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とはいえそんなすぐに決められるものでもなかった。
なんか黒くてもふもふしているから「ホコリ」と呼ぼうと決めたのだがティアンから待ったがかかった。「猫が可哀想です!」と変なことを言われた。え? ホコリって可愛くない? ダメなの? いつも埃みたいに床に落ちて丸くなってるからピッタリだと思ったのに。
そんなこんなで結局名前は決まらなかった。面倒になって寝ながら考えると切り上げれば「それ絶対真面目に考える気ありませんよね」とティアンが文句を言ってくる。別にいいだろ。俺の猫なんだから。
と言うわけで夜になり、部屋に俺と猫のふたりきりとなった。聞きたいことはたくさんあるが、まずはこれ。
「名前なんていうの」
この黒猫、会話ができるのであるしまずは名前を聞いてみることにする。もしかしたら既にあるかもしれないし。
すると黒猫は面倒くさそうにベッドに潜り込んでしまう。
「ねぇ名前は?」
『知らん。なんでもいい』
「教えてくれないならこのまま猫って呼ぶぞ」
『別に構わないが?』
いや、構うだろ。
よく考えたら猫を猫って呼ぶのは、俺が誰かに人間って呼ばれるようなものだ。なんか嫌だ。布団から猫を引っ張り出してやる。
名前を教えろと騒いでやれば、黒猫は欠伸をしてからこっちを見た。きらきらとした瞳が怪しく光ったような気がする。
『そこまで言うなら教えてやろう』
偉そうな猫だな。なんだその上から目線は。だが黒猫は俺の半眼に構うことなく悪そうな笑みを浮かべた。
『僕の名前はユリス・ヴィアン。その体の本来の持ち主だ。よく覚えておけ』
ユリス・ヴィアン。
それってーー。
「本物ユリス⁉︎」
『なんだその呼び方は』
ちょっと一回待ってほしい。
「お、俺もユリスなんだけど」
『話聞いてたか? もともと僕がユリスだ。おまえは僕の代わりだろ』
そうだよ。そもそも俺はある日突然ユリスに成り代わったのだ。であれば当然、これまでこの体に入っていたはずの本物ユリスはどこに行ったんだって話になる。
「猫になっちゃったの?」
おそるおそる問いかければ、黒猫こと本物ユリスは『まぁ成り行きで』と肯定する。一体どんな成り行きだよ。
『生きていればこういうこともある』
あってたまるか。
しかし俺も突然異世界の知らん美少年に成り代わってしまったわけで。そう考えると本物ユリスが突然猫になるのもあり得る話なのかもしれない。
ぽかんと口を開けていれば、『僕は今の生活に結構満足しているんだ。おまえはおまえで頑張れ』とよくわからん励ましの言葉をもらった。
「まさかおまえ」
『なんだ』
「自分が猫になりたいから俺をユリスにしたのか⁉︎」
『……なに言ってるんだ』
「ずるい! 俺も猫がよかった!」
なんて奴だ。自分が猫になるため俺を犠牲にするなんて。俺もこんなわけわからん子供よりも猫になりたかった。
ずるい、酷いと騒いでいれば『おまえは悩みがなさそうでいいな』と鼻で笑われた。
失礼な。俺にだって悩みはある。
どうやったらもっとベネットに会えるのかとか、最近アロンがお菓子をくれないこととか、隙あればクレイグ団長が俺を馬に乗せようとしてくることとか色々ある。
真剣に悩んでいるのだと説明してやるが本物ユリスは『どうやったらそんなお気楽な人生送れるんだ?』と馬鹿にしてくる。ちくしょう。俺の苦労も知らないで。
「俺も猫になりたい‼︎」
『うるさ。なんだこいつ』
ありったけの声に想いを乗せて叫んだところ、寝室のドアが控えめにノックされた。誰だこんな時間に。
ベッドに寝転んだまま返事をすれば、困惑顔のセドリックが姿を見せた。いつものピシッとした格好ではなく、なんだかラフな格好だ。たぶん寝ていたのだろう。起こしてしまったらしい。
「なにかございましたか、ユリス様」
「別に。人生について考えていただけ」
「……左様で」
どうやら俺の大声が聞こえたらしい。猫になりたいとの渾身の想いが知られてしまったかもしれない。なんか恥ずかしいな。口止めしないと。
「セドリック!」
「はい」
「俺が猫になりたいって話はみんなには内緒ね」
「……承知いたしました」
深々と頭を下げたセドリックは俺の叫びを聞かなかったことにしてくれた。よしよし。
しかし黒猫の正体が本物ユリスと分かったことで謎は解けた。こいつは俺の事情を全部知っているのだ。いままでの不自然な態度や会話も納得である。
どうやら俺に協力してくれる気はあるようで安心した。彼の助けを得られれば、ユリス成り代わり生活は今まで以上に上手くいくに違いない。
なんか黒くてもふもふしているから「ホコリ」と呼ぼうと決めたのだがティアンから待ったがかかった。「猫が可哀想です!」と変なことを言われた。え? ホコリって可愛くない? ダメなの? いつも埃みたいに床に落ちて丸くなってるからピッタリだと思ったのに。
そんなこんなで結局名前は決まらなかった。面倒になって寝ながら考えると切り上げれば「それ絶対真面目に考える気ありませんよね」とティアンが文句を言ってくる。別にいいだろ。俺の猫なんだから。
と言うわけで夜になり、部屋に俺と猫のふたりきりとなった。聞きたいことはたくさんあるが、まずはこれ。
「名前なんていうの」
この黒猫、会話ができるのであるしまずは名前を聞いてみることにする。もしかしたら既にあるかもしれないし。
すると黒猫は面倒くさそうにベッドに潜り込んでしまう。
「ねぇ名前は?」
『知らん。なんでもいい』
「教えてくれないならこのまま猫って呼ぶぞ」
『別に構わないが?』
いや、構うだろ。
よく考えたら猫を猫って呼ぶのは、俺が誰かに人間って呼ばれるようなものだ。なんか嫌だ。布団から猫を引っ張り出してやる。
名前を教えろと騒いでやれば、黒猫は欠伸をしてからこっちを見た。きらきらとした瞳が怪しく光ったような気がする。
『そこまで言うなら教えてやろう』
偉そうな猫だな。なんだその上から目線は。だが黒猫は俺の半眼に構うことなく悪そうな笑みを浮かべた。
『僕の名前はユリス・ヴィアン。その体の本来の持ち主だ。よく覚えておけ』
ユリス・ヴィアン。
それってーー。
「本物ユリス⁉︎」
『なんだその呼び方は』
ちょっと一回待ってほしい。
「お、俺もユリスなんだけど」
『話聞いてたか? もともと僕がユリスだ。おまえは僕の代わりだろ』
そうだよ。そもそも俺はある日突然ユリスに成り代わったのだ。であれば当然、これまでこの体に入っていたはずの本物ユリスはどこに行ったんだって話になる。
「猫になっちゃったの?」
おそるおそる問いかければ、黒猫こと本物ユリスは『まぁ成り行きで』と肯定する。一体どんな成り行きだよ。
『生きていればこういうこともある』
あってたまるか。
しかし俺も突然異世界の知らん美少年に成り代わってしまったわけで。そう考えると本物ユリスが突然猫になるのもあり得る話なのかもしれない。
ぽかんと口を開けていれば、『僕は今の生活に結構満足しているんだ。おまえはおまえで頑張れ』とよくわからん励ましの言葉をもらった。
「まさかおまえ」
『なんだ』
「自分が猫になりたいから俺をユリスにしたのか⁉︎」
『……なに言ってるんだ』
「ずるい! 俺も猫がよかった!」
なんて奴だ。自分が猫になるため俺を犠牲にするなんて。俺もこんなわけわからん子供よりも猫になりたかった。
ずるい、酷いと騒いでいれば『おまえは悩みがなさそうでいいな』と鼻で笑われた。
失礼な。俺にだって悩みはある。
どうやったらもっとベネットに会えるのかとか、最近アロンがお菓子をくれないこととか、隙あればクレイグ団長が俺を馬に乗せようとしてくることとか色々ある。
真剣に悩んでいるのだと説明してやるが本物ユリスは『どうやったらそんなお気楽な人生送れるんだ?』と馬鹿にしてくる。ちくしょう。俺の苦労も知らないで。
「俺も猫になりたい‼︎」
『うるさ。なんだこいつ』
ありったけの声に想いを乗せて叫んだところ、寝室のドアが控えめにノックされた。誰だこんな時間に。
ベッドに寝転んだまま返事をすれば、困惑顔のセドリックが姿を見せた。いつものピシッとした格好ではなく、なんだかラフな格好だ。たぶん寝ていたのだろう。起こしてしまったらしい。
「なにかございましたか、ユリス様」
「別に。人生について考えていただけ」
「……左様で」
どうやら俺の大声が聞こえたらしい。猫になりたいとの渾身の想いが知られてしまったかもしれない。なんか恥ずかしいな。口止めしないと。
「セドリック!」
「はい」
「俺が猫になりたいって話はみんなには内緒ね」
「……承知いたしました」
深々と頭を下げたセドリックは俺の叫びを聞かなかったことにしてくれた。よしよし。
しかし黒猫の正体が本物ユリスと分かったことで謎は解けた。こいつは俺の事情を全部知っているのだ。いままでの不自然な態度や会話も納得である。
どうやら俺に協力してくれる気はあるようで安心した。彼の助けを得られれば、ユリス成り代わり生活は今まで以上に上手くいくに違いない。
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