に嫌‼︎」
あいつは信用できない。俺が落馬しても助けてくれないどころか指差して笑いそう。アロンなら絶対そうする。クソ野郎なので。
鼻息荒くアロンは酷い奴だと主張すれば「いくらなんでもそこまでクソ野郎ではないと思いますけどね」と、なぜかティアンがアロンを庇いはじめる。おまえは誰の味方なのだ。
「では私と練習いたしましょう」
言うなりクレイグ団長は俺を厩舎に案内しようとしてくる。まさか今からやるつもりか。
「い、今は忙しいから。また今度ね」
「父上。アロン殿を見ませんでしたか? ちょっと急ぎの用がありまして。セドリック殿がいない今しかチャンスがないんですよ」
先程まで俺を差し出そうとしていたティアンが俺に加勢してくれる。ようやく自分の立場を思い出してくれたらしい。よかった。
「アロンなら中に居ると思うが。用事とは?」
怪訝な顔をする団長に、ティアンが手短に説明してくれる。セドリックへのプレゼントを用意したい旨を教えてやれば、「それはいいですね」と賛同してくれた。
「ユリス様が他人を慮るとは。成長されましたね」
「まあね」
得意になって胸を張る。俺は他人を思いやることができる大人なので。クレイグ団長は俺の成長にいたく感動したらしく、アロンなら騎士棟内にあるブルース兄様の部屋にいると教えてくれた。
乗馬の練習から逃げることに成功した俺は、足取り軽く騎士棟へと足を踏み入れる。きちんとティアンとジャンがついてきていることを確認して、騎士棟内のブルース兄様の部屋へと向かった。なんでもこちらで仕事をしているらしい。なんの仕事かは不明だが。
「アロン!」
ブルース兄様の部屋に突入すれば、執務机で書類片手にペンを握るアロンがいた。いつもはそこにブルース兄様が座って仕事しているはず。
「……アロンって、仕事できたんだ」
「相変わらず失礼ですね。俺だって普通に仕事しますよ」
書類を放ったアロンは、うんと伸びをして立ち上がる。
「なんの仕事?」
「内緒です。守秘義務がありますので」
ウインクを飛ばしたアロンは、俺の背後を見て目を瞬く。
「あれ? 今日はセドリック殿はいないんですか」
どうやらノルマであるセドリックいじりをするつもりだったらしい。残念だったな。
「あのね、アロンに訊きたいことあるんだけど」
「なんです?」
「セドリックの好きな物ってなに?」
「……なんでそれを俺に訊くんですか?」
にこりと笑ったアロンはなんだか変な迫力がある。なんかマズイ質問だったか?
「だってアロンとセドリックって仲いいでしょ?」
「いえ全く」
マジで?
アロンは騎士棟にいるらしいという話をブルース兄様から聞き出した俺は、その足で早速騎士棟へと向かっていた。
不用意に近づくなよ、という兄様の言葉は無視した。
かくして騎士棟に到着した俺であったが早くも後悔していた。まさかブルース兄様の言うこときいておけば良かったと後悔する日がくるなんて。
「ユリス様」
俺の前に立ち塞がるクレイグ団長は動く気配がない。
「俺今忙しい」
だから今度にしてくれないかとクレイグ団長を見上げるが、彼は一歩も引かないつもりらしい。横でティアンが「そろそろあきらめましょうよ、ユリス様」と無責任なことを言っている。おまえの父親だろうが。止めろよ。
ここ最近、クレイグ団長は俺を馬に乗せようとしつこい。俺が乗馬できないことを大変気にしているらしいという話は聞いてはいたが、だからといってすぐに実行するんじゃない。放っておいてくれ。
自動車のないこの世界では移動手段はもっぱら馬だ。いくら貴族のお坊ちゃんとはいえ遠出することだってある。そろそろ馬に乗れるようにならないと本気でマズイというのがクレイグ団長の考えらしい。やめて。
他の騎士たちがユリスを遠巻きにする一方で、クレイグ団長はグイグイくる。俺を乗馬できるようにするというのが最近のクレイグ団長の目標らしい。知らんがな。
「ユリス様。そろそろ馬に乗れるようになってもらわないと困ります」
「俺は困らない」
「いいえ、遠出もままなりません」
「一生家に引き篭もるから大丈夫」
「なにも大丈夫ではありません」
頑ななクレイグ団長はどうにか乗馬の練習をさせようと躍起になっている。とりあえず落ち着いて欲しい。ティアンはファザコンだからこの件に関してはあてにならない。どうせ父親であるクレイグ団長の味方をするのだ。
であれば俺の味方になってくれそうなのはひとりしかいないわけで。
「ジャン。どうにかして」
「え」
突然話を向けられたジャンは、途端に挙動不審となる。俺とクレイグ団長を忙しなく見比べては出てもいない汗を拭っている。ダメだ。こいつも頼りにならない。
「馬は嫌」
ティアンを盾にして隠れるが、「往生際が悪いですよ」と今にも俺を団長に差し出そうとしてくる。信用できない盾である。
そんな俺らの様子を見守っていたクレイグ団長は、俺の前に跪くと「ユリス様」と真剣な声色でじっと目を見つめてくる。
「二択です。私と練習するか、アロンと練習するか。どちらがよろしいですか」
「アロンは絶対に嫌‼︎」
あいつは信用できない。俺が落馬しても助けてくれないどころか指差して笑いそう。アロンなら絶対そうする。クソ野郎なので。
鼻息荒くアロンは酷い奴だと主張すれば「いくらなんでもそこまでクソ野郎ではないと思いますけどね」と、なぜかティアンがアロンを庇いはじめる。おまえは誰の味方なのだ。
「では私と練習いたしましょう」
言うなりクレイグ団長は俺を厩舎に案内しようとしてくる。まさか今からやるつもりか。
「い、今は忙しいから。また今度ね」
「父上。アロン殿を見ませんでしたか? ちょっと急ぎの用がありまして。セドリック殿がいない今しかチャンスがないんですよ」
先程まで俺を差し出そうとしていたティアンが俺に加勢してくれる。ようやく自分の立場を思い出してくれたらしい。よかった。
「アロンなら中に居ると思うが。用事とは?」
怪訝な顔をする団長に、ティアンが手短に説明してくれる。セドリックへのプレゼントを用意したい旨を教えてやれば、「それはいいですね」と賛同してくれた。
「ユリス様が他人を慮るとは。成長されましたね」
「まあね」
得意になって胸を張る。俺は他人を思いやることができる大人なので。クレイグ団長は俺の成長にいたく感動したらしく、アロンなら騎士棟内にあるブルース兄様の部屋にいると教えてくれた。
乗馬の練習から逃げることに成功した俺は、足取り軽く騎士棟へと足を踏み入れる。きちんとティアンとジャンがついてきていることを確認して、騎士棟内のブルース兄様の部屋へと向かった。なんでもこちらで仕事をしているらしい。なんの仕事かは不明だが。
「アロン!」
ブルース兄様の部屋に突入すれば、執務机で書類片手にペンを握るアロンがいた。いつもはそこにブルース兄様が座って仕事しているはず。
「……アロンって、仕事できたんだ」
「相変わらず失礼ですね。俺だって普通に仕事しますよ」
書類を放ったアロンは、うんと伸びをして立ち上がる。
「なんの仕事?」
「内緒です。守秘義務がありますので」
ウインクを飛ばしたアロンは、俺の背後を見て目を瞬く。
「あれ? 今日はセドリック殿はいないんですか」
どうやらノルマであるセドリックいじりをするつもりだったらしい。残念だったな。
「あのね、アロンに訊きたいことあるんだけど」
「なんです?」
「セドリックの好きな物ってなに?」
「……なんでそれを俺に訊くんですか?」
にこりと笑ったアロンはなんだか変な迫力がある。なんかマズイ質問だったか?
「だってアロンとセドリックって仲いいでしょ?」
「いえ全く」
マジで?
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